アルバム“over”をリリースし全国ツアーを展開したオフコース。1982年6月30日、そのツアーのファイナルであり、日本のコンサート史上初の日本武道館10日 間公演の最終日のステージを収めた作品。
NEXTのテーマ~僕らがいた |
心はなれて(インストゥルメンタル) |
愛の中へ |
メインストリートをつっ走れ |
君を待つ渚 |
思いのままに |
哀しいくらい |
夜はふたりで |
さよなら |
僕のいいたいこと |
心はなれて |
言葉にできない |
一億の夜を越えて |
のがすなチャンスを |
Yes-No |
愛を止めないで |
I LOVE YOU |
Yes-No |
YES-YES-YES |
NEXTのテーマ |
解説
レコードという言葉には”記録する”という意味がある。その時どきのアーテイストの心情や状況、あるいは時代の空気。どんなレコード、CDにも、多かれ少なかれ、そうしたことが記録されている。それは聞き手にも同様のことが言える。自分で作ったものではないにせよ、好きだったレコードには、その時の自分の有り様が重なり合っている。
そういう意味ではライブ・レコーデイングというのは記録性の極地だろう。その時、その場所でしか行われていないコンサートの記録。その会場にいた全ての人の時間だけでなく、聞き手の人生の一瞬を切り取っている。
武道館が完成したのは1964年、東京オリンピックの年だ。コンサートに使われたのは1966年のビートルズの来日公演だった。それ以来、幾多のバンドやアーテイストがそこに”時間”という思い出を刻み込んできた。そして”伝説”が残されてきた。
そうした”武道館伝説”の中でもドラマ性に於いて一二を争うのがこのライブである。
史上初の10日間公演。申し込みは約53万通。テレビには全く出ないまま70年代を過ごし、ライブだけでビッグバンドになった、芸能マスコミにとっては神秘性を持ったスーパースターであり、更に、そこには”解散か”というこの上ない話題性も加わったのだから。何かが起こらないわけがない、という空気が世の中に蔓延していた。
オープニングは、空撮である。その当時、ライブ映像で空撮が使われたのはこれが初めてだったのではないだろうか。武道館公演自体が貴重だった時代でもある。武道館を空から撮ろうなどという発想自体が成立しようがなかった。東京の夜の街明かりに浮かぶ武道館のあの特徴のある外見はオープニングに相応しい。「NEXTのテーマ」も相まって、これから何かが始まるという予感に満ちている。
白一色のステージ。デリケートな色彩感が美しい照明。全面スクリーンを使った映像感。どれをとっても当時のオフコースのステージがロックやフォークというジャンルを超えた完成度を持っていたことが分かるだろう。更に、これが最後の5人のステージになるというメンバーの感情の高ぶりが、この日を特別な夜にしている。「言葉にできない」で涙ぐんでしまって歌えない小田和正の姿が全てを象徴している。
全ての演奏を終えた武道館は客席が歌う「YES YES YES」の大合唱で包まれた。メンバーはそれを楽屋で聞いていた。ステージに主役がいない中で生まれた”伝説の名場面”というのはこのコンサートだけだろう。「感動の記録」。使い古されたようなそんな言葉は、この映像のためにこそある。
田家秀樹