大ヒットアルバム『無罪モラトリアム』で、一躍ロック界のカリスマとなった椎名林檎。全国ツアー後、休養&レコーディング期間に入り沈黙を守っていた椎名林檎だったが、EZO ROCK、日比谷野音とビッグステージを経て、約半年ぶりとなる四発目マキシシングル『本能』で本格的に活動再開!


●アルバム『無罪モラトリアム』から数えて、約半年ぶりのマキシシングル『本能』がリリースされるんですが、この『本能』という曲自体はいつ頃できた曲なんですか?
椎名林檎:これは18歳の頃ですね。『シドと白昼夢』とか『警告』とかと同じ時期です。

●あ、わりと古い曲なんですね。今までライブでもやってなかったということは、ずっと温存していたということ?
林檎:いや、私としては『シドと白昼夢』とかの方が好きだったから、そればっかりプッシュしていて、この曲は今まで忘れられてて(笑)。作った当初は気合いも入れてなかったし、「こういうヴィジョンで」というのもなかったし。でもその分、本当に18歳の私らしい、素の自分が出ているとは思うんですけど。

●詞がですね、出だしから退廃ムードな…。
林檎:ね~、デカダンな(笑)。今になって見たら詞のテーマが凄くわかるんですよね、「18歳の時に、この気持ちをよくぞ表していた! 」って。色々な出会い、そして別れを経たのちに、あらためてセルフ共感しました(笑)。この曲は恋愛の歌のように見えるかもしれないですけど、テーマ的には脱モラトリアム後のですね、大人が割り切らなくちゃいけないことなんですよ。

●割り切って本能を肯定しろと?
林檎:うん。私ね、人間も動物なんだけど、人間の本能は動物とは違うと思うんですよ。この曲で歌っている本能というのは三大欲求とは違っていて、「人間はその前に、嫉妬であったり、自己顕示欲であったり、自己愛とその崩壊の繰り返しとかが本能としてあるんじゃないか?」と。私は、そういうものを一回割り切って認めないといけないんじゃないかと思うんですよね…。まあ、それは後から分析したことで、この曲を作った時は何にも考えていなかったんですけど(笑)。

●『本能』のPVでの、ガラスを割るシーンが印象的だったんですが、あのガラスは何を意味しているんですか?
林檎:あれはガラスが先なんですよ(笑)。前からガラスを割るシーンを入れたくて、「じゃあ『本能』でやってみようか」と。

●あ、そうなんですか(笑)。僕はまた「ガラスは本能を抑えつけているものを象徴しているんじゃないか?」と。
林檎:あ、そういうイメージにも合うんですけどね。本当に特に意味はないんです。看護婦姿にも意味はないですよ(笑)。

●(笑)。ヴォーカルがですね、いつもより荒い感じがしたんですね。それがまた生々しくもあったんですけど。
林檎:うんうん。今回はエンジニアの人が変わったというのも大きいんですけど、音の録り方自体が今までと全然変わっているんですよ。マイクを通して歌っているようにキレイに録るのは誰にでもできるし、そういうのはアイドルとかがやることだと思うんですよね。私は、もっと生々しい本当の現実を歌いたいんですよ。それは『無罪モラトリアム』を作った時にも思っていたことなんだけど、もっとそれを突き詰めたかったんですよね。

●カップリング曲の『あおぞら』なんですが、この曲を聴いていると「林檎ちゃんも、こういう曲を歌うんだ」って、何となくホッとさせられるんですよ。
林檎:あ、嬉しいですね。これは16歳の時の曲で、私が曲を作り始めて二番目に作った曲ですね。もともとは友達に贈った曲なんです。「手紙に書いても伝わらないことがあるから」って。

●今までの林檎ちゃんのイメージからすると、この曲は誰かに楽曲提供する為の曲って感じがしたんですよ。それを林檎ちゃん自ら歌ったというのが驚きでもあり嬉しくもあり…。
林檎:そうですよね。この曲はモラトリアムじゃないし、凄く穏やかな感じで。何かね、私は高校生ぐらいの時の方が今より達観できてたと思うんですよね。今の方が変なことで翻弄されれることが多いし。普通に友達のことを想ったりという基本的なことが当時の方が出来てたような気がするな。

●もう一曲のカップリング曲『輪廻ハイライト』なんですけど、これを最初にサントリー ザ・カクテルバーのCMで聴いた時は、絶対にカヴァー曲だって思いましたよ。
林檎:ね~。何も、本当にジャズの凄い人達に演奏をやってもらわなくても良かったのにね(笑)。この曲は元々打ち込みで作った曲だし、自分がカヴァーして歌っていたメロディーをポンポンと入れていった曲なんですよね。

●英語詞にしようと思ったのは?
林檎:『丸の内サディスティック』みたいに、メロディーを壊さないような英語風の日本語を入れるのがいつもの私のスタイルだったんですけど、CMに使われるということもあって、本当にメロデイーの良さだけを優先させようと思って。歌詞カードに日本語の歌詞がついているんですけど、それは目で楽しんでもらうためのオマケで完全なデタラメです。自分で聴いた時にそう聞こえる日本語を書き取っただけの、空耳アワー(笑)。

●それにしても、3曲とも見事に違う雰囲気の楽曲ですよね。
林檎:もう、「聴いた人が怒りだすんじゃないか?」って思うぐらいにバラバラですよね(笑)。でも、『本能』みたいな押せ押せの曲ばっかりだと、苦しくて聴けなくなっちゃったと思うんですよ。本当はジャケットに「はちゃめちゃ」ってハート型のシールを貼りたかったんですよ。プリクラとかイメクラの看板に使われているような丸い文字で。でも、忘れちゃった(笑)。今回は、今までの私のイメージを取っ払って、素の部分をさらけ出したんで、私の部屋の散らかしっぷりを見せちゃった感じですね。



〈TEXT:津田 健/UNGA! 編集部〉