博覧会を意味する“EXPO”は、音楽用語で言うところの〈主題の提示〉を意味する“EXPOSITION”の略語である。もっと言ってしまうと、“EXPOSITION”というのは、レトリック、コンポジション、エクスポジション、つまりは修辞、構成、提示という流れの中で捉えられるものであって、その3要素はおおよそあらゆる表現の中核を成していると言っても過言ではない。つまり、何が言いたいかというと、椎名林檎がデビュー10周年を記念して行ったライヴ「(生)林檎博'08 〜10周年記念祭〜」の模様を収めたDVD『Ringo EXPo 08』は、修辞や構成を極めながら、彼女が10年に渡って提示してきた表現、その音楽的な主題の集大成であるということだ。
会場であるさいたまスーパーアリーナに集った観客は2008年11月28日から30日までの三日間で述べ55,000人。彼女のキャリアを通じて最大規模のライヴは、指揮/編曲の斎藤ネコ率いる総勢65名の林檎博記念管弦楽団の登場で幕を開けた。バックを務めたのはベースの亀田誠治、ドラムの河村“カースケ”智康、ギターの名越由貴夫。そして、ライヴ全編に渡って緻密に編み上げられたバンドとオーケストレーションが大河のような流れとなって運んでくる椎名林檎の10年を焼き付けた名曲たち。'98年のデビュー曲「幸福論」から最新シングル「この世の限り」まで。そして、ソロ作に斎藤ネコとの共作アルバム、彼女が在籍する東京事変の楽曲まで、その全キャリアをカヴァーした26曲に息吹をふきこむのは、もちろん椎名林檎本人だ。 |