作品解説

 『リボルバー』スペシャル・エディション

最終回:作品解説-6(2022/11/8 UP)

作品解説-6:Re-Mix盤の聴き所 #3、楽曲解説:Disc 3

連載最終回となる今回は、「セッションズ」の後編。オフィシャルとは別テイク・別ミックスが聴けるDisc-3収録の17曲の聴きどころを紹介してみる。

楽曲解説:Disc 3

CD 3: セッション2

1.And Your Bird Can Sing (Second Version / Take 5)
テンポを落とすなど、アレンジを変えたセカンド・ヴァージョンのテイク5(4月26日録音)。ところどころにポールとジョージのコーラスが入るが、なにより間奏のギターの箇所にもコーラスが入っているのが斬新。「キャント・バイ・ミー・ラヴ」もそうだが、コーラスを多用しても使わずに終わるということが多々ある。これもそんな1曲。

2.Taxman (Take 11)
演奏はオフィシャル・ヴァージョンと同じテイク11(4月21日録音)だが、『アンソロジー 2』に収録された、“anybody got a bit of money”のコーラスが入るなど、コーラスやエンディングが一部異なるテイク(4月21日録音)。ただしイントロのカウントの前とエンディングがわずかに長い。

3.I'm Only Sleeping (Rehearsal Fragment)
『アンソロジー 2』発売時に発見された、たまたま一部がテープに残っていたというリハーサル・テイク(4月27日録音)。ヴィブラフォンの入った味わい深いインスト。エンディングに少し会話が入っている。

4.I'm Only Sleeping (Take 2)
『アンソロジー 2』にはテイク1が入っていたが、こちらはテイク2(4月27日録音)。まだ模索段階にあるのか、何となく曲が始まり、ビートも単調で、テイク1よりも未完成。中断後、しばらく間をおいてジョンが少し歌ったり、ジョージ・マーティンとポールとのやりとりもあるなど、スタジオでの雰囲気を伝えるテイクになっている。

5.I'm Only Sleeping (Take 5)
これまではやや物憂げな雰囲気を伝えるまったりしたテンポだったが、このテイク5(同じく4月27日録音)は、のちにテンポを落とすのを前提に速めに演奏された軽快なインスト・ヴァージョン。特にドラムが激しく、中盤の“taking your time”の箇所などではポールがラフに歌う声も入っている。メロディの良さがむしろ伝わる好テイクだ。

6.I'm Only Sleeping (Mono Mix RM1)
イントロにジョンの太い声のカウントが入る、未使用に終わったモノ・ミックスのRM1(5月6日ミックス)。この曲はステレオ・ヴァージョンとモノラル・ヴァージョンでは逆回転ギターの入る箇所が異なったりしていたが、このテイクでは、間奏に入る前に一音長くギター音は聞こえるだけでなく、ジョンがあくびをする箇所の直前から余分な逆回転ギターが唐突に入ってくる。エンディングも、演奏に一部ブランクを作るという、聴きなれた耳に意表を突く場面が出てくる。

7.Eleanor Rigby (Speech Before Take 2)
4月28日にテイク2を録音する前に、ストリングスのメンバーに対してジョージ・マーティンとポールが、ヴィブラートを入れるかどうかのやりとりなどをしている会話を長めに収録したもの。

8.Eleanor Rigby (Take 2)
そしてエンジニアの“Take 2”の声に続き、弦楽八重奏のレコーディング場面が聴ける。ジョージ・マーティンの息子ジャイルズは、やはり父親のストリングスのアレンジを存分に聴かせたかったに違いない。

9.For No One (Take 10 / Backing Track)
“Take 9”というエンジニアの声に対して“Take 10”と返したポールがカウントを入れてクラヴィコードを演奏し、リンゴがドラムでそれに応じる場面が聴けるインスト版。アラン・シヴィルのフレンチホルンはまだ入っていない簡素な演奏で、『ホワイト・アルバム』に入っていてもいいような雰囲気がある。

10.Yellow Submarine (Songwriting Work Tape / Part 1)
今回の蔵出し音源の中で、最もびっくりさせられた初登場音源。冒頭のメロディはジョンが手掛け、しかも「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」を思わせる内省的な内容をジョンがアコースティック・ギターを弾きながら歌うということが“事実”としても伝わる、とにもかくにも、リンゴの歌というイメージを覆すテイクだ。

11.Yellow Submarine (Songwriting Work Tape / Part 2)
前のテイクをさらに推し進めた制作過程がわかる、こちらも驚愕の初登場音源(5月26日録音?)。冒頭のジョンとポールのやりとりから、ポールがアコースティック・ギターを弾く傍らで、ポールが書き変えた冒頭の歌詞をジョンが見ながら二人で歌い始めているのがわかる。“We all live in a Yellow Submarine”のコーラスの箇所の合間に“Look out”と“Get down”の合いの手が入るのにもびっくり、だ。

12.Yellow Submarine (Take 4 Before Sound Effects)
ジョンのカウントで始まる、効果音やジョンの掛け声などが入る前の音源(5月26日録音)。コーラスは普通に入っているものの、テンポが速いので、リンゴの声が甲高く聞こえる。

13.Yellow Submarine (Highlighted Sound Effects)
『アンソロジー 2』に収録された“新曲”「リアル・ラヴ」のシングルに収録されていたテイクと同じ音源(6月1日録音)。演奏前に入るリンゴのセリフ(口上)が入り、間奏前のSEもちょっと多いという、さらに臨場感を楽しめるテイク。『アンソロジー 2』収録テイクよりも出だしがわずかに長く、エンディングもフェイドアウトせずに終わる。

14.I Want To Tell You (Speech & Take 4)
曲名がまだ決まっていないジョージに対し、冒頭でジョンが“Grany Smith part friggin' two!”と言ったあと、ジェフ・エメリックがグラニースミスと同じりんごの品種の“Laxton's Superb”と返すやりとりの後、ジョージのカウントで曲が始まる短いインスト版(6月2日録音)。イントロのギターは、もちろんフェイドインではない。

15.Here, There And Everywhere (Take 6)
これも「リアル・ラヴ」のシングルに収録されていたテイクと同じ音源(6月16日録音)だが、イントロにポールのカウントが入る。また『アンソロジー 2』収録テイクは1分40秒過ぎからバック・コーラスとフィンガースナップが入るテイク13を編集で加えているが、こちらはテイク6だけの、コーラスなしの演奏である。ヴォーカルは、ポールの歌の味わい深さが引き立つシングル・トラック。

16.She Said She Said (John's Demo)
正式なレコ―ディングに先駆けてレコーディングされた、アコギによるジョンのホーム・デモ音源。歌詞が一部異なる。

