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エルマとエイミーの物語から約1年。
ヨルシカの新コンセプトアルバム「盗作」の発売が決定。
今作は「音楽の盗作をする男」を主人公とした男の”破壊衝動”を形にした楽曲全14曲を収録。
初回限定盤は、約130Pの小説「盗作」を含めた書籍型の装丁となっており、
盗作家の男の独白インタビューと、彼が出会った少年との交流の様子が描かれる。
また、少年が弾いた「月光ソナタ」を収録したカセットテープが付属されている。
収録内容
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(M1.盗作・M2.花に亡霊) -
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(M1.思想犯・M2.夜行) -
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Interview
ヨルシカ『盗作』オフィシャルインタビュー<前編>
ヨルシカが、約1年ぶりとなる最新アルバム『盗作』を完成させた。
新作は“音楽の盗作をする男”を主人公とした14曲入りのコンセプトアルバム。全ての楽曲はコンポーザーのn-bunaによって紡がれた一つの物語をベースとしたものになっている。初回限定盤は、盗作家の男の独白、そして彼が出会った少年との交流を描いた小説「盗作」を含めた書籍型の装丁だ。
犯罪をテーマに、破壊衝動から生まれたという新作は、どのようにして作られていったのか。制作の背景について語ってもらった。
Text / 柴 那典
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――今回のアルバム『盗作』に取り掛かったのはいつ頃のことでしょうか。
n-buna 根底の骨組みを考え始めたのは1年前くらいですね。最初にプロットを作って、そこから楽曲を作って、同時期に小説を書き始めました。
suis たしか去年の6月末くらいのときには、犯罪をテーマにしたアルバムを作ろうと思っているということは話していましたね。
――昨年にリリースされた『だから僕は音楽を辞めた』と『エルマ』の2枚のアルバムは、ヨルシカが結成当初から積み重ねてきた表現の集大成的な作品だったと思います。『盗作』のモチーフやアイディアと前の作品に繋がりはないですが、新作にはどこか共通するムードのようなものも感じます。このあたりはどうでしょう?
n-buna ヨルシカの根底にある芯みたいなものを外さない作品集だとは思っています。別れや喪失感のようなものを根底に据えて、夏の雰囲気と一緒にアウトプットしている。そういう一貫した匂いみたいなものはずっと作りたくて。今回もそういうヨルシカらしい空気感を残しつつ、全く新しいコンセプトに取り組んだ。そういう作品になったと思います。
――『盗作』は「音楽の盗作をする男」を主人公としたコンセプトアルバムですが、このアイディアはどういうところから生まれたんでしょうか。
n-buna 次に何を作ろうかを考えたときに、まずあったのが、ヨルシカへの破壊衝動だったんです。今までやってきたこと、つまり、今言ったような「夏の空気感を重視して、別れや喪失を綺麗に煮詰めて抽出したような音楽」というヨルシカ自体への認識を、まず壊したかった。綺麗なものって、壊したくなるじゃないですか。今までずっと綺麗に作ってきたものを、わざと一度バラバラに分解したいという破壊衝動があった。だったら、人が眉をひそめるようなものを作ろうと思った。まずあったのはそれですね。
――人が眉をひそめるようなもの、というのは?
n-buna 音楽のタブーとされているものって、一番大きなものが盗作だと思うんです。多くの人が作品に対して「オリジナリティがある」ということを、ひとつの大きなアイデンティティのように思っている。僕はそれが今の時代においては、すごく白々しいと思っているんです。そういうものに対してのカウンターパンチを、ヨルシカというものを巻き込んで放ちたかった。僕の価値観としては、犯罪というものをテーマにして、盗作家の男が作った作品集でさえも、それは一つの美しい作品集になると思った。だからこそ作ったというのはあります。
――小説の執筆と楽曲制作は同時進行で進めていったんでしょうか?
