作品

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Commentary from椎名林檎

  「主演の女」arranger大友良英
今やお茶の間に浸透した音像(※『あまちゃん』の劇伴)を仕掛けた方と、早々にご一緒できて光栄でした。これまで私がビッグバンド編成などでご一緒させていただいた方々は比較的繊細な特性をお持ちなのですが、大友先生は破格の大胆さが素敵。「聴こえなかったけどオッケー」とか「いい感じでやっといて」といったラフな言葉が飛び交っていました(笑)。そんな何でもアリのビッグバンドがこの一曲目にピタリとハマって大成功でした。

「渦中の男」arranger上田剛士 (AA=)
上田先生の引き出しに、私はたとえばトム・ヨークのような壮大な宇宙を感じています。ハイティーンの頃に魅了された憧れの人でした。まだデビューしたばかりの頃、RISING SUN(1999年)に斎藤ネコ(Violin)さんと私(弾き語り)の二人で出演した時、初めてお会いして、演奏を褒めて下さって。デジデジしいものだけではなく、こういうのも分かって下さるのだなとうれしく思いました。以来、いつかは絶対に何かをお願いしよう、ご一緒させていただこうと決めていました。

「プライベイト」arranger前山田健一
ヒャダイン先生は頓智の利いた好青年です。何をされても確実で早くて面白くて“高性能”という言葉がぴったり。この曲は私から「どこまででもキラキラにしてほしい」とリクエストを出しました。私も、もう三度目の年女ですから、ただではこのリリックを歌えないのですって(笑)。でも彼のキラキラサウンドをモニターしながら歌ってみたら、見事なお姫様扱いで、気持ち良く歌ってしまったのでした。全打ち込みで本来は狭い世界でしょうに、ちゃんとアンサンブルに拡がりがあって、ちっとも息が詰まらない。広い視野をお持ちの素晴らしい方ですね。

「青春の瞬き」arranger冨田恵一
私がデビューした頃に聴き始めたキリンジを手掛けていらした冨田先生は、マエストロとして、憧れの存在でした。この曲は東京事変の解散ツアーで演奏してしまったために、あの場にいらしたお客様は大事な門出に於ける私の口上として記憶して下さったようですね。冨田先生もそのことを知って下さり、踏まえた上での細やかな配慮をして下さったようで、流石です。実際には(栗山)千明ちゃんがまさに少女から大人になろうとしていた、あの美しい季節を彩りたくて書き下ろした曲です。

「真夏の脱獄者」arranger大沢伸一
SMAPのお客様がお聴き下さった時に、全く別のバージョンとして楽しんでいただけるよう心掛けて、アレンジをお願いしました。大沢先生の作品はもちろんデビュー前から聴いていました。また、私は兄の影響でブラックミュージック育ちでもありますが、その兄が一番初めにお世話になった方でもあり、当時すごく羨ましかったです。妹の方も、お力を拝借するのを赦されるときが、やっといま訪れたのだと思います。

「望遠鏡の外の景色」arranger村田陽一
たとえばバート・バカラックのワルツから得られる、何とも言い難いショック。それを舞台『エッグ』に持ち込みたくて書きました。オリジナル・ラヴの『風の歌を聴け』(1994年)のカッコいいホーンは外国の方によるものとばかり思っていたら村田先生がたでした。緻密な設計と的確な人選をなさる方。私が 17歳の時、コンテストでトロフィーを渡して下さった笹路正徳(Piano)先生とは、この現場で 18年振りに再会しました。皆さんが奏でる音の余りの美しさに、涙が零れました。

「決定的三分間」arranger中山信彦
最初のお手合わせは『勝訴ストリップ』。事変の後期はツアーにも参加していただきました。このノブ先生、実際にはいろいろな引き出しをお持ちの方ながら、私の依頼したミッションはほとんど化学調味料をご提供いただくという内容でした。普段は天然素材とのブレンドで、今回はその化学系のみ。ノブ先生がよく召し上がる日清の味がここに活きていると思います。私だって日清好きですもの。この一曲は大変気に入りました。

「カプチーノ」arranger小林武史
私にとっての小林先生のサウンドとは、サザンであり原由子さんのソロであり、また YEN TOWN BAND etc.でした。ロマンティックな小林先生なら、この曲本来のセンチメンタルな魅力を引き出して下さる予感がしていました。如何なる素材も普遍的なポップスへトリートメントして下さる確かな手腕のお蔭で、昔の曲なのにすごく自然に歌えました。と言って、「レシピが分かった」みたいな単純な感じは全くありません。やっぱり彼の腕にかからねば、絶対にこうはならないのです。

「雨傘」arranger根岸孝旨
根岸先生へお願いするにあたっては、長田進先生のギターをイメージしていました。でも根岸先生にお会いし、サウンドの方向性を擦り合せて行く中、私が想定していたブリティッシュ寄りの端正なアプローチの可能性は無くなったのです。それで、普段からもっと獰猛なプレイをするギタリストはどなたかという話になり、私は生形くんを推薦しました。根岸先生にお願いしなければ得られない、極レアなセッションと相成り、満足です。

「日和姫」arranger日高央
日高先生とは、千明ちゃんのレコーディングをしていた頃、一口坂スタジオでたまたまいらしていた PUFFYのお二人からご紹介いただいたのが最初でしたでしょうか。その時には、すでにこのプロジェクトを想定して居り、その場で依頼しそうな勢いでしたが、「時が来たら連絡しますね」と伝えていました。ビークルの秘伝レシピで仕上げていただけましたし、作業進行中も、演奏家の皆さんと共にずっと爆笑させてくださり、お腹いっぱいです。

「幸先坂」arranger佐藤芳明
映画『さよなら渓谷』に於いては、エンドロールへの提供で、後奏がいつまでもひたひたと続いて欲しかった。一方、今回はアルバムのクライマックス。むしろ導入部を鮮烈に演出したい。そこで反則技ながら、芳明先生の銘曲「YOUR SON」を投下していただきました。先生とは「りんごのうた」からのお付き合い。作曲家としても、もちろん演奏家としても、毎度見逃せません。

(構成/内田正樹)