17.She Said She Said (Take 15 / Backing Track Rehearsal)
「最後の曲!」とジョンがまくしたてるイントロのやりとりが印象的な、『リボルバー』セッションの最後の収録曲。6月21日の録音でミックスは翌22日。日本に来るわずか1週間前のことだった。ポールのカウントで始まるインスト・ヴァージョンで、演奏自体はオフィシャル・テイクに近いものの、オルガンは入っていない。

歌も演奏もサウンドもとてつもなくいい――つまりは曲自体がいかに素晴らしいか。2016年の『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』に始まった記念盤は、そうしたビートルズの音楽的魅力を再確認できるもの、と言ってもいいだろう。そして、初登場のセッション音源から垣間見えるメンバー間の“人間関係の綾”が見えてくるのも、一連の記念盤の大きな聴きどころである。

それを実現するために、ジャイルズ・マーティンがいかに現代的な音としてオリジナル作品を蘇らせているのか、というのも重要だ。

音質の向上は言うまでもなく、楽器や声の定位を変えることで、作品の新たな聴き方を促す効果もそこにはあるわけだが、もちろんジャイルズのさじ加減ひとつで、曲の印象が大きく変わるものもあれば、それほど違いのないものもある。聴き手の好みもあるわけだから、リミックスの良し悪しの判断は聴き手に委ねられるともいえるが、そうした中で、総じて言えるのは、これまで同様、重低音を生かすことで、ヘッドフォンで聴くとより楽しめるサウンド作りになっていることだろう。もちろん、ビートルズの音楽的魅力があってこそなしうることであるのは言うまでもない。

『リボルバー』の記念盤は、「デミックス」の効果により、その魅力や味わいが、これまで以上に伝わる、文字通り記念すべき一枚だ。

作品解説-5(2022/11/1 UP)

作品解説-5:Re-Mix盤の聴き所 #2、楽曲解説:Disc 2

一連の記念盤の魅力は、リミックスされた曲だけではない。いわゆる「蔵出し音源」が数多く収録されていることだ。しかもレコーディング順に収録されているため、アルバムの制作過程がつかめるところもファンにはありがたい。各曲のどのテイクを選ぶのかに関しても、リミックスのさじ加減と同じく、調理人ジャイルズの腕の見せどころである。

今回は、「セッションズ」と題された、オフィシャルとは別テイク・別ミックスが聴ける音源について、まずはDisc-2収録の14曲の聴きどころを紹介してみる。

楽曲解説:Disc 2

CD 2: セッション1

1.Tomorrow Never Knows (Take 1)
『アンソロジー 2』で初めて公になった、まだ「Mark Ⅰ」という曲名だった「トゥモロー・ネバー・ノウズ」のテイク1。オフィシャル曲のようなビート感やテンポの良さはなく、サイケデリックでカラフルなイメージもまだない演奏だが、このまま発表しても十分だったと思わせる、よりドラッグ・ソング的味わいのある魅力的なテイクだ。出だしも終わりも『アンソロジー 2』よりも長く収録されている。『リボルバー』のセッションが、66年4月6日に録音されたこのテイクから始まったということに、改めて驚かされる。

2.Tomorrow Never Knows (Mono Mix RM 11)
『リボルバー』のモノラル盤のマトリックス1に収録されていた珍しい「モノ・ミックス RM11」を収録(6月6日ミックス)。ステレオ・ミックスに比べてSEがところどころ少なかったり、妙に強調されたりしていて、エンディングのジョージ・マーティンのピアノもわずかに長いという別ミックスである。

3.Got To Get You Into My Life (First Version / Take 5)
2曲目にレコーディングされたポールの曲(4月7日録音)だが、最初のヴァージョンはアプローチが全く異なる。これも『アンソロジー 2』で初登場した驚愕の別テイクだったが、今回はイントロのやりとりのあとにジョージのカウントが入り、エンディングもジョンのアドリブ・ヴォーカルが長くなっている。ホーン・セクションを入れた派手なブラス・ロック仕立てのアレンジに比べて、“I need your love”のコーラスなどを加えたよりクールな仕上がりが実にかっこいい。「トゥモロー・ネバー・ノウズ」もそうだが、曲の表情の違いも含めて、どちらを発表してもありだと思わせる懐の深さが実感できる。

4.Got To Get You Into My Life (Second Version / Unnumbered Mix)
今回の「初登場音源」の中でも最も聴きものの1曲。よりリズミカルにアレンジを変えたセカンド・ヴァージョン(4月8日・11日録音)で、こちらもホーン・セクションの入る箇所は、低音のファズギターで披露しているものの、ファースト・ヴァージョンに比べると、完成版のイメージが見えた仕上がりになっている。大きな違いは、ファースト・ヴァージョンのコーラスを生かそうと試みているところで、ブレイク後に“get you into my life”と入ってくるクールなコーラスを聴くと、このテイクもまた、この方向でアレンジを固めていってもいいんじゃないかと思わせる素晴らしい仕上がりだ。

5.Got To Get You Into My Life (Second Version / Take 8)
そしてポールの希望で、ホーン・セクション(トランペットとテナー・サックス)の入ったブラス・ロックへと曲の表情が変わり、公式ヴァージョンと同じアレンジになる(ホーンは5月18日録音)。2番の背後でポールのアドリブ・ヴォーカルがかすかに聞こえてくるが、全編ヴォーカル抜きの演奏のみ。ギターとホーンの絡みが最高だ。

6.Love You To (Take 1)
シタールをフィーチャーしたインド音楽然とした印象は全くないテイク1(4月11日録音)。ジョージのカウントもアコースティック・ギターの弾き語りも含めて、まるでジョージのソロ以降のデモ・テイクを聴いているかのようだ。ハーモニーはポール。

7.Love You To (Unnumbered Rehearsal)
続いてこちらは、シタールから始まっただけでインド臭が漂うリハーサル・テイク(4月11日録音か?)。ジョージのアドリブ・ヴォーカルがあちこちに少しずつ入る。タンブーラはポール。

8.Love You To (Take 7)
曲名がまだ「ラヴ・ユー・トゥ」になる前だったので、エンジニアによる“Granny Smith, take 7, Reduction take 6”の声が入り、それに続いてジョージのカウントで始まるテイク7(4月13日録音)。オフィシャルと同じテイクだが、「ジョージかな?」と一瞬思わせるポールのハーモニーも聴ける。オフィシャルのモノラル・ヴァージョンはステレオ・ヴァージョンよりもエンディングが5秒ほど長かったが、それよりもかなり長く続く。

9.Paperback Writer (Takes 1 & 2 / Backing Track)
ポールのカウントで始まるインスト(4月13日録音)。テイク1はわりとすぐに中断し、少しやりとりがあってから同じくポールのカウントでテイク2へ。この曲は2テイクしか録られていないので、テイク2は、オフィシャル・ヴァージョンの「素の音」が聴けるということになる。

