2024年12月31日をもって無期限活動休止に突入した和楽器バンド。昨年12月10日に東京ガーデンシアターで行われた『和楽器バンド Japan Tour 2024 THANKS ~八奏ノ音~』最終公演が、今のところ我々の前に立つ最後のステージとなったが、この模様が6月25日に映像作品として発売されることが決定した。
この映像作品のリリースが決定した際に、これまで応援してきてくれたファンの皆さんへ向けたプレゼントを用意できないかということで、ラストライブ終了から10日後に鈴華ゆう子(Vo)、黒流(和太鼓)、町屋(Gt&Vo)によるオフィシャルインタビューの場が用意された。正真正銘の「和楽器バンド活動休止前ラストインタビュー」では、映像化される東京ガーデンシアター公演に関する話題を中心に、ラストライブを終えた直後の心境や和楽器バンドがライブを通して表現したかったこと、さらには“これから”について素直な言葉で語られている。映像作品のリリースを目前に、この約1万8000字にわたる貴重な発言の数々をじっくり堪能していただきたい。
取材/文:西廣智一
新規ファンが増えた状況で活休に入れたことでより前向きになれた
──東京ガーデンシアターでのライブを終えて少し時間が経ちましたが、率直に今はどういう心境ですか?鈴華せっかくなので、素直に話していきましょうかね。たぶん人によって個人差は若干あると思うんですけど、私はライブが終わった直後は「これが最後か。ここから活休に入っていくのか」という実感が全然なくて。例年だったら年末年始を挟んで『大新年会』をやって、そのあとに長期の休みが来るので、3ヶ月ぐらいみんなと会わないことも普通にあったんですよ。なので、そういう意味での寂しさはそこまでないんですけど……この10日の間に当日の映像とか写真を観ていたんですが、その中でファンのみんなの紫のペンライト、あの光景をしばらく見られないってことがまず最初に襲ってきた寂しさでした。だから、メンバーと会えなくなるっていう寂しさはまだなくて(笑)。それこそ、昨日も黒流さんとあってるし、いろいろやりとりもしていたので、一番は10年分のファンの皆さんとの光景ですね。そこが一番寂しいです。
──ある意味、ちょっとした日常の光景のひとつになっていたわけですものね。鈴華そうなんです。それこそ、和装のコスプレをしたファンの子たちとも、しばらく会えなくなりそうですし。特に今年(2024年)はリリイベもあったから、そういったファンの子たちをこの10年で一番近くに感じていたんですよ。
町屋ファンクラブの旅行とかもあったしね。
鈴華そうそう。FC旅行も初めてでしたし、そういうファンの方々との距離が近い企画がとても多かったのも10周年ならではで。ちょっと離れ気味だった方も「10周年だから」とか「活休を挟むなら」ってことで、「また会いに行きます!」ってSNSで声をかけてくれたりしましたし。それまでの和楽器バンドの見せ方とちょっと違う過ごし方ができたおかげで、顔と名前が一致した方も多かったですしね。
黒流僕はまだ(活動休止するという)実感はないかもしれないですね。僕らは同じスタッフやチームで何度もライブをしてきましたけど、お客さんの中にはたった1回のライブにしか来られない方もきっといらっしゃるわけじゃないですか。人生におけるその1回をいかに濃いものとして、その人の中に残すかが毎回の課題であり、忘れてはいけないことだと思うんです。特に今回のツアーは5公演のすべてにそういう気持ちをより強く込めていたんです。もちろん、毎回全力でやりきるという意味では今までのツアーも一緒なんですけど、今回はその5本を毎回「これが最後」ぐらいの気持ちで臨んだので、今はまだ終わった直後すぎて冷静に振り返れないというのが正直なところかもしれないです。ただ、そのツアーの中でも「ちょっと感情的になってしまったらどうしよう」とか「ここで泣いたら面白いかな」とか思ったりもしたんですけどね(笑)。
鈴華思いましたよね(笑)。
黒流誰かひとり泣いたら、みんなに火が着いちゃうなとか(笑)。でも、それもなく演奏に集中することができましたし、とにかく楽しんでもらいたいっていう思いと、10年分の感謝を伝えたいという気持ちが一番だったので、そこに関してはやりきれた気がします。正直、もっと感慨深くなるのかなと思っていたんですけどね。
町屋僕も例に漏れず、まったく実感がなくて(笑)。というのも、この3人ってわりと何かしらの責任をバンドの中で担ってる部分があるので、ファイナルが終わってからもメンバー間で連絡を取ってますし、全然実感はないんですよ。なので、僕はこの映像作品がリリースされて、それを観たところでやっと実感してくるんじゃないかなっていう気がします。この作品がまだまだ先にリリースされるっていうのもわかっているし、あくまでファイナルのライブが終わったっていうだけで12月31日までは和楽器バンドはまだ動いているので。とはいえ、あのライブを今振り返るとですね、僕もちょっと歳も取ったので感情的になるかなとか、いろいろ危惧していたところはあったんですけど、黒流さんも近しいことをおっしゃっていたように、そのへんをカバーできて、自分をある程度客観視しながらライブができたのは、これはやっぱり場数を踏んできたからこそかなっていう気もしていて。例えば、最後の「GIFT」は楽曲のテーマが悲しい別れっていうのではなく、あくまで次のステップに向けての前向きな休止っていうところで、また笑顔で会いましょうということを強く主張しているので、そこはお客さんを笑顔にしようとか笑顔になってほしいなという思いを込めてパフォーマンスをしていたし、泣いている子がいたら口角をグッと上げて「笑いな」って合図したりとか、そういうアピールは結構していたので、その方面では演者としては上手にできたかなと思っています。
