8月23日からスタートした、唄ひ手・椎名林檎(24)の3年ぶりとなる全国ツアー「雙六エクスタシー」が9月27日の東京・日本武道館で千秋楽を迎えた。会場を埋め尽くした1万3000人のファンから大拍手を受けた彼女は、2回目のアンコールで11月25日に発売が決定した新曲「りんごのうた」を初披露。同曲はNHK「みんなのうた」で10〜11月に放送されることも決定している。果たして椎名林檎は椎名林檎として唄い続けてくれるのだろうか? 多くの疑念を取り払うべく、デビュー時から彼女の取材を続けている小野田雄氏に終演直後のレポートをお願いした。
 サード・アルバム『加爾基 精液 栗ノ花』をリリースし、約4年振りとなる全国8箇所11公演の実演ツアー「雙六エクスタシー」を行っていた椎名林檎が9月27日に最終公演の地である武道館に登場した。ステージを取り囲むように、一万人を越えるオーディエンスを集めた会場は緊張感で満たされている。それは詰めかけた観客のほとんどが彼女のライヴを初めて目撃するからであるのはもちろんのこと、このライヴが3枚のアルバムに渡って表現されていた一連の流れの節目でもあるからで、それゆえに緊張感とは一言でいっても、その雰囲気は独特なものがあった。

 しかし、一方のライヴはと言えば、ステージの頭上に設置された360度のスクリーン以外に舞台装置はなく、和服姿の彼女を含む5人組のバンド、〈東京事変〉は左手から歩いて登場すると、おもむろに演奏を開始。曲間のMCも言葉少なに、歌とバンドの演奏だけがそこにはあった。既に10公演を終え、まとまりという点では間違いなく最高の状態を迎えていた〈東京事変〉は、ただ単に完成度が高いだけでなく、プレイヤーの気持ちのうねりを反映した生々しいグルーヴとして聴き手に伝えている。当のオーディエンスはと言えば、拡声器で歌われた「幸福論」の最速ハードコア・パンク・ヴァージョン(悦楽編)をはじめ、眼前で繰り広げられる壮絶な演奏をただただ聴き入るのみ。何せ、〈東京事変〉によって、時に何処までも鋭く荒々しく、またある時はどこまでも繊細に表現される椎名林檎の世界は激しく振幅しながら展開されていたし、それでいて、彼女の歌唱は美空ひばり「港町十三番地」のカバーに違和感を感じさせないほどの表現力でジャンルを横断していたのだ。開演前の緊張感が持続しながら高まっていく様に圧倒されるのも無理はない。 そして、この異常なテンションで登り詰めること約2時間。アンコールの3曲を含め、全22曲の締めくくりとなる「おだいじに」を終え、マイクを床に放り出すと、 椎名林檎は間違いなく彼女にとっての集大成と言える本当に素晴らしいライヴをやり遂げてしまった。