夜に沈む、場末のスナック。
さきいかとツナピコと芳香剤の匂い漂う店内に流れてくる、スナッキーな音楽。
私は、トレンチコートの襟を立てながら、つい、そのメロディーを口ずさんでしまう。
かつて、男が、カッコいいままでいられた歌詞。
その昔、女がセクシーであることに誇りを持てた頃のメロディー。
男と女の吐息。そして、因果。
大人の清濁をマドラーでかきまぜたサウンドに、ジンロのウーロン割りがしみじみと染みてくる。
カウンターの中には、モータウンの歌姫シャーリーンの名曲「愛はかげろうのように」で登場する女みたく、 一筋縄ではいかない人生を送り続けてきたであろうと思われる、尋常ではない厚化粧のママ。
最近、涙もろくなったと、十七本の歯で笑った。

 “ありがとう。ジェニー。
 お前はいい女だった。
 お前と暮らすのが幸せだろうな。
 だけど、ジェニー。
 あばよ、ジェニー。
 それが、男には出来ないのだよ。”

阿久悠の名フレーズを私は心の中でツイートした。

そして私は思ったのです。
現代の歌謡曲を作ろうと。
人間の弱さも酷さも美しさも受け入れ、人々の内側にへばりつく、スパイシーでスナッキーな音楽を作ろうと。

あなたの切ない夜の傍らに咲く、一輪の切り花になりたいと。

RECORDZとまり木について
リリー・フランキー
2011年6月9日