n-buna そうですね。最初にアルバム全体のテーマとプロットを考えて、そこから楽曲ではこの部分を表現しよう、小説ではこのシーンを書こうと考えて、それぞれを作っていきました。そのうえで、どちら単体でも楽しめるようなものを意識しました。
――ヨルシカでは小説というアウトプットは初めてですが、n-bunaさんはこれまでも小説という表現に取り組んだことはありましたか?
n-buna 何回かは書いていました。ただ、『エルマ』の日記帳や、『だから僕は音楽を辞めた』でのエイミーの手紙も、言ってみれば小説的なものですよね。だから、形式は違いますけれど、今回は小説として出してもいいんじゃないかと思って書きました。
――『エルマ』の日記帳や『だから僕は音楽を辞めた』の手紙って、余白のある表現だと思うんです。断片としての文章であるから、そこからいろんな人が想像力をふくらませる余地がある。そういうものと違って、小説は情景描写も必要ですし、それ単体として物語として成立する必要がある。そこの違いはありましたか?
n-buna だからこそ小説は楽曲と別のところを補完するようにしたんです。男が音楽を実際に盗んでいるところとか、アルバムの楽曲を書いているところを直接的に描写すると、楽曲に余白がなくなってしまうので。
――小説を音楽にした、もしくは楽曲をノベライズしたということではなく、主人公の男の人生やその物語を、楽曲と小説がそれぞれの角度で切り取っているということでしょうか。
n-buna そうです。だから、今までのヨルシカと同じように、音楽だけを聴きたい人はそれだけで聴いていいと思います。それもひとつの美しいあり方だと思うので。小説を読まなくても音楽には影響がない。でも、そこから背景が知りたい人は小説を読むと、これを作った盗作家の男についての理解が深まる。それは僕たちにもつながってくるものだし、作品についてもっと深く知りたかったら、こういうインタビューを読むというのもある。そういうことを選べる状況にしたかった
――「花に亡霊」と「夜行」の2曲は、アニメーション映画『泣きたい私は猫をかぶる』の主題歌や挿入歌に選ばれています。いろんなアーティストがこうしたタイアップを手掛けていますが、今回のヨルシカの場合は特殊な難しさがあると思うんですね。『盗作』というアルバムの物語の中の表現でありながら、別の映画の主題歌としても機能する必要がある。それはとても難易度が高いことだと思ったんですが、そのあたりはどうでしたか?
n-buna 自由にやれることが前提だったんです。最初から『盗作』というアルバムを作るのが決まっていたので、映画のスタッフの方との打ち合わせでも、アルバムのコンセプトがあってその中での一曲になるということを先に伝えていました。なので、映画に寄せることをあまりしないというのは前提としてあって。アルバムの中で、初夏の空気感を持った曲を最後に持ってくることが決まっていた。そういうものがハマればいいなという感じでした。
――映画のストーリーやテーマを汲み取って主題歌を書く例は多いですが、「花に亡霊」と「夜行」に関しては、映画の制作側にもあくまで『盗作』のストーリーの中の曲だというのを伝えた上で作っていった。
n-buna そうですね。そのときにはもう「花に亡霊」や「夜行」のデモがあったんですけれど、僕としては『盗作』のコンセプトを崩す気はなくて。僕が盗作家の男の作品としてアウトプットしたものが、一つの『盗作』という作品としてある。そのなかの曲が『泣きたい私は猫をかぶる』という映画の主題歌になって、それが上手くぶつかり合って調和する。映画の中で流れても違和感のないものになる。そういう状況になるなら、いいものになると思ったんです。僕はそれが成立すると思ったし、その確信があった上でやりました。基本的には、どういう場所で使われていようが、どういう作品と一緒になっていようが、音楽の価値は変わらないと思ってるので。この曲が映画の世界を広げる手助けになっているなら、それはとてもいいことだと思います。
――聴いた印象としては、とても不思議な感覚でした。『盗作』と『泣きたい私は猫をかぶる』はまったく違う物語ですが、「花に亡霊」という曲は、どちらの着地点にもなっているように感じます。
