大橋 「いつも、なにかしら自分たちのわがままみたいなもの、トゲの部分を入れたくなるんですね、それをなくしちゃうと、ただ、ポップだね、キャッチーだねって終わっちゃうから」

大橋卓弥はこう語る。ポップスであることを貫きながら、さまざまな音楽性にトライし、こだわりに満ちた楽曲制作を繰り広げてきた。それがリスナーの一人ひとりに届いて広がってきた。そうしてスキマスイッチは確固たるキャリアを築き上げてきた。
約3年半ぶりとなるオリジナルアルバムは、『Hot Milk』と『Bitter Coffee』の2枚同時リリース。「求められているもの」と「作りたいもの」という2つの切り口で7曲ずつをまとめた計14曲だ。ただ、実は、当初にはもっと沢山のアルバムを一度にリリースするというアイディアもあったという。

大橋 「前回の『新空間アルゴリズム』というアルバムが完成して、それを引っ提げてツアーをしている時くらいから『次のアルバムは複数枚リリースしたいね』という話をしていたんです。最初は4枚とか5枚とか同時リリースとかできたら面白いねって」

常田 「最初はジャンルでわけようというイメージもありました。たとえばロック、ファンク、AOR、シティポップとか。もしくはバラード、アップテンポ、ミディアムみたいに曲調でわけたらどうかということも言っていて。ただ、そこからタイアップの話をいくつかいただいて、そんな中でスタッフと打ち合わせをして“推し曲”として応援歌を作ろうということで、『OverDriver』と『されど愛しき人生』という『Hot Milk』の１曲目と７曲目の原型のアイディアが出てきた。それも僕たちのエゴだけで作っていない感じがして、そんな風に求められて作るものと僕たちがやりたいと言って作ったものが徐々にわけられていった感じですね」

こう語る２人の言葉の通り、2枚のアルバムを聴いて実感するのは曲調のバラエティの広さだ。ビートルズやオアシスに通じる王道ロックの壮大なスケール感に満ちた「吠えろ！」。アコギをかき鳴らし日本語の叙情性を歌い上げるフォークソング「東京」。ホーン隊が映えるグルーヴィーなファンク・ナンバーの「I-T-A-Z-U-R-A」。深くダークなサウンドが広がるバラードの「SINK」。洒脱なシティポップの「フォークで恋して」。多彩なジャンルとテイストが広がっている。先入観としては『Hot Milk』のほうが大衆的、『Bitter Coffee』のほうが玄人好みと思いがちだが、決してそうとも言い切れないのがアルバムの面白味だ。

常田 「ひとつがポップで、もうひとつがマニアックっていうことではないなって思っています。どっちにもポップな部分とマニアックな部分がある、バランスのいい2枚になったと思いますし、オファーをいただいて書き下ろした曲にも自分たちの色をちゃんと出せていたからこそ、そういうバランスになったんだろうと思います」

そんな中で、アップテンポで疾走感に満ちた「OverDriver」と包容力たっぷりのバラード「されど愛しき人生」という『Hot Milk』収録の２曲は、それぞれみずみずしい力強さと、やるせない日々に優しく寄り添うような優しさを持っている。

大橋 「『OverDriver』はシングルっぽい作り方をしていこうって話だったんですけど、シンタくんが書いたAメロのリフを聴いた瞬間に『これは勝てる曲だ』と思ったんですね。ハッとさせられるポイントがあった。トリッキーなAメロがある時点で、わかりやすくてキラキラしたサウンドで、どこまでポップにしても、ただのポップソングで終わらないんじゃないかと思っていたので。スムーズに進んでいった気がします」

常田 「『OverDriver』と『されど愛しき人生』に共通しているワードとして“応援歌”というのがあって。今までスキマスイッチとしては応援歌を作るというイメージをあまり持たずにやってきたんです。あくまで聴いた方が決めるものだと思っていたので。でも、今のこういう状況の中で『スキマスイッチなりの応援歌を作ってみないか』という話をスタッフたちとしていて盛り上がって、そこから作った曲なんです。『OverDriver』はアップテンポで背中を押せるような曲を作って、そうなるとバラードに関しても同じテーマというわけにはいかない。『されど愛しき人生』はアコギで始まるオーガニックなサウンドで、男性がトボトボ歩いているような雰囲気が出たと思っています」