鈴華誰も泣き崩れたりもしなかったし、そういうメンバー間の伝染がなかったっていうのが大きいかもしれません。私もとにかく最後まで歌い切ろうっていう気持ちが強かったですし、その中でみんなも「これが本当の終わりじゃなくて、まだまだ続いていくんだ」って感じていたからこそ、そういう負の伝染もなかったのかなって、今思いましたね。だって、喧嘩別れとかじゃないので(笑)。
黒流そうだね(笑)。
鈴華あと、この5本のライブを通じて新規のお客さんが増えていたことにもびっくりして。
町屋そこは勿体なかったよね。
鈴華でも、その勿体ないなっていう気持ちがある中での活休が、逆に「このままじゃ終わらない」感があってよかったなって。
黒流初めて和楽器バンドのライブに来る人がこんなにたくさんいるんだと知れたのは、本当にうれしかったなあ。
鈴華毎回「初めて来た人?」って聞いていたんですよ。お客さんが減り続ける中での活休だったらもっとしんみりしたかもしれないけど、どの地域も初めての方が本当に多くて。ずっと応援してくれた皆からはこれからの私たちの生き方を応援しますという雰囲気も伝わり、加えて新規の方もこれだけいるんだという事実もあり、そういうありがたい状況下で活休に入れたことでより前向きになれた気がしました。
──お客さん側もそうですけど、演者側としても「ここで休んじゃうのは勿体ないな」って思えるタイミングで活休に入れるのって、実はすごく幸せなことですよね。鈴華それは今まさに感じています。
町屋たぶん、このラストイヤーのメンバー間のテンションが、わりとよかったのも大きいと思うんです。ライブの本数が少なかったりといろいろ制約あったからこそ、いかにお客さんに楽しんでもらおうかっていうことをメンバー同士で結束して考えることができたので、そういう意味ではこのタイミングで正解だったのかなと思います。
ラストツアー5公演は「『大新年会』のボリュームが5本分」
──『和楽器バンド Japan Tour 2024 THANKS ~八奏ノ音~』、僕は初日のLINE CUBE SHIBUYA公演と最終日の東京ガーデンシアター公演を会場で拝見しましたが、どちらも場の空気感が違っていて興味深かったです。初日はいい意味で、いつものツアーの中の1本みたいな空気感が強く、これが活休前最後のツアーだとはまったく感じられなかった。だから、最初から最後まで晴れやかな気持ちで楽しめました。その一方、ファイナルはライブ序盤、メンバーの皆さんの表情から若干の緊張感が伝わってきて。鈴華ファイナルは映像収録が入っていたからかな(笑)。
町屋緊張というよりは、わりと慎重になっていたのかもしれません。カメラも回っていますし、しかも(活休前)最後のライブなのであんまり変なことも言えないし、変な動きもできないし。と考えると、ある程度丁寧でかしこまった感じになってしまうのかなと。
鈴華いつも通り、カッコはつけているんだよね。でも、今のお話を聞いていて思うのが、やっぱりステージ上の空気感ってしっかりファンに届くんだなっていうのを、ファンの方々の感想とか観に来てくれた知り合いや家族の感想から感じました。例えばMCであまり喋らなくても、ステージ上の8人の空気感から今どんな心境かっていうのが、お客さんにダイレクトに伝わっていたんだなって。
──丁寧にというのは、わかる気がします。「この曲を演奏するのは最後」だと思うからこそ、1曲1曲を大事に披露していたでしょうし。町屋そうですね。リハーサルのときから「これでしばらく演奏しなくなるのか」って思いながらステージに立っていましたし。やっぱり活休前ラストイヤーになると今まで当たり前だった物事の一つひとつに対して、「これでしばらく最後かもしれない」と何かにつけて思ってしまうところはありますよね。
──確かに、ツアーとして5本というのは今までと比べると少ないですし、だからこそ1本1本をすごく濃密にしたかったと。『ALL TIME BEST ALBUM THANKS 〜八奏ノ音〜』に伴うインタビューで「(最後のツアーは)『大新年会』を5本やるような感覚で臨みたい」とおっしゃっていましたが、まさにそういう心づもりだったわけですものね。改めてお聞きしたいんですが、このツアーで皆さんはどういったものを届けようと考えましたか?鈴華まず、私たちがこの和楽器バンドの好きなところを並べてみようと考えて、私たちが今やりたい曲とファンの皆さんの間で人気の曲を選んでいって。加えて、私はこのバンドのリーダーとして、メンバー8人が納得してやれる5ステージにしようというのがすごく大きかったです。ツアーのたびに何がベストなのかをいろいろ考えるんですけど、今回はどこに落としどころを作るとチームの雰囲気がよくなるのか、特にこのラストツアーに関して私はかなり気にしていたので、そこについてはよい雰囲気が最終的に出来上がって、すごく安心できたなと思っています。
