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the HIATUS 『Our Secret Spot』
細美武士インタビュー

―6作目のフルアルバム『Our Secret Spot』ですが、今回はどんなビジョンやきっかけがあって、制作に向かったのでしょう。

細美:昨年の〈Monochrome Film Tour 2018〉の最中に、打ち上げの席で次のアルバムどうしようか、みたいな話になって、『俺たちなりのスタンダードナンバーみたいなものを作るってのはどうかな?』って言ったんです。確信があったわけじゃないんですけど。そしたら一葉(伊澤/Key.)や隆史(柏倉/Dr.)もわりと同じようなところにピントが合ってたみたいで。ファーストの『Trash We’d Love』以来、久しぶりにメロディを先に作ってあとから肉付けをしていった曲が多かったですね。最近では大体一葉と隆史と俺の3人でアイデアを出し合ってたんですけど、今回は2人がセッションしている間に俺は別室で作業をしてる時間が長かったです。半日ぐらいまで別室から出てこないこともあって。今作のテイストがわりと歌寄りなのはそういうところから来てる部分もあると思います。

―マスタリングはニューヨークで、ベテランのグレッグ・カルビが担当しています。

細美:グレッグとは今回初めて一緒に仕事をしたんですけど、すごい頑張ってくれるマスタリング・エンジニアでしたね。もともと柏井のミックスがすごく良かったので、それが引き金になったのかも知れないですけど。柏井の姿勢に、グレッグも同じ熱量で応えてくれたっていうか。だから俺はほんとにただの通訳でした(笑)。当たり前ですけど、サウンドのことは彼らには敵わないですからね。柏井は絶大な信頼感のあるエンジニアなので、今作も一緒に作品を作り上げていったっていう感覚です。レコーディングエンジニアとの関係性としては、理想形だと思います。

―the HIATUSもエンジニアも一丸になって、確固たる目的に向かっていったという、力強さを感じます。

細美:ちゃんと目的の場所に着地できた実感はありますね。それぞれの楽器の玉を大きく録るために、アンサンブルはなるべくミニマルに作ろう、っていうのは早い段階でメンバー間でも共有してて、サウンドデザインとしては、ミッドとハイの歪みに頼らない音作りに挑戦しました。『ちょっと音数少なすぎるかな』って思う場面もまあ、あったんですけど(笑)、そこでいつものサウンドに揺り戻さないで、新しい音を完成させるまでみんなで頑張って良かったなと思います。

―うんうん、わかります。

細美:音楽との付き合い方や、平均的なリスニング環境が大きく変化した数年間でしたからね。一度自分たちのサウンドもアップデートしてみたいな、と思ってました。

―ロックを古びたものにしない、でもスタンダードなものとして成立させるっていう、実はめちゃくちゃ難易度の高いところに着地成功したアルバムですよね。

細美:まあそこまで大きな話ではないですけどね。シーンはさておき、ハイエイタスとしてのアップデートを目指して頑張ったし、それは実際にできたんじゃないかなと思います。

―〈Monochrome Film Tour 2018〉で“Firefly / Life in Technicolor”が披露されたときに、モノクロームな視界が鮮やかに色づいていくようなイメージを受け取りました。今回のアルバムの中でも、この曲から始まる高揚感が素晴らしいです。

細美:曲順的にも、アルバムの後半はだんだん抜けが良くなっていくように作ってあります。Fireflyだけ作曲した時期が他の曲とは違うんですけど、アルバムの中でいいフックになってくれたと思います。こういうプリミティブで生命力のある曲は、ハイエイタスの新しい一面になってきてるんじゃないですかね。

―なるほど。『Our Secret Spot』という新作のアルバムタイトルは、“Chemicals”の歌詞の一節にも織り込まれていますが、このタイトルに込めた意図はどういうものですか。

細美:アラニス・モリセットの『Jagged Little Pill』を聴いたときから、曲のタイトルじゃなく歌詞の一節をアルバムタイトルにする、っていうスタイルを真似させてもらってます。『Our Secret Spot』はまあ、いつものthe HIATUSのタイトルからすると柔らかすぎるかな、とも思ったんだけど、温かみもあっていい言葉だなと思います。アートワークともすごく嵌まってたので、このタイトルにしました。一葉が『今回のアルバムは歌詞もしっかり読んでほしい』って言ってくれたのは嬉しかったですね。このアルバムは全曲英語詞だけど、対訳もついているので。

―7月31日から新作ツアーが行われます。意気込みはいかがですか。

細美:レコードのサウンドデザインがアップデートされたので、ライブのサウンドも変わるかも知れないですね。今までの曲も新譜の音に引っ張られて変化するかも知れないので、そのあたりが自分たちでも楽しみです。

―the HIATUSのこの10年、振り返ってみていかがですか。

細美:ほんとうにいい仲間に恵まれた10年間でした。昨年末のCOUNTDOWN JAPAN 18/19でかなりオルタナティヴなライブをやったんですけど、ウエノ(コウジ/B)さんが『絶対に伝わったものはあると思うぞ』って言ってくれてたんですよ。ここまで割と突拍子もないことにチャレンジしてきたけど、みんなでそれを楽しみながら、助け合いながらやってこれた。もし自分の音楽人生の中にthe HIATUSがなかったら、『もうちょっと違うこともやってみたかったな』っていつか思ったかも知れないですね。でもそういう後悔はなく生きて行けそうです。こんな人生はなかなかないんじゃないかな。ミュージシャンとして、やってみたいけどやれなかったっていうことが、俺にはないので。すごく幸運なことですね。

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