異例のロングセールスを続け100万枚を突破したファーストアルバム『無罪モラトリアム』から1年・・・。デビューわずか2年足らずで“日本ロック界の女王”となった椎名林檎、待望のセカンドアルバム『勝訴ストリップ』ついにリリース!“ストリップ”のタイトルは伊達じゃない。アイデンティティと直結した、リリカルな歌詞とやりたい放題のサウンドが大暴走する怒濤の55分55秒、丸裸となった末に椎名林檎が勝ち取ったものとは一体?お子さま化の一途をたどるJ-POPシーンに巨大な一石を投じるであろう衝撃の問題作『勝訴ストリップ』を、林檎ちゃん自ら徹底全曲解説!

01『虚言症』
自分で言うのも何なんですけど、すごく美しい曲ですね。今までリリースした中で一番古い曲が『あおぞら』だったんですけど、それより古い曲なんですよ。〈君のために〉って詞の「君」というのはね、新聞に載ってた、線路の上に寝ころんで死んだ女の子のことなんだよね。「私はあなたのためにも歌うことが出来る」って言い切ってるんですよ。高校生の頃ってすごく傲慢だったんだな、私(笑)。しかも、その時は『大丈夫』っていうタイトルだったんですよ…。何でそれが『虚言症』になっちゃったんでしょうね? 今から思うと、その頃思い込んでたことが嘘になっちゃったってことなのかな?

02『浴室』
このアルバムの中で、一番好きな曲かもしれない。去年の夏ぐらいからこういう雰囲気というか、こういうキレイさが気持ちいいんですよ。〈キチンと召し上がれ〉っていう詞は、男の人が聴くと「ヤッちゃっていいよ」ってことだと思うみたいなんだけど(笑)、言葉の通り「本当に食べて欲しい」ということなんです。「生死とかを超越した融合を実現したい」って欲望と提案の曲。だから、「性行為とかよりも、もっと素晴らしいものを探そう」という話なんです。私はよく「情念系」って言われたりするけど、この曲を見てると「そうなんだろうな」って思っちゃいますよね。だって、全然理性的じゃないもん。

03『弁解ドビュッシー』
この曲はね、あんまり突っ込まれちゃうと辛いんだけど…、〈何でも買ってあげるから〉とかね(笑)。まあ、「とっちらかってて、切なくて、辛い恋をしてますよ」ってことですよね…。それで何で「ドビュッシー」なのかというと、デビュー当時に私がフェイバリット・アーティストにドビュッシーを挙げると、「何で?」って反応をされたのね。でも、「ドビュッシーを好きなことに説明とか弁解なんてあるかよ!」って。その感じと、「辛い恋することに弁解なんてあるかよ!」っていうのが合わさったのかな? まあ、勢いでつけたタイトルだからよく覚えてないけど(笑)。

04『ギブス』
アルバムに入ってても自然な曲ですよね。実際、『ギブス』にはシングルっていう概念はなくって、アルバムの方が先に出来ててシングルカットした感じだったから。あのね、『ギブス』の終わりから次の曲の『闇に降る雨』に入るところが、このアルバムの一番の山場かもしれない。『ギブス』が〈ギュッとしててね〉で終わって、その言葉をかき消すようなストリングスが入って…。ある意味、『ギブス』で言っていることをさらに諦めた感じなんだろうな。

05『闇に降る雨』
これは私の中での演歌的な部分を全部集めたような曲ですね。「これって森昌子じゃん」って録り終わった時に思いましたもん(笑)。こういう曲を歌えちゃうのが私の強みというか、『無罪モラトリアム』というアルバムを先に出したのって、こういう曲を有りにするための活動だったんじゃないかな?『無罪モラトリアム』が売れなかったら、この曲は出せなかったと思うし。それにしても〈雨だろうが定めだろうが〉ってサビはすごいですよね。「よくこんなこと言えたよな〜」とか思っちゃう(笑)。

06『アイデンティティ』
これはもう、ライブに来てるファンの方には説明の必要もないですよね。だってまだリリースしてないのに、インターネットで歌詞が載ってるの見たし、私(笑)。しかも、漢字変換とかもすごく正しいんだよ(笑)。ライブで私が弾くギターは自分で弾いて、この曲はとにかくライブっぽくしました。詞はね、これに関してあんまり言うとイメージが崩れるらしいんですけど、私がレコード会社と契約するしないの時に、「『正しい街』の詞の意味がわかんない」とか、「こういうアレンジは間違い」とかすごく言われたから、それに対して「てやんでい!」と思って作った曲なんです。だからこの曲をライブでやってる時は、殺気立ってますよ(笑)。私は、曲とか詞とかが自分自身と直結してるから、曲を否定されるということは、それはそのまま私の人間性を否定されていることに繋がっちゃうわけですよね。