n-buna 「花に亡霊」は、ただただ美しいものだけで構成した曲を作ろうと思ったというのがそもそもの始まりなんです。綺麗な言葉と、綺麗な情景と、綺麗なメロディだけを詰め込んだ、深い意味のない、ただただ綺麗なだけの曲を作ろうと思っていて。こういうことを言うとマイナスに捉える人もいると思うんですけれど、僕はそれが成立すると思っています。たとえば、ただ綺麗なだけの夕陽に人は感動するじゃないですか。そういう美しいものを作りたかった。あの曲って、情景もメロディも音使いも、夏の匂いというものをただ表現しただけの曲なんです。それだけの曲なんですけれど、だからこそ、いろんなところにハマるんだと思います。
――アルバムではsuisさんのヴォーカルの表現力も印象的でした。特に低い歌声が素晴らしかったです。
suis 以前、ライブが終わったあとにn-bunaくんが「君の低い声が好きだから、次はそういう声で歌える曲をいっぱい作りたい」ということを言ってくれたんです。私自身、もともと声が低めの人間なので、今回は自分の音域をフルに使えたと思います。今までのヨルシカでは低い声で歌うことはあまりなかったんですけれど、使えるけど使わなかった部分を出せる曲をn-bunaくんが沢山作ってくれた感じですね。
n-buna 特に「昼鳶」や「思想犯」はsuisさんのヴォーカルがめちゃくちゃいいですよね。「思想犯」はアルバムの中で僕が一番好きな歌かもしれない。ゾッとする感じが出ていて、ちょっと怖いくらいの無感情な感じがとても好きです。
――今回のアルバムは永戸鉄也さんがアートワークを担当されています。コラージュで表現されたジャケットにもアルバムのコンセプトとリンクするところを感じましたが、永戸さんにお願いした経緯は?
n-buna 僕はそもそも永戸鉄也さんの作品がとても好きで、今回の『盗作』というテーマにしようと思ったときに、この人しかいないと思ったんですね。永戸さんは、いろんな写真や素材からコラージュして、今まであった作品をバラバラに切り取って、それを組み合わせた結果としてオリジナルの作品を作り上げる天才だと思います。それは『盗作』というテーマにも通じる。だからこそ、この人しかいないと思ってお願いしました。
――音楽におけるオリジナリティの問題に関しては、特にポップ・ミュージックの分野のほうが前景化しやすいですよね。たとえばクラシックには古典があるし、ジャズは一つのルールに則って即興をする。そういうフォーマットのある音楽に比べて、今のポップスというのは、表現者自身と表現が結びついて語られる傾向がある。そのことによってオリジナリティに重きを置く風潮が強まっている。そのあたりはどうでしょうか。
n-buna そうですね。まさにそういう感じだと思うんですけれど、僕のなかで思っているのは、そもそもメロディに関していえば、ポップ・ミュージックという枠組みの中ではオリジナリティというものは存在しないと思っているんです。今の世の中に生まれているメロディは、音楽の歴史の中ではどこかで流れたメロディである。もはや全てのメロディは十二音の音階の中でパターン化されて出尽くしている。それでも僕は表現方法までは出尽くしていないと思っていて。メロディの動きだけじゃなく、歌詞や楽器や構成のような複合的な要素が組み合わさった中で、偶発的な美しさがそこに生まれると僕は思っているんです。それこそがいまだ芸術の神様が見つけ出していない、今の我々にしかできないオリジナリティとしての表現だと思います。だからこそ僕はこのテーマをポップ・ミュージックの中で書きたかったんです。もっと難解な音楽を作ってオリジナリティを保とうとするのではなく、ポップ・ミュージックの枠組みの中でこういうものを出そうと思ったというのはあります。
――『盗作』に収録された楽曲には、「月光」や「ジムノペディ」のフレーズが使われていたり、さまざまな部分で引用がありますよね。「盗作家が作った音楽」というコンセプトの部分と、作曲の手法が密接に結びついているやり方だと思ったんですが。どうでしょうか。