黒流いちアーティストとしては、毎回セットリストを作る中で必ず新曲も入れたいという思いもあるんですけど、今回に関してはちょっと違うなと思って。やはり過去のいろいろな作品を今の僕たちでやったほうがいいし、それをしっかり観ていただきたいなという思いが強かったので、「新しいものを」っていう気持ちはあえて封印して、今までいろいろやってきたものをできるだけ出し切ろうと思いました。ベストアルバム自体がそういう形になっていましたし、プラスアルファでそのベストアルバム以外の曲をどうするかっていうのはこの3人ですごく話し合っていて。聴いた瞬間、出会った当時の光景が思い浮かぶようなメモリアルな曲を凝縮したものにしたいなと考えて、たくさん曲を詰め込むことで僕らもいろんな情景をお客さんと一緒に共有したかった。ただ、そこで問題となるのが曲数の多さになるわけで、セットリストではメドレーと明記されているけど、実際にはフルコーラスで4曲演奏していたりと自分たちも騙し騙し臨みました(笑)。他のメンバー的にも異論は出なかったし、「長いけど、このぐらいやっちゃっていいんじゃないか」っていうのは全員の総意でもあったので、そういう意味で8人の思いを届けることができたんじゃないかと思います。
鈴華確かに、みんな「長いなあ」とは言うんだけど「嫌だ」とは言わなかったよね。
黒流長くなるから、みんな身体を鍛え直したっていうのはありますけどね(笑)。
町屋僕は逆に、すんごいしんどかったんですよ(笑)。『大新年会』のボリュームを5本分、ツアーでやるもんじゃないなって思った一方で、今後再始動したあとに『大新年会』を関東だけでなく、地方遠征を含めた形で本数を絞ってやる形もアリだなという、新たな可能性は見えてきました。
鈴華このボリュームのライブだったら2日連続とか中1日で複数やるんじゃなくて、毎週末に1本という形がいいなあ(笑)。
町屋そういうホスピタリティを確保できてこそ、実現可能な気がします(笑)。
鈴華だって、2デイズの翌日は声もガラガラだし。
町屋疲労も1日で回復しない年齢になってきて、それこそ翌々日に筋肉痛が来たりしますからね。
──キャリアの長いアーティストがツアーを行う際、週末にのみライブを行うなどのペース配分をするケースも多いですし。年齢を重ねれば、そういう自己管理も必要になるわけですものね。黒流僕は年齢公表したので、逆にすっきりしたところもあります。それ以前は、(実年齢より)ひとまわり若いふりをしていたので(笑)。
町屋僕は年齢を公表していましたけど、たぶんファンの皆さんは僕よりお兄さんだってことはなんとなく雰囲気でわかっていたと思いますし、いいとこ5つぐらい上ぐらいじゃないかなと思っていたんじゃないかな。まさか10個上だとは思ってなかったでしょうね。
黒流「お父さんと一緒の年齢でびっくりしました」って声もありましたから(笑)。
最終日の「地球最後の告白を」で“足し算”が“掛け算”に
──ちょっと脱線しちゃいましたが(笑)、ツアーの話題に戻ります。ベストアルバムがリリースされて、これまでの10年のキャリアを振り返るという名目がひとつあり、さらにベストアルバムから漏れた曲をどう散りばめていくか、どれをセレクトするかという課題もあった。ボカロカバーをたっぷり聴きたいという声もあれば、オリジナル曲もじっくり聴きたいという声もあるでしょう。その結果、公演ごとに日替わり曲も用意されることになり、最終的に5日間で相当な曲数になったわけですよね。町屋そうですね。セットリストの7曲目は毎公演違ったんですけど、このへんは久しぶりのボカロカバーがメインでした。
鈴華でも、ニューアルバムが出てすぐあとのツアー初日と比べると、今回はさすがやり慣れている曲ばかりだったので、初日からバンド内で一体感を作れて。さすが10年のキャリアは伊達じゃないなと感じました。
──最終日に披露された「地球最後の告白を」で、スクリーンに歌詞が表示されていたじゃないですか。あの歌詞を読んで、ファイナルだから選んだのかなと思ったんです。鈴華確かに、「地球最後の告白を」はファイナル(に演奏するの)がいいよねってことは意見が一致していたし、「愛知は『天樂』っぽくない?」とかほかの公演に関してもそこは一緒で。私、本番の1〜2日前に「地球最後の告白を」を運転しながら聴き直したんですけど、泣きましたもん。
──バンドとして伝えたかったことを歌っている印象が強くて。鈴華そうですね、それで選んではいます。
町屋我々は初期の頃、バーチャルの要素を含んだMVをよく作っていたんですけど、そこでメタバースの中の人たちっていう感覚を植え付けて、その中の人たちが実際にライブを行うプロセスまでを売り方のパッケージングとしてやってきたので、そういう意味では「地球最後の告白を」の世界観は初期にやろうとして、次元が違うもののクロスオーバーっていうものにすごくハマりがいいんですよね。
──なるほど。町屋だから1曲目、2曲目、3曲目のトータルでどのくらいの感動度になるか、みたいなのがあるとするならば、最終日に「地球最後の告白を」を持ってくることで僕は“足し算”じゃなくて“掛け算”になると思っていて。なので、例えば「GIFT」みたいに掛け算になる要因を要所要所に持ってくることで、ステージを観ているお客さんの感情の揺らぎ……上がったり下がったりする演出をこちら側がコントロールできるので、そのへんもある程度考えた上でのセットリストではあると思います。
──MCのあと、「Starlight (I vs I ver.)」で気持ちを再び徐々に上げたあとに「地球最後の告白を」がくるので、観ている側としては感情が一気に込み上げてくるんですよ。鈴華実際、ステージから見たらみんな泣いてましたもん。
