6枚目のオリジナルアルバム『MAGIC』インタビュー
back numberの3年3か月ぶりとなる6枚目のオリジナルアルバム『MAGIC』はこの期間のバンドの成長と深化が見事に刻まれた作品だ。「瞬き」「大不正解」「オールドファッション」「HAPPY BIRTHDAY」といったシングル曲に加えて、新境地を切り拓いた新曲の数々によって、多彩で起伏に富んだ歌の世界が展開されていく。恋愛よりも大きくて根源的な愛の歌も輝きを放っている。アルバムが完成した翌日のインタビューとなった。
――アルバムが出来たてほやほやの今の心境は?
小島 終わったなあっていう感じもあったんですが、完成直後に、3人で「またこれから始まるね」って会話してましたね。
栗原 アルバム制作の最終確認で頭から最後まで通して聴いたんですが、ずっとワクワクドキドキしていたんですよ。自分たちで作った作品ではあるんですが、期間が長かったこともあって、おっ、こんなことをやってくるのかって、学生の頃に好きなアーティストの新譜を聴くのに近い感覚がありました。
清水 今の俺達がback numberとしてやりたいことはやりきったし、俺たちの音楽を聴きこんでくれている人はもちろん、そんなに聴いたことがない人にも自信を持って、お勧め出来る作品になったなと思いました。でも完成したってことは、次を作るってことであり、これと比べられるってことなので、聴きながら、だんだん怖くなってきた。今回いい作品を作ることが出来たんだから、また出来るはずだという気持ちもあるんですが、次にいい曲が出来る保証なんてないよなっていう不安もあって。自分を信用しているのか信用してないのか、ポジティブなのかネガティブなのか、自分でもよくわからない不思議な感覚はありました。
――全力を投入して作ったからこそ、そう感じるのでは?
清水 そうだと思います。毎回、すっからかんになるんですよ。制作の途中では甘い考えが芽生えて、この曲は次に取っておこうって思ったりもするんですが、制作の最後のほうになってくると、今の自分たちの最高の作品を作りたいんだから、全部出し切るしかない!って限界まで行ってしまうという。
――3年3か月ぶりのアルバムで、過去の作品と比べると、間があきました。この間隔は?
清水 しっかり丁寧に作っていこうとしたら、これくらい時間がかかってしまったということですよね。でもサボっていたわけではないんですよ。常に何かやっていましたし。
小島 ツアーも毎年やってますし、シングルも作ってましたからね。
――アルバム作りはどのタイミングからスタートしたのですか?
清水 頭の中では『シャンデリア』を作り終わった瞬間から始まっていました。その時点ですでに「瞬き」みたいな曲が作りたかったんだと思うんですよ。
――というと?
清水 これからもback numberとしてラブソングを歌っていくならば、その定義をもっと増やしていく必要があると感じていました。まだまだ狭すぎると思ったので。今回のアルバムって恋愛の曲は半分くらいなんですよ。それって、俺達としてはかなり異例なことですよね。ともかく曲作りをする上で、自分と向き合っている時間が長かったですね。
――自分と向き合って、どんなことを考えたのですか?
清水 自分と向き合う中でまず出てきたテーマが〝価値〟だったんですよ。俺にとっては価値があるけど、あの人にとっては価値がないってことが当たり前にあるわけで、価値ってなんだろう?って、ずっと考え続ける中で最初に出来た曲が「瞬き」でした。自分にとって価値のあるものに人生を費やしていきたいわけで、大切な人とずっと一緒にいたいというところから、この歌詞が生まれた。この曲からアルバム制作がスタートしたと言ってもいいと思います。
――技術の向上、表現の深化とともに、人間としての成長も作品に反映されているのではないかと感じました。この3年3か月の間で、音楽への意識の変化はありましたか?
