「椎名林檎と彼奴等と知る諸行無常」ツアー衣装コメンタリー

椎名林檎さん5年ぶりのツアー「椎名林檎と彼奴等と知る諸行無常」の衣裳を担当させて頂きました。その音楽の力に導かれ、彼奴等の一人として服を奏でられる悦びに満ちたツアーでした。
僕らがやりたいことをまずたくさんぶつけさせてもらって、椎名さんには優しみで以てすべて受け止めてもらいました。そこから返しのアイデアをたくさん頂戴して、そこにはまた発見しかなく、言わば一緒にデザインしたという感じで、得難い日々を過ごさせてもらいました。椎名さんの大切なワードローブもたくさん提供してもらったので、僕らの最大の強みである「リメイク」の手法を存分に発揮できました。彼女のクローゼットとステージをつなぐ仕事をできたことはデザイナー冥利に尽きます。
パリコレをはじめとした今の時代のランウェイショーより、この椎名林檎のステージにこそ真のファッションを感じてしまいました。ファッションデザイナーとして、このステージに対してオートクチュールコレクションを発表するぐらいの気概と熱量で臨んだつもりです。
音楽が好きで、これまでにたくさんのライブを観て来ましたが、アーティストを舞台袖から観たのは人生ではじめてでした。その御相手が林檎女史で本当に良かったです。

(神田恵介)

  1. 1.手縫いのモッズコート(1〜3曲目)

    『あの世の門』から始まる俗世と切り離された人ならざるものという椎名さんからのイメージを受けて、keisuke kandaの代表作である「手縫いのモッズコート」を今回のステージコスチュームとしてリミックスしたルック。M51とM65のモッズコートを一つに縫い合わせた、特別仕様。モッズコートを法衣(ほうえ)に見立て、ライナーを袈裟に見立てたデザインで、袈裟には歴代の椎名林檎グッズのワッペンをモッズ風にペタペタと。

  2. 2.モヘアセーター×オートクチュールランジェリー(4〜9曲目)

    『カリソメ乙女』のイントロでモッズコートを脱ぎ捨て、浄土から俗世へ。モヘアの糸に加えリボンやラメ糸も編み込んで、手編みで仕上げた70年代パンクを象徴する首吊りモヘアセーター。そのニットの網目から覗くのは、伝説のブランド「トレフル」をリメイクしたオートクチュールランジェリー。

  3. 3.百徳の羽織(12曲目)

    『天国へようこそ』の一曲に捧げる一着。
    「物事の本質にはいつだって相反する二者が鎮座する」という曲のイメージと、椎名林檎の太極図マークのデザインをもとに、「百徳着物」※1 からインスピレーションを受けたパッチワークテキスタイルを用いて仕立てた羽織。陽の中にも陰があり、陰の中にも陽がある。
    ※1江戸時代から金沢に伝わる、百軒から着物のハギレをもらい百の徳を得るようにと縫い合わせた子供用の着物

  4. 4.チャンピオン(14〜18曲目)

    椎名さん御本人のワードローブを預かり、解体し染め上げ再構築して、チャンピオンの入場シーンをイメージしたコスチュームに。早着替えできるように、トロンプイユの構造になっており、マント、Tシャツ、ボクサーパンツ、チャンピオンベルトはすべて一体化しています。クラフトワークを存分に発揮した総手刺繍のチャンピオンベルトと勲章を飾って。

  5. 5.パジャマ(19〜20曲目)

    闘いを終え、そっと扉を開けて部屋に戻った時に着てもらいたい、そんなパジャマは、ヴィンテージのランジェリーを解体再構築して仕立てたもの。胸いっぱいの愛があの人に届くように、手刺繍とビジューを散りばめたドレスのような枕を添えて。

  6. 6.ラストルック(21〜26曲目)

    「トレフル」のランジェリーを解体し再構築したラストルック。和も洋も超えて、本装束のようでもあり、シュミーズ・ア・ラ・レーヌ ※2のようでもある何かを目指して行く中で、「熊手を頭にかぶってみたい」という椎名さんのアイデアを受け、ラストルックのイメージが一気に明確となりました。様々なリボンを折ってつくったオオヌサ風のバックスタイルは、最後の曲『NIPPON』でギターを掻き鳴らす彼女に吹く神風に揺られることで完成します。
    ※2白の王妃風下着ドレス

  7. アンコールのジャージ

    椎名林檎のステージ衣裳で何度も登場してきたボトムスとkeisuke kanda の十八番とも言えるジャージとのマリアージュ。ジャージなのにクラス感があってフォルムが美しい、そんなアンビバレンツを。