『リボルバー』スペシャル・エディション発売記念 スペシャル・インタヴュー

2022.11.14 UP

スペシャル・エディションを聴いて、ビートルズの作品に対する情熱に震えたね
―― 加藤ひさし(THE COLLECTORS)

ザ・ビートルズ『リボルバー』スペシャル・エディションのインタビュー企画第3弾はTHE COLLECTORSの加藤ひさしが登場。彼は中学でビートルズに衝撃を受け、高校でバンドを始め、10代の終わりに映画『さらば青春の光』によりモッズに目覚め、20代でTHE COLLECTORSを結成した。メジャーデビューから35年、60年代〜70年代のブリティッシュ・ロックを知り尽くしたベテランミュージシャンが語る『リボルバー』とビートルズのすごさとは?

加藤ひさし(THE COLLECTORS) インタヴュー

『リボルバー』は初期の頃のハッピーなビートルズがついになくなった感じがした

加藤さんは中学生時代、10分の休み時間にビートルズ研究をしていたと伺いましたが、どんな研究を?

中学2年生(1974年)のときに「シー・ラヴズ・ユー」でビートルズに目覚めて、まずクラスのなかでビートルズ好きを見つけたわけですよ。そうするとちょうど4人いて、そのうちのひとりはすでにアルバムを数枚持っていた。もうひとりは兄貴が大のビートルズマニアで、ほとんどのアルバムとソロアルバムを持っていた。そういう連中と出会って。自分たちでは全部のアルバムが揃っていないから「このアルバムはお前が買え、これは俺が買う」みたいにひとりずつ買い足して、みんなでまわしてカセットテープに録るということをずっとやっていました。それを各授業の間の10分休みに視聴覚室のラジカセで1曲ずつ聴くんだよ。「やべー、これ」とか言いながら。

どういう順番でアルバムを揃えていったんですか?

その頃はネットもないし、丁寧に年代別に解説した本もなかったから、レコード店に行って、そこに在庫があるビートルズを買うわけ。「これは見たことがないから買っておこう」みたいな感じでね。だからキャピトル盤(アメリカ編集盤)を買って損した奴もいる。当時はキャピトル盤とイギリスのオリジナル盤との区別さえわからなかったんだから。あと日本のオリジナル盤が3枚出ているんだけど、それもわからなかった。

実際にはどういう順番で聴いていったんですか?

まずみんなで聴いたのが、後にコレクターズのドラマーとしてデビューするリンゴ田巻が持っていた(ベストアルバムの)『オールディーズ』(1966年リリース/現在生産中止)。これは大正解だった。1曲目の「シー・ラヴズ・ユー」がみんな大好きだったからボロボロになるくらい聴いたね。次に白羽の矢が立ったのが榎本くんの兄貴が持っていた「全世界同時発売」って帯に書いてある『アビイ・ロード』。ところが「カム・トゥゲザー」を聴いたとき、みんなこう言ったわけですよ。「これ地味だな」って(笑)。若いからわからなかったんだよね、その良さが。そんな感じでぐちゃぐちゃな順番で聴いていくんだけど、4枚目くらいにリンゴ田巻が『リボルバー』を買ってきたの。

けっこう早く出会ったんですね。

それはよく覚えてるね。だってね『リボルバー』のアナログ盤の紙がすっごいペラペラだったんだよ。みんなで触って「安いんじゃない?」ってからかったのを覚えてる(笑)。他のビートルズのアルバムジャケットはわりとしっかりした紙なのに『リボルバー』だけペラペラ。帯が緑色の頃だね。これ、誰かに訊ねてほしいんだよね、なんでペラペラだったのか。これが『リボルバー』との出会いですよ。

今だからこそ『リボルバー』は革新的なアルバムと言われますが、当時聴いたときにはどういう印象でしたか?

まずね、薄気味悪いアルバムだと思った。1曲目の「タックスマン」がジョージ・ハリスンの曲で、そこから他のアルバムとは印象が違ったんだけど。しかも、針を降ろすと「1、2、3、4」とか言いながら誰か咳をするでしょ? 俺たちがこのアルバムを初めて聴いた1974年当時の音楽シーンで咳声をレコーディングする連中はいなかった。「咳をしてるんだけど、いいの、これ?」みたいな。新鮮というよりも薄気味悪いというのがぴったりだった。アルバムジャケットも4人の顔が薄気味悪かったしね。初期の頃のハッピーなビートルズがついになくなった感じがしたんだよね。『ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)』とこの『リボルバー』はすごく不気味だったね。『ホワイト・アルバム』は「レボリューション9」のせいもあるんだけど「ロング・ロング・ロング」とか薄気味悪い曲がいっぱい入ってるでしょ? 『リボルバー』は「タックスマン」のせいもあるんだけど「アイム・オンリー・スリーピング」があって「ラヴ・ユー・トゥ」でインド音楽があって、最後が「トゥモロー・ネバー・ノウズ」で。あの頃はテープの逆回転のコラージュが理解できなかったんだよ。今でこそリンゴ・スターの同じドラムフレーズを繰り返すプレイがループミュージックやダンスミュージックの元祖みたいに言われたり、ケミカル・ブラザーズみたいでクールでかっこいいと思うけど、当時の俺たちにしたら、もう薄気味悪くて(笑)。ジョン・レノンの声がお坊さんのお経みたいに聴こえるんだよ。あの逆回転の音もカラスの声に思えてね(笑)。お坊さんのお経の上にカラスの声がのってるようだった。だから「すげー、気持ち悪いアルバム」というのが第一印象。