──町屋さんのおっしゃるように、今回のセットリストって気持ちの起伏が本当に激しくて、没入感がハンパなかったです。黒流うれしいですね。今回、残念ながら削った曲もあったんですけど、同じような役割を持っている曲を日替わりで選んだりしていて。自分たちも客観的に見て「こういう曲順だったら気持ちがアガるな」とか「この曲のあとにはこれを聴きたいな」とか、そういう流れってライブにおいては大事だと思うし、特に今回はラストツアーというのもあったので、流れは丁寧に作っておきたかったし、曲数が多いからこそ大きな流れとして最後まで持っていけるようにというのは気を付けました。
町屋これでも5曲ぐらい削りましたよね。
黒流「ブルーデイジー」とか「Ignite」とかもやりたかったですし。最初の案では入ってたんですよ。
オープニングは「アルバムのストーリー性と乖離しないように意識」
──正直「本編が終わるまでにこれだけ曲数やってたんだ、これだけ時間が経ってたんだ」っていう感覚が、観客側としてはバグってましたから(笑)。それくらい入り込めて夢中になれる流れで、一瞬たりとも気持ちが途切れなかったライブだと思いました。町屋でも、我々は別の意味で時間感覚がバグってしまっていたんですよ。例えば、オープニングの「Overture〜八奏ノ音〜」から「雨のち感情論 (Re-Recording)」まで立て続けにやると、そこでライブ1本分ぐらいの疲労があって(笑)。もともと、うちのバンドは勢いのある曲が多いんですけど、そこが好きでライブに来てくれるお客さんも多いので、そういう人気曲を中心にセットリストを組んでいくと、実際はブロックごとにライブ1本やったかなぐらい疲れるんです。なので、そこでリハーサルを重ねるごとに、そして本番を重ねるごとに、この流れの中で自分がどういう動きをするのか、どうしたら飽きさせないように見せられるかは、結構集中して考えました。
黒流通常のライブにおけるブロックに、さらに1〜2曲多かったのが今回のツアーだったので、いつもの肌感覚でやってしまうと体力的にもバテてしまう可能性もある。なので、そこも計算してパフォーマンスしないとなってことは、今回すごく気を付けたポイントです。
鈴華歌においても限界が来たりしないように、MCのタイミングも考えるんですけど、そこに関しても私的にはぴったりハマってるセットリストでしたね。あとは「キーが低い曲がここで来てくれると、喉が壊れずにいける」とか、そういうこともうまく調整できていいると思いました。
黒流(いぶくろ)聖志の(箏の)調弦は今回、諦めてたよね(笑)。そこまで考えるとキリがないんですけど、とはいえより調弦の大変な曲の並びになってしまったので、「気にせずやっちゃってください」と。
鈴華和楽器バンドの曲は和楽器にとって大変なものばかりだけど、それもこの10年のキャリアがあるからこそ乗り越えられたし、きっとほかの人だったらできなかっただろうなって改めて感じました。
──それだけ曲を並べて聴かせていく中で、見せる要素も重要になってくるかと思います。今回そこに関して特別意識したことってありますか?鈴華これはラストツアーだからというわけではなく、毎回こだわりを持って臨んでいることなんですけど……私たちはいつも初めて観に来た人たちが毎回いると想定して、曲を知らなくても楽しめるようなステージにこだわってきました。王道なところで言うとギターと尺八がお立ち台に乗るパフォーマンスがありますし、それ以外にも「遠野物語」で剣舞を披露したり、箏が前にでてきたり、ドラムと和太鼓のバトルがあったりと、そういうショーの要素を取り入れることも大切にしていて。あと、実は私だけ衣装が途中で変わっていて、その変化があるだけで曲に視覚的な効果も与えられると思うんです。加えて、SEもすべて町屋さんが作っていますし、メンバーがどういうタイミングに、どうやって出てくるか、映像演出もどうするかもメンバー同士で話し合ってできているので、そういった演出のこだわりはライブの見せる要素の大きなポイントになっていると思います。あと、私はどうしても今回は銀テープ演出をやりたくて、実現できて大満足でした(笑)。
黒流ライブ中の動きに関しては、フロントの5人は今回新曲がそんなになかった分、動けるエリアをフルに使ってパフォーマンスをしてくれるんじゃないかと信頼していました。そこに関してはまったく心配はなかったです。
鈴華あとは、映像を使った演出が多い中で、「遠野物語」のときにはあえて映像演出を使わず、私たちの生の姿に集中してもらうとか、そういったところも相談しました。
──SEのお話が出ましたけども、町屋さんは今回のライブにおいてのSE制作に関してはどのように向き合いましたか?町屋演出の方や映像チームとか舞台監督さんとか各所と調整しながら作っていくんですけど、今回はSEらしいSEはオープニングの「Overture〜八奏ノ音〜」ぐらいだったのかな。以前は一人ひとり登場するときにそれぞれのメンバーの音を入れ込むっていう演出をやってはいたんですけど、それを久々にやりましたね。実はそれ自体結構大変な作業で、全然キーが違う曲からワンフレーズずつサンプリングして、BPMも揃えながら作っていくのでかなりカロリーを使うんです。あと、SEに続く「六兆年と一夜物語 (Re-Recording)」は、音源だと冒頭に映写機が回る音が入っているので、ライブではSEのエンディングに映写機の音を入れたりして、アルバムのストーリー性と乖離しないようにと意識して作りました。
