佐藤良成さんと佐野遊穂さんの男女デュオ「ハンバート ハンバート」。フォークやカントリーをルーツとした楽曲と独自の世界観の歌詞で、幅広い層から支持されています。上白石さんもハンバート ハンバートの楽曲に魅了されたひとり。移動中の車内などで、くり返し聴いていたといいます。

「name」制作にあたり、上白石さんから依頼したのは“親から子供へ向けた家族の曲”でした。その理由をこう語ります。
「私は『カムカムエヴリバディ』で、生まれてはじめて本格的な母親役を演じました。『そのときの新鮮な気持ちを曲として残しておきたい』という思いがありました」

作詞・作曲を手がけた佐藤さんは、この思いを「君の名前」としてかたちにしました。完成した楽曲には、“奇跡の一致”があったといいます。
「私の“萌音”という名前には、『音楽を好きになってほしい』という両親の願いが込められています。佐藤さんにはこのことをお話していないのに、『君の名前』のサビ部分は私の名前の由来にもぴったり当てはまっていました」

演じた役柄にも、上白石さん自身にもリンクする「君の名前」。最後に、歌声に込めたメッセージを尋ねました。
「みなさんが自分の名前について改めて考えるきっかけになったらいいなと思っています。リラックスして、微笑みながら聴いてほしいですね」

取材・文/佐藤優奈

金子隆博さんが作曲したジャズ・ナンバー「ジェリーフィッシュ」。完成の背景には、「カムカムエヴリバディ」との縁がありました。

「金子さんは『カムカムエヴリバディ』で全編を通して音楽を担当されていました。金子さんの音楽演出に触れるうちに、『さまざまな雰囲気の曲が書ける金子さんに、ぜひカッコいいジャズの曲を作っていただきたい』と思い、お願いしました」

「ジェリーフィッシュ」は、印象的なサクソフォンのメロディからはじまります。上白石さんは初めて聴いたときのことを「新しい私に脱皮できそうな曲だと感じた」と思い返します。

「とにかく演奏がカッコいい。後ろで流れているシンバルのリズムや、ビートを刻むベースの音が、とても心地良いんです。レコーディングの際も、この曲が私を別の世界へと連れていってくれるような、不思議な感覚がありました」

大人の女性を想起させる「ジェリーフィッシュ」を歌うことは、上白石さんにとって“等身大の自分を表現すること”でもありました。

「これまでは楽曲に合わせて、普段よりも自分を明るく見せたり、はしゃいだ雰囲気を出すこともありました。でもこの曲を歌う際は、それが必要なかったです。『ジェリーフィッシュ』を通じて、皆さんのイメージする上白石萌音とは違う、他の一面を知っていただけるかと思います」

取材・文/佐藤優奈

上白石さんがキヨサクさんに楽曲制作を依頼した背景には、学生時代の思い出がありました。

「中学生の頃、友達みんなで肩を組んで『小さな恋のうた』を歌った思い出があります。当時からキヨサクさんの楽曲をとても魅力的に感じていました。メッセージ性の強い歌詞が素朴な曲調に乗っていて、素敵だなって」

キヨサクさんがこの想いに応え、書き上げたのが「チョイス」です。
曲のテーマは“取捨選択”。南国風のゆるやかなメロディと、聴いた人の心に訴えかける歌詞が印象に残る楽曲です。上白石さんは「“確かな意志を持って何かを選ぶこと”が求められる現代にマッチした歌詞」と語ります。

「レコーディングで何度も歌う中で、一番最後の『どこに転んでも生きること』という歌詞の強さに改めて気付かされました。コロナ禍に突入して約2年が過ぎ、人生が大きく変化した方も少なくないと思います。キヨサクさんは、こういう時代だからこそ、この曲に“生きることを選ぶ”というメッセージを込めたのかもしれないなと思いました」

「チョイス」は、私たちの日常が選択の積み重ねでできていると、改めて気づかせてくれる一曲です。あなたは今日、なにを選びますか？

取材・文/佐藤優奈

小林武史さん提供楽曲「夕陽に溶け出して」は、TBS系『ｎｅｗｓ23』の新エンディングテーマに決定。「name」の発売に先駆け、7月4日放送回より聴くことができます。上白石さんはこの楽曲について「『小林さんとの楽曲制作』と『ｎｅｗｓ23での起用』がなければ、生まれなかった曲」だと語ります。

「長年に渡り音楽界を牽引してきた小林さんと、いつかご一緒してみたいと思っていました。奇跡的な重なり合いの末に誕生した楽曲なので、この巡り合わせに心から感謝しています」

「夕陽に溶け出して」は、ドラマチックな歌詞も特徴です。まるで現在の情勢を映しているかのようでありながら、普遍性をも感じさせる言葉の数々が並びます。上白石さんは「自分自身にリンクする箇所が沢山あるからこそ、言葉一つひとつをできるだけ抽象的に表現しようと意識した」といいます。その根底には「楽曲に込められたメッセージをより多くの方々に届けたい」という想いがありました。

「レコーディングを終えて、小林さんのすごく丁寧なディレクションが心に残っています。一言ひとこと本当に心に響く言葉で伝えてくださって。小林さんの一言で、楽曲の捉え方もはっきりしましたし、伝えたいことの方向性も明確になりました。曲調の美しさとメッセージを皆さんに届けられたらうれしいです」

