JUST LIKE HONEY ~ 『ハチミツ』20th Anniversary Tribute ~

スピッツ・ディレクター
『JUST LIKE HONEY』プロデューサー
竹内 修 wilsonic

1995年にリリースされたスピッツの6thアルバム『ハチミツ』の発売20年を記念して、アルバムまるごとカヴァーをするトリビュート・アルバム『JUST LIKE HONEY ~『ハチミツ』20th Anniversary Tribute~』がリリースされることになった。ここでは、その企画意図、スピッツの『ハチミツ』というアルバムにまつわるお話などをしたいと思う。

2002年に『一期一会 Sweets for my SPITZ』というアルバムを企画した。スピッツがそれまでに発表してきた楽曲を、13組のアーティストがカヴァーするアルバム。このときは“トリビュート"というタームは敢えて使わなかった。
参加いただいたアーティストは、スピッツよりも活動歴の長い先輩もいらしたし、スピッツのことを好きかどうかは重要ではなかったからだ。当時僕がコンセプトとして掲げていたのは、「草野正宗の作る楽曲の汎用性」ということだった。つまり、スピッツというよりもソングライターとしての草野正宗を浮き彫りにする、というコンセプト。

今回の『JUST LIKE HONEY』は違う。
スピッツがデビュー以来様々な紆余曲折を経て辿り着いたひとつの到達点である『ハチミツ』。6枚目にして初のオリコン首位獲得作品、初めてのミリオン達成アルバムが、その後の日本の音楽に与えたささやかな影響を、20年後の今、証明しようという企画だ。

『ハチミツ』のレコーディングがスタートする1995年初頭、スピッツは以下のような状況にあった。

・バンドが技術的にも精神的にも飛躍的に成長しているタイミング。
・共同プロデューサー笹路正徳との作業も3作目で信頼関係バッチリ。
・前作『空の飛び方』がトップ20に入り、ライヴの動員も順調に増加。

世間的にはスピッツはブレイク直前と目されていたし、スピッツにも、デビュー以来初めて自分たちがやっていることは間違っていない、という自信が芽生え始めていた。ポリドール(現ユニバーサル ミュージック)としても、スピッツはこの年のトップ・プライオリティ・アーティストだった。

そして。
1995年4月発売の「ロビンソン」の特大ヒット&ロングセラー。
続く「涙がキラリ☆」のミリオンに迫る連続ヒット。
9月に発売された『ハチミツ』は初登場1位を記録。それから約1年近くにわたってチャートインし、累計160万枚を超えるセールスを記録した。
全て、想像を遥かに超えた実績だった。

・自分たちの作品に自信を持っているバンドが、
・信頼するレコーディング・パートナーと一緒に、
・今いちばんやりたいことを迷い無く実践する。

それが演奏に、音色に、歌声に、ミックスに反映され、瑞々しい作品が出来上がる。このタイミングは、バンドという生き物にとって、生涯一度しか訪れない。その一度きりのタイミングに出来た作品がミリオンを超えるヒットとなった奇跡と必然、それが『ハチミツ』なのだ。

よく、スピッツは理想のバンドです、とか、どうしたらスピッツみたいになれるんですか、なんてことを若いミュージシャンから言われるけど、その理由はここからスタートしている。いちばん認知されるべき、評価されるべきタイミングで期待以上の好評を博し、そこで切り開いた道をまっすぐ(時にくねくねと)歩いて行く。あくまでも音源リリースとツアーという、バンドの基本を中心とした活動を続け、そのクオリティを維持、向上させるべく努力を続ける。
その姿勢が多くのバンドマン、ミュージシャンに支持されているのだと思う。

『JUST LIKE HONEY』は、そんな1995年のスピッツへのトリビュート・アルバム。『ハチミツ』の11曲に加え、シングル「ロビンソン」のカップリングで、ライヴでは最重要曲である「俺のすべて」が収録されているのは、そういう意味もある。
あの年の、スピッツ。

当初はそんなに意図していたわけではなかったが、参加アーティストはバンド率が高くなった。そして男性比率も。どうしても「トリビュート」という側面を考えると、バンド編成、男性ヴォーカルのほうが企画意図と合致しやすいのだろう。これも、ソロ・アーティスト、女性ヴォーカルが半数くらいを占めた『一期一会』との大きな違い。
『ハチミツ』と同じ時代に既に音楽活動を始めていた人もいれば、リリース当時まだ生まれたばかりの人も参加してくれている。いつ、どんなシチュエーションで『ハチミツ』に触れたのか、それぞれ様々だろう。各アーティストがどんな部分で『ハチミツ』に反応、あるいは共鳴、したのか、想像しながら聴くのも楽しい。
10月上旬の今現在、半分くらいの音が上がってきている。1曲毎に驚かされたり唸らされたり笑わせられたり、その人ならではの音に料理してくれているので最高。仕上がりが楽しみでしょうがない。どうかこれをお読みの皆さまも、楽しみにお待ちいただければ、と。

そして、自身の活動で忙しい中、この企画に参加いただいたこの12組のアーティストに、この場を借りて感謝の意をお伝えしたい。

2015年10月某日

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