10.Rain (Take 5 / Actual Speed)
「アクチュアル・スピード」と書いてあるということは、もともとこんなに速いテンポで演奏したのかとまずはびっくり。テンポを遅めにするのを前提にして、(オフィシャル版と同じ)このテイク6(4月14日録音)をレコーディングしたというデータがあるとはいえ、疾走感のあるこの「レイン」じゃなくてよかったとつい思ってしまう。加工のないインスト版。イメージが大きく異なるテイクだ。

11.Rain (Take 5 / Slowed Down For Master Tape)
冒頭のエンジニアの声からして遅いのがわかるように、先のテイクのテンポを落とした演奏が聴けるが、ジョンのヴォーカルにADTはかけられていないため、曲の印象はこちらも異なる。エンディングの逆回転のヴォーカルもなく、しかも長い。

12.Doctor Robert (Take 7)
カウント(ポールか?)に導かれて始まる軽快なテイク7(4月17日録音)。出だしのジョンのヴォーカルはシングル・トラックで、歯切れ良さがさらに伝わってくる。“Well, well”の箇所はリンゴのマラカスが大きく、ジョンの低音のヴォーカルも2度目の繰り返し部分では、よりはっきり聞こえてくる。オフィシャル版よりも余分に演奏(43秒長い)してしまった最後の“well,well”の箇所は、リズムとビートがさらに強調されていて、むしろいいアクセントになっている。エンディングもフェイドアウトせず、ジョンの声(“OK, er, we'll”と言っている)もよく聞こえる。

13.And Your Bird Can Sing (First version / Take 2)
ジョンのカウントで始まるテイク2。『アンソロジー 2』に収録された、ジョンとポールが笑いをこらえきれずにヴォーカルを重ねているのと同じだが、こちらは、重ねる前の2人のヴォーカルをフィーチャーしたテイク(4月20日録音)。オフィシャル・ヴァージョンよりもまろやかなポップ・サウンドで、これもまた十分これでいけそうな仕上がりである。

14.And Your Bird Can Sing (First version / Take 2 / Giggling)
こちらも先のテイクや『アンソロジー 2』と同じだが、2人の笑い声の入ったヴォーカルだけをフィーチャーした演奏になっている(一部ジョンのヴォーカルがダブルトラックになる)。イントロのやりとりは長い。

作品解説-4(2022/10/25 UP)

作品解説-4:Re-Mix盤の聴き所 #1、楽曲解説:Disc 1, 4, 5

作品解説-4:Re-Mix盤の聴き所 #1

『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』『ザ・ビートルズ』『アビイ・ロード』『レット・イット・ビー』と、2021年にかけて発売されたザ・ビートルズの“発売50周年記念シリーズ”(『レット・イット・ビー』は世界的パンデミックの影響もあり、1年遅れて発売)。

記念版がこうしてラスト・アルバムまでほぼ順に発売されてきた後に、さて、次はどこにいくのだろうかと思っていたファンも多いに違いない。デビュー・アルバムの『プリーズ・プリーズ・ミー』だろうか? それとも特に21世紀に入ってから人気がさらに上がった中期の『ラバー・ソウル』や『リボルバー』あたりだろうか?
そうしたファンの期待を背に受けて登場したのは、2022年に聴くのに最もふさわしい一枚といってもいい『リボルバー』(66年)だった。

今回も、下記6形態での発売となった。
①スペシャル・エディション[5CDスーパー・デラックス](63曲収録)
②スペシャル・エディション[2CDデラックス](29曲収録)
③スペシャル・エディション[1CD](14曲収録)
④スペシャル・エディション[4LP+7インチ・シングル:スーパー・デラックス/直輸入仕様/完全生産限定盤]
⑤スペシャル・エディション[1LP/直輸入仕様/完全生産限定盤]
⑥スペシャル・エディション[1LPピクチャー・ディスク/直輸入仕様/完全生産限定盤=THE BEATLES STORE JAPAN限定商品]

『リボルバー』の記念盤も、これまでと同じく、プロデューサーのジャイルズ・マーティン(ビートルズのプロデューサー、ジョージ・マーティンの息子)とエンジニアのサム・オケルが、オリジナルの4トラックのマスター・テープを使用して、ステレオとドルビー・アトモスで新たにミックス。①「5CDスーパー・デラックス」のDisc 4に収録された「オリジナル・モノ・マスター」は、1966年のモノのマスター・テープを使用している。

今回、特筆すべきは、作業にあたって、ピーター・ジャクソンの音響チームが開発し、映画『ザ・ビートルズ:Get Back』に使用した新たな技術を導入したことだ。ピーター・ジャクソンは、69年1月のゲット・バック・セッションでのリハーサル映像のヴォーカルと楽器を完全に分離するという画期的な方法を採り入れた。ジャイルズは、「デミックス」と呼ばれるこの技術を、ビートルズ好きとして知られるピーターのの許諾を得て『リボルバー』のリミックスに全面的に採り入れた。

「デミックス」についてジャイルズは、『ローリング・ストーン』誌のインタビューで、こう説明している。
「一番シンプルに説明すると、君からケーキを受け取った後、約1時間後に小麦粉、卵、砂糖を持って君のところに戻ってくるようなものなんだ。そのケーキの材料には、他と混ざっているものがひとつも残っていないんだ」。
『リボルバー』になぞらえて言うと、オリジナルの4トラックに収録された演奏――ヴォーカルやコーラスを含むすべての声と楽器――を個別に「混ざり気」なしに振り分け、その個別の「音」をすべて新たに組み直すという作業を今回の記念盤に初めて採り入れたということになる。

そうすることで、それぞれの声や楽器の分離度がおのずと各段に良くなり、スタジオでのライヴ感に満ちた演奏が、これまでの記念盤以上に味わえる仕上がりとなった。特に何曲か、左右のどちらかにしか収録されていなかったリード・ヴォーカルを今回は中央に寄せた点も、大きな特徴のひとつだ。
では①のスペシャル・エディションの聴きどころについて、まずはディスク1の〈オリジナル・アルバム ニュー・ステレオ・ミックス〉から紹介――。

楽曲解説:Disc 1, 4, 5

CD1:オリジナル・アルバム ニュー・ステレオ・ミックス

タックスマン
出だしのカウントからして鮮明。従来のミックスでは、楽器が左チャンネル寄りで、右チャンネルは、ドラム(シンバル)やカウベルが入るまでは無音状態だったが、全体が中央寄りにミックスされ、特に、左寄りだったベースは中央に移り、音もでかい。ギター(カッティング)は右に完全に分離し、その分、前半のシンバルは目立たなくなっている。カウベルは左に移動し、リード・ギターはほぼ中央に。結果、4人の立ち位置が目に浮かぶほど、ライヴ感が増大した。

