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MGA MAGICAL 10 YEARS ANNIVERSARY LIVE 〜FJORD〜
2025.7.26 (Sat) ,27 (Sun)
@神奈川・山下ふ頭特設会場
OFFICIAL LIVE REPORT

まだまだ真夏の空は明るいものの、ステージ向かって右手側、横浜港を挟んだ方向にそびえる、みなとみらいの高層ビル群に夕陽が隠れ始めた頃、Mrs. GREEN APPLEのデビュー10周年を祝う特別なライブ<MGA MAGICAL 10 YEARS ANNIVERSARY LIVE ~ FJORD (フィヨルド)~>がスタートした。

まだ誰もいないステージには滝が流れ、そしてステージ後方の大きなLEDビジョンには、緑の島々と、その入江を航海する一隻の舟が映し出された。それは4年前の7月8日、Mrs. GREEN APPLEのフェーズ2ティザー映像を想起させるものであると同時に、フェーズ1時のロゴを思わせる形をした島など複雑な地形が作り出す峡湾は、まさにフィヨルドそのもの。そうした景色の中に、アニバーサリーベストアルバム『10』に収録されているシングル曲ジャケットのキーアイテムが散りばめられ、観客のワクワク感が膨らんでいったその時、ステージに大森元貴(Vo/G)、若井滉斗(G)、藤澤涼架(Key)の3人が姿を現した。大森は手を高々と掲げ、若井は拳を握り、藤澤はVサイン。彼らがフェーズ2を始動し、初めて行ったライブ<ARENA SHOW “Utopia”>のオープニングを思い起こさせる演出だ。

大歓声が沸き上がる中、記念すべき特別なライブの幕開けを飾ったのは、まさに舟を進め、宝箱を探そうと歌う「コロンブス」だった。オープニングから北欧のオーロラを思わせるようなカラフルなスモークが立ち上ると、続く「ビターバカンス」ではウォーターキャノンが打ち上がるなど、まるでテーマパークかのような夏の一大エンタテインメント・ショーが繰り広げられる。もちろん演奏面でも、これまでのライブやレコーディングでお馴染みのサポート・メンバー、神田リョウ(Dr)、二家本亮介(B)、兼松衆(Key/G)とのアンサンブルも鉄壁だ。続いて、小鳥のさえずりから始まったのは、なんと「フロリジナル」。もちろん、ファンの間で高い人気を誇る作品ではあるものの、「3曲目でこの曲をやるか!」と、おそらく多くの観客は、いい意味で予想を裏切られたことだろう。こうしたセットリストの妙もまた、Mrs. GREEN APPLEのライブの大きな魅力だ。

すると会場にはモールス信号が響き渡り、若井のロックなギターと、藤澤のエレクトロなシンセ・フレーズが鳴り響くと、Mrs. GREEN APPLE流のスタジアム・ロックを確立させた「ANTENNA」が広大な会場に轟いた。そう、神奈川・山下ふ頭に作られた特設会場は、とにかく広い。それでも、ステージから遠く離れた座席の観客にも、一度切りの<FJORD>を楽しんでもらおうと、彼らはスペシャルな仕掛けを用意していた。ステージ下手側から船を模したフロートが登場すると、3人はこれに乗り込み、まさしくフィヨルド(入り江)を進んでいくかのように、「クスシキ」を演奏しながら、彼らはセンターステージへと“航海”していったのだった。

センターステージに到着した3人は、ここでメジャーデビュー直前にリリースされたミニ・アルバム『Progressive』に収録されている「アンゼンパイ」を披露。センターステージの周囲360度を大観衆に囲まれながら、大森と若井、藤澤は、10周年を記念するこの日に、自分たちの初期曲を久々に演奏できることを全身で楽しむかのように、すべての方向に笑顔を向け、手を振った。

そして3人は再びフロートへ乗り込むと、次に向かったのは、会場最後方に用意されていたエンドステージ。ここで彼らは、『Progressive』の収録曲「WaLL FloWeR」と、メジャーデビュー・ミニ・アルバム『Variety』収録の「道徳と皿」という、10年前にリリースした2曲を歌った。ライブハウスのような小さなステージ。エンドステージ目前のブロックに設置された座席はわずか約700席。この会場に5万人を集めるまでに成長しながらも、まるでデビュー当時の気持ちを忘れまいとするかのように、大森、若井、藤澤は、ピュアに音楽と向き合って、この2曲を演奏した。

