想像力を研ぎ澄ますことで、人は、いくつもの“生”を往来することができる。
『前世』を観て感じたのは、そういうことだった。ヨルシカのライブは他に類のない特別な体験だ。朗読と音楽が呼応しあい、ひとつの物語を描いていく。幕が開けるとステージはn-bunaによる朗読から始まる。語り手の〈私〉は、町外れの緑道でかつて共に暮らしていた〈彼〉に久しぶりに出会う。〈彼〉は不思議な夢を見ると言う。自分が動物になる、奇妙にリアルな夢。それがまるで“前世”のようだと語り、物語の扉が開く。
柴那典/音楽ジャーナリスト