エリナー・リグビー
従来は、ポールのリード・ヴォーカルは右チャンネルがメインで、ストリングスは中央に配置されていたが、今回はヴォーカルを中央にし、ストリングスを左右に分離することで、リード・ヴォーカルが右からしか聞こえてこなかった従来のミックスのバランス(違和感)を解消している。それにより、ストリングスの“掛け合い”が絶妙な響きで耳に届くようになり、これまでにないほどポールの声の生々しさが伝わる仕上がりとなった。イントロの“Ele”は、左チャンネルにに一部のみ入っていたが、今回ジャイルズは、その部分だけ中央に一緒に入れるという小技を使っている。

アイム・オンリー・スリーピング
「タックスマン」と同じく、後追いコーラスが入ってくるまでは右チャンネルは無音状態だったが、コーラスは左に移動。その後のコーラスは左右に入れるなど、ミックスを変更して音の広がりが増大。楽器類はすべて中央のやや左寄りにまとまっていたが、今回はこれまでは目立たなかったベースもドラムも中央寄りになり、やや右寄りに入っていた逆回転のギターもほぼ中央で鮮明に響いている。

ラヴ・ユー・トゥ
楽器の配置はほとんど変わりないが、イントロから響きが艶やかで、弦の音が感じられるほど強靭なミックスへと変貌。シタールがところどころ中央のやや左右寄りの両方に入り、広がりを生んでいる。低音がズシリと重い“ドローン効果”も増している。

ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア
何と言っても、ポールの艶やかなヴォーカルが堪能できる仕上がりになった。コーラスは、冒頭の中央からやや左右に分離というミックスに(従来は左後方で聞こえていた印象)。ただしリード・ヴォーカルの分離は従来ほどではなく、“Love never dies”以降に入るフィンガースナップ(指鳴らし)も中央に埋まっていて、ほとんど目立たなくなっている。

イエロー・サブマリン
この曲も、これまではリード・ヴォーカルとコーラスはずっと右チャンネルで、アコースティック・ギター、バスドラム、ベースは左、波のSE(効果音)やブラスは中央という、SE以外の音が中央にはないミックスだった。今回は、リンゴのヴォーカルを中央に配置し、SEは全体を包み込むように変更。さらにコーラスは左右に振り分け、コーラスの掛け合いは左右と中央にも一部入れるなど、より臨場感たっぷりの仕上がりとなった。

シー・セッド・シー・セッド
イントロから全く別の曲かと思わせるほど、重厚感よりも軽さが目立つ仕上がりになり、一瞬戸惑うほど。全14曲の中で、サウンドの印象をジャイルズが最も変えた1曲だ。また、メタリックな響きでではないほうのジョージのギターをより前面に出し、左右に振り分けることで、聴いたことのないかのようなフレーズが耳に飛び込んできて、それにも驚かされる。左チャンネルのドラムが中央寄りになり、ジョンのヴォーカルやポールのベースともども力強い響きに。

グッド・デイ・サンシャイン
イントロだけ中央であとは右チャンネルに入っていたピアノを、右とやや左に振り分けて強調。間奏のピアノもより鮮明になった。ドラムも右から中央に移動。エンディングのヴォーカルの掛け合いは、より左右をめぐるような仕上がりに。

アンド・ユア・バード・キャン・シング
イントロの印象は同じだが、右後方で聞こえていたギターの鳴りが明快になった。ドラムが中央やや左に移動。今回のミックスで変化の少ない1曲。

フォー・ノー・ワン
イントロから力強い響きで、重厚感がある。左チャンネルに入っていたベースとフレンチ・ホルンは中央に移動。ポールの弾くクラヴィコードは同じく右チャンネルに入っているものの、少し埋もれた印象で、クラシカルな曲調は以前よりも弱まった。

ドクター・ロバート
イントロからビート感が強く、ヴォーカルも重厚で、まるでジョンが耳元で歌っているかのようだ。やや左寄りに入っていたリズム・ギターは中央のやや右寄りに移動。2度目の“Well, well~”のジョンの低音のヴォーカルがよく聞こえるようになった。

アイ・ウォント・トゥ・テル・ユー
「シー・セッド・シー・セッド」ほどではないが、ミックスに工夫を凝らした1曲。左チャンネルに入っていたイントロとエンディングのギターを、イントロは右から左へ、エンディングは左から右へと徐々に移っていくように変更している。従来は、ベースは右、ヴォーカルとハーモニーは中央やや右、ピアノはやや左、手拍子は左右と、中央に音がないミックスだったが、今回は他ヴォーカルとベースは中央に寄せ、ピアノは中央左右に振り分け、ドラムの連打も左右に完全に振り分け、手拍子は右のみに入れるという、音の素材の配置を大幅に変え、ジョージの魅力を引き立てた。

ゴット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ
従来のステレオ・ミックスは、ブラスが右チャンネルだけに入っていたので、モノ・ミックスの方が圧倒的に迫力があったが、今回は、モノ・ミックスと同じくイントロからブラスが中央から派手に耳に届くのがまず最高。さらに中央にはヴォーカルとタンバリンと間奏のギターしかなかったのを、今回はヴォーカル、ベース、ドラムス、タンバリンを中央に寄せ、ブラスを中央から左右に楽器ごとに分離させ、ドラムの連打も中央と右に振り分けたことで、ブラス・ロックの破壊力を最大に発揮するミックスへと生まれ変わっている。全14曲中、魅力的なミックスの代表格だ。

トゥモロー・ネバー・ノウズ
イントロのシタール(音が一瞬揺れる)に続くドラムとテープループは、従来の中央から、中央のやや左右に振り分ける新たなミックス(間奏のSEも同様)。「かもめの鳴き声」は、イントロは同じく左から右へと移動させ、後半は中央右後方から左後方(あるいは逆)へと移動させている。他にも、ギターは左右に揺らし、エンディングのピアノも、右だけだったのを中央右から右へと移動させるなど、ジャイルズ流のサイケデリック感を表現した。

CD4:『リボルバー』オリジナル・モノ・マスター

1966年のモノ・マスター・テープを2022年の最新技術で蘇らせた一枚。とはいえ、2009年にリマスターされたモノ・ミックスと定位や音の鳴りに大きな違いは感じられない。「エリナー・リグビー」「アイム・オンリー・スリーピング」「ラヴ・ユー・トゥ」「グッド・デイ・サンシャイン」「ゴット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ」「トゥモロー・ネバー・ノウズ」など、ステレオ・ヴァージョンとはミックス違いの多い曲が多数含まれているので、それも併せて楽しむことができる。

