椎名林檎デビュー10周年記念作品DVD「座禅エクスタシー」ライナーノーツ

そして、もちろん、ライヴ内容にも特筆すべきものがある。このライヴでは『下剋上エクスタシー』のバンドである虐待グリコゲンの5人に加え、マニュピレーターの中山信彦が参加。全員が和装しているだけでなく、彼女のライヴにしては珍しく生演奏とSE、打ち込みがミックスされているほか、ともさかりえに提供した「少女ロボット」と「日本に生まれて」のセルフ・カヴァー、シンディ・ローパー「アンコンディショナル・ラブ」と来生たかお「マイラクジュアリーナイト」のカヴァー、「ストイシズム」のようなライヴでの演奏が珍しい曲まで、演目は一夜限りのライヴらしい特別仕様だ。そして、ベースの亀田誠治氏をはじめとする名うてのプレイヤーが集ったバンドも針を振り切ったような演奏を見せ、歌う彼女もバンドと共振しながら、リミットを越えるヴォーカル・パフォーマンスを展開しており、いつも以上に演者の手元や表情のアップを捉えているカメラワークからも、その躍動感がダイナミックに伝わってくる。伝説のライヴは、そう、伝説になるだけの何かがそこにはあるのだ。そして、このライヴから2年半後の2003年、彼女は3rdアルバム『加爾基 精液 栗ノ花』において、再発見した日本的な美を緻密にして、壮大な世界観に昇華することになるわけだが、この嘉穂劇場でのライヴ経験も彼女のチャレンジングな歩みを後押しする大きな力となったのではないか。そんな様々な思いが喚起され、渦巻く椎名林檎の10年、その知られざる一夜は2008年のあなたに何かを教えてくれるはずだ。

小野田雄
 
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