ソフト&メローなAORサウンド、美しく旋律を包むハーモニー・・・サウンドの幅をより広げ、オフコースの第2期の扉を開けた作品
こうして改めて1枚ずつ聴いていくと、当時は感じなかったことや気づかなかったことが見えてくる。このアルバムも、今更ながら、オフコースというグループがあの時代にいかにワン・アンド・オンリーだったかを如実に物語っている。
1978年10月5日発売。レコーディングはこの年の春のツアーの合間を縫って行われた。オフコースはこの年だけで春と秋、二回にわたってツアーを行い合計は年間90本に達している。春のツアーの中には、75年から続いていた日本青年館での「オフコースの小さな部屋」の最終回も含んでいる。もはや“小さな部屋”では収まらないところに彼らは来ていた。
何と言っても7月に先行シングルとして出た一曲目の「あなたのすべて」がこのアルバムを物語っている。ドラムとベースの這うような絡み。シンセサイザーとギターのカッティング。金属的なハイトーンのボーカル。多彩なコーラスとフレーズによって表情を変えるデリケートな演奏。編成はロックバンドでも、ソフト&メローという音色の豊かさや心地よさに貫かれている。78年当時、こうした音楽を目指していたバンドがどのくらいいただろうか。CHAR、原田真二、ツイスト。それがお茶の間の“ロック御三家”だった。
AORというのは“消化力の音楽”という言い方が出来るかもしれない。ロックが“一芸型”、つまり、一つのことだけで押し切ることの出来る音楽だとしたら、その対極だ。様々な音楽を取り込み、消化しつつバランスの取れた音楽として作り上げて行く。このアルバムの中の彼らは、まさにそれだろう。ロックバンド出身の3人は、新しい音楽的なウィングとなって羽根を広げている。ジャズはもちろんのこと、ファンクやプログレ、レゲエやロカビリー。そんな洋楽ポップスの香りを取り込みつつ、華麗できらびやかなコーラスでほどよく包み込んで行く。鈴木康博の「美しい思い出に」や「失恋のすすめ」の管楽器の効果も新しい一面を見せている。「季節は流れて」は、この時点でのバンドサウンドの到達点だろう。まさに“季節”は流れた。小田和正の母親も好きだったという名曲「夏の終り」は、「僕の贈りもの」への78年のアンサーソングと言われている。失われたものや無垢なもの。“あの頃”というのは、デビュー当時の自分たちのことでもあるかもしれない。“あきらめないでうたうことだけは”というフレーズに思い浮かべることは多い。
季節感の持つ普遍性。小田和正がそんな曲作りを意識するようになったのもこの頃ではないだろうか。エンディングの「心さみしい人よ」にはボーナストラックとして「いつもいつも」が収録されている。この年のツアーのみならずその後、何度となくステージで歌われるこの歌は、小田和正の音楽観を反映していると思う。
田家秀樹
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解説
こうして改めて1枚ずつ聴いていくと、当時は感じなかったことや気づかなかったことが見えてくる。このアルバムも、今更ながら、オフコースというグループがあの時代にいかにワン・アンド・オンリーだったかを如実に物語っている。
1978年10月5日発売。レコーディングはこの年の春のツアーの合間を縫って行われた。オフコースはこの年だけで春と秋、二回にわたってツアーを行い合計は年間90本に達している。春のツアーの中には、75年から続いていた日本青年館での「オフコースの小さな部屋」の最終回も含んでいる。もはや“小さな部屋”では収まらないところに彼らは来ていた。
何と言っても7月に先行シングルとして出た一曲目の「あなたのすべて」がこのアルバムを物語っている。ドラムとベースの這うような絡み。シンセサイザーとギターのカッティング。金属的なハイトーンのボーカル。多彩なコーラスとフレーズによって表情を変えるデリケートな演奏。編成はロックバンドでも、ソフト&メローという音色の豊かさや心地よさに貫かれている。78年当時、こうした音楽を目指していたバンドがどのくらいいただろうか。CHAR、原田真二、ツイスト。それがお茶の間の“ロック御三家”だった。
AORというのは“消化力の音楽”という言い方が出来るかもしれない。ロックが“一芸型”、つまり、一つのことだけで押し切ることの出来る音楽だとしたら、その対極だ。様々な音楽を取り込み、消化しつつバランスの取れた音楽として作り上げて行く。このアルバムの中の彼らは、まさにそれだろう。ロックバンド出身の3人は、新しい音楽的なウィングとなって羽根を広げている。ジャズはもちろんのこと、ファンクやプログレ、レゲエやロカビリー。そんな洋楽ポップスの香りを取り込みつつ、華麗できらびやかなコーラスでほどよく包み込んで行く。鈴木康博の「美しい思い出に」や「失恋のすすめ」の管楽器の効果も新しい一面を見せている。「季節は流れて」は、この時点でのバンドサウンドの到達点だろう。まさに“季節”は流れた。小田和正の母親も好きだったという名曲「夏の終り」は、「僕の贈りもの」への78年のアンサーソングと言われている。失われたものや無垢なもの。“あの頃”というのは、デビュー当時の自分たちのことでもあるかもしれない。“あきらめないでうたうことだけは”というフレーズに思い浮かべることは多い。
季節感の持つ普遍性。小田和正がそんな曲作りを意識するようになったのもこの頃ではないだろうか。エンディングの「心さみしい人よ」にはボーナストラックとして「いつもいつも」が収録されている。この年のツアーのみならずその後、何度となくステージで歌われるこの歌は、小田和正の音楽観を反映していると思う。
田家秀樹