──個人的にはライブ後半、「Perfect Blue」から「吉原ラメント」までの流れにおける盛り上がりが特に印象に残っていて。町屋この曲からの4曲は一応「ツインボーカルメドレー」っていう括りで、曲をつなぐ叩き台を僕が作ったんですけど、キーやBPMの関係でつなぎにくいものも存在しているので、その中でどうスムーズにつなげていくかはだいぶ頭を使いました。
──ツアー初日にセットリストを見たら、この4曲は町屋さんがおっしゃるように「ツインボーカルメドレー」と記載されてたんですよね。でも……。鈴華でも、実は全曲フルコーラスだったという(笑)。
黒流ここでも自分たちを騙し騙しやってました(笑)。
町屋今回、セットリストに「八奏絵巻」が入っていたので、曲を断片的な切り取り方で披露しちゃうと、あまりにそういうものが多すぎることになるので、ここは1曲1曲しっかり聴かせて、その上で本編ラスト前に「八奏絵巻」が来ると思い出がぐるぐると走馬灯のように巡るのかなと考えて、こういうつなげ方を意識しました。
鈴華この「ツインボーカルメドレー」で、汗だくになるんですよ(笑)。で、4曲たっぷり歌い切ってホッとしたのも束の間、歌から始まる「細雪 (Re-Recording)」が待っているという。
──実際、ツアー初日は「メドレーだけど1曲1曲がっつりやるな」と思っていましたけど、あとで考えたら全部フルコーラスだったことにびっくりして。ただ、曲間がメドレーのような形でつながっているので、単純に演者側の一息つくタイミングがないだけなんだと思いました(笑)。そう考えると、本当にカロリーの高いセットリストですよね。鈴華でも、「吉原ラメント」でちょっとだけ楽になれるんですよ。その前の3曲はアゲアゲで、「チルドレンレコード」のときが一番「わーっ!」ってなるんですけどね(笑)。
どの会場もその土地ならではの愛溢れる雰囲気がある
──ツアーはLINE CUBE SHIBUYAから始まり大阪・オリックス劇場、愛知・日本特殊陶業市民会館 フォレストホールとまわり、ラストの東京ガーデンシアターと4会場でライブをしましたが、会場ごとにお客さんの雰囲気やリアクション、場の空気感など違いもあったかなと思います。黒流東京は初日を含む渋谷2デイズとラストのガーデンシアターと複数公演ありましたし、だからこそ大阪や名古屋は「今日はとことん楽しむぞ!」というお客さんの気合いの入り方が全然違っていて。ど頭から声援がすごくて、「これで最後だ」っていう空気がより伝わってきた気がします。
鈴華人によってはその日が、その人にとってのファイナルなわけですからね。ガーデンシアター公演に行けない人にとっては特にそうで、そういう意味でも大阪と名古屋の盛り上がりは私も印象に残ってます。特に大阪とか名古屋みたいなホール公演だと、最前列のお客さんとの距離も近いじゃないですか。お立ち台から客席を見下ろすと、最前列がすぐそこって感じなので表情もよく見えますし。
町屋うちのお客さんってわりと西側に熱い人たちが多くて、初期の頃から西に行けば行くほど盛り上がる傾向はあったんですね。でも、今回は西が大阪までっていうことだったので、岡山とか広島とか福岡とか、それこそ四国も含めて、そのへんのお客さんも来てくれたのかなっていうことを、「今日が(今回のツアーに参加するのが)最後の人?」って聞いて手を挙げている人を見ながら思っていて。我々がライブ活動を始めて、最初に関東以外でライブをしたのが『和楽器バンド 単独公演〜真に無双〜』(2015年3月)という初の名阪ツアーだったんですけど、そのときの大阪の客席の歓声が大きすぎて、イヤモニが聞き取りづらいっていうのを初めて体験したんですよ。その後、海外に行くともっとすごかったりしたこともあったんですけど、国内において最初に食らったのが大阪だったんです。その後いろいろ細かく回れるようになると、今度は広島がさらにすごいとか。
鈴華広島は印象的だったね。
町屋そういうのがあるんですけど、とにかく大阪よりさらに西や南の熱量の高い方たちが、今回オリックス劇場に集結してくれたことによって、すごく熱いライブができたのは間違いないかなと思います。
鈴華そう考えると、東京はお行儀がよい印象が強いかな。もちろん年齢層もどこよりも幅広くて、結構ご年配の方とかお子さん連れも多いので、東京だけじゃなくて全国各地からいらっしゃってるんでしょうね。どの会場もその土地ならではの愛溢れる雰囲気が、それぞれにあるなっていう印象です。あと、今回のツアーは海外からのお客さんもめちゃくちゃ多かったんですよ。
──特に東京ガーデンシアター公演は、たくさんの海外からのお客さんを目撃しました。鈴華私、これだけは本当に失敗したなと思っているんですけど、最終日だけ「海外からの人?」って聞かなかったですよ。せっかくBlu-rayに収録されるのに、なんで聞かなかったんだろうってずっと後悔しています。でも、ほかの会場でもたくさんの海外のお客さんがいらっしゃっていて、台湾から団体で来た方々とかヨーロッパからわざわざいらした方もいました。すごいですよね。
当日に8人で話し合って決めた「最終公演アンコールのMC」
