1982年1月3日NHK教育テレビで放送された「若い広場 オフコースの世界」のDVD化作品。1981年の日本武道館公演のステージから始まり、アルバム「over」のレコーディング過程を追った貴重なドキュメンタリー。
日本武道館公演 1981.2.10 “愛をとめないで” |
レコーディングリハーサル初日 |
インタビュー(1) 小田和正×山際淳司 |
レコーディングリハーサル |
野球大会 |
レコーディングリハーサル20日目 “君におくる歌” “僕のいいたいこと” |
インタビュー(2)オフコース×田川律 |
日本武道館公演 1981.2.10 “Yes-No” “のがすなチャンスを” |
ボーカルレコーディング “僕のいいたいこと” “哀しいくらい” |
レコーディング終了まであと6日間 “言葉にできない” |
写真撮影 |
コーラスレコーディング “愛の中へ” |
インタビュー(3) 小田和正×山際淳司 |
レコーディング終了 |
エンディング |
解説
ドキュメンタリーというのは片手間で出来るものではない。作り手がどこまで腰を据えて対象に接近して行くか。どんなにスタジオの中に莫大なお金をかけてセットを用意しても、質の高いドキュメンタリーになるとは限らないし、むしろ逆効果だろう。じっくりと時間をかけて心を解きほぐし、信頼関係が生まれていってこそ取材相手の本質や素顔に触れることが出来る。
1982年1月3日にNHK教育テレビの「若い広場」で放送された「オフコースの世界」は、テレビ番組としては異例のドキュメンタリーだった。何しろ、取材すらままならなかった当時のオフコースのレコーデイングスタジオに約2ヶ月半も密着してカメラを回しているのだから。81年12月1日に出たアルバム「OVER」のレコーデイング初日から最終日までだ。
ドキュメンタリーと名付けられた映像作品は多い。でも、その大半はツアーのオフショットだったり、ヴィデオのメイキングシーンだったりすることが多く。一枚のアルバムの制作過程をここまで実直に追った例は少ない。それは、レコーデイングという作業はスタジオの中だけの日常的なものであり、ツアーのように背景が変わったりすることもなく、どちらかと言えば”絵になりにくい”ということもある。そして、更に大きいのは、それが一種の企業秘密のような性格も持っているからだ。民話の「鶴の恩返し」のように、機を織っている姿は見せたくないというアーテイスト側の心理もある。
この作品は、そうした”壁”を超えて行く。カメラはまるでメンバーの一員のように至近距離でレコーデイング中の4人を記録してゆく。曲が出来る前にまず音を出すという作り方は、まさに”バンド”ならではだろうし、小田和正が、他のメンバーに意見を聞いたりするシーンは、”オフコースはバンドだった”ということを如実に証明してくれた。小田和正は後に、声が出なくなった場面を出来れば放送して欲しくなかった、と言ったそうだ。つまり、それだけバンドの内側に入り込んでいたということでもある。あの瞬間のスタジオの空気こそがレコーデイングの真実だろう。
彼らにとって初めてのテレビ番組。どんなロングインタビューやライブ映像よりも当時のオフコースを物語っている60分。これこそドキュメンタリーの役割であり醍醐味ではないだろうか。オフコースに止まらず、こうした作品がその後も殆ど作られていないことを思うと、このドキュメンタリーの貴重さが改めて伝わるのではないだろうか。
田家秀樹