n-buna 僕が実際に『盗作』というアルバムでその手法を用いたかどうかですよね。この小説の男と同じように、実際に名曲のメロディを組み替えたり、コードの流れを盗んで音楽を表現したかどうか。そのことに関して、僕は何も言わないつもりです。もちろん、「月光」や「ジムノペディ」のフレーズを使ってわかりやすくクラシックの曲を引用しているところはあるんです。それはサービスしている部分であって、他の部分がどうかは触れないつもりでいます。小説の中で書いているのは情報の一つでしかないわけですよ。本人がどう作ったかは、音楽の作品としての価値にはまったく影響がない。でも、聴いた人が「盗んだんじゃないか」「盗んでいないんじゃないか」という作品の価値とまったく関係のない不毛な議論を繰り広げるのは自由です。むしろ、僕はそれを眺めながら楽しんでいます。そうやって、盗作という作品を見た人の反応を見るために、この作品を作ったので。
――そうしたことも含めて、『盗作』というアルバムは、オリジナリティや創作ということについての根源的な問い掛けを含むような作品にも感じます。そのあたりはどうでしょうか。
n-buna いや、問い掛けという意志は全くないですね。常々言っている通り、僕は自分が気持ち良くなれればそれでいい。他人の為に作品なんて作ろうと思わない。なので今回も自分が美しいと思う表現をした。たとえ人が眉をひそめるようなテーマであっても、こういうメロディに乗せて作品にすれば美しく描けるんじゃないかと思った。そんな音楽を作ってみたかった。それに尽きますね。
ヨルシカ『盗作』オフィシャルインタビュー<後編>
ヨルシカのニューアルバム『盗作』は、一つ一つの楽曲に様々な仕掛けが込められている。
アルバムの全14曲は、主人公の“盗作家”の男の人生を辿る一つの物語になっている。4曲のインストゥルメンタルを含め、一つ一つの楽曲に描いている情景があり、さまざまなオマージュを含めた文脈がある。アルバムの初回限定盤に収録された小説を読み、聴き手がその情景を思い浮かべ考察を巡らすことで、より深く味わうことのできるコンセプチュアルな作品となっている。
楽曲のモチーフや意図について、表現のディティールについて、詳しく解説してもらった。
Text / 柴 那典
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――アルバムの内容について、曲ごとに語ってもらえればと思います。まず、3つのインストゥルメンタルで区切られた全14曲の構成や曲順はどのように考えましたか?
n-buna 音楽的な流れを意識したというのもありますし、男の人生の一部を切り取ったというのもあります。そうやって読めるように作りました。
――1曲目のインストゥルメンタル「音楽泥棒の自白」では「月光」が引用されています。これはどういう位置づけの曲でしょうか?
n-buna これは盗作家の男が自白しているところの情景ですね。小説の中でいうインタビューの部分です。男が自分の人生を訥々と語っている様を表したような曲です。だから、いろんな音が仕込まれていますし、楽曲の根底に流れているピアノの旋律も「月光」だけでなくベートーベン的なメロディと音使いになっています。いろんな音がコラージュ的に散りばめられて、最後に「月光」に収束していく。そういう音楽を作ろうと思っていました。
――この曲はどのように作っていったんでしょう?
n-buna この曲に関しては、最初に手弾きで「月光」につながるところまでを弾いて、そこにコラージュ的に音を当てはめていったんですね。永戸鉄也さんのジャケットから着想を得たところもあります。それが如実に出ているのが「音楽泥棒の自白」と「青年期、空き巣」ですね。この『盗作』という作品全体がメロディの引用や詩の引用といったコラージュとしての特徴があるアルバムなんですけれど、この2曲は特に永戸鉄也さんのアートワークから着想を得た音のコラージュとして作っています。
――「昼鳶」はとてもフックの強い曲ですが、これはどう作っていったんでしょうか。
n-buna 昼鳶というのは空き巣の隠語で、それをテーマにした曲を作ろうと最初から思っていました。盗作家の男の人生の中での空き巣をしていた時代を描くという。サウンド的にはスラップギターを軸に作っていきました。アコースティックギターでのスラップ奏法ですね。それを用いた作品が好きで、そこからの文脈もあります。ちなみにレコーディングでは俺が弾いたんですが、スラップ用に低音寄りに響くアコギが欲しくて、その為の一本を探しにメーカーまで行きました。
――この曲はsuisさんのボーカルの表現力の広がりを感じます。
n-buna 「昼鳶」のsuisさんの歌、めちゃくちゃよくないですか?