──ちょっと話が前後しますが、先ほどファイナル公演を観覧したときに序盤は皆さん若干緊張しているように見えたとお話しましたけど、実際のところ皆さんライブをスタートさせるときはどんな心境でしたか?鈴華人によるかもですけど、私はまず緊張ってしないんですよ。どちらかというと、「これで本当にラストなんだ。じっくり噛み締めよう」っていう気持ちでいたのと、あと私は和楽器バンドのメンバーって和楽器バンドのときにしか見られない魅力的な部分を持っていると思っていて。私含めそれぞれソロでも活動しているんですけど、このメンバーでここに立たせてもらえるからこそ出せる良さというのが必ずあるんです。例えば、私がバンドの中でボーカルじゃない立ち位置になったときに見せるほかのメンバーの魅力だったり、ソロパートを披露しているときにこそ出せる個性だったり、その位置だからこそ見える魅力を堪能しているので、ステージ上から見えるこの光景も今日がしばらく最後なんだと自分に言い聞かせて、ステージに一人ひとり向かっていく後ろ姿を見守っていました。
黒流僕はもっとフワフワするのかなと思っていたんですけど、意外と普通にステージに出ていくことができて、「ああ、意外と冷静なんだな」と自分自身に対して思いました。あとはリハーサルのときにピキって腰をやっちゃったので、本番もコルセットを巻いていたんですけど、それも何年か前だったら「ファイナルなのに万全な体調じゃない」ってことに自分の中でモヤモヤしていたんじゃないかな。でも、これだけいろんな経験をしていると「まあ、そんなこともあるよな」と自分の中で割り切れるようになっていて、そういう状態でも自分の100%、200%を出すにはどうしたらいいんだろうって冷静に考えながらライブができたのは、自分でも成長したなと感じました。
町屋僕も基本はまったく緊張しないんですけど、ファイナルだけは珍しくステージに上がる前はちょっとだけ緊張しましたね。というのもですね、最初に演奏する「六兆年と一夜物語 (Re-Recording)」のギターが鬼難しいんですよ。ファイナルは映像収録も入っていましたし、手元では間違えずに弾きつつ、どれだけステージ上を動けるかの勝負を頭の中でぐるぐる考えながら、周りの景色を見つつやっていました。
──特に最終日は10年間を振り返るようなMCもありましたけど、ライブ中は平常心を保っていられたんでしょうか。鈴華ファイナルでのMCは結婚式の挨拶じゃないですけど、それぐらい重要なものだと思っていたので、気持ち的にはかなり感情が揺さぶられました。メンバーも8人いるとそれぞれどれぐらいの熱量で、どのぐらいの分量を話すのかも重要になるので、実は当日にメンバーだけで集まって話し合いをしたんですよ。ツアーファイナルだけはアンコール明けにメンバーの言葉を入れたんですけど、最初はない予定だったんですね。でも、これで活休に入るんだから一人ひとりメッセージがあったほうがいいんじゃないかという意見もあって。だったらどうすべきかを当日のリハーサルが終わってから楽屋で話し合って、急遽入れることにしたんです。それによって、私のMC箇所も全部変更してもらったんですけど、リハでそれを確認できなかったので、あとからライブのスタッフさんみんなに集まってもらって、「本当に申し訳ないんですけど、メンバーで話し合ってより良い見せ方を考えて、新たにこの流れでやろうと思っています。お願いします」と伝えて、「ここで照明を落として、もう1回MCを入れましょう」とか決めていきました。
──そんなことがあったんですね。鈴華やっぱり私ひとりが話しすぎるのも違いますし、どれぐらいのバランスで何を話すのかはかなりの重要ポイントなので、私にとっても大きかったです。
黒流初期の頃は足し算がすごく多かったけど、そこからの10年は引き算することでいろいろバランスを取ってきたんです。そう考えると、今回に関しては初期に戻った感覚が強くて、それぞれが今の感覚でやりたいことを足し算していった。無闇にプラスしているわけじゃないんですけど、この曲数然り、MCのことも然り、全員の意見を集約した結果、初期ほどの乱暴さはないんですけど足し算をしていたあの頃のライブに戻っていったような感覚は強かったです。
──そのMCではそれぞれの素直な気持ちがダイレクトに伝わり、こちらも胸を打たれましたが、その後の3曲(「暁ノ糸」「星月夜」「GIFT」)で再び空気が一変し、最後までしっかり歌と演奏を届けよう、楽しませようという強い意志も伝わりました。町屋ライブを始める前は「ここ、感情が揺れちゃうかな」と思うポイントが全体の中で何ヶ所かあったんですけど、僕はメンバー8人が語る中で泣くのはリーダーだけでいいと思っていて。ほかの人たちがそれをやっちゃうととめどないので、リーダーが責任を持って自分の言葉で話して、メンバーを代弁して涙を流すのはいいんですよ。なので、そこに関して自分は徹底して一歩引くことができたので、自分でもプロとして徹することができたなと思います。
鈴華私も最初は8人分の思いをアンコールで語らなければいけないと思っていたので、実は準備していたんです。でも、当日に変更があって流れが変わったことで、それをすべて話すと逆に重くなると思ったので、一人ひとりの言葉を聞いたあとにいろいろカットして話したんです。その結果、本当はこれも言いたかったっていうことをカットしちゃった部分もあったんですけど、でもそれはそれかなと。本当はこんなこと言わないほうがいいんでしょうけど……ちょっとぐらい涙が出たほうが、ストーリー的にはよかったのかな(笑)。それぐらい感情を見せたほうが、お客さんは共感してくれると思いますし。でも、先に泣いているメンバーもいたので、結果的には感情をコントロールしました。
町屋なので、この年長組3人は一歩引いて、冷静にステージに立てていたんじゃないかと思います。