CD5:『リボルバー』EP

ペイパーバック・ライター / Paperback Writer
『リボルバー』のセッションでレコーディングされ、先行シングルとして発売された曲。大衆小説家になりたがっている人物がある編集長に送った手紙の文面をそのまま歌詞にするという試みも斬新な、ポールの意欲作である。冒頭のポール、ジョン、ジョージによる厚みのあるコーラスが印象的で、それに続くポールが弾いたエピフォン・カジノの音色が、重層構造になったギター・サウンドの印象をより強めている。
〈ニュー・ステレオ・ミックス〉は、『リボルバー』収録曲と同じく、スタジオでのライヴ感の増した仕上がりに。従来は冒頭のドラムとギターは左で、ベースは右に入っていたが、今回はドラムとベースを中央に寄せ、ギターは中央やや右に配置。イントロからヴォーカルやドラムとベースの迫力がすごい。エンディングも、コーラス(右)と後追いコーラス(中央やや右寄り)という掛け合いを、今回は、コーラス(左右)と後追いコーラス(中央)という新ミックスに仕上げた。ただし、コーラス直前の咳払いや練習する声などは全く聞こえなくなった。

レイン / Rain
シングル「ペイパーバック・ライター」のB面に収録されたジョンの曲。ジョン曰く「マリファナの神からの贈り物」とのことだが、エンディングにヴォーカルを逆回転で取り入れたほか、テープレコーダーの回転数を変化させて録音し、再生する際に元に戻して声に変化を加えるなど、いわば『リボルバー』の革新的な音作りを1曲に凝縮したかのような傑作だ。天気の変化に喩えて心のありようを歌い込んだ歌詞も素晴らしい。
〈ニュー・ステレオ・ミックス〉は、イントロのドラムの音の抜けが良くなったため、「シー・セッド・シー・セッド」と同じく重量感が減退した印象。ベースとドラムの力強さは増し、右に入っていたコーラスは、中央のやや左と右に振り分けられたことで(左の方が大きめ)、ヴォーカルを包む込むサウンドへと変化した。エンディングの逆回転ヴォーカルもかなり鮮明に聞こえる。

第3回(2022/10/18 UP)

作品解説-3:アートワーク、楽曲解説:B面全曲

作品解説-3:アートワーク

ビートルズには秀逸なアルバム・ジャケットが数多くあるが、『リボルバー』は、『ウィズ・ザ・ビートルズ』『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』『アビイ・ロード』などと並ぶ印象的なデザインとして、ファンの間で人気の高い一枚だ。

ジャケットのデザインが決まる前に、まずアルバム・タイトルの候補がいくつかあった。その有力候補のひとつは、『リボルバー』のレコーディング開始直後の66年4月15日に発売されたローリング・ストーンズの『アフターマス(Aftermath)』をもじった『アフター・ジオグラフィ(After Geography)』。これは、災害の余波を意味する“Aftermath”を“After”と“math(数学)”に分け、“math”ではなく“Geography(地理)”にしてしまうというリンゴならではの造語だった。それ以外にも『Abracadabra』『Beatles On Safari』『Pendulums』『Magic Circle』『Four Sides Of the Circle』『Four Sides Of the Eternal Triangle』などが候補に挙がっていた。

その後、レコードがプレイヤー上で回る(音が流れる)イメージを元に、“回転”を意味する『リボルブ(Revolve)』からの流れでアルバム・タイトルは『リボルバー』に決まった。

当初は『ウィズ・ザ・ビートルズ』から『ラバー・ソウル』までのアルバム・ジャケットの写真を撮影していたロバート・フリーマンの写真をコラージュした、より“回転”したイメージが伝わるジャケット・デザインも作られたが、採用されずに終わり、代わりにクラウス・フォアマンに声がかかった。クラウス・フォアマンは、デビュー前のビートルズにハンブルクで出会うという、4人を最も古くから知る親友の一人だった。

ジョンからジャケット・デザインの依頼を電話で受けたクラウスは、EMIスタジオへと向かい、3分の2ほどのレコーディングが終わっていたアルバム『リボルバー』から、まず最初に「トゥモロー・ネバー・ノウズ」を聴いたという(依頼を受けた時には、アルバム・タイトルはまだ決まっていないとジョンに言われたとクラウスは回想している)。
聴いた曲のイメージを元にクラウスがスケッチを描いたところ、髪の毛が強調された4人の描写をビートルズ側が気に入り、その流れで作業を進めることになる。

そしてジャケットは、3週間ほどかけて仕上げられた。クラウスによると、デザインは、アパートの3階にある小さな屋根裏部屋のキッチンで、1週間ほど集中して作業したという。また、白黒にしたのは、カラフルなジャケットが当時は多かったので、より目立つと思ったからだという。
クラウスが描いたイラストを元に、ロバート・フリーマンが撮影した写真をコラージュし、斬新なイメージに満ちたポップ・アート的な『リボルバー』のジャケットは、こうして完成した。その際クラウスは、ジョージの髪のなかに自分の顔写真とクレジットを入れ、さらにポールの耳に中にも自画像を描いている。

アルバムの裏ジャケットには、66年5月19日に「ベイパーバック・ライター」と「レイン」のプロモーション・ヴィデオをEMIスタジオで制作中の4人をロバート・ウィタカーが撮影した写真が使われた。また各曲には、リード・ヴォーカリストの記載の他に、「ラヴ・ユー・トゥ」にタブラ奏者のアニール・バグワットと、「フォー・ノー・ワン」にホルン奏者のアラン・シヴィルの名前(だけ)がクレジットされている。

『リボルバー』は、67年度のグラミー賞の最優秀カヴァー/グラフィック・アーツを受賞した。クラウス・フォアマンはその後、ビー・ジーズの『ビー・ジーズ・ファースト』(67年)やジャッキー・ロマックスの『ディド・ユー・エヴァー・ハヴ・ザット・フィーリング?』(77年)などのジャケットを手掛け、リンゴ・スターの『リンゴ』(73年)では、付録ブックレット用に、収録曲をイメージしたリトグラフを描いている。さらにジョージ・ハリスンの『クラウド・ナイン』(87年)からのセカンド・シングル「FAB」(ビートルズ時代を振り返った内容)では、『リボルバー』をオマージュしたジャケットも手掛けた。

クラウスはベーシストとしても活動し、マンフレッド・マン、ジョン・レノンとヨーコ・オノのプラスティック・オノ・バンド、ジョージのが主宰した“コンサート・フォー・バングラ・デシュ”(71年)に参加したほか、ジョンの『ジョンの魂』(70年)と『イマジン』(71年)、ジョージの『オール・シングス・マスト・パス』(70年)、リンゴの『リンゴ』(73年)をはじめ、特に70年代前半の、ポール以外のソロ・アルバムに参加した。

ちなみに『リボルバー』の原画は、リンゴの義弟となったジョー・ウォルシュ(リンゴの妻バーバラの妹と結婚)が、たまたまロサンゼルスで見つけて、いまでも持っているそうだ。


楽曲解説:B面全曲

グッド・デイ・サンシャイン / Good Day Sunshine
ビートルズには天候をテーマにした曲がいくつかあるが、これもそのひとつ。「天気が良く、風が心地良い日に、ジョンの家の2階で生まれた夏の歌だった」とポールが語っているように、晴れやかで爽やかなイメージを、ラヴィン・スプーンフルの「デイドリーム」のような雰囲気でまとめた粋な1曲だ。リンゴのドラムやジョージ・マーティンのピアノもクールな響きで心地よい。
この曲は1テイクしか録られていないためか、今回の記念盤には唯一別テイクや別ミックスは収録されていない。