――素晴らしいです。特に低い声の響きがいいですね。
suis ありがとうございます。今までのヨルシカでは低い声で歌う曲があまりなかったんですけれど。今回のアルバムは、自分の音域をフルに使えたと思います。使えるけど使わなかった部分を出せる曲をn-bunaくんが沢山作ってくれた感じですね。
――n-bunaさんはsuisさんの歌声のよさを引き出す意識はありましたか?
n-buna 「昼鳶」に関しては、このメロディと音域は間違いなくハマると思っていました。suisさんの一番好きな声の音域って、わりと低めなところにあるんです。ちょっと低めの、ぼそっとしゃべるような音域が、すごく倍音が豊かで、いい歌声が出る。今までパーンとはじけるような歌の帯域を中心に作ってきたんですけれど。男性的にも聴こえる、ゾッとするような、つぶやきの感じが出せるメロディが書けた。それが如実にあらわれているのが「昼鳶」と「思想犯」だと思います。
――「春ひさぎ」はどんなインスピレーションから生まれた曲ですか?
n-buna そもそも犯罪をテーマにするということを話したときに、suisさんが「売春の曲を作ってよ」と言ったんです。それで「ああ、なるほど」と思って。でも、ただ売春の曲を作るだけじゃつまらない。それを商売として音楽を作ることの隠喩として表現するような歌詞にしました。題の春ひさぎは売春の古語です。パッと聴いたら遊女の掛け合いのようにも捉えられる歌詞でありながら、紐解けば、実のところは商売として音楽をやっている意識を皮肉るような曲として機能する。僕たちは生活の為にプライドを削り、綺麗に言語化されたわかりやすい作品を作る。音楽という形にアウトプットした自分自身を、大衆に安売りしている。スウィング・ジャズ的な曲調をロックンロールの中で解釈して、商売音楽を売春というメタファーに置き換えた詩で表現する。そういう曲です。
――そういったテーマと曲調に関連はありますか?
n-buna この曲の根底にあるのは、サンプリングというものが当たり前になっているスウィング・ジャズの世界からの引用です。ああいう定番のコード進行の中で、即興でメロディをひねり出して、その中にオリジナリティを見出していく世界。だからこそ選んだというのはあります。
――「爆弾魔」はどうでしょうか。この曲は『負け犬にアンコールはいらない』に収録された曲ですが、このタイミングで『盗作』に改めて入れようと思ったのは?
n-buna そもそも今回のアルバムが「爆弾魔」から着想を得ているというところもあって。元を辿れば「爆弾魔」という曲を作った頃にはもう、いつか犯罪をテーマにしたアルバムを作ろうと思っていて、そこにこの曲を入れようと思っていたんですよ。当然その時点では『盗作』のコンセプトは固まっていなかったんですけれど、だからこの並びでも違和感のないものになっています。
――今回のアルバムのコンセプトというよりも、その元になっている破壊衝動を切り取ったという意味で繋がる曲である、と。
n-buna そうですね。根源を辿っていったらそこにある。それで新しくレコーディングし直しました。
――再録にあたっては、suisさんの歌うときの意識も変わったんじゃないでしょうか。
suis 前はまだヨルシカを初めて間もなかったので「自分の中の一番いいものを出そう」と思って「爆弾魔」を歌ったんですけど、今回は「爆弾魔」という曲にとって一番いいものを意識しました。自分のヴォーカルが前よりも自由になって、歌っているうちにできることが増えたので。前よりも思い切り歌おうというイメージで、今の自分にできるこの曲に一番いい歌が出せればと思いました。
――インストゥルメンタルの「青年期、空き巣」は先程話に出たようにコラージュ的な作りになっていて、グリーグの「朝」が引用されています。この曲の位置づけと役割はどういうものでしょう?
