Mrs. GREEN APPLEが初のドームライブ『Mrs. GREEN APPLE DOME LIVE 2023 “Atlantis” 』を8月12日、13日の2日間にわたって埼玉・ベルーナドームで開催した。今年結成10周年を迎えた彼らの節目を飾る記念すべき2日間。その2日目・8月13日の公演の模様を以下にレポートする。そのライブ中に大森元貴(Vo/Gt)は「今日は祝典ということで遊びに来てくれたんでしょう?」と会場に集まった3万5千人のファンに語りかけたが、その場で展開されたのはまさに「祝典」という言葉にふさわしいライブだった。ただし、それはバンドが10年続いてきたことをただ祝うだけのものではない。ミセスが音楽を通じて、あるいは自らの活動そのものを通して伝え続けてきた想いやメッセージがしっかりと人々に届き、つながり、困難や変化を受け入れながら連なってきた、その結果として今この場所にこれだけの時間と空間が生まれたということ――すなわちMrs. GREEN APPLEとオーディエンスがとにもかくにも生き続け、ここに辿り着いたことを全力で喜び祝う、まさに「みんな」のための祝祭だったのだ。
場内に入ると、まず巨大な神殿を模したステージセットに度肝を抜かれた。そしてそこからアリーナを横切って伸びる長い花道。当然ながらスケールの大きさがこれまでの彼らのライブとは桁違い。それに伴って演出もとんでもないものになっていたのだが、それについては後ほど書くとして、まずはこの「神殿」である。ライブのタイトルになっている「アトランティス」とは古代ギリシャの哲学者・プラトンが提示した伝説の帝国の名前だ。海神ポセイドンの末裔が司り大いに繁栄したが、人間の欲望により堕落し、やがて海の中に沈んでいったという。プラトンが生きていた紀元前4世紀の時点ですでに失われて9000年が経っていたというから、遠い遠い昔の話だ。そんなアトランティスの神殿が、2023年にここベルーナドームに復活する。この「Atlantis」に先んじて開催されたアリーナツアー「NOAH no HAKOBUNE」のラストの映像では神殿が沈んでいるという光景が描かれたが、そうして辿り着いたのがこのアトランティスだったというわけだ。実際、ライブ冒頭にスクリーンに映し出されたオープニングムービーでは、海底に沈み荒廃した神殿が美しさを取り戻す様子が描写され、そこから物語は始まっていった。
そんなオープニングに続いて、ステージの下からせり上がって登場したメンバー。藤澤涼架 (Key)、若井滉斗 (Gt)に続いて大森が姿を表すと割れんばかりの大歓声が彼らを包み込んだ。観客のもつライトスティックが光り、ベルーナドームの客席は一面の星空のよう。そんな美しい光景のなか、ニューアルバム『ANTENNA』のオープニングトラック「ANTENNA」からライブは幕を開けた。「Speaking」、そして挨拶を挟んで「サママ・フェスティバル!」。序盤からライブで盛り上がること必至の人気曲を連発し、一気に会場の温度を上げていくミセス。3人とも演奏しながら花道を駆け回り、早くもとても楽しそうだ。「サママ〜」ではステージ前方から水が発射される驚きの演出もあり夏気分を盛り上げる。このウォーターキャノンや噴水など、水を使ったスペシャルな演出もこのスケールのライブならでは。さすが水の都アトランティスである。そんな序盤の勢いのまま披露された新作からの「アンラブレス」、そして大森の雄叫びと若井・藤澤のカウントから突入した「アボイドノート」。セットや演出だけでなく、バンドの鳴らすサウンドも完全にスタジアム仕様にスケールアップされている。チームの一員としてメンバーとも揺るぎない絆を築いているサポートメンバーの神田リョウ(Dr)と森夏彦(Ba)が生み出すどっしりとしたリズムが大きな会場によく映え、その上で鳴らされるギターやキーボードがそこに華やかさを加えていく。若井のギタープレイはテクニカルなフレーズも鮮やかに轟かせ、藤澤はコーラスを交えながら心から楽しそうに鍵盤を叩いている。そして大森の歌。彼がとんでもないパワーをもったヴォーカリストであることは言うまでもないが、そのポテンシャルがこの大舞台でのびのびと躍動している。