気が付けばすっかり陽が落ち、空の色合いが濃紺さを増していく中、3人はエンドステージから三たびフロートへ乗り込み、観客に手を振りながら「Magic」を演奏し、デビュー10年でたどり着いた<FJORD>のメインステージへ航路を進めていった。続く「Feeling」のアウトロで、観客と「ラララ」を合唱しながら3人がメインステージに“再上陸”すると、ここでMCタイム。大森は「暑くないですか?」と観客を気遣いながら、若井、藤澤と短めに言葉を交わした後、次に歌う曲の紹介を始めた。

大森:僕らは10年前の7月に『Variety』というミニ・アルバムでデビューしたわけですけども、当時、僕と若井が18歳、(藤澤)涼ちゃんが22歳でした。デビューできるような理想の“最強のバンド”を作りたくて、覚悟を持って組んだバンドだなと、当時を振り返って、そういう強い気持ちを思い出します。
勝手に、いろいろ犠牲にしてきたような感覚が、きっと各々あると思うんだよね。「青春なんか知らない。僕はこのバンドにかける!」みたいな感じで。そうやって、曲を作ったり、みんなでレコーディングしたりして、(心に)空いた穴というか、それは勝手に空けたんだけど、自分がそれを何かで埋めようと活動してきました。(そしてデビューをして)10年経ったわけですけども、たかが10年、されど10年。僕たちにとって、この10年はすごく特別なものだったなと、振り返って思います。
「いろんなことを犠牲に」って言ったけど、(メンバーとは)家族と同じようにずっと一緒にいてさ、どうやったらライブがもっと良くなるんだろう、どうやったら多くの人に届くんだろうと、そういうことを本当に悶々と、すごいストレスを勝手に溜めて、ああでもないこうでもないとみんなで言い合って活動してたバンドが、このように多くの人の目の前で演奏できるようになるなんて、もう本当に、夢にも……見てました(笑)。謙虚な意味でね。ありがとうございます。
でも、何か空いたものを埋めようとしてたんだけど、結局、埋まらないなってことに、どこかで大森少年は気付くわけですよ。気付きながらも、何かで埋めようと、まだ今も、僕は今日に至るまで曲を作ってるんだろうなって思います。
ピュアで愚直な10年間、この濃密な10年間って、きっともう、後にも先にもないんだろうなって思えるぐらい、本当に大切な10年でした。それを今日、アニバーサリーライブだから振り返ることができて、実際に(音楽を)鳴らしていて、「いろんなことあったな」と思っているわけです。本当にみんなと会えて、すごく嬉しいです。ありがとうございます。
奇跡だな。奇跡なんだよ、本当に。奇跡だ。特別な日だな、と思います。
特別な日だから、柄にもなく、今日のために曲を作ってきました。『ANTENNA』というアルバムに「ANTENNA」という曲があるように、『Attitude』というアルバムに「Attitude」という曲があるように、この曲にも、特別な名前をつけました。なんで歌を歌ってるのかとか、なんで音楽をやってるのかとか、なんでこのメンバーで(音楽を)鳴らしてんだとか。 そんなことをぐるぐる考えながら向き合った、僕としてもちょっと特殊な、異色な楽曲だなって思います。
僕の、僕らの3人の、Mrs. GREEN APPLEの楽曲です。聴いてくれますか。

こうして披露されたのは、<FJORD>で初披露となる新曲「Variety」。記念すべき彼らのデビュー・ミニ・アルバムのタイトルを曲名に冠した最新曲は、表現者・大森元貴の、そしてMrs. GREEN APPLEの10年間の軌跡に想いを寄せた歌であり、まさに“今”の彼らだからこそ歌える、いや、今のMrs. GREEN APPLEしか歌えない楽曲だ。それでいて、10年前に自ら掲げた「Mrs. GREEN APPLEの多様性(=Variety)」を、今一度、再確認しようとする揺るぎない3人の意志をも感じさせる作品だった。

思わぬ新曲のプレゼントに会場から暖かい拍手が起こると、LEDディスプレイには夏祭りのイラストが映り出され、観客は次に来る曲をあれこれと想像を巡らせる。すると場内に響き渡ったのは「ナーナナ!」というコーラス。そう、「No.7」だ。立て続けに、若井の「声出す準備できてんのか!」という煽りから始まったのは、彼らの歴史の中でもひとつのターニングポイントとなった名曲「青と夏」。この曲以降、スマートフォンでの撮影がOKとなり、会場はグッズのMGA Official Light Stickできらめき、より一層、真夏の夜を輝かしいものとした。

