10th Anniversary
Celebration

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Studio Session Live Report

#2

Mrs. GREEN APPLE
Studio Session Live #2
Report

待望のMrs. GREEN APPLE<Studio Session Live #2>(以下、#2)が、11月25日、YouTubeで公開された。これは、アーカイブ動画の公開から5カ月間で約600万回再生(5曲分の合計)されているスタジオライブ企画の第二弾。ただし、前回(以下、#1)の開催が数カ月前に事前告知されていたのに対し、今回はファンに対するサプライズプレゼント的な公開となり、しかも<#1>から、音楽的にも内容的にもよりアップデートが図られたセッションとなっていた。

<#2>のセッションが行われたのは、ヨーロッパの宮殿を思わせる格調高い雰囲気が漂うラウンジ。その中央に大森元貴(Vo/G)が腰かけるソファが置かれ、いつものように、彼の左側に若井滉斗(E.Gt, A.Gt, G.Gt)、右側に藤澤涼架(Key, Fl, Glock)が楽器を構える。バンドスタイルのライブでは、Mrs. GREEN APPLE+ドラム&ベースという5人編成が定番となっているが、管弦楽器を含めた総勢10名のこの編成もまた、勝手ながら“MGA Orchestra”とも言うべき、Mrs. GREEN APPLEのひとつのライブスタイルとなりつつあると言えそうだ。

この編成によって新アレンジで演奏されたのは、「ケセラセラ」「ANTENNA」「橙」「Circle」「Feeling」の5曲。<#1>収録時は、何とも言えない緊張感が会場全体を包み込んでいたが、今回は特に演奏面において、メンバーからはリラックスした表情や余裕が随所に感じられた点が印象的。事実、収録は基本的に1テイクでOKとなり(映像的なリクエストから一部の追加収録があっただけ)、本番はわずか50分ほどで終了したことには、正直言って驚いた。今夏に行われたアリーナツアー<NOAH no HAKOBUNE>やドームライブ<Atlantis>、さらにいくつものフェスをこなした後での収録だったこともあってか、彼らのパフォーマンスからも、威風堂々とした自信や十分な説得力が感じられた。

他にも、<#1>からの興味深いアップデートがいくつも感じられた。まず、一聴(一見)してわかるのは、メンバーがよりライブモードで演奏しているという点だ。特に大森は、歌に魂を込めつつも、身振り手振りを交えて身体全体で歌を表現していた。これはきっと、<#1>のレポートで「“あなた”というひとりに対しての新アレンジ」といった主旨の一文を綴ったが、<#1>を経た大森の目には、カメラの向こう側にいる“あなた”の存在がより具体的に見えていたのだろう。

同様に、若井と藤澤のプレイも、例えば「ケセラセラ」でのアコースティックギターのアルペジオやエレクトリックピアノ&フルートの繊細な響き、「橙」の優しくも力強いピアノ、「Feeling」でのジャジーなギターソロなど、2人はダイナミックレンジの幅をさらに広げたプレイアビリティの高い演奏を聴かせてくれた。大森も歌も含め、細部に渡って神経を研ぎ澄ましたまるでクラシック音楽的な演奏は、コンサートホールならばまだしも、大音量を前提に作られたライブハウスやアリーナのような大規模会場では、表現を正確に観客へ届けるのはなかなか難しい。そのため、映像作品という形で特別なライブをファンに届けるという<Studio Session Live>企画は、現時点での最適解と言えるアプローチと言えるだろう。

もうひとつ注目したいのは、今回リアレンジした5曲中4曲が、リリースからまだ4カ月ほどしか経っていない最新アルバム『ANTENNA』収録曲であるという点だ。先行デジタル・シングルの「ケセラセラ」でさえ、リリースは約半年前。いわばリリースしたばかりの楽曲に新たなアレンジを施すというのは、異例とも言えるアプローチだ。

通常、既発曲を別アレンジでセルフカバーするのは、原曲リリース後しばらく時を経てからが一般的。その目的は多くの場合、原曲の制作段階でベストと思える状態に練り上げたアレンジを、数年後のある時点でのベストなサウンドにマッチングさせ、装いを新たに世の中に送り出すためである。しかしMrs. GREEN APPLEの場合、リアレンジを行う目的自体が他アーティストとは違うように思える。

つまり、原曲とはアレンジを変え、曲の見え方に変化を加えようとするだけではなく、そもそもこのメロディと歌詞には、こんな側面もあり、こういった側面も併せ持っているんだという多面性を提示しようとしているように感じられる。だからこそ、ドームライブ<Atlantis>のオープニングで観客の感情を高ぶらせた「ANTENNA」と、大森が語りかけるように歌う新アレンジの「ANTENNA」は、ひとつの同じ歌でありながらも、その歌が形成する多面体の異なる平面、すなわちアルバム『ANTENNA』での表現という平面と、<Studio Session Live>での表現という平面のそれぞれを、私たちに見せてくれているのだ。しかも『ANTENNA』は、<#1>の経験を踏まえて3人がレコーディングし、完成させたアルバムだ。その楽曲たちを、再び<#2>でリアレンジするという流れもまた、実に興味深い。

そして唯一、フェーズ1時代の楽曲「Circle」(アルバム『Attitude』収録)が取り上げられている点も見逃せない。楽曲自体が持つストーリー性や、大森がこの歌に込めた想いはもちろんのこと、他の曲が、CGのように情報量が多いバンドアレンジから成る原曲を、彫刻品や陶芸品のようにシンプルながらも歌の本質を追求する“引き算”でリアレンジされているのに対し、元々が歌とピアノだけで成立していた「Circle」には、楽曲にほのかな色合いを滲ませ、背景を彩るかのような最小限の“足し算”によってリアレンジが施されており、楽曲に奥行き感を広げ、歌を立体的に聴かせることに成功している。

このようにMrs. GREEN APPLEの歌にいくつもの新鮮な視点を与えてくれる<Studio Session Live>は、<#1>と<#2>を経た今、彼らの新たなライフワークとも言うべき、重要な一本の道筋となりつつあるように感じられる。この先、今までのような映像作品として発表されるのか、はたまた違ったアプローチでの表現となるのかは大森、若井、藤澤の3人だけが知るところだが、<Studio Session Live>は間違いなく、Mrs. GREEN APPLEの歌が持つ多面性をファンに届けてくれるひとつのアートであり、私たちにMrs. GREEN APPLEの歌を何度でも再発見させてくれる、永遠に続く航海だとも言えるだろう。

Text : 布施雄一郎