とはいえ、今のミセスは「バンド」の枠に決してとらわれない。ビッグバンド風のサウンドが鳴り渡るなか、多くのキャスト(全員アトランティス人の扮装をしている)とスペクタクルを繰り広げた「Love me, Love you」や、終盤で披露されたダンスといえばの「ダンスホール」など、要所要所でキャストを絡めたエンターテインメントを展開。ときに大森をはじめメンバーもそこに加わりステップを踏み、ライブにさらなる魅力を加えていた。もちろん、ライブに参加しているのはバンドとキャストだけではない。ライトスティックを掲げ、手拍子や歌声でバンドを後押しするオーディエンスもその一員だ。それまでの華やかな展開から一転、シンプルな照明のなかで大森が歌い上げた「Soranji」が息を呑むような静寂を連れてきたのち、ライブはさらに加速していくことになるのだが、夏らしい開放感とともに披露された「青と夏」や「ロマンチシズム」で巻き起こった3万5千人のシンガロング。2曲を終えて大森は「素晴らしい景色です!」と興奮気味に語っていたが、きっとその光景はバンドにとっても感動的なものだったに違いない。
中盤では花道の真ん中にあるセンターステージでのパフォーマンスも披露。この花道、そのセンターから十字に伸びた各先端にリフトが仕込まれているという仕様なのだが、ここでは3人が乗った真ん中の部分がせり上がり、その周囲を噴水が取り囲むというスペクタクルが展開した。噴水がもたらすのは視覚的な効果だけではなく、そこで「フロリジナル」を演奏し終えて音がやむと、場内には水音が響いてきた。この日はあいにくの天気でとても蒸し暑かったのだが、その音を聴いているとなんだか涼しげな気分になってくる。同様に噴水が使われた「umbrella」ではその水音が雨のしたたる音として楽曲の世界を支えるものにもなっていた。演出がショーアップのためだけではなくそうして音楽の表現や観客の心理にも作用するものになっているというのも、常に音楽を中心におきながらさまざまな活動を続けてきたミセスというバンドのありかたを象徴しているようで感慨深かった。
センターステージで「BFF」を披露したのち、大森の「これ、緊張するね」という言葉とともに演奏されたのは「僕のこと」。藤澤の弾くピアノから3人だけの音で進行する、この「Atlantis」だけのスペシャルなヴァージョンだ。最小限の音だからこそ、大森の美しいハイトーンもいつも以上に突き刺さってくる。そこに神田と森の音が重なり、フルスケールのバンドサウンドへと広がっていくドラマティックな展開は、孤独から生まれた楽曲が大きな希望へと育まれていく、ミセスの音楽のありかたそのものを体現しているかのようだった。この「僕のこと」はライブの13曲目、ほぼ真ん中で演奏されたのだが、テーマの面でも「Atlantis」を象徴する楽曲のひとつだったように思う。この曲が伝えようとしているのは喪失や痛みに彩られたこの世界で、それでも生きてきた、そして生きていくひとりひとりに対する絶対的な肯定だ。そしてそれは、この「Atlantis」でミセスが全力で伝えようとしていたことのはずだ。
前述のように、このライブは「NOAH no HAKOBUNE」から繋がっている。その「NOAH no HAKOBUNE」は「航海」をモチーフにしていた。襲いかかる嵐を潜り抜け、荒波を乗り越え、時折訪れる晴れ間を喜び合いながら航海を続けていく船は、ミセスというバンド、そしてそれを受け取るひとりひとりの人生そのものだろう。そして「NOAH no HAKOBUNE」の最後で、船はついに沈んでしまう。だがそれでも終わりではない。海底に沈んだアトランティスがここベルーナドームで鮮やかな復活を遂げたように、何度でも再生し喜びを感じることができる。「僕のこと」はまさにそういうことを訴えていたし、それに続いて一気にアッパーに振り切って繰り出されたのが「私は最強」だったというのもそういうことだ。溢れんばかりの手拍子と〈「私は最強」〉というオーディエンスの叫びは、ミセスが10年をかけて辿ってきた道のりと重なって熱く力強いメッセージとなり響き渡ったのだ。
さて、ライブはそこから一気にクライマックスに駆け上っていく。さらなる深海へと観客を誘う映像に続いてレーザーや水の演出が全開になるなか「Loneliness」や「絶世生物」で心の最深部にある孤独を鮮やかに暴き出すと、再び地上へ帰還。前述の「ダンスホール」をポップに弾けさせた。なぜここで彼らは「深海」に潜ったのだろう。それはミセスの放つ「生きること」が、常に孤独や痛みと一緒にあるからだ。それがあればこそ喜びも愛も強く感じることができる。「ダンスホール」でキャストとともに笑顔で音楽を鳴らす3人の姿は、他ならぬミセス自身もそうやって歩んできたことを証明していた。大森も藤澤も、そして若井はギターをもったまま、華麗なダンスを披露。そのパフォーマンスは「フェーズ2」の開始とともにこれまでとは違う自由度とクリエイティビティを獲得したミセスのありのままの姿だ。
