「破花」尾崎世界観オフィシャルインタビュー

いつだって誰だって答えを探してる。毎日は人生はいろんな問いの繰り返しでできている。“どんな服を着ていこう”というたわいもないことから、“この仕事向いてるのかな”という人生を決定付けることまで。さらには“お箸はいりますか?”なんて誰かに問いかけたり問いかけられたりもしながら、そのときどきの答えを日々積み重ねていく。「どうして」という思いが強ければ強いぶん、答え探しは難航するし、出した答えに揺らいでしまう。でも、「書いた分だけ黒くなる」自分の手のひらには、そのとき生み出した確かな答えがあるはず。そこにはみだすくらいの「真っ赤な花」を咲かせられたら、それを正解としよう。


──現在、代々木ゼミナールのCMソングとしてオンエアされている「破花」ですが、まずは制作の流れを教えてください。

まずはタイアップのお話があっての流れでした。ここ最近は作家みたいな気持ちで期限までにこんな曲を作らなきゃいけないとか、どれだけリクエストに応えられるかっていうことに重きを置いていたところがあって。でも、今回はそういうことをいったんなしにして作ってみたいと最初に思いました。もともとは今とリズムも全然違ったものでバンドアレンジしてたんですけど、(12月頭の)バンド合宿に入ってリズムを変えたり、イントロを変えたり、今までと違う、新しいものにしようといろいろやりましたね。これまではクセや型があって、決まってるところに新しいものを流し込んでいくという感覚の作業が曲作りだったような気がするけど、もっと根本的なところから見つめ直したというか。


──「破花」は「爆音ラブソング/めくったオレンジ」でコラボレーションした東京スカパラダイスオーケストラのギター、加藤隆志さんが共同プロデュースということで。

土台が出来てから、加藤さんと一緒にスタジオでリズムの整理とか音の強弱の付け方とか、さらに細かく変えていく作業をしていったんですけど。加藤さんがクリープハイプを好きでいてくれるから、この曲を聴く第1号のお客さんとして“最高だな”って納得してもらえないままに作業を進めてしまったら、それこそ今までの流れで終わってしまうという思いがあったので、レコーディングにいく前にも、気になっていたサビのメロディを考え直したり、結構踏み込みましたね。ここまで粘って書いたのは久しぶりなことでした。


──実際、レコーディングはいかがでしたか?

ホントに楽しかった。一緒に楽しんでやってもらえたのが嬉しかったし、客観的に見てくれたので、演奏も今まで以上にしっかり作れたし、音がすごくかっこよくなりましたね。出てる音を抑えめに抜いていく作業もしたんですけど、結果的には音が暴れてる立体感のある形になって。展開が多くてメチャクチャなことをやってはいるんだけど、リスナーが理解できないまま置いてかれるという感じではなくて、嫌じゃない引きずり回され方をするというか。こういうことができたのは「社会の窓」以来だなって思います。最初のイメージは「イノチミジカシコイセヨオトメ」とか「左耳」のようなストレートなタイプの曲だと思ってたけど、音を録った瞬間に「社会の窓」みたいな荒い感じだなと思ってビックリしたし、その気持ちで歌入れもできて良かったです。“なんでこうならないんだろう、悔しいな”で終わってたものを“どうしたらそうなるんだろう”というところまでこの曲では突っ込んでいけた気がしています。


──歌詞はどうでした?

どんな単語を使うというのは課題としてはあったんですけど、受験というテーマは新鮮だったし、広がりもありそうだなと思って、最初の段階で「問」と「答」でいこうというのは考えてましたね。今まではレコーディング当日まで書けなかったりもしてたんですけど、今回は遅くとも前日までに書き上げようと決めていたんですよ。


──で、前日には書き上げられたと。

朝8時くらいまで書いてました。


──ん? それはレコーディング当日の?

日付的には当日ですけど、自分の中では、寝なければ前日なので(笑)。


──尾崎くんは、受験勉強というものは?

一応、高校受験はしましたけど、ちゃんとはしてないですね。でも、CDを出すこと自体が受験みたいなもんですよ。


──けど、合格発表はないですよね?

いや、だいたいわかるじゃないですか、数字というものが出ますから。毎回、合格発表待ちの気持ちですよ(笑)。


──何枚以上だから合格という正当な音楽評価がそこにあるわけではないとは思いますが(笑)。では、学生のときに学んだことで、今、活きてるなと思うことって何かありますか?

