林檎ちゃんがパーソナリティーを務めるFM番組「椎名林檎の悦楽巡回」の誌上再現。 今回は5月2日の放送から、林檎ちゃんの「これだけは譲れないもの」話。 の、ハズが、ナゼかまたブランキー話にシフト(笑)。 でも、音楽に対する林檎ちゃんの情熱はひしひしと伝わってきます…。

 私はですね、「これだけは譲れぬ!」ということが多すぎるんじゃないかと時々思うんですね。 だから、普通に暮らしているんだけど疲れやすいんだろうなと思って。 「何で私って、こんなにエナジーが消耗されやすいのかな?」って自分でよく思うんだけど。 それはね、色々なことに関して「譲れない!」って思いすぎなんだよね。 「これは譲ればいいや」とか、そういう力の加減がヘタクソというかね。 「これも、あれも、私がこうしたいと思っているのに!」みたいな。 わがままって言えば、ただのわがままなんですけど(笑)。 マラソンとかでもペース配分とかがヘタな人っておるやろ? そういう感じ。 私はマラソンとかは得意で、高校の時の知る人ぞ知る山の中を走るマラソン大会とか好きだったんだけど(笑)。
 まあ、マラソンとかは理論的に頑張ればいいんだけど、音楽のことで最近ちょっとね、イラストライターの326くんと話した時も凄く盛り上がったんだけど…。 最近さ、時々空しくなるんだよね。 何て言うのかな…。 う〜ん、これを言うのは凄く難しいんだけど、ミュージシャンって呼ばれている人がさ、「音楽やってます」ってやっている方がいっぱいいられますけど…。 それがそのまま自然な形で出てればいいんだけど、自然ぶっちゃうのを知っちゃうと…。 例えばさ、「R&Bが好き」とか言ってみたりしてさ、「じゃあ、R&Bって何聴いているの?」って聞いたら、全然ヤバイこと言っちゃったりしてて(笑)。 嘘くさいブランドにすがってさ、「格好だけでやってるならプロでやるな!」って思うわけよ。 「ミュージシャンと呼ばれたくて、頑張っちゃって書いてます」っていうのは私は凄く寒くて。 洋楽だって時々感じる人がいるんだけど、凄いビジネスの匂いがする人とか、お金の匂いがする人とかがいると、ほんと悲しくなっちゃうんだけど…。
 最近って、音楽の価値が凄く下がっていると思うのね。 別に私は、音楽バカで育ってきたわけじゃないけどさ。 絵とか写真とか色々と好きなこともあるし、そんなに興味の向く方が片寄っているとは思わないんだけど…。 例えば、「とりあえず、テレビのドラマに合った曲を書かなきゃいけない」とかって音楽の価値を下げることだと思う。 そのアーティストが、もともとドラマに共通する感覚があって起用されれば必然的だと思うのね。 でも、「とりあえず、どこかの次のドラマの主題歌を歌うのにいくら」とか…、ヤバイ話だけど(笑)、そういう世知辛いことを聞くとさ、「バカらしい!」とか思うやんか? でも、そういう世界でも全然汚されないでやっている人もいるわけですよね。
 私ね、レディオヘッドのドキュメントのビデオを観た時に凄いジーンとなったんだけど。 レディオヘッドのメンバーがインタビューを受けているシーンがあって、「消費しすぎた」というトム・ヨークの言葉が凄く重くて…。 こういう世の中で、汚されそうになっても自分のコアな部分を守ろうとしているのって凄く美しくて、私は「ウルッ」ってきちゃう感じだったんだけど。
 やっぱりね、アーティストとしてプロでやっているということは、その時点で「自分は自分で守る」という責任をおわなきゃならないんだなって思うの。 「守ってくれ」って思ったり、「まわりが悪い」とか思うのは甘いことなんだなって。 それで、ブランキーなんかはね…。 「また、ブランキー話かよ」って思っている方もいらっしゃるかと思うんですけど(笑)。 ブランキーはね、実際お会いした時に浅井さんが、私が「そうであって欲しい」と思っていた通りの人だったんですよ。 「本当に誰にも汚されずに、そのまんま音楽を始めた時からずっと変わらないスタンスできたんだな」って。 私はそれが凄く嬉しくて、凄く励まされたんですけどね…。