そのきらめきは、藤澤のピアノで穏やかな橙色の世界へと移ろっていき、ライブでは6年ぶりとなる「どこかで日は昇る」が歌われた。その穏やかな空気を切り裂いたのは、Mrs. GREEN APPLEのフェーズ2を語るうえで欠かせない、大森のダークサイドを圧倒的なエネルギーで爆発させる「Loneliness」だ。ステージ上だけでなく、客席エリアを囲むように吹き上がる炎や、高々と打ち上げられるウォーターキャノン、そして尋常ではない数のレーザーが炸裂する中で、大森の美しくも危ういパフォーマンスが強烈すぎるインパクトを残した。

その後、荒ぶった感情を落ち着けるかのように「breakfast」が軽快かつ爽快に演奏され、このままライブはポップなノリを強めていくのかと思いきや、藤澤の静かなピアノの調べで厳かに届けられたのは、「天国」だった。大森は、自らの魂と肉体のすべてを音楽に捧げるかのように、激情的に、荘厳に、この曲を熱唱する。理屈抜きに観客の魂をわし掴みにする大森のボーカルに耳を傾けていると、それは「歌を聴く」という行為よりも、「歌に導かれる」といった感覚へと陥っていき、ステージから遠く離れた最後方エリアの観客ですら、呼吸をするのを忘れてしまうほど固唾を飲み、大森の歌が生み出す宇宙に没入していった。この場にいた誰もが抱いたであろう、畏怖の念。圧倒的で壮絶な緊迫感は曲の最後、音源には入っていなかったピアノの1和音によって、この<FJORD>の地で夜空へと昇天していき、そして大森は、自分自身を強く抱きしめた。

照明が消え、すべてが暗闇に包まれると、藤澤のピアノのリズムが観客の緊張感を少しずつ和らげてくれ、我に返った観客は、自然と身体をリズムに委ねるようになる。そこで若井が奏でたのは「ニュー・マイ・ノーマル」のイントロだ。約3年前、フェーズ2の開幕を華々しく宣言しつつ、それまでと、それからの感謝を歌ったこの曲が今、より大きな感謝の歌となって、5万人(配信視聴者を加えれば30万人以上)のファンに届けられた。

この曲を終えると、MCを挟んで、ライブはいよいよラストスパートへ。「盛り上がる準備できてますか!」という大森のかけ声をきっかけに、Mrs. GREEN APPLE流ソウル&ファンクなグルーヴにより磨きをかけた「ダンスホール」で観客の身体を横に揺らすと、<FJORD>用に加えられた新しいイントロから「ケセラセラ」へ。ライブ終盤に人気曲を畳みかけると、LEDビジョンにはオーロラのような七色の光が映し出され、シンフォニックな響きでエンディングを迎えた。これで本編が締め括られた……と思わせられたところで、若井のシグネチャー・フレーズと言っても過言ではないタッピング・プレイが炸裂する。そう、Mrs. GREEN APPLEの2024-25年を代表する一曲、「ライラック」が、本編の最後に奏でられた。

「FJORD!」。大森が叫ぶと、スモークが勢いよく吹き出し、レーザーが飛び交う。時刻はちょうど20時30分。みなとみらいの夜景に浮かぶ大観覧車「コスモクロック21」の電飾が、Mrs. GREEN APPLEのロゴを彩って時刻を告げると、ラストは5万人の大合唱に加え、これまた<FJORD>のために作られたアウトロが花を添えて、ライブ本編が終了した。

湧き上がるアンコールの手拍子を遮るように鼓動のような音が響くと、LEDビジョンには、ほぼ一カ月前の6月18日に開催された新たなエンタテインメントメディア<CEREMONY>や、昨年Kアリーナで行われた定期公演<Harmony>、さらには横浜スタジアムでの<ゼンジン未到とヴェルトラウム~銘銘編~>など、現在からフェーズ1、そしてデビュー当時へと時代をさかのぼる形で次々とライブ映像が映し出される。その最後の映像で、10年前の大森が「我逢人!」と曲紹介を行うと、“今”のMrs. GREEN APPLEが、10年前の自分たちからバトンを受け取るかのように、2025年の「我逢人」を歌い始めた。それまで、主にCGグラフィックスが映し出していたLEDビジョンには、互いに目を合わせ、笑顔を見せながら演奏する3人の表情が大きく映し出され、観客から一段と大きな歓声が上がった。

藤澤:<FJORD>最高だったね。むちゃくちゃ楽しかったよ。来てくれてるみんなも、配信や映画館で観てくれているみんなも、一緒にこの10周年、そして<FJORD>をこうやって迎えられて、今日一日、楽しく過ごせたことが、本当に本当に、めちゃくちゃ幸せです。今日は本当にありがとうございました。

若井:いやぁ、めちゃめちゃ楽しかった!本当に<FJORD>最高でした。今日という日を、本当に僕たち待ち望んでいたので……でも、終わっちゃうの寂しいっていうかね……なんだか……(以降、ギターソロで気持ちを表現した後)楽しかったです!

