グループ名も「オフ・コース」から「オフコース」へと変え、アコースティックな香りを残しながらもバンドとしてのオフコースの可能性を開いたアルバム
「試行錯誤」という言葉にはどこかにネガティブなニュアンスがあることは否定出来ないかも知れない。とは言うものの、それまでにやっていなかったりそこでしか見られない実験的なことやその後に確立されていることの萌芽があったりするわけで、そういう意味では最も貴重な時期ということにもなるだろう。このアルバムがまさしくそういう作品にあたる。1977年9月5日発売である。この年の4月から、清水仁・大間ジロー・松尾一彦の三人を加えた5人のオフコースのツアーがスタートしている。つまり、ツアーの合間を縫って行われたレコーディングだったことになる。それまでギターも弾いていた小田和正がキーボードに専念するようになったツアーでもある。
「それまでに16ビートは叩いたことがなかった」。シングル「ひとりで生きて行ければ」で初めてレコーディングに参加した大間ジローは、当時、そう話している。元々鼓笛隊から音楽を始め、日本のGSやビートルズを経てツェッペリンやディープ・パープルなどのブリティッシュ・ロックに憧れた彼がやってきたのは8ビートのロックでもあった。清水仁も「泣きながら弾いていたこともある」と話している。5人になって何が出来るか。このアルバムは、バンドサウンドという新しい扉を開ける直前のオフコースが聴ける興味深いアルバムと言って良い。5人で最初のレコーディングが、先行シングル「秋の気配」だった。
「オフコースの音楽的な幅や奥行きを確認したもの」。ディレクターの武藤敏史は、このアルバムをそう位置づけている。77年。時代はフォーク系のニューミュージックからシティーミュージックと呼ばれる新しいポップスに変わりつつあった。シュガーベイブを解散した山下達郎がソロとして本格的な活動を開始し音楽好きの間で評判になり、ボズ・スキャッグスやクルセイダーズ、マイケル・フランクス、ジャズやボサノバを取り入れた都会的なAORが注目され始めた時代。このアルバムは、小田和正と鈴木康博が、そうした音楽に向き合ったアルバムでもあるだろう。それだけではない。一枚のアルバムにどうストーリー性を持たせるか、オープニングを飾る一曲目の「INVITATION」は、そんな始まりにふさわしい。曲の舞台も“舞踏会”だ。港・クルーザー・海岸道路、そして葉山。ボサノバが軽やかな「潮の香り」や土曜日の午後のティールームの二人を俯瞰した「変わってゆく女」。鈴木康博の情景描写やAORのソングライターとしてのセンスが際だっているのがこのアルバムだろう。一曲の中でテンポや構成が変わって行く「思い出を盗んで」や「あなたがいれば」。そして、ストーリーの最終章でもある「HERO」。途中でバンドサウンドになってゆく構成は、このアルバム以前と以後のオフコース自身を歌っているようにも聞こえる。「JUNKTION」。合流点。乗換駅。男女のそんな出会いと別れを歌ったアルバムで出逢ったのは新しいオフコースの可能性だったのではないだろうか。
田家秀樹
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解説
「試行錯誤」という言葉にはどこかにネガティブなニュアンスがあることは否定出来ないかも知れない。とは言うものの、それまでにやっていなかったりそこでしか見られない実験的なことやその後に確立されていることの萌芽があったりするわけで、そういう意味では最も貴重な時期ということにもなるだろう。このアルバムがまさしくそういう作品にあたる。1977年9月5日発売である。この年の4月から、清水仁・大間ジロー・松尾一彦の三人を加えた5人のオフコースのツアーがスタートしている。つまり、ツアーの合間を縫って行われたレコーディングだったことになる。それまでギターも弾いていた小田和正がキーボードに専念するようになったツアーでもある。
「それまでに16ビートは叩いたことがなかった」。シングル「ひとりで生きて行ければ」で初めてレコーディングに参加した大間ジローは、当時、そう話している。元々鼓笛隊から音楽を始め、日本のGSやビートルズを経てツェッペリンやディープ・パープルなどのブリティッシュ・ロックに憧れた彼がやってきたのは8ビートのロックでもあった。清水仁も「泣きながら弾いていたこともある」と話している。5人になって何が出来るか。このアルバムは、バンドサウンドという新しい扉を開ける直前のオフコースが聴ける興味深いアルバムと言って良い。5人で最初のレコーディングが、先行シングル「秋の気配」だった。
「オフコースの音楽的な幅や奥行きを確認したもの」。ディレクターの武藤敏史は、このアルバムをそう位置づけている。77年。時代はフォーク系のニューミュージックからシティーミュージックと呼ばれる新しいポップスに変わりつつあった。シュガーベイブを解散した山下達郎がソロとして本格的な活動を開始し音楽好きの間で評判になり、ボズ・スキャッグスやクルセイダーズ、マイケル・フランクス、ジャズやボサノバを取り入れた都会的なAORが注目され始めた時代。このアルバムは、小田和正と鈴木康博が、そうした音楽に向き合ったアルバムでもあるだろう。それだけではない。一枚のアルバムにどうストーリー性を持たせるか、オープニングを飾る一曲目の「INVITATION」は、そんな始まりにふさわしい。曲の舞台も“舞踏会”だ。港・クルーザー・海岸道路、そして葉山。ボサノバが軽やかな「潮の香り」や土曜日の午後のティールームの二人を俯瞰した「変わってゆく女」。鈴木康博の情景描写やAORのソングライターとしてのセンスが際だっているのがこのアルバムだろう。一曲の中でテンポや構成が変わって行く「思い出を盗んで」や「あなたがいれば」。そして、ストーリーの最終章でもある「HERO」。途中でバンドサウンドになってゆく構成は、このアルバム以前と以後のオフコース自身を歌っているようにも聞こえる。「JUNKTION」。合流点。乗換駅。男女のそんな出会いと別れを歌ったアルバムで出逢ったのは新しいオフコースの可能性だったのではないだろうか。
田家秀樹