デビューアルバム「僕の贈りもの」から1978年のシングル“やさしさにさようなら/通りすぎた夜”まで、オフコース初期の魅力を凝縮したベスト・セレクション・アルバム
当然のことではあるが、70年代という時代と今とは音楽に対しての考え方もかなり違う。例えば“ベストアルバム”という形にしてもそうだ。70年代はオリジナルが重視され、ベストアルバムは、“邪道”と思われていた。熱心なリスナーの多くは、誰かがベストを出すと、“曲が出来ない”とか“レコード会社を変わるんだな”とか、極端な声になると“もう終わりだ”という評価を下していた。
このアルバムは、オフコースにとって初めてのベストアルバムになる。1978年5月5日発売。武藤敏史がこの企画を持ちかけた時のメンバーの反応も当初は「レコード会社的発想だな」と冷ややかなものだったそうだ。タイトルを「SELECTION」としたのも、そんなやりとりの結果でもあったのだろう。
一般的に言ってベストアルバムには二つの意味合いがある。一つは、その名の通り、誰もが知っているヒット曲、代表曲を集めたものだ。そしてもう一つは、名刺代わりにそのアーティストを紹介するというカタログ的な役割である。このアルバムが企画された当時、最も売れたシングル「眠れぬ夜」がオリコン48位だったというのだから必然的に後者ということになる。まだ世の中に認知はされていないけれどこんなに良い曲があるということを知らせるきっかけにしたかった、と武藤敏史の話が残っている。
全曲がセレクションというわけではない。「やさしさにさようなら」「通りすぎた夜」は、1ヶ月前の4月5日に出たシングルのAB面。それ以降は発売順にアルバムからピックアップされている。ただ、2枚目の『秋ゆく街で』に入っていた「のがすなチャンスを」は、78年のツアーでのライブテイクである。2月25日仙台市民会館。5人になったツアーの大詰めでのライブ録音。それも単なるセレクションに終わらない“今”という時間の記録性を意識したに違いない。
73年から78年。もしバンドに成長という言葉を当てはめるとしたら、思春期から青春期にあたるのだと思う。同じ中学で音楽に目覚めた2人が、プロとして一歩一歩歩き出していった5年間。生ギターでのマイナーな抒情を特徴としていたフォークソング全盛期に、安易な情感に埋没しないコード進行と洗練されたハーモニーの“オフコースらしさ”を確立していった過程。日本酒やバーボンが“男の酒”だった時代に“ワインの匂い”を放っていた気品や知性。今聴いても、初期の彼らのエッセンスを感じ取ることが出来る。「どうして俺たちがフォークに入れられるんだろう」という鈴木康博の嘆きがいかに的を得ていたかを証明するアルバムでもある。“青春”の終わり。オフコースはこうして大人になった。ここで一つの区切りとなったと言って良いだろう。
田家秀樹
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解説
当然のことではあるが、70年代という時代と今とは音楽に対しての考え方もかなり違う。例えば“ベストアルバム”という形にしてもそうだ。70年代はオリジナルが重視され、ベストアルバムは、“邪道”と思われていた。熱心なリスナーの多くは、誰かがベストを出すと、“曲が出来ない”とか“レコード会社を変わるんだな”とか、極端な声になると“もう終わりだ”という評価を下していた。
このアルバムは、オフコースにとって初めてのベストアルバムになる。1978年5月5日発売。武藤敏史がこの企画を持ちかけた時のメンバーの反応も当初は「レコード会社的発想だな」と冷ややかなものだったそうだ。タイトルを「SELECTION」としたのも、そんなやりとりの結果でもあったのだろう。
一般的に言ってベストアルバムには二つの意味合いがある。一つは、その名の通り、誰もが知っているヒット曲、代表曲を集めたものだ。そしてもう一つは、名刺代わりにそのアーティストを紹介するというカタログ的な役割である。このアルバムが企画された当時、最も売れたシングル「眠れぬ夜」がオリコン48位だったというのだから必然的に後者ということになる。まだ世の中に認知はされていないけれどこんなに良い曲があるということを知らせるきっかけにしたかった、と武藤敏史の話が残っている。
全曲がセレクションというわけではない。「やさしさにさようなら」「通りすぎた夜」は、1ヶ月前の4月5日に出たシングルのAB面。それ以降は発売順にアルバムからピックアップされている。ただ、2枚目の『秋ゆく街で』に入っていた「のがすなチャンスを」は、78年のツアーでのライブテイクである。2月25日仙台市民会館。5人になったツアーの大詰めでのライブ録音。それも単なるセレクションに終わらない“今”という時間の記録性を意識したに違いない。
73年から78年。もしバンドに成長という言葉を当てはめるとしたら、思春期から青春期にあたるのだと思う。同じ中学で音楽に目覚めた2人が、プロとして一歩一歩歩き出していった5年間。生ギターでのマイナーな抒情を特徴としていたフォークソング全盛期に、安易な情感に埋没しないコード進行と洗練されたハーモニーの“オフコースらしさ”を確立していった過程。日本酒やバーボンが“男の酒”だった時代に“ワインの匂い”を放っていた気品や知性。今聴いても、初期の彼らのエッセンスを感じ取ることが出来る。「どうして俺たちがフォークに入れられるんだろう」という鈴木康博の嘆きがいかに的を得ていたかを証明するアルバムでもある。“青春”の終わり。オフコースはこうして大人になった。ここで一つの区切りとなったと言って良いだろう。
田家秀樹