VOCALISTシリーズ、アルバム解説 Text by 松野ひと実

bar

『VOCALIST』
 デビュー20周年に向けてリリースされた記念すべきシリーズ第一弾。“女性アーティストの名曲カバー”というコンセプトを選んだ理由について德永は「異性の歌だと詞の世界を俯瞰的に捉えられるので、ボーカリストという立場により徹し、言霊の素晴らしさを感じながら歌うことができる」と話している。
 様々な時代の珠玉の名曲たちが揃うなかで、德永が最も重視したのは原曲のメロディーラインと譜割りを細部まで正確に捉えて忠実にカバーするということ(それは本作以降のVOCALISTシリーズでも一貫)。その姿勢からは一曲一曲に対しての心からのリスペクトがうかがえる。そして、德永ならではの切なくて優しい繊細な歌声の魅力を、ストリングスも多用したアコースティックを基調とする温かいサウンドに乗せて、じっくりと堪能させてくれる。
 当時の德永が語った「このアルバムを作ったことで“この声という自分だけの楽器で人のために何ができるか?”ということを考えるようになった」という言葉はとても印象的だった。そんなボーカリストとしての意識の高まりが、德永が進むべき新たな道を切り開いた。

レビューbar

『VOCALIST 2』
 前作からちょうど一年後にリリースされた第二弾。当時の德永によると「前回と今回をあわせて一つの作品」という解釈のもと、本作でも大勢の人々の心を掴んで離さない1970年代から2000年代までの女性アーティストたちの名曲の数々がセレクトされている。
 彼がカバー曲に臨むとき、決して我流で歌うことはしない。前作でも細かい譜割りまで徹底的に把握して原曲に忠実に歌うことを一番に重視していたが、本作のレコーディングを振り返って彼は「“名曲たちにきちっと敬意を表して責任を持って歌おう”という意識はもっと強くなっていた」と語っていた。全編にわたって安堵感に満ちた仕上がりを見せているが、その根底には妥協を一切許さない歌への真摯な姿勢がある。その姿勢がそれぞれの曲の本来の素晴らしさを一段と引き立て、そして、德永のボーカリストとしての真価をあらためて浮き彫りにするアルバムを完成させた。
 前作の大ヒットを機に、世の中には様々なカバー作品が送り出されるようになったが、本作がそのブームにさらなる拍車をかけたと言っていいだろう。

レビューbar

『VOCALIST 3』
 「前2作で学んだことも生かし、それらを越えるようなものを作りたかった」と話していた德永。そんな意気込みをもってレコーディングされた本作には、一段とバリエーション豊かな女性ボーカリストの名曲の数々が集まった。
 “リスペクトを込めて原曲に忠実に歌う”というカバーに対する基本の姿勢に変わりはないが、当時の彼の中では、名曲をただ伝えるだけではなく、“もっと人の心に届く歌を歌いたい”という意識が高まりを見せていた。一曲一曲にその想いを込めることで、德永の歌声が持つ癒しの力も、より一層引き出されたと言えるだろう。
 彼自身、本当に良い歌が歌えていると思うときは「“歌っている”というより、必然的にその楽曲を与えられて良い意味で“歌わされている”という感覚になる」と日頃から話している德永。本作の歌入れではその感覚が多く得られたようで、20年を越えるキャリアに甘んじることなく、ボーカリストとしてまだまだ上昇し続ける姿をうかがわせてくれる。
 本作では約16年ぶりにオリコンのアルバム・チャート首位の座を獲得。また、その大ヒットに伴いシリーズ3作品が同時にトップ10入りするなど、“VOCALIST”という德永のオリジナル・ブランドの存在感は揺るぎないものとなった。

レビューbar

『VOCALIST 4』
 当初は『VOCALIST 3』で女性歌手のカバーは完結となる予定だった。が、あらためて德永が歌いたいと思う曲をピックアップしていったところ予想以上に曲数が揃い、本作を制作する運びとなった。
 まず注目すべきは、従来のポップス路線とは色の異なる歌謡曲の「時の流れに身をまかせ」を選曲し、彼自身の色と自然に融合させている点だ。そして、同曲を軸に、一段と多彩になったラインナップを展開。切なさや優しさだけではなく、気迫に満ちたボーカルでも魅了してくれる。
 原曲に込められた作者や歌手の想いを彼なりに読み取る作業も一段と入念におこない、「わずかな譜割りの違いでも曲全体の景色が変わってしまう」というほどのカバーに対する強いこだわりもさらに徹底させた本作。彼によれば「ボーカリストとしての“匠”になることを目指した」とのことだ。そんな志の高さに、前作から続く「もっと人の心に届く歌を…」という想いも加わって、多彩さだけではなく深みや生命力も増した“進化形のVOCALISTワールド”が実現した。
 本作ではオリコン・チャート1位を4週連続で獲得。また、この段階でVOCALISTシリーズのトータル・セールスが500万枚を突破したことも当時の大きな話題となった。

レビューbar

『VOCALIST VINTAGE』
 女性歌手の名曲集ということに変わりはないが、本作では1960年代から70年代の高度経済成長期に日本の音楽界の主流となり大衆に愛されていた数々のムード歌謡をカバー。德永にとっては「自分の少年期の憧れであり希望になった曲たち」だという。しかし、彼は昭和の古き良き時代を懐かしむためだけにこれを作り上げたわけではない。
 東日本大震災以降、“今の自分が本当に歌うべきものは何か”というテーマと対峙し続けていた彼には「日本の復興には高度経済成長期のような強いエネルギーが必要だろう」との考えがあった。
「だから当時の歌を歌うことで、その時代を知る方たちにその頃の活力を思い出していただければ、と。上の世代が元気になれば若い世代もおのずと元気になるはずだから」──そんな心からの願いを込め、そして、大先輩の歌手たちに敬意を払いながらボーカリストとしての力量を余すところなく注ぎ、一曲一曲に新たな命を丹念に吹き込んでいる。
 “音楽の楽しさ”をあらためて味わうことができたという彼だが、その一方で「本当に多くの人たちの涙や感情を受け止めてきた曲たちなので非常に重みを感じる」とも話していた。そういう“VINTAGE”と呼ぶにふさわしい名曲たちと向き合えたことで、彼の経験値はひときわ高まったと言えるだろう。

bar

「VOCALIST」シリーズ
SINGLE
HOME
PAGE TOP