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現地時間2月10日、ロサンゼルスのステープルズ・センターで開催となる第61回グラミー賞授賞式。この本選を前に昨年末、全ノミネーションが発表された。今回は17年10月1日から18年9月30日までの間にアメリカで発売及び発表された音楽作品が対象。グラミー賞を主催するレコーディング・アカデミーの投票権を持つ会員により21,000以上の登録作品の中から29のジャンル(グラミー用語で“フィールド”)と84の部門賞(同“カテゴリー”)に候補作品と候補アーティストが精査され、授賞式でそれぞれのウィナーが決定となる。なかでも最高の栄誉とされるのがジェネラル・フィールドとしてノミネーションの最初に位置付けられる4つの賞、主要部門である。まずは「年間最優秀レコード(Record of the year)」。その年を代表する最も優れた楽曲に贈られる賞でアーティストをはじめプロデューサーやエンジニアも受賞対象となる。次にその年を代表する最も優れたアルバム作品に贈られる「年間最優秀アルバム(Album of the year)」。アーティストはもちろん、ソングライター、プロデューサー、エンジニアなどアルバム制作に携わったスタッフも受賞対象。ただし実務的にアルバム全体の3割(33%)以上のプレイング・タイムの制作に関わったことがノミネートの条件とされている。「年間最優秀楽曲(Song of the year)」は最も優れた楽曲のコンポーザー(作者)に贈られる賞。作者の力量が問われることから別名“ソングライター・アワード”ともいわれている。当然アーティストが作者を兼ねていれば受賞対象。4つ目の「最優秀新人賞(Best new artist)」は最も優れた新人アーティストに贈られる賞。グラミーの選考基準ではその年度にデビューした純粋な新人だけでなく、ある程度の活動歴があっても当該年の活躍が評価された場合はノミネートの対象となる。

これら主要部門のノミネーションはまさしくその年のアメリカ音楽界の動向を象徴するものだが、今回のグラミーではその主要部門の候補数がそれぞれ従来の5作品(5組)から8作品(8組)へと拡大された。これには近年のアメリカで頻繁に使われるキーワード“Diversity(多様性)”の重要視が大きく影響している。引き金になったのは昨年の第60回グラミー賞にまつわる、ある騒動。主要部門で「年間最優秀アルバム」を除く3部門のノミニーが全て男性アーティストであったこと、また歴代の受賞者数が圧倒的に男性優位な結果であること、正当にマイノリティを評価しているのか、などを指摘したメディアに対するレコーディング・アカデミー会長の女性軽視な発言に批判が殺到。多くのアーティストからも猛反発を受けた。その後レコーディング・アカデミーは様々な見直しを検討。主要部門での候補枠の変更に加え、ノミネーションや受賞結果を左右する投票メンバーのなかに女性、カラード(有色人種)、39歳以下の若い世代を新たに迎えるなど60年に及びグラミーの歴史上、これまでにない大改革が実行されたのである。そうした新体制のもと発表された今回のノミネーションの特徴は、昨年に引き続きHIP HOP/R&Bとして語られるアーティストの評価が高いこと(最多8ノミネートがケンドリック・ラマー、続く7ノミネートがドレイク)そして総体的に女性アーティストのノミネートが増えたこと(最優秀新人賞に関しては8組内6組が女性)が挙げられる。“Diversity(多様性)”の重要視をテーマに新たなスタートをきった第61回グラミー賞、では今回の『グラミー・ノミニーズ』に収録された輝かしいノミニーたちの楽曲を紹介していこう。

2019年2月  増子 仁/Jin Mashiko
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