学生のときも、バイトのときも、やりたくないことをやるというのは大事でしたね。勉強もそうだし、部活もそうだし。何時までに移動するだとか、行きたくもないのに周りに合わせてトイレに今のうちに行かなきゃいけないとか。バイトも遅刻しないように走って駅まで行ったりだとか。そういうことって今思うと大切だなと思いますね。バイトはホントに嫌だったけど。仕事ができなかったので、何の役にも立てないなっていうことに情けなさをつねに感じていて。


──でも、そこがバネになって音楽に結び付いていく。

そう思えば思うほど、“これはできるはずだ、できなきゃまずい”って、そこを信じるしかなくなるので、怖かったですよね。音楽がなくなったら、どうしようもなくなるなって。


──音楽で生きようと覚悟を決めたのは?

決意はしてないですよ、一回も。やめられなかっただけで。逆に決断できなかったというか、答えが出せなかっただけ。だから、決断するというのは、音楽をやめるときくらいじゃないですかね。断ること、終わらせることは、始めることより大変なことですからね。そういう意味では、女の人は怖いですよね。サラッと終わらせるじゃないですか?


──ん? それは女性でも人によりますよ(笑)。そして、カップリングですが、この選曲は「答え」繋がりを意識したんですか?

そこはまったく気にしてませんでした。「サウジアラビア」は昔からやりたかったんですけど、つんのめってる感じが出なくてなかなか形にならなくて。でも、「answer」を入れてみようかなと思ったときに、やっぱり入れたいなと思って。それと、今回のシングルで新曲は「破花」だけでいきたいという気持ちがあって。バンドの今としてちゃんとこの曲を聴いてほしいと思ったのと、原点回帰というテーマを掲げた今回のツアーの流れもくみたかったし、バンドとして昔のものもしっかり引っ張り上げられるということもやりたかったから。


──「answer」は尾崎くんがひとりでクリープハイプをやっていたときのアルバム『When I was young, I'd listen to the radio』(2009年発表)に収録されていて。アレンジは変わらずですか?

アレンジは当時から自信があったのでほぼそのままに、イントロとアウトロだけ変えたくらいです。当時のライブではもう今のメンバーがサポートとして入っていたので、演奏はその頃から一緒にしていて。


──当時どんな思いで作ったか覚えていますか?

この曲を作ったときは、ホントに世の中に認められたいという気持ちだけでした。そのためにどうしたらいいんだろうってずっと考えてた。でも、この歌詞いいですよね?(笑)


──いつもの自画自賛(笑)ですけど、やっぱり素晴らしいと思います。

当時、こういう歌詞が書けることが嬉しくてしょうがなかったんだなって思います。この手法はもちろん今でも使ってるけど、素直な気持ちを歌い始めた、ようやく言葉にでき始めてるというか。それまでは汚い生活を歌って照れ隠しをしてるところがどこかにあったんです。同じアルバムに収録されてた「NE-TAXI」ではやさぐれ感を出してみたり、「イノチミジカシコイセヨオトメ」も変わった女の人の歌だし。


──今回のツアーを観ても思いましたが、昔の曲を今演ることに違和感がないというか、嘘にならないというか、その時々のクリープハイプの今の音楽として成立させられることもバンドの特徴だなと改めて感じています。

振り返ってみても、どの曲も詞に関してはわけわかんないなって思うことはあっても、恥ずかしいって思ったことが一度もないですから。それだけは自信がありますね、今も。


──もう一曲の「サウジアラビア」は一発録りなんですよね?

曲だけ録ってあとで歌を乗せても合わないというか、変に力を入れすぎてしまいそうだなというのは想像がついたので、音がかぶってもいいから一回全部一発録りでやってみようと。テンションも上がったし、最初のテイクからこのままでいけるなって思いました。


──そもそもこの曲を書いたのはいつ頃のことですか?