清水 正直に言うと、『シャンデリア』の頃から怖さはあったんですよ。褒められたら、次の作品をどうしようって不安になるし、けなされたら、なんでだよ!ってムキになってしまう自分がいた。「俺らは下積みが長いんだ。いつでもかかってこいや!」という心構えをしていたつもりなんですが、いざ、それなりに目立つ立場になると、動揺したり混乱したり居心地の悪さを感じたりしてしまった。でもドームツアーをやって、何万人もの人と同じ空間をともに過ごしたことで、また次のステージが始まったんだなという実感を持てたのが大きかったですね。
小島 個人的なことなんですが、バンドを始めたころに抱いていた夢が去年全部かなってしまったんですよ。LUNA SEAと同じステージに立ちたい、かつてLUNA SEAを観たドームでライブがやりたいというのがその夢の内容だったんですが、LUNA SEAは僕が中学の時に解散してしまったので、かなわない夢だと思っていました。ところが去年、LUNATIC FEST.2018に出させていただいて、しかも同じステージでJさんと一緒にベースを弾くことが出来た。ドームでのライブも実現してしまった。一瞬、これから何をしようという期間があったんですが、夢が実現したからこそ、これまで自分のためにやってきたところから意識が切り替わって、聴いてくれる人のために良い音楽を作っていこうという気持ちが強くなってきたんですよ。今までだったら、俺はこのフレーズが弾きたいんだ、譲れないんだって思っていたのが、いや、それよりも音楽としてもっといいものがあるかもしれない、3人でもっといい音楽を作っていこうって追究出来るようになってきた。
栗原 僕が感じているのは少しだけ視野が広くなったかなってことですね。『シャンデリア』までは曲を良くするにはどういうアプローチがいいんだろうって、1曲1曲向き合って必死に集中してやっていたんですが、今回は、前はこんなアプローチをしたから、今度はこういうことをやったらおもしろいんじゃないかとか、ライブでやったら、こういう感じに出来るんじゃないかとか、もっと先の絵を想像出来たり、実験的なアプローチを試せたりして、リズムの解釈が自分の中でかなり広がった気がします。
――1曲目、「最深部」での始まり方も実にアグレッシブですね。
清水 メンバーにもチームにも同意してもらって、1曲目に出来て、良かったですね。もともと俺たちはこういう音楽が好きなんですよ。だけど、今これをやっちゃうと、ギターロックをガンガンやってた頃、『逃した魚』を出した頃の俺達に戻っちゃうんじゃないかって、思われるかもしれない。でも逆に今、この形で出せるのがいいんだと思ってます。“だって俺達はこういうものが好きだからさ”ってことを今の自分たちのやり方で表現出来ました。
小島 僕はこの曲がとても好きで、「これ、シングルにしないんですか?」って言ってたくらいで。この曲が出来た時、やっぱりこういう曲が好きだなって再確認しました。
栗原 バンド感のあるものになっているし、自分たちの好きなものを、今の自分たちの最大限の力を発揮して、1曲目に出せたのはうれしいですし、良かったなと思います。
清水 1曲目は「瞬き」でも良かったんですが、それだと、ちょっときれいすぎるかなって(笑)。こういう切り取り方から入れると、よりワクワクしてもらえるんじゃないかなと思いました。
――2曲目の「サマーワンダーランド」でガラッと空気が変わります。
清水 小難しいことばっかり言ってると、「この人、気難しい」って嫌われるじゃないですか(笑)。1曲目がかなりシリアスなので、2曲目でお馬鹿な感じにして、早々に緊張を緩和しようと。「瞬き」に入る前におちゃらけておきたいという意識もありました。
――スリーピースのバンドサウンドが全開となっているという点では共通してますよね。
栗原 ひとりひとりが自由ですよね。3人でビシッと息を合わせてやらなきゃいけない曲ではなくて、緩いところもあるんですが、その緩さが合わさると、なんとも言えないクセになるリズムが生まれていく。昔の自分たちがこれをやってたら、曲になってなかったですよね。アルバムのあちこちに3年3か月分の成長が出ていると思うんですが、この曲もまさにそうだと思います。
小島 3人のバランスが難しい曲なんですよ。
清水 確かにこれは難しいね(笑)。足元のゆるいジェンガみたいなもの。今にも崩れそうで、崩れない。でもそれがいいという。今回はやりたいことがたくさんあって、新しいことがあちこちに散りばめられていますね。
――「あかるいよるに」もそんな曲のひとつです。“魔法”という言葉が出てきたり、呪文がモチーフとして登場したりして、タイトル曲と言えそうですね。