黒流うん、思っていた以上にそれをできていた気がする。もっと気持ちを持っていかれたらどうしようと思っていたし、それが怖かったんだけどね。一回崩れたら、なかなか元に戻せないし。
鈴華町屋さんは冷静と言ったけど、感情のコントロールがうまくできたというほうが近いのかな。でも、最後の「GIFT」ではさすがにお立ち台の上で歌いながらも涙が出てきて。自分が目指していたライブを、お客さんもメンバーも自分も含めて作れたんじゃないかなと思います。
黒流そこもやっぱり流れがすごく大事で。本編が長いからこそアンコールになってやたらと感動の押し付けだったり、展開がすごく重くなったりするのも違うなと思って、できる限り伝えたいことを濃縮したつもりです。あと、個人的には和楽器バンドとしてメジャーで活動していると、ライブでは楽器チームさんが全部環境を準備しておいてくれて、現場に行けばそのまま演奏できるというありがたい状況が続いていて。ユニバーサルに移籍してからの5年は今のチームの皆さんとご一緒していますが、僕は人見知りなのでそんなに交流を取るほうではなかったんですね。でも、ツアーのリハーサルのときに、チームの方から「最終日、泣きたいです。泣かせてください!」とボソって言ってきて(笑)。職人気質の方なので、普段そういうことを言わないのでびっくりしたんですね。僕自身は身内受けみたいなことは絶対にしたくなくて、あくまでもお客さんに向けてやることがメインであると思っているんです。ただ、そういう職人さんの心も揺さぶるようなソロをすることによって、ライブ全体がもう一段ドーンと上がっていくんじゃないかと思ったので、最終日は和太鼓奏者として「これでもか!」ってぐらいに打ったんですよ。実は、そういう定番なことをこの10年間一度もやったことがなかったので、最後に感情を全部ぶつけてみようかなと。なので、「星月夜」の太鼓ソロでは何も考えずに気合一発、魂を込めて叩くことができて、それが観ている方たちにも伝わったので、個人的な話ですけどできてよかったなと思います。実際、ライブが終わったあとに「泣けました!」と言ってもらえたのでうれしかったですし、年齢の話もそうですけど(笑)、今まで出してこなかった引き出しを最後に見せることもできたので、そういうことも含めて全部冷静にやれてよかったなと思います。
和楽器バンドにとって「ライブ」が意味するもの
──僕はライブが終わったあと、活動休止前最後のツアーかつ10周年というメモリアルなタイミングでもあったものの、過剰な演出を詰め込むのではなくて、あくまで普段通りのライブの延長線上にある形だったことに、「やっぱり和楽器バンドのライブってこうだよね!」というシンプルな感想がまず出てきて。今まで以上におなかいっぱいになるほど楽しさが凝縮されていて、かつ和楽器バンドらしさが最後の最後まで貫かれていたことに、やっぱりこのバンド信用できるなと強く実感しました。鈴華ありがとうございます。いろいろやってきた結果、「やっぱりファンの方々はこれが好きなんだよね」っていうところを見せて10周年はやりたいなと思っていたので、何か特別違うことをやるというよりは自分たちがカッコいいと思っていたり好きだと思う要素をふんだんに見せたくて。なのでメンバー、スタッフ含め「これでしょ!」っていうことができたんじゃないかなと思っています。それこそ、パッとステージサイドを見ると大喜びでタオルを回しているスタッフもいたりして、本当の意味で会場全体がひとつになれたという意味でも、普段の和楽器バンドのままでした。
黒流ラストですし、どうしても感慨深くなってしまうのは当たり前ですし、会場まで足を運んできてくださった方、そしてBlu-rayを買っていただいた方の期待値を1ミリでも超えるためにはどういう内容にすべきかと考えると、最終的にはいつもの和楽器バンドを見せることが一番重要なんですよね。なので、観終わったあとに「悲しかった」ではなく「楽しかった」という感想を引き出すことができたら、僕ら的にもうれしいですし、「この8人が和楽器バンドなんだ」と改めて証明できたんじゃないかと思います。
鈴華SNSでもしんみりするより「これぞ和楽器バンド。ファンでよかった。好きでよかった」とかうれしい言葉をいっぱい目にしましたしね。
──会場に足を運ぶことができなかった方はもちろんのこと、実際に会場で目撃した皆さんも6月25日に発売されるこのBlu-rayを通じて、改めて「和楽器バンドとはこういうバンドです」という事実と向き合う、絶好の機会になりそうですね。町屋そうなってもらえるとうれしいですね。
──最後に……ちょっと抽象的な質問になってしまいますが、この10年間活動してきた中で和楽器バンドにおいてライブってどういう存在でしたか?鈴華メンバーみんなが一番自信を持っていたものですかね。わりとうちのバンドってライブに自信を持っていて、和楽器バンドのことを全然知らなかった人でもライブさえ観てもらえれば好きになってもらえると思っているんじゃないかな。それこそ、曲やパフォーマンス含めひとつは引っかかる要素があるはずだし、8人それぞれのキャラクターもまったく違うから、1回観たら何かしら引っかかると思うし。そもそも、和楽器をこれだけ入れているのに普通に転調するJ-POPを演奏していて、あんなにも派手な演出照明を含めてライブをやれるバンドが、この10年間でほかに出てこなかったじゃないですか。私自身アーティストを好きになるきっかけがライブ映像だったりすることが多いので、今回発売される映像でもいいから活休中にも新たに出会ってくれるご新規さんが増えることを期待しています。
