ノエビアスタジアム神戸と横浜スタジアム、各2日間、4公演で計15万人を動員したMrs. GREEN APPLE初のスタジアムツアー「Mrs. GREEN APPLE “ゼンジン未到とヴェルトラウム~銘銘編~”」。昨年の「Atlantis」でドームでのワンマンライブは経験済みのミセスだが、このツアーで見せたのは、アリーナツアー「NOAH no HAKOBUNE」とセットでコンセプチュアルに魅せた「Atlantis」とは違う、よりタフでストロングに進化した、揺るぎない「バンド」としての姿だった。ここにお届けするのは横浜スタジアム1日目、7月20日公演の模様。肉体的なサウンドと会場の一体感が不安定な天気も吹き飛ばしてしまう、最高のライブだった。
今回のライブのタイトルに掲げられている「ヴェルトラウム(WELTRAUM)」とはドイツ語で「宇宙」のことだが、まさにそのコンセプトを表現するオープニングムービーがスクリーンに映し出され、まるで宇宙船から降り立つようにして大森元貴(Vo/Gt)、若井滉斗 (Gt)、藤澤涼架 (Key)の3人がステージ上に現れると、割れんばかりの拍手と歓声が彼らを包み込んだ。「ゼンジン、元気にしてるかい? 最高の日にする準備はできてるかい? 遊ぶぞ!」。そんな大森の言葉から始まった1曲目は「CHEERS」。リズムに合わせて手を打ち鳴らし、〈乾杯〉の声を上げるオーディエンス。これまでも数々のミセスのライブで会場をひとつにしてきたこの楽曲で最初の挨拶を済ませると、一転、ヘヴィなベースとギターのリフが鳴り響く。ハイパーな映像とともにスタジアムを踊らせるのは「VIP」だ。大森の「踊れ!」という号令のもと、ジャンプの波がアリーナにもスタンドにも広がっていく。自分たちの世界観に観客を引っ張り込むのとは正反対の、ステージの上にいるメンバーから手を伸ばしてオーディエンスの心を掴みにいくようなパフォーマンス。広大なスタジアムで、ミセスはまるでライブハウスのようなライブを繰り広げていく。
「元気してますか?」。まるで久しぶりに会った友達に話しかけるように声を上げる大森。「めちゃくちゃ会いたかったよ、みんな! 今日は何年経っても『あのとき素晴らしかったな』って思えるような夏の日を作ろうと思う」という頼もしい宣言に客席のヴォルテージはさらに上がっていく。そして若井が力強くリフを鳴らして「ANTENNA」へ。ステージ上では花火が噴き上がり、スクリーンに映し出された太陽系の惑星を巡るような映像も相まって、とんでもないスケールで楽曲の世界が広がっていく。そんな演出に負けじと鳴らされるサウンドも強靭だ。今回はベースに森夏彦、ドラムに神田リョウといういつもの編成にキーボード/ギターで兼松衆が加わった6人でのパフォーマンス。なかでも若井のギターがアンサンブルを引っ張るようにしてパワフルに鳴っているのが印象的だ。それは続く「ロマンチシズム」でも同じ。オーディエンスも加わって叫ぶ〈人間さ!〉の声がエネルギッシュに響き渡った。
さらにここでドラムが重いビートを打ち鳴らし、そこにベースとギターが加わって始まっていく「ツキマシテハ」。FCツアー「Mrs. GREEN APPLE 2023-2024 FC TOUR “The White Lounge”」で久々にセットリストに復活したこの曲が、そのときとはまた異なるインパクトをもって届けられる。大森もギターを弾きながら歌い、ギラギラしたライトがステージを照らす。そこに前のめりなサウンドで空気を震わせた「CONFLICT」へ。リズム隊が生み出す縦ノリのリズムがアンサンブルを前へ前へと駆動させる。完全ロックモードのミセスだ。この「CONFLICT」は過去の「ゼンジン」シリーズでも繰り返し演奏されてきたもの。それがこの巨大な会場で鳴り響くこと自体が感慨深い。