アンド・ユア・バード・キャン・シング / And Your Bird Can Sing
イントロからのツイン・リード・ギターと、ジョンとポールのハーモニーが印象的なジョンの曲で、ビートルズの曲の中でもソリッドなロックとして裏ベスト的な人気がある。「アンド・アイ・ラヴ・ハー」と同じく、“アンド”を付けたのがセンスの良さだ。だが、ジョンはなぜかこの曲を気に入っていない。
『アンソロジー 2』には、ジョンとポールがところどころ笑いながらヴォーカルをダビングしているファースト・ヴァージョンのテイク2が収録されていたが、今回の「スーパー・デラックス・エディション」には、それより幾分やりとりが長く演奏のミックスも一部異なるテイクのほかに、初登場となる、2人のヴォーカルをダビングする前のテイク2とセカンド・ヴァージョンのテイク5の計3テイクが収録されている。

フォー・ノー・ワン / For No One
「ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア」と並ぶポールのバラードの秀作で、この曲もジョンのお気に入りである。ポールの弾くクラヴィコードがクラシカルな曲調に溶け込み、浮遊感のある味わいが格別。ハイハット・シンバルとタンバリンで静かにアクセントを付けたリンゴの貢献度も素晴らしい(ジョンとジョージは不参加)。ジョージ・マーティンの要請で参加したアラン・シヴィルによる間奏のフレンチ・ホルンが、荘厳な雰囲気を見事に演出している。
今回の「スーパー・デラックス・エディション」には、初登場のテイク10(バッキング・トラック)が収録されている。

ドクター・ロバート / Dr. Robert
「ドラッグやピルがテーマ」とジョンが言えば、「ドラッグで元気にしてくれる医者というおかしなアイディアをパロディにした」とポールが言うドラッグ・ソング。とはいえ架空の話かというと、さにあらず。ドクター・ロバートは、LSDを混入したコーヒーをジョン夫妻とジョージ夫妻に勝手に飲ませた歯科医のジョン・ライリーや、ニューヨーク在住のロバート・フレイマンほか、実在の人物を歌い込んだと言われているが、誰かは特定されていない。『リボルバー』の中では最も明朗快活なサウンドで、とくにジョンのリズム・ギターの響きが抜群だ。初期であれば最後まで軽快に押し切るサウンド作りに徹したかと思うが、ポールが手掛けた“Well, well, well, you're feeling fine”で始まるサビでのテンポ・チェンジやリズムの変化の妙が、中期のビートルズ・サウンドの味わい。
今回の「スーパー・デラックス・エディション」には、初登場のテイク7が収録されている。

アイ・ウォント・トゥ・テル・ユー / I Want To Tell You
「エイト・デイズ・ア・ウィーク」と並ぶ、フェイド・インで始まる“代表曲”のひとつ。『リボルバー』に収録されたジョージの3曲目になるが、91年の日本公演のオープニングに演奏されたことで、曲の知名度が上がったかもしれない。「嘘つき女」や「愛のことば」などと同じくコーラスが耳に残るブギ・ウギ調のロックで、リンゴの力強いドラムや、不協和音を奏でるポールのピアノが印象的だ。「ラヴ・ユー・トゥ」の“Granny Smith”と同じく、この曲も録音時のタイトルは、りんごの品種“Laxton's Superb”で、翌日に“I Don't Know”になった。ただし、ジョージ・マーティンに曲名を訊かれて“I Don't Know”とジョージが答えたのは、曲名として、ではなかったかも。
今回の「スーパー・デラックス・エディション」には、初登場の「スピーチ&テイク4」が収録されている。

ゴット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ / Got To Get You Into My Life
ビートルズ初のブラス・ロック。当初は「グッド・デイ・サンシャイン」と同じくコーラスを多用したクールな仕上がりだったが、アレンジを大幅に変え、サウンズ・インコーポレイテッドが加わったことで、より洗練されたサウンドへと生まれ変わった。歌詞は一見“君”との生活を思い描いたように受け取れるが、「この曲の相手は人ではなくマリファナ」(ポール)、「LSD体験の結果生まれたに違いない」(ジョン)と2人とも発言している。ジョンが絶賛する、ポールが書いたドラッグ・ソングである。
『アンソロジー 2』にはファースト・ヴァージョンのテイク5が収録されていたが、今回の「スーパー・デラックス・エディション」には、それよりも幾分長いテイク5と、初登場の「セカンド・ヴァージョン/アンナンバード・ミックス」と「セカンド・ヴァージョン/テイク8」の計3テイクが収録されている。

トゥモロー・ネバー・ノウズ / Tomorrow Never Knows
『リボルバー』の最後を飾るサイケデリックで難解な曲が、実はセッションの一番最初にレコーディングされた曲だというのが、ビートルズが当初から革新的サウンドを求めていた証ともなる。「Mark Ⅰ」と呼ばれていた、全く表情の異なるテイク1も絶品だが、ビートルズ版現代音楽の最高峰ともいえる完成版は、何より素晴らしい。ポールが自宅で録音した「かもめの鳴き声」を模したテープ・ループを取り込んだり、ジョンの声質をいじったり、テープの逆回転を使ったりと、奇妙奇天烈なサウンドに耳を奪われる。歌詞もジョンの最高傑作のひとつだ。
『アンソロジー 2』にはテイク1が収録されていたが、今回の「スーパー・デラックス・エディション」には、テイク1の幾分長いテイクと、初登場の「モノ・ミックス RM 11テイク5」が収録されている。

第2回(2022/10/11 UP)

作品解説-2:制作背景、楽曲解説:A面全曲

作品解説-2:制作背景

『リボルバー』のセッションは1966年4月6日に始まり、最初に「トゥモロー・ネバー・ノウズ」がレコーディングされた。『アンソロジー 2』に収録されたテイク1(今回の「2CDデラックス」「5CDスーパー・デラックス」エディションにも収録)を聴けば、『ラバー・ソウル』以前の音作りと大きく変わったことが実感できる。

音作りの変化に大きな役割を果たしたのが、ノーマン・スミスに代わって『リボルバー』からレコーディング・エンジニアとなったジェフ・エメリックである。たとえばヴォーカルをレスリー・スピーカーに通して収録することで声の変革を生み出したり、リンゴのバス・ドラムに衣類を詰めて“鳴り音”を変えたりと、声や楽器に様々な工夫を施した。