n-buna 場面の転換という役割はもちろんあるんですけれど。1曲目の「音楽泥棒の自白」とコラージュのやり方はちょっと違っていて。「音楽泥棒の自白」が、「月光」を主題としてゆったりとコラージュする落ち着いた手法というか、年季の入った盗作だとするならば、こちらは若々しいコラージュを作ろうと思いました。いろんな音を手当り次第に盗っているような感じです。
――「レプリカント」についてはどうでしょうか。この言葉をタイトルに使った理由は?
n-buna そもそも「レプリカント」という言葉は映画の『ブレードランナー』、その原作の『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』に出てきた造語ですよね。精密に造られた人間そっくりアンドロイドという意味である。その言葉はまさにこの男の人生とも言えますし、ヨルシカとしての僕の人生とも言えますし、ヨルシカ自体とも言える。そういう歌詞の世界観です。
――曲調やテーマについてはどうでしょうか。
n-buna 前半は重めに作っていったので、このあたりから軽快になりますね。軽快な曲調で人生を俯瞰しているような感じがある。テーマに関しては、この曲で言いたいのは一つしかなくて。我々はみんな偽物なんだということですね。誰もが、偽物の自分というものに頑張って価値を見出そうとしている。そういう僕の思考をそのまま書いたストレートな曲です。
――「花人局」は「はなもたせ」と読むんですよね。これは造語でしょうか?
n-buna これは「美人局」からの造語です。美人局というのは、朝起きたら隣に女の人がいて、お金を騙し取られるわけじゃないですか。「花人局」の場合は、逆に朝起きたら誰もいない。誰かがいた痕跡だけが残っている。自分の人生に花をもたせて消えている人というイメージです。そういう造語を作って、そこから曲にしました。小説ともリンクするところがあって、盗作家の男にとっての妻を描いた曲になりますね。
――「爆弾魔」で描かれていた破壊衝動とは違う、愛おしいものを表現する曲調になっていると思います。
n-buna 前半は勢いで書かれている曲たちが、後半になるにつれて理性的なものが見えるというか、冷静な視点の自分が出てくるようにしたくて。最終的には男の中の本当に書きたかったものだけが残る。それが「花に亡霊」という曲につながるんです。そういうアルバムの構成にしたかった。そういう意味での転換点ではありますね。
――「朱夏期、音楽泥棒」もインストゥルメンタルですが、これはどういう発想から?
n-buna 「朱夏期」も「青春期」からの造語として表現しました。「朱夏」というのは壮年時代をあらわす言葉で、この頃になると、若い頃のような手当たりしだいの盗み方はしないわけです。だから「ジムノペディ」のメロディを入れつつ、シンプルに綺麗な曲にすることを心がけました。
――「盗作」という曲はアルバムの表題曲でもあるわけですが、これはどういう位置づけでしょうか。
n-buna このアルバム全体を表した曲です。なぜ盗作男がこのアルバムの楽曲を作ったかということも書いている。満たされなさから作品を作っている、何か足りないから曲を書いている、破滅したいと思っている。そういう、このアルバムの全てを1曲に詰めこんだ曲です。いろんな言い回しで表現をしているんですけれど、簡単に言えばこれに尽きる。そういう曲です。
――suisさんはこの曲をどういう歌で表現していこうと意識しましたか?