ここでインターバル。「楽しんでますか?」と言いつつ「あっつ……」とオーディエンスの気持ちを代弁する大森である。梅雨明けしたばかりの関東地方はこの日猛烈な暑さに襲われていた。日もだいぶ傾いてきたとはいえ、場内には夏の熱気が充満している。雨男だという大森は若干雨を心配するそぶりを見せるが、それよりもこうしてスタジアムツアーができている喜びのほうが大きいらしく、メンバーとのトークも軽快だ。そしてメンバー紹介を経て「夏ですね」とつぶやく大森。その言葉に「おおー!」と歓声が上がる。そしていつの間にか定着した縦眉毛顔で叫んだ曲名は「青と夏」。「いけるか!?」という声に呼応するようにオーディエンスの身につけたライトスティックやライトバンドが一斉に青い光を放つ。若井と藤澤もステージの端まで走って煽り、サビでは大合唱が生み出された。夏の空の下、まさにこの場所で鳴らされるために生まれたような青春ソングが、むせかえるような暑さの中爽やかなムードを連れてくる。歌い終えると大森はピースサインを掲げてみせた。そしてその「青と夏」とつながるように披露された「ライラック」。若井のテクニカルなギタープレイに手拍子と歓声が巻き起こる。デビュー前から続いてきたこの「ゼンジン」シリーズという舞台で、ミセスの過去と今が結びつき、終わらない情熱を燃え上がらせる。人が未到の地を目指し続けるように自己を更新し、心をはやらせ、未来へと進んでいく――ひとつの金字塔ともいえるこのスタジアムツアーでミセスが見せ続けるのは、そんなバンドとしての飽くなき前進の姿だ。
「青と夏」「ライラック」で燃え上がった心をなだめるかのように、スクリーンに夕景が映し出され、ヒグラシの鳴き声が響くなか大森がしっとりと歌い出したのは「橙」。そこに重ねるように、夏祭りの画をバックに「点描の唄」が届けられる。藤澤の弾くピアノのイントロが、切なく沁み入ってくるようだ。そして青いレーザーライトとダンスビートがクールに響き渡る「Blizzard」で盛り返すと(ステージ中央から伸びた花道の床にもLEDが仕込まれていて、そこに映し出される映像がこの曲のムードをさらに高めていた)、大森は「まだまだいけるか!」と叫んだ。そして演奏されるのは「インフェルノ」。氷点下の吹雪から灼熱の炎へ。振り幅の大きな楽曲に横浜の空気も驚いたのか、突如涼しい風がスタンドに吹いてきた。心の奥深くに潜り込んでいくような内省的な楽曲から、エネルギーを外向きに爆発させるようなアッパーチューンまで、ミセスの歴史を彩ってきた多彩な楽曲が折り重なってひとつのドラマを描き出していく。このあたりでちょっと空の雲行きが怪しくなってきた(遠くでは雷が鳴り始めたようだ)が、ステージで鳴らされるパワフルなサウンドはそれを忘れさせるほどの迫力。このタイミングで鳴り響くのが、聴くだけで無敵感が湧き上がってくる「私は最強」というのも絶好だ。大森のすさまじいハイトーン、オーディエンスの突き上げる拳。ステージを見渡して藤澤は笑顔を浮かべている。
ステージ上で炎が上がるなか、大森が激しく体を動かしながら歌った「Loneliness」を終えると、再びMC。大森は相変わらず(しかも変な声で)「暑すぎるだろ〜」とおどけている。若井も「暗くなってもうちょっと涼しい風が吹くかと思ったら、あの、暑い」と、要約するとふたりとも「暑い」しか言っていない。とはいえもちろんメンバーの気持ちはそれだけではない。「こうしてスタジアムで開催することができて本当に嬉しいです」と若井。藤澤も「今日を非常に楽しみにしてきた藤澤と、めちゃくちゃドキドキソワソワしている藤澤と、ふたりいまして。でもみんなの顔見たら最高に楽しいです!」と喜びをあらわにする。そしてミセスはここで「新曲を出しまして」と最新シングル「アポロドロス」を披露する。グリーンのライトで会場中が照らされるなか、力強いギターサウンドとコーラスが響き渡る文字通りのアンセム。不安や孤独を背負いながら限界を突破していく姿を描く、心躍る応援歌だ。アウトロでの藤澤のピアノが美しい余韻を描き出すと、客席からは大きな拍手が贈られた。今夏のオリンピックに向けて作られた楽曲だが、こうしてライブで聴くとそのメッセージはオーディエンスひとりひとり、そしてミセス自身にも向けられているように感じられたし、何よりこのスケールで鳴り響くことをイメージして作られたんだなということがはっきりと伝わってきた。
