実力派と呼ばれる女性ヴォーカリスト達が群雄割拠する世紀末の日本音楽シーンにおいて、その圧倒的な存在感と高い音楽性で一際強く妖しげな光を放つ“新宿系自作自演屋”椎名林檎。待望のファーストアルバム『無罪モラトリアム』によって、椎名林檎は今世紀最後のカリスマとなる!

●今回のアルバムを作るにあたって、コンセプトみたいなものは立てたんですか?
椎名林檎:初めてのアルバムだから、昔から歌っている曲をたくさん入れたかったというのがまずあって。今回の11曲というのは瞬時に決まったんですけど、結果的に“十代の私の集大成”みたいなアルバムになりましたね。

●11曲収録で、トータルタイムが41分1秒…。
林檎:短い!(笑)。別に意識はしてないんですけど、私の曲ってだいたい短いんですよ。私は無駄なものが嫌いだから、凄い好きな曲を聴く時でも「この部分はべつに聴かなくてもいいんだよね」って感じで飛ばしちゃうことがあるんで、自分の曲にはそういう無駄な部分は無くそうとしたのかもしれない。それは音にもいえることで、私の作品には無駄な音は入ってないと思うんです。

●『無罪モラトリアム』というアルバムタイトルには、どんなメッセージが込められているんですか?
林檎:一曲一曲の曲を作る時は、瞬発力だけで何にも考えてないんだけど、アルバムとして考えた時に“モラトリアム”というのをテーマにしたくて…。私が生きていくにあたって出会う方々が、自分の欠落に悩みながらも、そのわりには色々な欲求があったりして、そういう葛藤で悩んでいる人が多くて。ま、私もそうだとは思うんだけど…。でも、まわりから見た私の印象は「さばけていて、自由奔放で、天真爛漫な」みたいなイメージだと思うんです。でもそれは、私がそういう人間に成りたいと思っているだけで、『幸福論』や『歌舞伎町の女王』の詞の世界にしても、私の願望みたいなものなんですよね。それを一枚剥がしちゃうと、私も凄く弱い人間なんですよ。だけど、色々な人に出会っていくうちに「人間って、みんなそんな感じなのかな?」と思うようになって。少なくとも、人としてマジメに生きていこうとする以上、社会に適合できないモラトリアムな瞬間って、きっと誰にでもあると思うから、自分のためにも「それは無罪なんだ!」と言ってしまおうと。でもまさか『無罪モラトリアム』というのが、そのままタイトルになるとは思わなかったですけどね(笑)。

●タイトルも凄いですけど、アルバムジャケットの写真も凄いですよね(笑)。このアイデアはどこから?
林檎:『ここでキスして。』もそうなんだけど、私が完全に浮いちゃっている場所で撮りたいと思っていたんですよ。それで、「例えば、裁判所とかで凄く切羽詰まって“無罪! ”とか“勝訴! ”とかやっているところに、私がポツンといたらメチャクチャ面白いだろうな…」って言ってたら。デザイナーの人が「じゃ、それやろ」と(笑)。

●(笑)。今回のレコーディグでは、アルバムの為に二つのバンドを編成して、曲によって使い分けるという手法を使ったそうですが、その二つのバンドの違いというのは?
林檎:ギターの人のキャラクターが違うというのが大きいですね。そのへんの違いをバンドとして出したいと思って。私はずっとバンドでやってきたから、バンドサウンドは一番好きだし一番親しみがあるんですよ。でも、一つのバンドサウンドに狭めたくはなかったんです。自分から新宿系を宣言しているわけだから、サウンド的にも詞的にも「何でもあり」という感じにしたくて。だからバンドサウンドということにはあまりこだわらずに、自分が必要性を感じたらストリングスとかも入れるって感じで。

●確かに、サウンドのヴァリエーションは凄く豊かだし、詞の方もリアルなものからシュールなものまで幅が広い。
林檎:う~ん…。録っている時もでき上がった時も「絶対にいい!」と思っていたんですけどね…。でも最近は、まわりの人からの評判があまりに良すぎて「本当かな?」って不安になっちゃって(笑)。音は私のデモテープみたいな感じだし、詞だって日記みたいなのばっかりで、凄く恥ずかしいんですよ…。だけど、16歳から18歳までの一瞬一瞬の私の姿はちゃんと詰め込むことはできたと思うし、歌詞を見ていると自分で自分を知ることができるような気がするんですよね。私は誰にでも伝わるメッセージを歌いたいわけじゃないし、これからも日記みたいな私的な作品を生み出していくとは思うんです。だけど、私が私としてありつつも、音楽で普遍的なものを作るということはできると思うし、挑戦を続けていきたいですね。

●4月には初の全国ライブツアーがあるんですか、どんなライブにしてみたいですか?
林檎:いわゆる「ライブ!」って感じのライブをやりたいですね(笑)。私がデビュー前からやってきたようなライブを、そのままぶつけてみたいです。

〈TEXT:ツダケン/unga! 編集部〉