このように藤澤と若井が、今の気持ちを素直に、かつユーモラスに観客へ伝えると、大森はまず、今回の<FJORD>が映画化され、11月28日、現在制作中のドキュメンタリー映画と2作同日公開が決まったことを報告し、そして次のように続けた。

大森:ランキングとかチャートとか、本当にありがたいけどすごいことが起きていて、何だか僕らもよくわからないんですけど、そこに惑わされることなく、僕らは僕らで、一生懸命、いいと思うことをやり続ける、僕らがやりたいことをやる、楽しいと思ったことに邁進するということを大事に、これからも活動できたらと思っています。
また遊んでくれますか? また会ってくれますか? 必ずまた会いましょう!
この曲で、メジャーデビューしました。本当に今日はありがとうございました。いつでもスタートに戻ろう!

大森は、会場を埋め尽くした5万人、そして配信画面や映画館のスクリーン越しに<FJORD>を観ている全国のJAM'Sにこう呼びかけると、メジャーデビュー・ミニ・アルバム『Variety』の1曲目を飾った、まさしく“始まり曲”である「StaRt」がスタートした。巨大なステージセットの上空には、Mrs. GREEN APPLE 10周年記念ロゴや「THANK YOU ALL JAM'S」といったメッセージが1200機のドローンアートで描き出され、そして1600発の花火とともに、Mrs. GREEN APPLEのデビュー10周年を祝うスペシャルなライブはフィナーレを迎えた。

若井:本当に幸せで、最高な時間でした。デビュー10周年を、この場にいる方たち、そして配信を見てくれてる方たちと一緒に、この瞬間を迎えることができて、本当に嬉しいし、幸せです。これからもMrs. GREEN APPLEをよろしくお願いします。

藤澤:今日は、本当に、本当に最高な1日でした。みんなと一緒にライブを楽しみながら、自分が音楽を始めたことだったり、メンバーに出会ってミセスに入ったことだったり、いろんな瞬間のことをキラキラと想い出しながら、そして今日、来てくれたみんな、観てくれたみんなと、最高の時間を作れたことが本当に幸せでした。一生忘れません。ありがとうございました。

大森:みなさん、今日は楽しかったですか?(大歓声に応えて)僕たちもです。本当に素敵な想い出が増えました。10周年、いろいろあって、濃密で、本当にどれも大切な想い出なんだけれども、まだこれからも、もっともっと想い出が増えていくんだなって、今日、感じました。本当にありがとうございました。
多くの人が楽曲を聴いてくれているっていう事実はありますけれども、多かろうが少なかろうが、僕らは本当に僕らのために曲を書いて、それが巡り巡って、誰かの元に届いているということが、たまらなく嬉しいです。それは別に“数”ではなくて。今日、5万人がいて、配信やライブビューイングもあって、非常にたくさんの方が観て、来てくれてるわけですけど、この“5万人”が嬉しいとかじゃないんですよ。1人1人の生活の中で、ミセスを聴く瞬間があったり、友達に誘われて(ライブに)行ってみようかな、(曲を)聴いてみようかなとか、本当そういう一つ一つ、ワンシーンがたまらなく嬉しいです。
見つけてくれて、気付いてくれて、ありがとうございました。
小さいときに、大きいステージで演奏するステージマンとしてキラキラすることを妄想したり、空想する、すごいステージを思い浮かべて夢を膨らませる子どもだったんですけれど、今日の景色は、想像していたその日よりも、とっても素敵なものでした。
また会おうぜ!
また遊びましょう。本当に、いつもありがとう。これからもよろしく。

特別な年に、特別なライブを終えたMrs. GREEN APPLEは、いつものように3人で声を揃えて、そしてステージから姿を消した。

「以上、Mrs. GREEN APPLEでした!」

Text : 布施雄⼀郎

SET LIST

  1. 1.コロンブス
  2. 2.ビターバカンス
  3. 3.フロリジナル
  4. 4.ANTENNA
  5. 5.クスシキ
  6. 6.アンゼンパイ
  7. 7.WaLL FloWeR
  8. 8.道徳と皿
  9. 9.Magic
  10. 10.Feeling
  11. 11.Variety
  12. 12.No.7
  13. 13.青と夏
  14. 14.どこかで日は昇る
  15. 15.Loneliness
  16. 16.breakfast
  17. 17.天国
  18. 18.ニュー・マイ・ノーマル
  19. 19.ダンスホール
  20. 20.ケセラセラ
  21. 21.ライラック
  22. EN1. 我逢人 (がほうじん)
  23. EN2.StaRt

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