曲自体を書いたのは「ねがいり」(2006年発表)くらいのとき。ホントに精神状態がヤバかったんですよ。歌詞も何を言ってるのかわからないし。「週刊誌」とかもそうだけど、昔書いた曲って、自分でも意味がわからないことがたまにありますね(笑)。


──えっ……じゃあ、なんでサウジアラビアなのかと聞かれても?(笑)

それは自分にもわからないですよ(笑)。そういうふうな言葉が当時は出てきてたとしか答えられない。自分でも面白いなぁと思います。今だったら、なんでサウジアラビアなのかって書きながら考えると思うし。けど、そのときはそうならなかったんだろうし、“なんで?”って言ってくる人もいなかったんですよね。それくらいまわりに誰も人がいなかった(笑)。当時はそういう心境で活動してたんだなと思います。


──さらに、初回限定盤にはドキュメンタリーフィルムが付いています。監督&撮影は村川 僚さんで、企画としては“尾崎くんの声が出ていないのでは?”という最近のSNSでの話題を軸にインタビューも含みながらツアーを追いかけていきますね。

今回、ドキュメントが入ったことはちょうどいいタイミングだったと思って。“ここでちゃんと向き合わなきゃダメだ”と言ってもらえたので。もしこれがなかったら、またなんとなくごまかしながらやっていたのかなとも思うから。ただ、つねにそういうところと戦っていかなきゃいけないと思うし、こうやってずっと音楽をやっていくのかというのもわかったというか。


──しかも、赤坂BLITZ公演で体調不良により声が出なくなる状況もあり、映像が結果、よりドラマチックな展開になっています(笑)。

あの時、もしこれで治ったら最高だなって思いましたけど(苦笑)。いや、実際にはそれどころではなかったし、きつかったです。4年前初めてBLITZ公演をやったときに、自分のものがなくて、借りものの感覚でライブをしていた気がして。だから、今回のツアーではBLITZ公演に照準を合わせて頑張ってたところがあったから、落ち込みましたね。


──でも、ライブを観たときには声の不調に全然気づきませんでした。原点回帰というテーマにも繋がる初期衝動に似た勢いを持ちながら、今のクリープハイプにしか鳴らせない音を出していて、とてもいいライブだと感動していたので、裏側があまりにも深刻だったことに驚きました。あそこまで追いつめられることはこれまでになかったことですか?

ライブ当日に声が出なくなるということは、本当になかったですね。今まではライブがいいか/悪いかしか考えてなかったけど、ライブをやれるか/やれないかってなったときに、つねに何があるかわからないし、あぁやって二十何曲も人に向けて発信できること自体ものすごく恵まれたことなんだ、もともとそういうことなんだよなと改めて思ったというか。しかも、その喜びが、ライブができて嬉しい、ありがとうっていう感じじゃなく、突き放したようなふてぶてしい表現に変わったことには自分でも驚きましたけど。それは自信があるとそうなっていけるもので、当時はこんな感じでやってたよなと久し振りに思い出した感覚でもありましたね。


──ツアー全体を振り返ってみると、どうでした?

各地いいところもあったし、悪いところもあったけど、手の内を見せ尽くしてもしっかり受け取ってもらえる状態でライブができてる、地に足が着いてやれてる気がしました。そのうえで、届けきれなかったことが悔しかったし、そうだからこそ届けられることもあったなと。いろいろあってやっぱり大変だったけど、やって良かったと思います。


──尾崎くんが「どうして」と思っていることは現時点では解消されているんですかね。

うーん。「どうして」とはいつも思ってますね。そこは変わってない。解決もしてない。答えは本当に見えないから。今までも見たことがないし。


──みんな同じかもしれないですよね、答えを探し続けるしかないというか。

それしかできないから「破花」を作ろうと思ったし、答えが出てないからこそ歌えると思ったし。出てる人なんかほとんどいないですよね。キリがないですよ、ホントに。人には“幸せじゃん、十分じゃん”って言われるけど、実際はそうではないし。


──尾崎くんは、誰の、何の花丸をもらえたら満足なんでしょうね。

どうなのかなぁ。


──自分が自分に花丸をあげることでもないような気がするんです。

そうですね。でも最終的にはそこなんだと思うんですけどね。


──では、最後に。今後の展開は? どうしていきたいと思っていますか?

これからもただ、いい曲を作りたいなってだけですね。曲をちゃんと作る。「破花」が納得できる曲になったし、すごく良かったから、こういう気持ちでまた一曲ずつ積み重ねてアルバムにしたいなと思っています。



(テキスト=西村由美)