「闇に降る雨」ヴィデオ・クリップ撮影秘話

 テレビとかでは「あのヴィデオは椎名林檎のイメージがかなり忠実に再現されている」とか勝手に言われるんだけど、そうでもないというか、監督に任せちゃうんですよ。例えば、私が曲に対する映像のイメージを持っていたとしてもそれはそれだし、元々、好きな監督にお願いしてるわけだから言われた通りに動くだけ。でも、この曲はレコーディングの最中にヴィデオでやりたいことを思いついたので、レコーディングの合間にスタジオで振りを考えたりしてたんです。
 で、私が静岡に住んでた時にバレエを習ってた先生に「今の教え子さんの資料を送ってください」ってお願いをして、その中から選んだ子に来てもらったんですけど、そこから選んだ中学生くらいの子たちって微妙な葛藤を抱えてるんです。美の意識とか体型も変わってくるし、生理が始まっちゃうと週に3回とかある練習にも抵抗が出てくる。私はそうだったし、その頃に辞めたんです。で、そういう年齢の子たちを選んで、撮影前に一度こっちへ来てもらって。昔のことを思い出しつつ、先生に「こういう動きを入れたいんですけど……」って相談しながら最後の振りを決めたんです。でも、当日、撮影場所のお屋敷が使える時間に制限があったのですごく焦りつつ、踊りのシーンはその生徒さんたちがきちんと練習してくれてたこともあってスムーズに撮影出来ました。





「アイデンティティ」ヴィデオ・クリップ撮影秘話

 まず、「アイデンティティ」ヴィデオの話の前に一つ明かしておきたいことがあるんです。あの「下剋上エクスタシー」のヴィデオって、「警告」っていう曲の途中で東京(NHKホール:4月26日)から福岡(サンパレス:5月31日)の映像に切り変わるんですけど、実はNHKホールの時って扁桃炎で38度とか熱出して、点滴を打って演ってて、その後の福岡では、これは後から知ったんだけど、肺炎を起こしてて……その2つをライヴ映像として出さなきゃいけなかったのが、ファンの皆さんには申し訳ないな、と。
 で、「アイデンティティ」のヴィデオはその福岡の後に名古屋(市公会堂:6月2日)でライヴをやって、東京に戻ってから撮ったんですけど、その前に病院に行ったら「これは肺炎になってるよ」って言われて。その最中の撮影だったんですけど、あのヴィデオってお馬鹿じゃないですか。あの、お馬鹿って元気な時しか出来ないんですよ。もう、お笑いの人でもないのに何でこんなに頑張らなきゃいけないんだって思えてくるし、ロック雑誌では「馬鹿にしている」とか書かれたんだけど、結構頑張ってて。ほぼ逆さ吊りっていうか、すごい急角度で無理な体勢の撮影だったから、肺は苦しいし、首の筋も痛くなっちゃって、途中で挫けそうになりましたよ。で、そんなこんなをしているうちに旦那の弥吉が到着したんだけど、すごい面白そうだし、彼にあそこまで馬鹿やらせておいて独り現場に残すのは可哀相だったから観たかったのね。でも、余裕なくて「ごめん。帰ります」って言って、帰っちゃったんです。しかも、翌日は北海道(厚生年金会館:6月5日)でライヴがあって……かなり荒い内容になっちゃって、ホント申し訳なかったです。