一方、新作の中で最もパーソナルな位置づけとなっているのが『Bitter Coffee』のラストに収録された「あけたら」。新型コロナウイルスの影響で外出自粛となりライブなどの活動もパッタリと止まった2020年春のステイホーム期間中に大橋が書き下ろした一曲だ。《窓を開けたら》《扉を開けたら》《この夜が明けたら》と歌われるバラードは、コロナ禍の心情が刻み込まれたドキュメント的な曲とも言える。

大橋 「僕はコロナの影響をかなり受けたところがあって。現場がなくて、家を出られなくて、テレビをつければずっと同じニュースが流れていて。時間ができたので『せっかくだから曲を書こうかな』って思ったんですけど、いざやろうとすると、曲を書くモードに入れなかったんですね。でも、こうやって音楽家として生きているんだから、どういう瞬間でも曲にして、その時の自分を記録しておきたいという気持ちもあった。無理やり1曲だけ絞り出したんですが、それが『あけたら』という曲になりました」

音楽を巡る状況が大きく変化した2020年代。それでも、人々の生活に寄り添うポップスは変わらない価値を持っている。ぶれない歩みを経て「2つの個性」を持つアルバムを作り上げた2人に「ポップスとは？」という問いを投げかけてみた。

常田 「“所有”というのが大事な意味を持っていると思います。僕らとしては沢山の方に向けた大衆性を持ったポップスとして作っているんですけど、受け取る側は“一”なんですよね。それ以上でもそれ以下でもない。“一分の一”の出会いを増やしていきたいし、“一分の一”の楽しみ方があってほしい。もちろんみんなで楽しもう、プレイリストで共有しようという感覚もありだし、正解だと思うんですけど、曲の受け止められ方としては、もうちょっと重い、ずっと手放さない宝物のようなものであってほしい。僕にとってのポップスって、所有して“一分の一”の自分で楽しめるものであってほしいという思いがありますね」

大橋 「ポップスって、こっちから『俺達はこうだ』と押し付けないものだと思うんです。向こうから手を伸ばしてくれて、持っていってくれるもの。だから一点に対する圧力は弱いかもしれないけれど、そのぶん幅広いところに向かっていくものな気がしていて。僕らはそういうものをずっと探している感じです。すごく難しいことをやっていると思う、でもそれを見つけられたらすごく楽しい。それは僕らがバンドじゃないということも関係していて。バンドだったらそのスタイルがある。でも、僕ら2人にはそれがないので、とにかくイチから積み上げていかないといけない。それが綺麗にまとまったときに、表面的には爽やかで疾走感のある曲とか、綺麗な愛をうたうラブソングという印象かもしれないですけれど、もっとドロドロしたことをやっている感じがするんですよね。僕らスキマスイッチとしては、外はピカピカにコーティングされているかもしれないですけれど、中はドロドロになっているようなものを作りたい。自分たちが聴いてきた先輩たちにもそういう部分を感じるし、そういうものがポップスなのかなって、最近思うようになりました」

執筆：柴 那典
SkimaSwitch
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“今、求められているもの”をテーマに、
スキマスイッチのPOPサイドを収録したタイアップ楽曲満載のアルバム。 全曲ダイジェスト映像

  • OverDriver
    1. MV
    2. DL
  • 吠えろ！（テレビ朝日「アニマルエレジー」テーマソング）
  • 青春（ジョンソン・エンド・ジョンソン アキュビュー2019キャンペーンソング）
  • Ordinary
  • 東京（テレビ東京「東京交差点」オープニングテーマ）
  • スイッチ！（東海テレビ「スイッチ！」テーマソング）
  • されど愛しき人生（テレビ東京ドラマ25「鉄オタ道子、2万キロ」エンディングテーマソング）
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    2. DL
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“今、メンバーが作りたいもの”をテーマに、スキマスイッチの魅力であるシニカルな世界観や、今までにない挑戦的な楽曲を収録したアルバム

【収録曲】

  • I-T-A-Z-U-R-A
  • G.A.M.E.
  • 風がめくるページ（「AOKIフレッシャーズ」新TVCMソング）
  • いろは
  • SINK
  • フォークで恋して
  • あけたら
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2021.11.24(Wed)
SukimaSwitch
Concept Original Album
Release

Hot Milk

Bitter Coffee

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