清水 『MAGIC』というタイトルにたどり着いてから歌詞を作ったので、意識して書いたところはありますね。この曲は「あかるいよるに」というタイトルがまず出てきて、そこから広げていきました。価値というものは心の中にあって、どう光るかはその角度で決まる、みたいな話だと思って書きました。魔法にかかりたくて、しょうがなかったのかな。大人になってくると、人生における初めてのことって、少なくなってくるし、戸惑うこともそんなになくなってくるじゃないですか。好みも固まってくるし、好きになれることのほうが珍しくなってくる。それだけに、好きだな、欲しいなって思えることが幸せなんだってことが書きたかったんだと思いますね。会いたい人がいる、行きたい場所がある、食べたいものがあるとか、それだけでキラキラしてくるところがあると思うので。このテーマでキラッとさせられたのは良かったですね。ひたすら自分と向き合って作っているので、どうしても内向的というか、内にこもっちゃいがちになるんですが、サウンドをどんどん華やかに出来た。演奏隊がよくやってくれたと思います。
――シングルだった「オールドファッション」も『MAGIC』の中で聴くと、青空なのに雪が降るという内容の冒頭の一節もまさにマジックだなと思いました。
清水 確かに。アルバムを通して、あちこちで同じようなことを言っていて、我ながら一貫性がありますね(笑)。
――「雨と僕の話」のプロデュースは亀田誠治さんです。2ndアルバム『blues』の「エンディング」以来となります。
清水 なんの因果か、亀田さんにお願いするのはどうしようもない男が主人公の曲っていう(笑)。原曲を送って、ある程度アレンジ終えて帰ってきた時点で、歌詞はまだ出来てなかったんですが、これは思いっきりネガティブなこと言いたいんだなって、久々にネガティブスイッチが入って、救いのない感じにしました。もともと最初の頃はそういう歌が多かったんですけど、ずいぶん変わってきたなあって我ながら驚きます(笑)。基本的には耳に入っていくものもポジティブであるほうがいいとは思うんですが、この歌に関しては、どうしようもないってことをきちんと歌いたかったんですよ。そういう歌にするために何回も書き直しました。
――歌もとてもエモーショナルです。
清水 結局、この人(歌の主人公)は怒っているんですよね。人から呆れられることにも、呆れることに慣れてる自分にも。こういうダメさがいいというか、ライブの時に、やっぱりどうしようもないなって思いながら歌ってる時が一番しっくりくるという(笑)。人の幸せを願う歌ももちろん歌っていきたいんですけど、ひたすら、だめだなあって歌を歌っていると、落ち着くというか、穏やかな気持ちになるんですね(笑)。
小島 以前の「エンディング」の時もそうだったんですが、この曲ではともかく勉強しようと思っていましたね。僕らに関わってくれている方々、プロデューサー、テックさん含めて、ベーシストの方って、あまりいないんですよ。しかも亀田さんは大好きなベーシストなので、吸収できることはすべて逃さず吸収したいと思っていました。
――「monaural fantasy」も驚きが詰まっている曲です。デジタルのテイストもありつつ、バンドの生の感じもありつつ、不思議なポップ感が備わっていますが、これはどんなきっかけから?
清水 アルバムの中で一番最後に作った曲ですね。去年の年末にロンドンに行って、橋の下の川っぺりでギターを弾いていたんですよ。その時、別に何が違うわけでもないんですけど、弾きたくなるコードが違ったんですよね。なので、その時の感覚を持って帰ってきて、そのまま音にしようと思って作った曲ですね。
――「あかるいよるに」と並ぶタイトル曲と言えそうですね。
清水 『MAGIC』というタイトルとも繋がりは強い気はします。歌詞は深い意味があるんですが、意味がないように聞こえてほしいなあって思ってました。単純に“それでも人生は素晴らしい”という言葉だけ、パキッと届いたらいいなって。
――『MAGIC』の中に入ると、「HAPPY BIRTHDAY」もマジカルな曲として響いてきました。この世の中にある最大の魔法って、人が生まれることなんじゃないかと思うので。
清水 いろんな光り方があって、いろんな光の色があるとしたら、これはまっ白な感じですよね。恥ずかしくなるくらい無垢な白さ、不思議な光り方をする曲ですよね。最近の自分たちが作ったと思えないくらいのまぶしさがありますね(笑)。
――「最深部」で始まり、「大不正解」で終わるという流れからもバンドのアグレッシブな姿勢がうかがえます。
清水 アップテンポの曲で始まって、アップテンポの曲で終わる攻撃的な流れにも、今の自分たちのメンタリティーが表れている気はしますね。以前よりも多くの人たちが聴いてくれるようになったんじゃないかという状況の変化があって、ついひねくれたくなる部分がある一方、今こそ、これまで以上に徹底してポップスをやるべきだという意識もあって、かなり分裂していたんですよ。ということがよく出ているアルバムになったんじゃないかと思います。「HAPPY BIRTHDAY」の次がこの曲ですからね。『シャンデリア』を作った時、これ以上の幅はないなと思ったんですが、今回、あっちに行ったりこっちに行ったりして、さらに分離した。これに比べたら、『シャンデリア』はまとまりがあるほうなんじゃないかって思います。
小島 今となっては、そう思う。
――『MAGIC』というタイトルはどんなところから?
