オフ・コース初期の最高傑作ハーモニーの魅力が際立つこのアルバムから、後々のオフコースの方向性が生まれた
長いキャリアのアーティストやバンドには、たいてい、エポックメイキングな曲やアルバムがある。そこから何かが変わったという転機となった作品。オフコースにとって決定的なのがこのアルバムだ。1975年12月20日発売。「この道をゆけば」から一年半を経ている。その間に彼らは「オフコースの小さな部屋」というシリーズコンサートを行っている。時には漫画家のみつはしちかこを招いたり、毎回ゲストが加わったトークコーナーがあったりという8回シリーズ。自分たちがどう見られているか、聞き手は何を求めているのか。音楽のフォーカスが合ったということだろう。このアルバムはそのステージで演奏された曲が中心になっている。
転機にはパートナーがいる。彼らにとってはディレクターの武藤敏史がそれにあたる。早稲田で音楽活動をしていて小田和正とは顔見知りだったという同世代。彼は「小田、鈴木両氏と死にものぐるいの音楽的格闘をした」と述懐している。それまでのオフコースに足りなかったものは何かという徹底した洗い出し。「無条件に理屈抜きで楽しめる曲やシンプルな曲が少ないのではないか」。その中で生まれたのがアルバムと同時発売となった「眠れぬ夜」だ。オフコース最初のシングルヒット。当初は小田和正が書いてきたのはバラードだったそうだ。それがかすかに16ビートを感じさせるポップな曲調とコーラスに変わった。小田和正自身、「初めはあまり好きじゃなかった」と話している。後に西城秀樹がカバーしてヒットすることになったのには、彼のスタッフが入院した際、片っ端から聴いていったフォーク、ニューミュージックの曲の中で一番良い曲だと思ったのが「眠れぬ夜」だったと言うエピソードがある。
「ヤスはリズム人間」。70年代の小田和正のインタビューには、そんな発言も残っている。メロディー志向の小田和正とリズム志向の鈴木康博。二人の持ち味がグループとして溶け合ったのもこのアルバムだろう。「幻想」は詞・小田和正で曲・鈴木康博。全曲の編曲のクレジットもオフコースとなっている。12曲中、10曲が愛をテーマにしているのもそんな統一感の要因だろう。
アルバム「ワインの匂い」は、サディスティック・ミカ・バンドが持っていた当時のレコーディング時間の記録を更新した。二人は新たに加わった武藤に向かって「お金も何も要らないからスタジオ時間だけ欲しい」と言ったのだそうだ。一曲目「雨の降る日に」のオープニングの雨の音から、ストリングスの余韻が残る12曲目の「老人のつぶやき」のエンディングまで、全員で練り上げたオフコースサウンドが熟成されている。余談をあげれば「老人のつぶやき」はNHKの「みんなのうた」に書いてボツになったのだそうだ。何かに合わせて書く、そういうグループではなかったということだろうか。
田家秀樹
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解説
長いキャリアのアーティストやバンドには、たいてい、エポックメイキングな曲やアルバムがある。そこから何かが変わったという転機となった作品。オフコースにとって決定的なのがこのアルバムだ。1975年12月20日発売。「この道をゆけば」から一年半を経ている。その間に彼らは「オフコースの小さな部屋」というシリーズコンサートを行っている。時には漫画家のみつはしちかこを招いたり、毎回ゲストが加わったトークコーナーがあったりという8回シリーズ。自分たちがどう見られているか、聞き手は何を求めているのか。音楽のフォーカスが合ったということだろう。このアルバムはそのステージで演奏された曲が中心になっている。
転機にはパートナーがいる。彼らにとってはディレクターの武藤敏史がそれにあたる。早稲田で音楽活動をしていて小田和正とは顔見知りだったという同世代。彼は「小田、鈴木両氏と死にものぐるいの音楽的格闘をした」と述懐している。それまでのオフコースに足りなかったものは何かという徹底した洗い出し。「無条件に理屈抜きで楽しめる曲やシンプルな曲が少ないのではないか」。その中で生まれたのがアルバムと同時発売となった「眠れぬ夜」だ。オフコース最初のシングルヒット。当初は小田和正が書いてきたのはバラードだったそうだ。それがかすかに16ビートを感じさせるポップな曲調とコーラスに変わった。小田和正自身、「初めはあまり好きじゃなかった」と話している。後に西城秀樹がカバーしてヒットすることになったのには、彼のスタッフが入院した際、片っ端から聴いていったフォーク、ニューミュージックの曲の中で一番良い曲だと思ったのが「眠れぬ夜」だったと言うエピソードがある。
「ヤスはリズム人間」。70年代の小田和正のインタビューには、そんな発言も残っている。メロディー志向の小田和正とリズム志向の鈴木康博。二人の持ち味がグループとして溶け合ったのもこのアルバムだろう。「幻想」は詞・小田和正で曲・鈴木康博。全曲の編曲のクレジットもオフコースとなっている。12曲中、10曲が愛をテーマにしているのもそんな統一感の要因だろう。
アルバム「ワインの匂い」は、サディスティック・ミカ・バンドが持っていた当時のレコーディング時間の記録を更新した。二人は新たに加わった武藤に向かって「お金も何も要らないからスタジオ時間だけ欲しい」と言ったのだそうだ。一曲目「雨の降る日に」のオープニングの雨の音から、ストリングスの余韻が残る12曲目の「老人のつぶやき」のエンディングまで、全員で練り上げたオフコースサウンドが熟成されている。余談をあげれば「老人のつぶやき」はNHKの「みんなのうた」に書いてボツになったのだそうだ。何かに合わせて書く、そういうグループではなかったということだろうか。
田家秀樹