Point 4

秀逸な選曲は、時代を超えて松田聖子が愛した楽曲たち

今作は、ジャズのスタンダードではなく、時代やジャンルを問わずに松田聖子が愛する珠玉のヒットナンバーが選曲されている。 美しいメロディーは勿論、メッセージ性、アーティストへのリスペクトなど、松田聖子の音楽的な琴線が反映された楽曲群と言える。
オリジナル楽曲の解説と年代は、以下のとおり。

1.I’m Not In Love / 10cc (1975年)
イギリスのバンド10ccの代表曲であり、メンバーのエリック・スチュワート(Eric Stewart)とグレアム・グルードマン(Graham Gouldman)の作品で、発表された1975年以来、30組を超える多くのアーティストにカヴァーされ続けてきたソフトロックの金字塔。 愛なんて言葉に置き換えられない程に愛している気持ちを” I’m Not In Love”という言葉で伝える、そんな逆心理ともいえる深みのあるメッセージは、多くの人の共感を得て、1970年代を代表する楽曲の一つとなった。 日本ではキリンビールや日産スカイラインなどのTVCMで使用され事でも知られる。

2. 赤いスイートピー / 松田聖子 (1982年)
80年代を象徴する曲として、圧倒的な認知度を誇る松田聖子の代表曲。本人もフェイバリットとして挙げる事が多く、今作も本人の発案により初のジャズアレンジでのセルフカバーが実現。 オリジナル曲の作詞は松田聖子作品に欠かせない盟友の松本隆、作曲を手掛けた呉田軽穂(松任谷由実)による松田聖子への初提供作である。 作曲したユーミンは、「誰が作ったか知らなくても、曲調だけで聴き手の心をつかめたなら、これほど作家冥利に尽きる事はない。 そしてこの曲は本当にその通りになった。とても充実感のある仕事でした。」と後に語っている。

3. Rock With You / Michael Jackson (1979年)
時代を超えて愛されるマイケル・ジャクソンの人気曲。クインシー・ジョーンズ(Quincy Jones)がマイケル・ジャクソンをプロデュースした初のオリジナルアルバム「Off The Wall」に収録。 恋のときめきや高揚感に溢れたセクシーでフロアライクな世界観、ソウル・R&B・ディスコシーンのマスターピースとして、今なお多くのアーティストやDJに愛されている。

4. Tears In Heaven / Eric Clapton (1992年)
これほどまでに深い悲しみを、これほどまでに美しい作品に変換したアーティストは他にはいないだろう。 あまりに悲劇的な事態に一時は自宅に引き篭ってしまったエリック・クラプトンは、この曲を作ることでその悲しみを乗り越え、その後の人生を切り開いたという。 亡き息子へ語りかけるような歌詞は、深い愛と悲しみに溢れ、そして己に言い聞かせる意志のようにも聴こえる。 世界中の人々の心を震わせた同曲は、発売翌年の1993年に、第35回グラミー賞で最優秀レコード賞、最優秀楽曲賞、最優秀男性ポップ・ボーカル・パフォーマンス賞の3部門を受賞。

5. The Sweetest Taboo / Sade (1985年)
1985年にリリースされ、UKアルバム・チャートとUSビルボード200の両方で1位を獲得した2nd Album「Promise」に収録されたシャーデーの代表曲の一つ。 1980-90年代のUKソウル・ムーブメントの中で、コンテンポラリー感を伴うサウンドと、アーバンかつオリエンタルな存在感を持つ唯一無二のバンド。 紅一点のリードシンガー、シャーデー・アデュの美しく妖艶ながらも“強さと知性”を感じさせるルックスも印象的で、数多くのアーティストがその存在の影響を語る、まさにミュージシャンズ・ミュージシャン。タイトルどおりタブーが秘める甘美な刺激に溢れる楽曲。