07『罪と罰』
このアルバムのヘソですよね、ブランキーの浅井さんにギターを頼んだ時点で(笑)。いい曲じゃないですか? 普通にこういう曲あって、録音されたものがラジオとかに流れてたら、「買うんじゃない?」って思うもん。まあ、『罪と罰』をシングルで出すための手段が『無罪モラトリアム』だったって感じかな?『闇に降る雨』と同じ話ですけど(笑)。

08『ストイシズム』
今回のアルバム中で、私のベストソング(笑)。まあ、半前半からかなり濃いアルバムだから、一気に聴く人はここで一息ついていただかないとね。「次は明日にしよう」みたいな感じで(笑)、『無罪モラトリアム』でいうと『積木遊び』的な曲です。何でタイトルが『ストイシズム』かというとね、曲の途中で「でんよと〜んあ〜ち〜♪」とか言ってんだけど、あれ何のことかわかります? あれは『罪と罰』の〈私の名前をちゃんと呼んでよ〉という詞を逆から言ってるの。ね、ストイックでしょ?(笑)。あとね、〈アクセル、ブレーキ、アクセル、ブレーキ、パーキング〉って言ってるのは、「それがサビになる曲を書くから」って、ザ・タートルズのメンバーに約束したのね。それをちゃんと守っている私って、ストイックでしょ?(笑)。でもさ、ザ・タートルズのメンバーは気づかないだろうな。「約束は守った」ってちゃんと言っとかなきゃね(笑)。

09『月に負け犬』
18歳頃の曲だったかな? 詞の一人称が「僕」なのは後にも先にもこの曲だけなんです。自分でも言い切れてないことを詞にしてるから、他人事みたいに「僕」にしたんだと思うんだけど、「『正しい街』の詞の意味がわかんない」って言われた時に、この曲も「結局、虚勢を張ってんだか張ってねえんだかわかんねえんだよ!」ってレコード会社の人に怒鳴られて、何も言い返せなかったから「負け犬」なんです。ね、レコード会社の人って怖いでしょ?(笑)。

10『サカナ』
これはベースがすごいですよね。っていうか、今回のアルバムはとにかく全曲ベースがいいんですよ、もう〜、亀ちゃん最高! この詞はあんまり理解する感じじゃないんだけど、何か潔癖っていいうかさ、「男なんて!」って思ってた時期があったんだよね、私。その後、3カ月ローテーションで男が変わったりしたから、すっごい短い時期なんだけど(笑)。

11『病床パブリック』
これは、『ここでキスして。』がヒットしてる最中に病床で倒れた時の曲。その頃にけっこう長く付き合ってた人がいたんだけど…。まあ、それはいいとして(笑)、『罪と罰』と同じ時期の曲だから繋がってますよね、ブランキーの浅井さんで(笑)。詞は語呂合わせなんだけど、〈快感ジャガー〉の「ジャガー」は浅井さんが乗っている車のことなんですよ。街でジャガーを見るたびに「あ、浅井さんが乗ってるかもしれない!」って時めいていたんです、点滴を打ちながら(笑)。

12『本能』
売れすぎですよね〜、も〜ビックリ。看護婦のせいだと思うんだけど、ジャケットなんて中途半端な顔でガラスを割ってる写真ですよ、しかも向きの違う3種類(笑)。

13『依存症』
これって自殺っていうか、「何もかも全部疲れた」って曲。『無罪モラトリアム』の時もそうだったけど、「優しく終われたな」って気がするんですよね。まあ、『勝訴ストリップ』の方が追い詰められている感じがあるけど…。このアルバムでの私のクレジットが「マゾヒスト」になってるのもそうだけど、要するにね、辱めてるんだろうね、自分のことを。あのね、私の中ではアルバム3部作を考えているのね。だから『勝訴ストリップ』は暴れられたと思うし、3枚目に結論が用意されているんだけど、それに対する投げかけが詞でも曲でも十分に出来たと思っています。