これまた今回のツアーで久々に演奏されているレアな「L.P」(若井のギターがここでも楽曲をグイグイとドライブさせている)を経て「ナハトムジーク」。ステージの中央に置かれたソファに座った大森が、一言一言語りかけるように丁寧に歌を紡ぐ。星空や星雲の映像をバックに広がる美しいメロディがライブをクライマックスに向けて盛り上げていく。そしてここで披露されたのが「コロンブス」だった。ファンキーなビートとバンドを鼓舞するように鳴り響く手拍子に乗って、花道でパフォーマンスする大森。そんな彼のもとに若井と藤澤も楽器を手にやってくる。オーディエンスと一体となって鳴らされる「コロンブス」は、間違いなくこのライブのひとつのハイライトだった。どこまでも突き抜けていくようなこの日のパフォーマンスはバンドとファンが強くつながって壁を乗り越えていく、つまりミセスがこれまでもたどってきた道のりを今一度教えてくれるような熱演だったと思う。「もしかして雨降ってきてる? 気のせいだよね!」と大森。実際この時間になって横浜スタジアムには小雨がぱらついてきたのだが、オーディエンスにもメンバーにもそんなことは関係ない。「Magic」で圧倒的で幸福な一体感を生み出すと、大森が叫ぶ。「最高の日をどうもありがとう! 愛してるよ!」。そして鳴らされた「Dear」。スタジアムに集まったすべての人を優しく強く抱きしめるようなサウンドが眩く輝き、ライブ本編は幕を下ろしたのだった。
しかしライブはこれだけでは終わらない。アンコールではCMソングとして流れている新曲「familie」を披露。しかも若井と藤澤はトロッコに乗って場内を周り始めた。スタジアムならではの演出にひときわ盛り上がる客席。センターステージでひとりシャボン玉に包まれながら歌う大森の声もソウルフルであたたかい。若井と藤澤のトロッコからもシャボン玉が放出され、ファンタジックなムードを盛り上げていった。さらに「lovin’」を経て「知ってたら歌って!」と「ダンスホール」へ。初っ端から大森は歌をオーディエンスに預け、横浜スタジアムに巨大なシンガロングが巻き起こる。そして、ファンへのギフトのように鳴らされたファーストアルバム『TWELVE』からの「愛情と矛先」では、曲の途中でトロッコ組のふたりもステージに戻ってきてソロパートを披露。メンバーそれぞれに見せ場を作りながら鳴らされるロックチューン。今にして思うととてもシンプルだが、だからこそスケールアップしたバンドの姿を如実に伝えてきた。
その後、2度目のアンコールで再びステージに戻ってきた3人。大森は「10年経って、変わらずにみなさんの前に立てて感謝の言葉を伝える場があるというのは当たり前のことではなくて。すごく嬉しいです、感謝しています」とメッセージ。そして「3万人以上いるけど、ひとりひとりに向かって、ひとりひとりとの出会いを歌いたいと思います」と「我逢人」を歌い始めた。そして最後は「ケセラセラ」。ステージから無数の花火が上がり、最高のフィナーレが描き出されていく。心配された雨もいつの間にかすっかりやみ、空には丸い月。もちろん天気の変化は偶然でしかないけれども、そんなできすぎのストーリーもライブを通して表現され続けたミセスというバンドとオーディエンスの絆のなせる業なのではないか、と思わずにはいられなかった。
翌日のツアーファイナルで発表されたとおり、9月13日からはFCツアー「The White Lounge」を映画化した『Mrs. GREEN APPLE // The White Lounge in CINEMA』が劇場公開されるミセス。その先にはそれこそ前人未到、横浜・Kアリーナでの8日間にわたる定期公演「Mrs. GREEN APPLE on “Harmony”」が控えている。次々と新鮮な驚きを与え続けてくれるMrs. GREEN APPLEのこれからの展開に期待したい。
Text : 小川智宏
SET LIST
- 01. CHEERS
- 02. VIP
- 03. ANTENNA
- 04. ロマンチシズム
- 05. ツキマシテハ
- 06. CONFLICT
- 07. 青と夏
- 08. ライラック
- 09. 橙
- 10. 点描の唄
- 11. Blizzard
- 12. インフェルノ
- 13. 私は最強
- 14. Loneliness
- 15. アポロドロス
- 16. L.P
- 17. ナハトムジーク
- 18. コロンブス
- 19. Magic
- 20. Dear
- ENCORE
En1. familie - En2. lovin’
- En3. ダンスホール
- En4. 愛情と矛先
- W ENCORE
- W En1. 我逢人
- W En2. ケセラセラ