何故、2枚組か...?

──今回、アレンジを亀田さんと森さんにお願いした理由は?
林檎育児があったから(笑)。や、なんかね、亀ちゃんの方はね、こうお願いしたら、こういう風に返ってくるだろうなっていうやり取りは知ってるじゃないですか。だから、まるっきり任せっきりで、1回もプリプロには立ち会わなかったんです。で、森さんの場合は「愛妻家の朝食」1曲しかやってもらったことがないですから、多少、現場にうかがって、お話をして。でも、森さんとも亀ちゃんみたいにやれるし、待っている時間も長いので途中から任せっきりで、上がってきたものはそれで問題なく。
──森ディスクの出来上がりに関してはいかがですか?
林檎もう、してやったりって感じで。でも、亀ちゃんとも久しぶりだったし、ひょっとすると2枚の境目がなくなっちゃうかなっていう心配もちょっとあったんですけど、選曲からして、ちゃんと分けてるし、出来上がったものも、よくもまぁ、ここまで分かれたなっていう内容になっているので、なんか別人のアルバムみたくなってて、いいと思います。なんか、この間、見つけたんですけど、トーリ・エイモスとビョークとサラ・マクラクランがパックになってる廉価版のCDが売ってて、「すごいな、これ」と思って、買っちゃったんですけど、そういう感じが出せたらいいなって思って。
──作品っていうより、その辺にある、さり気ないアルバムって感じ?
林檎そうそう。なんか、新宿駅の地下街で1000円、みたいな感じ。
──「真夜中は純潔」の発展形として、このアルバムはタイトル通り、歌い手に徹するところで作られたっていうことなんですよね?
林檎そう。取り組みとしては気軽なんだけど、気分はプライドを取り戻せる感じというか。私が自分でプレイをしてオケにかかわっちゃうと貧乏臭い感じがして、そういう風にしたいわけではないのに、妙に絶望的になっちゃうというか。例えば、ともさかりえちゃんが私の曲を歌ってる場合、あれはあれで成功だと思うんだけど、でも、私が歌うんだったら、ソファでくつろいで歌う感じがいいな、と。
──自分の曲だと深く入り込んだり、グチャグチャになっちゃったりっていうこともあるだろうし。だから、引いたところで全体を見るっていう、そういう感じ?
林檎そうそう。全体を見る方がいいな、と。曲が出来る時って色々あると思うんです。例えば、こう、悩みながら作る人もいると思うんですけど、私は悩まずにいけない方向に行っちゃうっていうか。なんかね、いま、昔出した作品を聴くと、もう1曲1曲が嫌がらせだろうって思うんですよね。
──独特の屈折していく回路は確かに林檎ちゃんの作品にはあるよね。
林檎そうそう。それがツボなんだって言ってくれるお客さんもいるとは思うんだけど、そこがいつまでもメインだったら、プロでやっていけないだろうなって思うんです。
──ヴォーカリストとしては自分のことはどう思う?
林檎ピッチ悪いなぁって(笑)。ちゃんと習いたいって思います。
──でも、ヴォイス・トレーニングって画一的なヴォーカルに向かうこともあるでしょ?で、逆にさ、そのピッチのぶれこそ、その人の個性だっていう考え方もあると思うんだけど?
林檎でもね、自分はそういう風には思えないんです。今回に関して言えば、ここまで何回も歌い直したのは初めてで。今まではそういうところは重要視してなかったから。でも、今まではライヴの時の方がピッチが良かったりして……だったら、ちゃんとした録音状況で歌っておけばいいじゃんって(笑)。
──だから、このアルバムはプロフェッショナルなヴォーカリストへ至る道、みたいなね。
林檎そうですね。そういうものを自分に課しているんです。だから、もっと落ち着きたいなというか、足元を固めていきたいなっていう流れにはあるとは思います。
──亀田さんの印象っていかがですか?
林檎亀臭が漂う感じ(笑)。もともと、双方の自己実現を図るべく、こういう選曲でお願いしているので、それがよく出てると思います。
──林檎ちゃんが考える、亀田さん色って何だろうね?
林檎一言で言うと、可愛い感じ、おちゃめな感じというか、亀田さんがやってるものってすぐに分かるんだよね。お人柄が出ちゃっていて、多分、こういう風にしか出来ないんだろうなって思うんです。で、それは良くも悪くもって感じじゃなくて、良くも良くもっていう風になってるな、と。どんなアーティストをサポートする時も、大体、足りないのっておちゃめさだと思うんですけど、それを亀田さんが足してあげてるんじゃないかな。
──エンターテインメントというか。
林檎そう、エンターテインメントにしてるというか。しかも、それが商業っぽくないというか、お金の匂いがしないというか。