椎名林檎のニューマキシシングル『ギブス』『罪と罰』がリリースされた日、『勝訴ストリップ』と書かれた一本のカセットテープが届いた。

●昨日(1/26)が『ギブス』と『罪と罰』の発売日だったんですが好調みたいですね。 といいますが、『本能』がいまだに売れているんですけど。
椎名林檎:ね〜、すごい不思議。『本能』は本当に予定外でした。 やっぱり看護婦のせいじゃないかな?ちょっと戦略が間違ってたかもしれない(笑)。

●いや、いくらなんでもそれだけじゃないですよ(笑)。
林檎:でもね、CD屋さんの人が「サラリーマンが『性的ヒーリング』とかを買っていく」って言ってた。なんか間違えてるんじゃないかな?

●ま、ヴィジュアル面での2次使用は仕方がないですよね(笑)。
林檎:2次使用?確かに「おかずにして下さいね」とか言ってるけど、冗談じゃん(笑)。っていうか、ラジオとかで言ってることとかって冗談がほとんどだから。っていうか、もう嘘だから。曲で本当のこと言ってますから、私。

●(笑)。なにがすごいって、『無罪モラトリアム』もいまだに売れているのがすごいですよ。
林檎:「世の中にはこんなに素敵な人達がいたのね」っていう感じですよね。『無罪モラトリアム』は、発売日の時点でのセールスで十分すぎたんです。それだけで、「私は次のアルバムを作れるんだ」っていう心の準備が出来てた。だから、ミリオンセールなんて私にはもったいないですよ、本当に。

●でですね、その素敵な林檎ファン待望の2ndアルバム『勝訴ストリップ』が出来上がったわけなんですが、このアルバムの構想みたいなものはいつ頃から見えていたんですか?
林檎:『無罪モラトリアム』を出した時点で、もうタイトルは決まったようなもんだったんだけど(笑)。去年の夏から録りはじめたんですけどね、当初に決まってたものを一回全部ヤメにしちゃって。

●ヤメにしたというのは?
林檎:最初は昔の曲ばっかだったんですよ。『無罪モラトリアム』の延長というか、まんま『無罪モラトリアム』みたいな感じで。でも、どんどん自分の中で新曲のストックが溜まってきて、急に「それを入れたい!」って言い出して(笑)。それまで忙しかったから、自分の頭の中に残ってて録ってない曲とかがいっぱいあって、何か気持ち悪かったんですよ。で、そういうのを出そうと思った瞬間に曲順は決まっていて、レコーデイングは夏と一緒に終わった感じですね。

●今回は曲順がこっていて、『罪と罰』を中心に曲タイトルが対称になっているという。
林檎:そうなんです。ブランキーの浅井さんがギターを弾いて下さるって決まった段階で、『罪と罰』が真ん中で13曲のアルバムっていうのはすぐに決まりました。「浅井さんが弾いてくれれば間違いなく名テイク」だと確信して。ウチの事務所の社長もブランキーのファンだから、7月13日の浅井さんが来たレコーディングの日に「もう、仕事納めですよ〜」とかって飲んでばっかりいた(笑)。で、オープニングとエンディングの曲も決まってたし、トータルタイムが55分55秒というのも最初に決めてて。『無罪モラトリアム』が「短かい、短かい」って言われたから、ちょっと延ばしたんですけど(笑)。



●『無罪モラトリアム』と比べて、レコーディングのやり方に変化はあったんですか?
林檎:もっと私の一存で、もっとエゴイスティックに出来たかな(笑)。私のわがままがすごいから「このギターはベンジーだっつってんだろ!」みたいな(笑)。全部そんな感じで、「これはこの人じゃなきゃダメだし、これは私が弾く!」みたいな。スタッフの方々が、すごく私のイメージを最優先する雰囲気を作っていただいたんですよね。だから、本当に自分に正直に出来ました。

●じゃあ、レコーディングは終始順調に?
林檎:うん。一日に何曲も録るんだけど、すごく早かったですよ。入れ替わり立ち替わりで違うメンバーが来たりして、すごく楽しかった。本当にこんなに楽しいレコーディングは今までなかったな。音のことでもフラストレーションは全部解決したし、『無罪モラトリアム』でちょっと実現できなかった部分も今度はちゃんと出来たしで良かった良かった。

●ホント、やりたい放題な感じですよね。あの…、僕は『無罪モラトリアム』よりも『勝訴ストリップ』の方が好きッスよ。
林檎:あ、嬉しい!当たり前なんだけど、私も『勝訴ストリップ』の方が好きなんです。

●林檎ちゃんのマキシシングルって、いつもカップリング曲がバラバラだったけど、『勝訴ストリップ』はそれがそのままアルバムになったみたいな感じで、曲調はメチャメチャで何の統一感もない。
林檎:うん。はっきり言って、『本能』を聴いて私を好きになった人とかは辛いかもしれない(笑)。

●だと思います。こう言うと何なんですけど、1曲ずつの曲立ちみたいのは『無罪モラトリアム』のほうが良かったと思うんですよね。
林檎:ああ、わかるわかる。

●ただ、アルバム全体を通したときには、圧倒的に『勝訴ストリップ』の方がいい。『無罪モラトリアム』っていうのは、一曲一曲をバラしても聴けるんですよ。
林檎:うん。シングル集みたいな感じだよね。

●でも『勝訴ストリップ』は、もう絶対に最初から最後まで通して聴くべきアルバムなんだと。
林檎:そうなんですよね。本当は最初っからそういうアルバムが作りたかったんだけど、『無罪モラトリアム』はデビューアルバムだっていうこともあって、そこまでは出来なかった。

●林檎ちゃんはよく「人間は多面体だ」って言われてましたけど、その雰囲気が良く出てますよね。
林檎:そうそう。聴きやすくはないかもしれないけど、私が言いたいことは、よりわかりやすくなったと思うんです。あのね、私のことを本当にコアに聴いて下さっている人達だったら、たぶん『無罪モラトリアム』よりも『勝訴ストリップ』の方がヤバイと思うし、これこそ「キターッ!」ってやつだと思うので、早く聴いて欲しい。もう〜、「東芝EMIに忍び込んででも、早く聴いて下さい!」っていうことを書いといてください(笑)。

●そんなこと言ったら、ホントにやりそうですよ(笑)。では、次号では『勝訴ストリップ』の内容を細かく解説してもらいたいと思います。


〈TEXT:ツダケン/unga! 編集部〉