取材・文/佐藤優奈

谷中敦さん・川上つよしさん(東京スカパラダイスオーケストラ)の提供楽曲「愛すべきブルー」は、上白石さんの「明るくて軽やかなスカが歌いたい」という想いに応えて作られました。陽気なメロディと、現実味のある歌詞の取り合わせが心に響く一曲です。

「愛すべきブルー」の歌詞には「ブルー」「青空」という言葉が目立ちます。
曲中の青の表現について、上白石さんは「心情を意味する『ブルー』は、気分の落ち込みを表す言葉でもありますよね。だからきっとここで言う『青空』も、気持ちよく晴れ渡った空ではない。この“ど直球・ど真ん中じゃない感じ”がすごく好き」と語ります。

上白石さんは今回がスカ初挑戦。ボーカルレッスンを経てレコーディングに臨みました。終了後、「テイクを重ねるうちに気づいたこと」を教えてくれました。

「『シャレの効いた歌詞をこういう曲調に乗せて歌ったら、ちょっとした不安や切ないことも、笑い飛ばせるかもしれないな』と感じました。ダジャレですけど、『スカッとする』というか(笑) 落ち込んでいる友達と一緒に、カラオケで歌うのにも最適かもしれません」

みなさんも“なんだか上手くいかない日”こそ、「愛すべきブルー」のメロディに身を任せてみてはいかがでしょう。

取材・文/佐藤優奈

「name」唯一の洋楽カバー曲である「Tea for Two」は、1924年に誕生したジャズ・スタンダードの名曲です。この曲は、上白石さんにとって“特別な一曲”でもあります。

「『カムカムエヴリバディ』の印象的なシーンで『Tea for Two』が使われています。それは、私が演じた安子と、後に夫となる稔が一緒に喫茶店でコーヒーを飲むシーン。デートするふたりのBGMに、レコードから『Tea for Two(訳：二人でお茶を)』が流れてくるんです」

上白石さんはOAで初めてこのことを知り、「安子と稔にとっての大切なシーンでなんて素敵な演出をするんだろう」と感激したそう。「Tea for Two」への強い思いが芽生え、今回のカバーにつながりました。

「Tea for Two」は、恋する相手との未来を夢想するかわいらしい楽曲です。レコーディングを終えた上白石さんは、「洒落の効いた歌詞に散りばめられた“恋する女の子のかわいらしさ”を汲み取り、表現できるよう努めました」と笑顔をのぞかせました。

上白石さんは、自由度の高いジャズ・スタンダードの特性に合わせ、歌唱表現にも工夫を施しました。歌詞にもこだわり、より一層情景が伝わるものを選んだといいます。
こうして「上白石萌音版『Tea for Two』」が完成しました。女の子の甘い恋心に、心がふわりと浮き足立つ一曲です。

取材・文/佐藤優奈

7月13日、上白石萌音の5thオリジナルアルバム「name」がリリースとなります。
上白石さんはこの１年間を「舞台やドラマなど“名前”とゆかりのあるお仕事に恵まれたひと時でした」と振り返ります。このような背景から、アルバムは「name」と名付けられました。

「name」の収録曲は、オリジナル楽曲が中心です。各方面で活躍するアーティストやミュージシャンらが手がけた多彩な楽曲が顔をそろえます。

ついに完成した「name」について、レコーディングを終えた上白石さんにたずねてみました。

―レコーディングお疲れさまでした。収録を終えての感想を教えてください。

無事に録り終えることができて、ホッとしています。慌ただしい日々ではありましたが、しっかりと準備をし、レコーディングに臨むことができました。

今回も1曲1曲、本当に素晴らしい曲をご提供いただけて、とても感謝しています。レコーディングでは、それぞれの楽曲の世界に没入することができて楽しかったですね。

―アルバムのタイトルを「name」にした理由は？

この1年間は、“名前”とゆかりのあるお仕事に恵まれたひと時でした。朝の連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」や舞台「千と千尋の神隠し」など、いずれも“名前”が物語の鍵を握ります。このような背景から、アルバムを「name」と名づけました。

「name」を締めくくるのは、ハンバート ハンバート佐藤良成さんに提供いただいた「君の名前」です。アルバムの着地点という意味合いも込めて、ラストトラックにさせていただきました。

―「name」には、すでにリリースされている楽曲(I’ll be there /スピン/懐かしい未来)も含まれていますね。

ちょうど昨日、アルバムの曲順を決めるために3曲を聞き返していました。改めて「素敵な楽曲だな」と感じましたね。レコーディング当時は歌うことに集中していて気づけなかった、楽曲の素晴らしさに気づく良い機会になりました。

―「name」は上白石さんの通算５枚目のオリジナルアルバムですが、これまでと何か変化はありましたか？

今回のアルバムは、「この方にこういう雰囲気の楽曲を作っていただきたい」とスタッフさんと相談をしながら作り上げました。アルバムの制作を通して、少しずつ、自分のやりたいことや好きなものが明確になってきた証拠なのかもしれないなと感じました。

ありがたいことに、錚々たる方々との縁を感じられる１枚が完成しました。
私の“好き”が詰まったアルバムを、皆さん楽しく聴いてくださったらうれしいです。

取材・文/佐藤優奈