【AI / THE BEST(ライナーノーツより抜粋)】

(前略)
 AIが作る歌は温かいメッセージのものが多く、そこは2000年のデビュー以来彼女が貫いているアティテュードである。その姿勢に多くの人が賛同してきたことは間違いない事実だ。だからといって彼女の音楽がデビュー以来なんら変化していないといったら、それは大間違い。AIは常に変化、進化を求めてきたし、彼女のキャリアを振り返ると、ここ数年、とりわけ2010年のベスト・アルバム『BEST A.I.』以降、その傾向は強くなっているように思う。そこにきて、新たなベスト・アルバム『THE BEST』の登場だ。これはもう、この数年のAIの変化、進化の集大成といってもいいだろう……なんて書くと、小難しい内容かと思われてしまうかもしれないが、デビュー15周年を記念してのオールタイム・ベストであり、これまでの代表曲ももちろん入っているので、AI初心者の方もご心配なく。キャリア2枚目となるベスト・アルバム『THE BEST』、AI初心者も長年のファンも楽しむことができる“マチガイナイ”一枚である。

(中略)
 よってこのベスト・アルバム『THE BEST』は<ママになる前のAI>の集大成である。もう<ママになる前のAI>の作品を“新曲として”聴くことはできないし、そう考えると非常にエポック・メイキングな作品だ。デビュー15周年を飾るに相応しい一枚といえよう。

 中身を見ていこう。先述した3枚のアルバムのうち、『THE LAST A.I.』から「FAKE f eat. 安室奈美恵」「STRONGER feat. 加藤ミリヤ」の2曲(+アルバム未収録でシングル『Still…』のカップリング曲「Wavin' Flag -Version AI-」)、『INDEPENDENT』から「ハピネス」「INDEPENDENT WOMAN」「One Love」「Letter In The Sky feat. The Jacksons」の4曲、『MORIAGARO』から「VOICE」「ママへ」「After The Storm feat.シェネル」「sogood」「HANABI」の5曲を収録。うち先述のキャリア総括の中で触れた曲以外の曲について軽く説明すると、「Wavin' Flag -Version AI-」は2010年南アフリカW杯公式キャンペーン・ソングであり、アフリカ・ソマリア出身のラッパー・ケイナーンとコラボした「K'NAAN with AI / Wavin' Flag - Cola-Cola Celeblation Mix」のAIヴァージョン、「ママへ」は「大好きだけど一番歌いにくい曲。歌詞を書いてる時も大泣きして大変だったし、歌う時もいつも感情的になっちゃうんですよ」という感動作。「After The Storm」はマレーシア生まれ、オーストラリア出身のシンガー、シェネルをフィーチャーし、「今は嵐でも嵐の後は必ず晴れるよ」と歌った全編英語の意欲作。「sogood」は「人生色々あるけど、明るく元気にいきましょうって歌った曲。とにかくテンションがあがる曲だね」というアップ・チューン、「HANABI」は「悩み事も全部花火のように打ち上げよう」と歌う、AIらしい前向きなメッセージ・ソングとなっている。
 それらに加え、ライヴでの大合唱が定番となっている心温まるミディアム・チューン「My Friend」(『ORIGINAL A.I.』収録。2003年)、もはや説明不用、500万ダウンロードを突破し、第56回NHK紅白歌合戦でも披露した大名曲「Story」(『MIC-A-HOLIC A.I.』収録。2005年)、フジテレビ系ドラマ『医龍-Team Medical Dragon-』の主題歌に起用され、自身最高位となるオリコン・チャート2位を記録した「Believe」(『What’s Goin’ On A.I.』収録。2006年)、亡くなってしまった大切な人を思いながら書いたというダウン・テンポのメッセージ・ソング「I'll Remember You」(『DON’T STOP A.I.』収録。2007年)、メナード化粧品のCMソングで、疾走感溢れるダンス・チューン「YOU ARE MY STAR」(『VIVA A.I.』収録。2009年)、と、『BEST A.I.』以前のナンバーも5曲収録(プラス「Story (English Version)」も収録)。どの曲もAIのキャリアを語るに欠かせない曲であり、ベスト盤に収録されて然るべき曲だろう。あの日あの時の自分と重ね合わせて、これら珠玉の名曲に聴き入ってほしい。

 総ダウンロード数1000万件を超えるヒット曲18曲が収録された本ベスト・アルバム『THE BEST』を引っ提げて、2016年5月からAI初の全国ベスト・ツアー『THE BEST TOUR』を行うという。個人的には同じ母親として、もっとゆっくり子育てに専念してほしいとも思ってしまうが、なんせ日本中、世界中にAIを求めるファンがいるし、AI自身も一日でも早くファンのみんなに<新しいAI>を届けたいのだろう。ファンを第一に考えるAIらしい決断であり、そんなAIを私はこれまで同様、否、これまで以上に全身全霊で応援していきたい。そして今後ママ目線の曲も出てくるだろうし、結婚、出産で得た経験がAIの音楽に多大なる影響を及ぼすことだろう。今後のAIにも期待しかない。

2015年9月 川口真紀

(※全文はCD商品にライナーノーツとして掲載)