彼女を含む東京事変が再び登場し、演奏を始めた新曲が、その名も「りんごのうた」という曲だ。真空状態に近い会場の空気と対極にあるルンバのリズムに、これまでなかったほどに噛み砕かれたメロディが非常に印象的な楽曲で、さらにサウンドと一体になって伝える歌詞は既成概念をぐらぐらと揺さぶってみせる。ここでの既成概念とは彼女の根本も根本である椎名林檎という名前、そして、そこから派生するイメージだ。最後にスクリーンに映し出される「わたしのなまえをおしりになりたいのでしょう」というメッセージ。これは短篇DVDキネマ『百色眼鏡』で椎名林檎扮する謎の女が口にするセリフを思い出させる。名前に対する問いは既成概念一般の例えでもあるわけだが、リスナーは椎名林檎という名前から抱くそれぞれのイメージを確認せずにはいられない。しかし、彼女に会うことがない以上、それが正しいものなのかどうなのか、確かめることは出来ないし、仮に会って話したところで、確認出来るとは限らない。つまり、リスナーの目の前で2本の赤いマラカスを振りながら歌っている椎名林檎は間違いなくそこに存在しているが(もちろん、その存在すら疑ってみることも出来るが)、その存在と一体である彼女のイ メージは時や場所、その他の条件によって、いかようにも変化する曖昧なものなのだ。そして、そんな易しくも深い歌を歌い上げると、会場に沈黙だけを残し、椎名林檎はステージの袖から姿を消した。
節目シングル(DVD付)発売決定 !!
「りんごのうた」
NHK「みんなのうた」10月〜11月放送曲
11月25日発売
TOCT-4774 定価1,800円(税込)