それ以外にも、エンジニアのケン・タウンゼントがヴォーカルにエフェクト処理を加え、一度の録音で二度歌っているかのように聞こえるADT(アーティフィシャル・ダブル・トラッキング)を考案したり(ほとんどの曲で使用)、テープレコーダーの回転数を変化させて録音し、再生する際に元に戻し、声に変化を加えたり(「レイン」ほか)、SEを多用したり(「イエロー・サブマリン」ほか)、テープの逆回転を採り入れたり(「アイム・オンリー・スリーピング」ほか)と、それ以前にはないさまざまなスタジオ革命を起こした。もちろん、プロデューサーのジョージ・マーティンとビートルズの4人のアイディアも多数盛り込まれている。

そうして生まれたのがアルバム『リボルバー』だったわけだ。言葉を換えるなら、バンド・サウンドの頂点に位置するアルバムが『ラバー・ソウル』で、『リボルバー』からはいわば“未知の世界”や“歪みの領域”へと足を踏み込んでいったともいえる。そして、66年から67年にかけてサイケデリックな時代へと移りゆく中で、『リボルバー』のサウンドをさらに発展させ、よりカラフルに仕上げた傑作が、次作『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』だった。

曲作りに関しては、前作『ラバー・ソウル』と同時に発売された「デイ・トリッパー」と「恋を抱きしめよう」は両A面シングルとなったが、『リボルバー』では、ポールの「ペイパーバック・ライター」がA面で、ジョンの「レイン」はB面扱いとなり、以後、より大衆的なポールの曲と、より実験的なジョンの曲がそれぞれシングルのA面とB面に振り分けられることが多くなっていく。また、『リボルバー』は、ジョージの曲が初めて3曲(しかも「タックスマン」は1曲目)収録されたアルバムともなった。

アルバム『リボルバー』は66年8月5日に発売され(イギリスでの予約は30万枚)、NMEとメロディメイカーで初登場1位を記録。NMEは7週連続、メロディメイカーは9週連続その座を守った(NMEではなぜかシングル・チャートでも18位を記録)。

「エリナー・リグビー」と「イエロー・サブマリン」は、『リボルバー』と同じ日にシングルとしても発売されたが、アルバム収録の2曲がシングルとなったのは、『ハード・デイズ・ナイト』からの「ハード・デイズ・ナイト」「今日の誓い」以来のこと。オリジナル・シングルではこの2枚のみ、である。


楽曲解説:A面全曲

タックスマン/ Taxman
初めてアルバムの1曲目に収録されたジョージの曲。税金の高いイギリス政府を実名まで挙げて皮肉った傑作だ。ジョージ自身、「どんなに稼いでも、ほとんどを税金で持っていかれることを意識して書いた」と語っている。目まぐるしく動き回るポールの“リード・ベース”が刺激的だが、インド風味たっぷりのポールのギターも感覚一発の凄みがある。
『アンソロジー 2』にはテイク11が収録されていたが、今回の「スーパー・デラックス・エディション」には、それよりもやりとりが幾分長いテイクが収録されている。

エリナー・リグビー/ Eleanor Rigby
ビートルズが楽器をいっさい弾いていない初めての曲。ポールはヴォーカルのみで、ジョンとジョージはバック・ヴォーカルのみである。バックを「イエスタデイ」の倍の弦楽奏にしたのはジョージ・マーティンのアイディアだが、ポールがヴァイオリンを取り入れることにしたのは、ヴィヴァルディを、当時の恋人ジェーン・アッシャーから教わったのがきっかけだったという。切り刻むヴァイオリンの音色は、映画『サイコ』の音楽を担当したバーナード・ハーマンの影響だ。孤独な人々の寂しい生活を盛り込んだ物語性豊かな歌詞は、映画『イエロー・サブマリン』でも見事に映像化された。
『アンソロジー 2』にはストリングスだけのテイク14が収録されていたが、今回の「スーパー・デラックス・エディション」には、初登場のテイク2(始まる前の長めのやりとりも)が収録されている。

アイム・オンリー・スリーピング/ I'm Only Sleeping
ジョンの『ダブル・ファンタジー』(80年)に収録された「ウォッチング・ザ・ホイールズ」は、モノグサだと世間に見られているジョンからの返答歌だったが、「アイム・オンリー・スリーピング」は、その曲に通じる趣がある。眠いだけというよりは、気だるさを伴う眠気。ドラッグによるまったりした気分が反映された曲であると考えるべきだろう。そんな気怠さが、ADTによるジョンのヴォーカルや逆回転によるギター(ジョンのあくびも)で表現されている。
『アンソロジー 2』にはリハーサルとテイク1が収録されていたが、今回の「スーパー・デラックス・エディション」には、同じくリハーサル・テイクと初登場のテイク2、テイク5、さらに初登場のモノ・ミックス・ヴァージョンの計4テイクが収録されている。

ラヴ・ユー・トゥ / Love You To
「シタールとタブラを入れようと考えた最初の曲。歌とギターは後まわしで」とジョージが語っているように、ジョージが初めて形にした、本格的なインド音楽。ポールとリンゴも演奏に加わっているが、ほとんど目立たない(ジョンは不参加)。ジョージのソロ活動はこの曲が起点になったと捉えることもできる。このあとジョージは、インド音楽をさらに極めた「ウィズイン・ユー・ウィズアウト・ユー」(67年)と「ジ・インナー・ライト」(68年)で、より哲学的な歌詞を盛り込んだ傑作をものにしていく。録音時のタイトルは、りんごの銘柄を元にした“Granny Smith”だった。
今回の「スーパー・デラックス・エディション」には、初登場のテイク1、リハーサル、テイク7の3テイクが収録されている。

ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア/ Here, There And Everywhere
「ジョンの家のプール・サイドで、ジョンが起きるのを待つ間にほとんど一人で書き上げた」というビートルズ時代のポールの最高傑作のひとつ。味わい深いコーラスも堪能できる曲で、4人全員で担当したらしい最後のフィンガー・スナップ(指鳴らし)も効果的だ。ジョンの最も好きなポールの曲でもある。
『アンソロジー 2』からの2枚目のシングルとして発売された「リアル・ラヴ」には、前半のテイク6から後半のオフィシャル・テイクへと移行するニュー・ヴァージョンが収録されていたが、今回の「スーパー・デラックス・エディション」には、その前半部分がフルで楽しめる初登場のテイク6が収録されている。

イエロー・サブマリン/ Yellow Submarine
リンゴの代表曲。「眠りかけている時に子ども向けの歌を思い浮かべていたら、黄色と潜水艦が浮かんだ」とポールは語っていたが、ポールのストーリーテラーとしての才能が伺える色彩豊かな歌詞が素晴らしい。ただし歌詞は、メルヘンチックな曲を得意としたドノヴァンが手伝い、ジョンも手を貸している。SEを多用した最初の1曲でもあるが、マーチング・バンドによるブラスの音は、スタジオのライヴラリーから持ち出された“ニセの音”だった。
同じくシングル「リアル・ラヴ」には、この曲のテイク5のイントロにリンゴの物語風のセリフなどを長々と加えたヴァージョンが収録されていたが、今回の「スーパー・デラックス・エディション」には、それより幾分やりとりなどが長い「ハイライテッド・サウンド・エフェクツ」と、初登場となる「ソングライティング・ワーク・テープ」のパート1とパート2、さらにSEを加える前の「テイク4・ビフォー・サウンド・エフェクツ」の計4テイクが収録されている。