清水 最初は〝価値〟という言葉と向き合って作っていたので、『価値について』というのがタイトルの候補だったんですが、地味だし硬いなって。単純にもっとワクワクしたかった。じゃあ、このアルバムのポジティブな側面、キラキラしたところはなんだろうって考えた時に『MAGIC』という言葉が出てきました。で、スタッフにそよそよっと言ってみて、意外と反応がいいなと思ったので、メンバーに「『MAGIC』で行こうかと思っているんだけど」って言いました。なんか、心の弱さ、すごいなあと(笑)。
小島 『MAGIC』という言葉、依与吏が好きそうな言葉じゃないと思ってたんですけど、そういう意味だということで、ああ、そうなのかと納得しました。
――アルバム・ジャケットは清水さん撮影なんですね。これは?
清水 ジャケットの写真、自分で撮りたかったので、ロンドンに行った時、フィルムカメラを持っていったんですよ。それっぽい橋みたいなものを撮っても、あっ、お金をかけたんですね、ってことだけになってしまうので、探したのはどんな場所でも変わらない生活、人の営みの中にあるキラキラしたものでした。初回限定盤のジャケットの写真はアビーロードで、背骨、痛い!って言いながら、ひっくり返って撮ったものです。木の枝が上から降ってくる感じがおもしろかったので。
――「monaural fantasy」の歌詞に出てくる“逆様の星”という言葉ともちょっと関連性があるような。
清水 ある意味生々しく見えて、それがいいなって。で、撮影最終日の夜に、マジックってなんだろうってずっと考えていたら、金箔を塗って止まっているストリートパフォーマーがいたんですよ。銀の人もいて、その人は自転車に乗って、静止して銅像みたいになってて、たまに動くと、みんな驚くという。金の人がはけた時に、金箔がはがれて落ちて、地面に落ちたんですよ。周りにビジョン広告みたいなのがいっぱいあって、その広告の映像に反射して、地面の金箔がいろんな色に光って、浮き出して見えて、これだ!と思って、夢中になって撮りました。「あかるいよるに」はその時に撮った写真を画面に映し出して見ながら、歌詞を書いていたので、この景色を見た時の自分の中のメンタリティーが曲の中に反映されていると思います。
――そのエピソードも『MAGIC』っぽいですね。
清水 もしもこのアルバムが『シャンデリア』から1年ぐらいで出ていたら、多分、「瞬き」が1曲目で、「あかるいよるに」を最後にしてたと思うんですよ。きれいに終わらせたいというか、このアルバムタイトルをよりきちんと伝えたい、説明したい、みたいな。でも今はもう少し委ねられるようになってきた。きっちり線で示すのではなくて、点で描く感じ。で、「これ、何に見えますか? 好きに判断してください」って。そういう部分では大人になったのかもしれない。ドームで“街”という言葉を歌ったとしたら、受け取る側には5万通りの“街”のイメージがあるわけだし、聴く人を信じられるようになったということかもしれないですね。
――アルバムが完成して、ここからどんなスタンスでやっていこうと思っていますか?
清水 いろいろやってると、もっとああしたい、こうしたいということが出てくるんですよ。俺らって、飽きっぽいというか、同じことをやるのが苦手なバンドみたいで。結局、自分たちのやりたい音楽をやりたいように追究していくしかないなって。
――音楽シーンの中に影響を与えたり、役割を担ったりということもありそうですが。
小島 シーンを牽引しているというような気負いはないですし、そんなことは思ってないですよね。先輩たちがたくさんいますし。自分たちのやりたいことを、自由にやっていきたいなと思いますね。
栗原 僕はシーンみたいな大きなことよりも、身近なことを大切にしたいんですよ。たとえば、スタジオに入った時に、「リズムが良くなったね」とか「そのフレーズいいじゃない」って二人に言ってもらえることの方が自分にとっては喜びなので。
清水 バンドを取り巻く状況が変わっても、三者三様、一番自分のガッツの出るところにシフトしていけているので、大丈夫なんじゃないかなと。今までやってきたこととは違うことに挑んでいくのは勇気のいることなんですよ。でも挑まないと、よりよい瞬間は訪れない。現状の何が悪いわけでもないし、ピンチなわけでもないんですが、このままで終わるのはくやしいんですよ。いつだってヒリヒリしている自分がいる。ということは、まだまだやりきれていないということなんだろうなと思いますね。
インタビュー・文 長谷川 誠