suis この曲は、自分の感情やテクニカルな部分で試行錯誤があった曲ですね。最初はなかなか上手くいかなかったんです。このアルバムでも最初に仮歌を貰ったんですけれど、そのときは私の中で特別にいい曲だとは思えなくて。自分が歌ってよくなる曲かどうかも疑いがあって、持ち込む感情もなかなか見つけられずにいて。でも、やっては違う、やっては違うとトライアンドエラーを繰り返しているうちに、気持ちがわかったというか、ゾーンに入った瞬間があった。そのときの歌がとてもハマったんです。
n-buna この曲のsuisさんの歌もめちゃめちゃよかったです。仮歌の段階からsuisさんの歌が入ったときの想像をしていたんですけれど、それ以上でした。
――ヨルシカって、suisさんの歌声の表現力が引き出されることによって成立するところがあると思うんです。それがハマった曲という意味というでも、アルバムを象徴する曲になったと思います。
suis そうですね。この曲はその感じがすごくありました。出来上がってみれば、このアルバムの中でも特別にいいなと思う曲になりました。
n-buna ヨルシカ全てに言えることなんですけれど、僕の出したものをsuisさんが自分の表現として噛み砕いて、自分の歌として出すからこそ、この作品としての客観性が保たれていると思うんです。それこそ僕自身がボーカルになって自分の気持ちで歌っていたら、もっと主観的な目線の作品になってしまう。物語としては聴けないものになってしまうと思います。suisさんのヴォーカリストとしての客観性、独自性が色濃く出たからこそ『盗作』という一つの作品集が出来上がったと思います。
――「思想犯」もsuisさんのヴォーカルがポイントになっていますね。
n-buna この曲は歌がいいですね。アルバムの中で僕が一番好きな歌かもしれない。ゾッとする感じが出ているというか。ちょっと怖いくらいの、無感情みたいなところがAメロに入っている感じがします。
――この曲はどういうモチーフから作ったんでしょうか。
n-buna 「思想犯」というテーマ自体は、ジョージ・オーウェルの『1984』という小説がもとになっています。言葉狩りの時代を描いたディストピア小説で。もう一つ、この曲の歌詞には尾崎放哉の俳句からとっている箇所があって。この曲自体が尾崎放哉の俳句と晩年をオマージュしている曲なんですね。このオマージュというのは盗用とも言えると思うんですけれど。「春の山のうしろから煙が出だした」とか「入れものがない両手で受ける」とか、尾崎放哉の晩年の作品や辞世の句を直接的にオマージュしている。そういう曲です。
――「逃亡」はどうでしょうか。
n-buna これもジャズ的な雰囲気をもたせて、エレクトロみたいなサンプリングの手法のピアノで作ったんですけれど、そのフレーズをアコースティックピアノで生演奏するという、永戸鉄也さんの作品の手法に近いこともやりました。この頃になってくると、男の書きたいものが、思い出くらいしかなくなってくるんです。これは夏祭りの情景ですね。僕の中にある、地元の夏祭りの情景でもあります。そういうものをアウトプットしています。
――この曲が後半のこの位置にあることで、ある種、浄化のような意味合いがあるような感じもします。
n-buna この曲の根底のテーマにあるのが、現実から脱獄するというものなんです。そもそも脱獄っていう言葉がすごく好きで。現実を檻と捉えて、綺麗な情景の中に逃げていきたいという気持ちって大事じゃないですか。そういうものを形にしようとして曲にしました。
――「幼年期、思い出の中」はどうでしょう。インストゥルメンタルとしてはアルバムの最後の場面転換の役割を果たしていると思うんですが。
n-buna この曲は原っぱで寝っ転がりながら夕暮れを待っているという情景をイメージして作った曲ですね。メロディもコードの使い方も、夕暮れ感のある曲です。夕方を意識しながらピアノを弾いて、その瞬間にハマるものを切り取った1分半くらいのものを、そのまま曲にしました。
――「夜行」と「花に亡霊」はアルバムの最後に置くという構成が最初から決まっていたとのことですが。
n-buna そうですね。両方とも最初のほうにできた曲なので。「夜行」は夕暮れから夜に向かうというイメージで作っている。だからこそ、その直前に夕暮れ感のある曲があるんです。「夜行」という曲は、夜という言葉をいろんな意味に捉えていて。大人を夜と捉えて、子供から大人になっていくことも表している。死を夜と捉えて人生の終わりに向かっていくことも表している。純粋に時の流れとして夕方から夜の雰囲気の曲でもある。いろんな意味を表そうとした曲です。