シー・セッド・シー・セッド / She Said, She Said
ジョンには実体験を元にした曲が数多くあるが、これは全米ツアーの合間に俳優のピーター・フォンダとロサンジェルスでLSDをキメた時(65年8月24日)の2人の会話が元になっている。「死ぬってどんなことか俺は知ってる」と囁かれて恐ろしかったとジョンはのちに語っている。メタリックなギターの音色と、テンポ・チェンジの妙をはじめ、ソロ時代のジョンを彷彿させる音作りだ。『リボルバー』の最後のセッションでレコーディングされた曲だが、その日は、日本を含む極東ツアー開始のわずか3日前だった。
今回の「スーパー・デラックス・エディション」には、初登場のジョンのデモ・テイクとテイク15(バッキング・トラック・リハーサル)の2テイクが収録されている。

第1回(2022/10/4 UP)

作品解説-1:作品の位置づけ

『リボルバー』発売から早50年どころか56年。特に21世紀に入ってからザ・ビートルズの最高傑作の一枚と言われる機会が増えたこの名盤について、まずは発売までの流れを追ってみる。

『リボルバー』が発売されたのは1966年8月5日のこと。66年といえばビートルズが日本にやって来た記念すべき年でもあったが、日本だけでなく、世界中に「ビートルズ台風」吹き荒れた激動の1年となった。

2022年は、ビートルズが62年10月に「ラヴ・ミー・ドゥ」でデビューしてからちょうど60年となる節目の年である。そして70年に最後のオリジナル・アルバム『レット・イット・ビー』が発売され、4人はビートルズからソロへと活動の幅を広げていったわけだが、7年ほどの「現役時代」を、前期・中期・後期の3つや、前期・後期の2つに便宜的に分けることが多い。

アルバムで言うと、63年の『プリーズ・プリーズ・ミー』から64年の『ビートルズ・フォー・セール』までが前期で、65年の『ヘルプ!』から66年の『リボルバー』までが中期、そして67年の『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』以降が後期、という具合だ。世界的な人気の広がりやコンサート活動を軸に置くと、その区分はわかりやすい。

一方、アルバムやシングルのレコーディングを軸に置くと、前期と後期の2つに分けるほうがいい。上に倣ってライヴ活動の流れのままだと、前期は63年の『プリーズ・プリーズ・ミー』から66年の『リボルバー』までで、後期は67年の『サージェント・ペパーズ〜』からになる。長らく入門編として親しまれてきた通称“赤盤・青盤”も、アルバム名にあるとおり、66年までが前期で、67年以降を後期というふうに振り分けている。だが、ビートルズのサウンドの変遷をたどっていくと、『リボルバー』から後期が始まるといったほうがすんなりいく。活動状況をみても、66年4月の『リボルバー』のセッションからビートルズは新たな道を歩み始めたのがわかるからだ。

62年に「ラヴ・ミー・ドゥ」でレコード・デビューしてから「4人はアイドル」として3年以上、ほとんど休みもなく走り続けてきたビートルズは、ライヴ・バンドとしても確固たる地位をすでに築いていた。しかし、65年の『ラバー・ソウル』のセッションでレコーディングの醍醐味を知るや、活動の軸をステージからスタジオへと徐々に移すようになる。少なくとも意識の上では「アイドル」の良し悪しを肌身で感じできたに違いない。

ファン・サービスがアイドルとしての宿命であるとするならば、66年以降の4人は、「自分たち」のための次なるステージへと目を向けていくようになった、と言ってもいいだろう。ライヴ活動がすでに野球の消化試合のようなものになっていたことは、4人のこんな発言からも伺える。

「僕らは蝋人形同然だった。ファンは演奏を聴かず、突進するのに夢中だった。コンサートは、演奏とは何も関係ない儀式みたいなものでしかない」(ジョン)
 「ツアーを続ける価値があるだろうかと思った。僕らは飽きていたんだ。何年にもわたるホテル暮らしから疲れ切ってしまった」(ポール)
 「ビートルマニアにもうんざりしていたんだ。もはや名声や成功を素直に喜べる状態になかった」(ジョージ)
 「コンサートは退屈なだけでなくミュージシャンとしての技量も落ちていった。寝ているとき以外、常に人に囲まれているプレッシャーも相当なものだった」(リンゴ)

そして『リボルバー』の制作でスタジオ入りするまでの3ヵ月間、4人は長期休暇に入った。当初は66年の初めから3作目の主演映画『ア・タレント・フォー・ラヴィング』の撮影が始まるはずだったが、制作が中止となった。脚本の不出来もその一因だったとは思うが、すでにやる気がなかった、ということだろう。4人が音楽活動からこれだけ長い期間離れたのは、デビュー前の60年、まだクォリーメンやジョニー・アンド・ザ・ムーンドッグスを名乗っていた時以来のことだった。その結果、それまでは実質1、2週間で完成させていたアルバム制作が一気に5週間に膨れ上がった。

「進歩するにはスタジオしかなかった」とポールがのちに語っていたように、それまでの数年間、ライヴ活動につぎ込んだエネルギーをスタジオでのサウンド作りへと傾けるようになる。曲にもっともふさわしいアレンジへと煮詰めたり、ミキシングにも積極的に関わったりするようになっていった。当時19歳だったジェフ・エメリックという野心的なエンジニアと組んだのが何より大きかった。ジェフは、62年(まだ16歳!)以降、セカンド・エンジニアとしてビートルズのセッションにもしばしば立ち会っていたが、前任のノーマン・スミスに代わって『リボルバー』のレコーディングから本格的にエンジニアとして関わることになり、ビートルズの革新的な音作りに手を貸すことになった。

ジェフの豊かな発想力により、逆回転やループなどのテープ操作や人工的なダブル・トラッキングを施したヴォーカル処理(その後ADTとして定着)のほかに、マイクの立て方など録音自体にも大きな変化が生まれた。さらにシタールやタブラなどのインド楽器、サウンド・エフェクト、ブラス・セクションなどを導入し、“ロック”の枠を優に超えたサウンドと“ラヴ・ソング”から逸脱した歌詞を盛り込んだ革新的なアルバム『リボルバー』の制作は4月6日から6月21日までの2か月半で終了。映画『ヘルプ』公開からわずか1年にしてビートルズは、サウンドにも歌詞にもサイケデリックな香りをまぶした斬新なアルバムで、新たな時代の到来を高らかに宣言。それは脱アイドル宣言といってもいいものだった。

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