──仮にこれから和楽器バンドを知ったとしても、音源や映像がこれだけ揃っているわけですから、いろんな可能性がありますよね。鈴華この映像作品を観たら、なんとなくどんなことをやっている人たちかわかるでしょうし。
黒流ライブを観たときのわかりやすさって、とても重要だと思っていて。特に和楽器って、ある程度格式高さみたいなものがあるじゃないですか。そう考えると、和楽器が入っているだけで「すごいでしょ?」と思ってもらえるから楽なんですよね。ただ、多くの場合は和楽器に頼りすぎてしまって、ロックバンドのライブとして成立していない場合も多かった。でも、ロックバンドのライブとして和楽器がわかりやすく活きていて、初見でも楽しんでもらえたのが和楽器バンドにおけるライブの強み。さらにそこにエンタメの要素も加わって、お客さんがペンライトを振ったり声を出して一緒にノったりすることが僕は大事だと思っていて、その集大成が今回のツアーだったと思うので、今回のBlu-rayはわかりやすい形で魅力が凝縮されているんじゃないかな。
──黒流さんがおっしゃるように、ロックバンドに和楽器が入ると急に品格の高さが求められるような感覚になってしまいますが、和楽器バンドの場合はそういう上品さと並行して破天荒さも伝わる。いい意味でエクストリームなミクスチャーロックバンドだなと思っていて、僕はそこに惹かれるんです。黒流洋楽器チームは洋楽器チームで個性を確立していて、和楽器チームもそれぞれで確立したものを持っていた。で、その2つをゆう子ちゃんの歌がつないでくれたことによって、8人それぞれが持つ違ったカッコよさをバランスよく打ち出すことができたんでしょうね。そのバランス感覚が悪かったら、こうはならなかった。そういう意味では、お互いにいろんなところで戦って、しっかりと高め合うことができた結果なのかなと思います。
町屋我々の思考性がアカデミックではないからこそ成立したと思っていて。音楽ってラフに振りすぎるとアングラになっちゃうし、アカデミックに行きすぎると今度は格式高くなってしまう。そのバランスの取り方がわりと上手にできていたほうなのかなと思いますね。正直、アングラに行くのも簡単だし、アカデミックにオーケストラとか入れてやるのもすごく簡単なんすけど、J-POPやJ-ROCKの範疇で活動するっていうところに重心を置いていたので、そういう意味では火力としてマックスが出せたのかもしれない。これがもう少しアングラなものとか凝ったものになっていたら、こんなに世間に広まってもいなかっただろうなとも感じるし、もっとアカデミックに世界を狙っていきましょうっていう感じだったら、日本国内ではもっと需要が低かったと思うんですよ。そこをあくまで普通にJ-POPチャートの中で勝負をするところに主軸を置いたことで、とても広い間口の取り方ができたのかな。
──こういうお話をしていると、最後のライブから10日経ったものの「あれが最後だったんだ」という実感が薄れていくんですよ。町屋そうなんですよ(笑)。ただ、今日のこのインタビューが終わったら急に実感が湧くかもしれないです。
黒流和楽器バンドとしてのスケジュールはこれで一旦最後だしね。
──Blu-rayが発売されて映像を観たら、急に和楽器バンド“ロス”になるかもしれないです。鈴華ファンのみんなも、きっとそうなんじゃないですかね。なので、まずはこのインタビューを読んでいただいて、私たちがこのライブにかけてきた熱や思いを感じていただき、そこから「また和楽器ライブのライブが観たい!」と大きな声を上げてくれたらいいんじゃないかなと。そういう声がどんどん増えたら、私たちも「またやるしかないよね」ってことになりますから(笑)。
──その日が来ることを、楽しみに待っています。鈴華ありがとうございます。和楽器バンドとしてどうしていくかを、我々もこれから考えたりしなきゃいけないところで。まだそこまで明確には決めていないので、そこに関してはこのBlu-rayが出たあとの反応を見て、どういうタイミングに何をしていくのがベストなのかを探っていこうと思っています。
黒流急にサイトで謎のカウントダウンが始まったりするのかな(笑)。
鈴華そういうアクションも含めて、実は楽しみだったりするんですよ。自分のことではあるんですけど、この先に関して私自身も客観的なところがあるんですよね。このバンドにおいては、私が決めたことにただついてきてもらうっていうやり方を性格上できなかったし、してこなかったので、今後もそのときそのときで流れを読んで、今このタイミングでこうしたらベストかなっていうのが見えてくるときを楽しみに待ちたいと思います。
和楽器バンド、10周年の幕を閉じます。
感謝の気持ちでいっぱいです。
和楽器バンドを見つけてくれてありがとう。
日本に留まらず世界に向けても発信し、全速力で走ってきました。
バンドが10年続くってすごいことだと思います。
みんなの愛に支えられなきゃできなかった。幸せな10年でした。
皆さんの日常のどこかにいつも和楽器バンドが存在していたのだと思います。寂しくなるけど、私たちの音楽はこの世に生き続けます。
誰が何と言おうと、和楽器バンドの真似は誰もできない。唯一無二の存在。
和楽器バンドは私の人生であり、皆さんと過ごした時間は宝物です。これからも背中を押し続けてくれることでしょう。好きなんだよなー、和楽器バンド。
10年間ありがとうございました。
いざ、参らん。
Vocal/鈴華ゆう子