そしてライブはいよいよ本編最後の曲「Magic」へ。スクリーンには花火のCGが映し出され、カラフルなライトがステージと客席を美しく照らし出すなか、力強いダンスサウンドがベルーナドームを揺らす。大森も藤澤も何度も拳を突き上げ、観客と視線を交わす。〈いっそ楽しもう Magicで日々を〉――このすばらしいライブの集大成として、この日最高の高揚感と一体感を生み出したこの曲ほどふさわしいものはなかったと思う。その後アンコールで再び登場した3人。「夏の思い出になった?」という大森の問いかけに客席から大歓声が飛ぶ。藤澤は「今日遊びに来てくれたみんなの顔を見てすごく嬉しくなった。これからもっとみんなに喜んでもらえるものを届けたいと思いました」とオーディエンスに手を振り、若井は「結成10周年という記念すべき年をこうしてたくさんの方と一緒の空間で祝えることが嬉しいです」と感慨しきりだ。
重圧から解放されたように瑞々しく「我逢人」を響かせたあと、フルートを吹きながら花道を走る藤澤をはじめ3人ともが笑顔を弾けさせた「庶幾の唄」を終えると、大森がこの10年の歴史を振り返って語る。「バンドの活動に限らず、変化が伴っていくのが人生。いちばん僕らが慎重に扱わないといけないのは今の僕らで、それは過去を愛するために必要な決断でもありました。これからもそうだと思います。本当にすばらしい日をありがとうございました」。そんな言葉とともに高らかに鳴らされた最後の曲「ケセラセラ」。紆余曲折も変化もすべてを肯定するような美しい響きとともに、2日間の「祝典」は幕を下ろしたのだった。
しかしミセスは、この祝典の余韻に浸るどころか早くも“次”を用意していた。まず、アンコールのMCで次なる全国ツアーとして『Mrs. GREEN APPLE 2023-2024 FC TOUR “The White Lounge”』を2023年12月20日(水)J:COMホール八王子から2024年3月3日(日)東京ガーデンシアターまで、全12都市20公演のファンクラブツアーを開催することを発表した。これは、2019年に開催された『Mrs. GREEN APPLE 2019 HALL TOUR “The ROOM TOUR”』と同じシリーズに新たにラインナップされるコンセプトツアーとなる。さらに、終演後のスクリーンには「To Be Continued To “BABEL no TOH”」とのメッセージが突如映し出され、客席が大きくどよめいた。それは“EDEN no SONO”から“NOAH no HAKOBUNE”、そして“Atlantis”へと繋がれてきた壮大な物語の続編となるのだが、公演のエンディングに続編ライブの制作決定を発表するのは前代未聞と言えるだろう。さまざまな系統のライブシリーズで、“ワクワク”をエンドレスで届け続けていくミセス。その破格の快進撃はまだまだ続いていく。
Text : 小川智宏
Mrs. GREEN APPLE DOME LIVE 2023 “Atlantis”
2023年8月12日(土) 埼玉・ベルーナドーム(西武ドーム)
OPEN16:00 / START18:30
2023年8月13日(日) 埼玉・ベルーナドーム(西武ドーム)
OPEN16:00 / START18:30
SET LIST
- 01. ANTENNA
- 02. Speaking
- 03. サママ・フェスティバル!
- 04. アンラブレス
- 05. アボイドノート
- 06. Love me, Love you
- 07. umbrella
- 08. Soranji
- 09. 青と夏
- 10. ロマンチシズム
- 11. フロリジナル
- 12. BFF
- 13. 僕のこと(Atlantis ver.)
- 14. 私は最強
- 15. Loneliness
- 16. 絶世生物
- 17. ダンスホール
- 18. Magic
- ENCORE
- 19. 我逢人
- 20. 庶幾の唄
- 21. ケセラセラ