6. How Deep Is Your Love (1977年)
一旦は全10曲としてアルバム制作を終えて完成を迎えようとした松田聖子が、急遽この曲の追加制作を決断。 オリジナルは、1977年にリリースされ、同年のクリスマスにアメリカのビルボードチャートで1位を記録したビー・ジーズ(Bee Gees)のシングル曲。 映画「サタデー・ナイト・フィーバー」の劇中及びエンディングに起用されたことでも有名な同グループの代表曲のひとつ。 包み込むような優しいメロディーと、3兄弟によるハーモニーが美しいサウンド、そして愚かな人の世に傷つきながらも愛の深さを確かめるように語りかけるメッセージが、彼女を更なるレコーディングへと突き動かしたのかもしれない。

7. Killing Me Softly With His Song / Lori Lieberman (1972年)
1972年にアメリカでリリースされたポピュラー・ソングで、オリジナルの歌手はロリ・リーバーマン。 飛行機の機内BGMに採用されていたこの曲を、偶然聴いて気に入ったロバータ・フラック(Roberta Flack)がカバーし、1973年にリリース。 彼女の表現力と秀逸なアレンジにより、ただのラブソングではなく、「歌」が、人に、人生に、与える力に溢れる楽曲へと昇華され、4週連続でビルボード・チャート第1位の大ヒットを記録。 グラミー賞で最優秀レコード、最優秀楽曲、最優秀女性ボーカルの3部門を受賞。1996年にはヒップホップ・グループのThe Fugeesがカバーし、グラミー賞R&Bパフォーマンス賞を授賞、より幅広い世代に愛される楽曲となった。

8. Chasing Cars / Snow Patrol (2006年)
北アイルランド出身スコットランド出身のオルタナティヴ・ロックバンド、スノウ・パトロールの代表曲で、2006年のアルバム『Eyes Open』に収められた世界的なヒットナンバー。 特に何をするでもなく、ふたりでたわいのない時間を過ごす、そんなひと時でさえ愛おしく感じるほど愛していることを、"I love you"の言葉を使わずに伝えた趣のあるメッセージソングは、イギリスだけでなくアメリカでも大ヒットを記録。 日本では『テラスハウス』のエンディング曲として使用された事でも有名な一曲。

9. Saving All My Love For You / Marilyn McCoo & Billy Davis Jr. (1978年)
マイケル・マッサーとジェリー・ゴフィンが作詞作曲。オリジナルは、1978年にマリリン・マックー&ビリー・デイヴィス・Jrによるマイナーヒット曲であった。 1985年に発売されたホイットニー・ヒューストン(Whitney Houston)によるカバーが有名で、いけない恋とわかっていても自分の心に素直で率直でありたいというメッセージは、彼女の圧倒的な歌唱力により多くの女性の心に響き、全米シングルチャートNo1のヒットを記録。 その後7曲連続で全米No1ヒットを獲得するホイットニーが世界を席巻するきっかけとなった楽曲。1986年のグラミー賞で最優秀女性ポップ・ボーカル賞を獲得。

10. Paradise / Sade (1987年)
同じくシャーデー作品の中で根強い人気の同曲は、恋愛のみならず人間愛とも捉えられるラブソング。 自らの人生を讃歌するような情熱的なメッセージが込められており、UKソウルという枠を超えて、アーバンなダンスグルーヴを感じさせるサウンドの魅力も相まって、時代を問わず数多くのDJがフェイバリットチューンとしてプレイする事でも知られる。 1988年の3rd Album『Stronger Than Pride』に収録され、全米ビルボード・ホットR&B/ヒップホップ・ソング・チャートで1位を獲得。

11. Love... Thy Will Be Done / Martika (1991年)
アメリカの歌手であり女優でもあるマルティカの1991年に発売されたセカンド・アルバム『Martika's Kitchen』に収録され、プリンス(Prince)が共同でプロデュースを手がけた事でも有名なヒット曲。 曲名はマルティカが歌詞を書き溜めたノートに書いていた祈りの言葉であり、プリンスはそのノートを見て感銘を受け、いくつかのページをコピーし、そのインスピレーションからこの楽曲を作り上げたという。 主にマルティカの言葉を紡いで作られたという歌詞は、言葉のひとつひとつに瑞々しく澄み切った若さと透明感を感じさせてくれる。