――suisさんはどう歌いましたか。
suis この曲では情景を思いながら歌っていったんですが、「はらはら」とか「さらさら」という言葉をよく聴かせる方法が最初は全然思いつかなくて。キーを下げてみたら、すごくよくなったんです。声色と聴こえ方が曲に寄り添ってくれた感じがしました。
――ラストの「花に亡霊」は、夏の空気感をモチーフにしていて、記憶や喪失感をテーマにした曲になっています。これはどのように作っていきましたか。
n-buna アルバム全体の流れや構成として意識したのが、昼からだんだん夜に向かっていくということなんです。「昼鳶」から始まって、だんだん夜に向かっていく。夕暮れから「夜行」があって、最後に「花に亡霊」がある。だからこの曲もイメージは夜なんです。こういう歌詞を見ると青空を思い浮かべる人は多いと思うんですけれど、夜の中で夏の情景を思い出している。そういうものが亡霊として見えている。そういうことを思いながら、綺麗な言葉と綺麗なメロディだけで作った。そういう曲です。あとは、川端康成の『化粧の天使たち』の有名な一節で「別れる男に、花の名を一つは教えておきなさい。花は毎年必ず咲きます」という言葉があって。この曲を作る前にそれを「いい言葉だな」と思って見た覚えがあります。この曲の根源的なテーマでもあるんですけれど、「花に亡霊」というタイトルにある亡霊というのは思い出のようなものだと思うんです。花の中に思い出を見出すというか。川端康成の言葉を咀嚼して、そこから、綺麗な言葉だけで楽曲を再構成するという。そういうことをやりました。「思想犯」と同じ、わかりやすい盗作です。
――アルバムを聴き終えたときに、どんな余韻が残るイメージを持っていましたか。
n-buna 最後に夏の匂いがして終わる作品にしたかったというのはあります。単純に、夏は、懐かしい匂いがするから好きなんです。他の季節にない、独特な匂いがある。だから好きです。アルバムを通して、人の人生を勝手に覗き見ているような、そういう感覚になってくれれば嬉しいですね。ちなみに、初回盤のカセットテープに入っている「月光ソナタ」は小説内のあるシーンで少年が弾いた物だと想像出来るものになっているんですが、これは実際に、ピアノが少し弾けるくらいだという男の子を呼んで、通しで弾いてもらった音源です。とても頑張ってくれていました。今聞いても、良い演奏です。ちゃんと月光の匂いがする。ありがとう。技術的に完璧なもの、音楽的に完全なものだけが全てじゃないことは、間違いなく一つの真理だと、俺は思っています。
――繰り返し、いろんなことを考えながら聴き返したくなる作品でもあると思います。
n-buna この『盗作』という作品が人の目に触れる瞬間がとても楽しみですね。これをヨルシカとして世に出すと、間違いなく「このフレーズはどこからの引用だ」とか「この曲はここから盗作しているんじゃないか」という話になっていく。「刺激的なテーマで目立とうとしている」だとか「つまらないマーケティング」だの言われるでしょう。実際「品性を疑う」なんて感想をこの間見ましたね。でも、僕はそれらには情報としての意味しかないと思っていて。他人の評価だとか、「盗んだ」とか「盗んでいない」というのは本質ではないんです。そういう作品の本来の価値とは関係ないところで生産性のない議論をしている人たちを見ることを僕は楽しみにしている。この『盗作』を出した先にある聴衆の反応、そこで沸き起こる議論や反応を見ることこそが僕にとっての、この作品の本質です。
――受け手の反応込みで作品になるという意味では、インスタレーションやメディアアート的な作品でもあるということでしょうか。
n-buna まさにそうです。ただの音楽作品として皆は聞けばいい。でも僕からしたら、メディアアートです。今回僕が作ったのは「盗作という題の作品」ではないです。「盗作という題の作品に群がる人達」という名前の絵です。否定的な意見も肯定的な意見も、発信した瞬間に全てが取り込まれて「盗作」という一枚の絵になる。俺はそれを安全な位置から見下ろして、好きなだけ鑑賞出来る。こんな面白いことがありますか。堪らないと思いませんか。俺はずっとこの時を楽しみに生きてきました。
Campaign
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