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Be My Last Interview
9月28日に宇多田ヒカルがリリースする14thシングル「Be My Last」は"Utada"としてのデビュー後、初めての日本語詞作品であり、彼女にとって前シングル「誰かの願いが叶うころ」(映画『CASSHERN』主題歌)に続き、2度目の映画主題歌となった作品だ。
三島由紀夫が亡くなる前、最後に発表した四部作小説『豊饒の海』の第一巻『春の雪』を原作にして制作された映画『春の雪』(10月29日より全国東宝洋画系にてロードショー)は切ない悲恋物語が描かれている。
久々の宇多田ヒカルの新しい歌。三島由紀夫の原作。そして、映画の主題歌。それぞれの世界観が重なりあって「Be My Last」は生まれた。まず、宇多田ヒカルがいちばん最初にスタートさせたのは曲作りから。その作業はこの主題歌の話が彼女の元に届くずっと以前から始まっていた。
「『EXODUS』(全米デビュー・アルバム)を作ったあとぐらいから、次のは割と素直なもの、わかりやすいものを作りたいなって思ってた。個性は凄くあるんだけど、その音楽が作っている人そのものっていうか。その人がコレを作っているんだっていうピュアなものが感じられるものを作りたかった」
 エレキギターをかき鳴らしながら、自分の思いのままに曲を完成させていく。これまでキーボードで作曲する事が多かった彼女が手にしたエレキギターは感情の微妙な揺れさえダイレクトに曲に映し出してくれるアイテムとなり、作曲の幅を広げてくれる新しい武器になった。そして、そのありのままの感情が刻まれた曲から導かれるように、宇多田ヒカルは歌詞を書いている。
「最初の三行で自分の言いたかったことが言い切れちゃった。私には珍しく、いきなり冒頭から書けたんだよね。言いたいことが最初の三行で言えちゃったことで、逆に言葉のいらない部分も見えたんだ」
 言葉数は少ないけれど、「Be My Last」に注がれた想いは聴く者の心にズシンと響く言葉になり、言葉のない部分には余韻が残る。詞を書く前に三島の原作をあえて読まず、映画の脚本から映画の世界観を想像した、という宇多田ヒカル。映画の主題歌になるという所から、あえて一歩引いた場所で詞を書く事で、逆に主人公たちの中にもリスナーの人達の中にも、そして宇多田ヒカルの中にも存在している感情をストレートに描き切ることができたんだろう。
「「Be My Last」って実験的な感じが凄くすると思う。でも、シンプルなものが実験的って面白いよね。しかも、この時代に。まぁ、どんどんベテランになってくる芸歴になってきたんだけど、いつまでもチャレンジしたいっていうか….。これからも変わっていきたいなぁって思う」
今作を「CDのみ」と「CD+DVD」という2種類のパッケージで発表するのも、これまで以上に宇多田ヒカルの楽曲が映像との関係や関連を深めていくという意志の表れ。
「同じ事を繰り返したくない」と言い続けている宇多田ヒカルの新曲「Be My Last」は、その彼女の進化と変化と挑戦をしっかりと刻んだ作品になった。

取材・文/松浦靖恵
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