『リボルバー』は本当に不思議なアルバムだった

このビートが一般的になるのは90年代なので、加藤さんが聴いた1974年からまだ20年くらい先の話ですからね。

だから、今、このアルバムを聴いた方が、すべてにおいて革命的に感じられるんだよ。74年とか75年くらいに聴いてもこんな感じだったから60年代にリアルタイムで聴いた人はどんな気持ちで聴いたんだろうね。あれを理解できたとしたら相当センスがいいし、感性が他人とは違うよね。

リアルタイムで聴いた人の記事を読むと、やはり理解できなかったようですね。

できない。絶対にできない。それが一番ナチュラルな感想だと思う。前作の『ラバー・ソウル』とあきらかに違うのは『ラバー・ソウル』には初期から脈々とあるカントリー&ウエスタン調の曲が沢山あるんだよ。「ノルウェーの森(ノーウェジアン・ウッド)」みたいにちょっとだけ風変わりな曲はあるにはあるけど、「消えた恋」みたいに『ビートルズ・フォー・セール』のなかに入っていてもいいような曲もあるんだよね。「愛のことば」や「浮気娘」もそうだし。それこそ『ヘルプ!』に入っていてもいいような曲がちらちらある。だから『ラバー・ソウル』はビートルズ節として聴けるんだけど『リボルバー』からはツアーも辞めちゃって、スタジオにこもってサウンドコラージュを作り始めるから聴いてる方はワケわかんないよね。ところが「エリナー・リグビー」はめちゃめちゃきれいな曲だし、弦楽で歌を歌うなんて他のバンドはやってなかったから、逆にすごくスタンダードでいい曲だなと思えた。だから本当に不思議なアルバムだったね。

他のビートルズ研究会のみなさんの『リボルバー』についての見解を聞かせてください。

中学生のビートルズ研究会としてはこのあとの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』がさらにわからなかったので、それよりは「フォー・ノー・ワン」とか「アンド・ユア・バード・キャン・シング」の方がキャッチーだったんだよね。だから『サージェント・ペパーズ』よりは評判がよかった。

『サージェント・ペパーズ』はお気に召しませんでしたか。

『サージェント・ペパーズ』の「グッド・モーニング・グッド・モーニング」では動物の鳴き声が連打でやってきたりしてね、「なんなの、このアルバム?」と思ったんだよ。榎本くんが買ったときにはみんなで「お前、ハズレ買ったよね」って言ったんだもん(笑)。今や世界一アートなアルバムと言われてるのにね。1974年の熊谷の中学生の坊主にはわかるわけはないんだよ、どう考えたって(笑)。当時はそこまでしっかりした耳を持っていたわけではないから、第一印象でしか語れなかったというのもあるけどね。

『サージェント・ペパーズ』のおかげで『リボルバー』の株が上がった?

とはいえ『リボルバー』も強烈なアルバムだったよ。「タックスマン」は「バットマン」のテーマ曲みたいなシンプルなスリーコードの曲だからかっこいいとは感じるんだよ。でも何度も言うけど最初になんで咳をしているんだろうなとか、そういうところがいちいち引っかかったんだよ。「ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア」はすごくきれいなメロディの曲だと思うけど、この曲を初めて聴いたときにはすごく地味な曲に感じたんだよね。なんかパリッとしないアルバムだなって。「エリナー・リグビー」と「イエロー・サブマリン」が一緒に入っているというのも不思議だよね。「イエロー・サブマリン」に関して言うと、多分、脈々とつづくカントリー&ウエスタン調のリンゴっぽい歌を作ろうぜということになったんじゃないかな。もしかしたらまだここでは(ビートルズのマネージャーの)ブライアン・エプスタインの意向もあったのかもしれないね。彼はツアーを企画してメンバーを運んでどれだけ稼ぐかというのが仕事だったわけで。そういう面でも「リンゴがライブで歌う曲はどうなってんだよ?」とか言ったと思うんだよ。どこにもそんなことは書かれていないけどね。想像するに、ジョンとポールが「え、書くんですか?」みたいな感じだったんじゃないのかな。ビートルズのライブではいつもリンゴが1曲歌ってたからね。「いつものリンゴを頼むよ」ってことがあったんじゃないかなと。ビートルズはライブを辞めたと言ってるけど、ブライアン・エプスタインにしてみれば、もしかしたらメンバーも気が変わって、またツアーをやるんじゃないかと思っていたのかもしれないね。それがなかったらこの曲は入らないんじゃないかな。

同じビートを繰り返す心地よさをわかってたとしたら、恐ろしいバンドだと思う

『リボルバー』に対する見方が変わってきたのはいつ頃ですか?

これがすごいアルバムだと思えるようになったのは90年代なんだよね。「トゥモロー・ネバー・ノウズ」と同じリズムでケミカル・ブラザーズが「レット・フォーエヴァー・ビー」という曲を発表したでしょ。あれを聴いたときに目からうろこだった。「ビートルズがやりたかったのはこういうことだったんじゃないの?」と思った。66年当時、ループで作ったような音楽をやってるバンドもいなければ、ビートルズの他の曲にもないよね。テープの逆回転のコラージュが入っているんだけど、それはDJがスクラッチをやっているのと同じフィーリングだよね。そこでぶっ飛んだの。今「トゥモロー・ネバー・ノウズ」をクラブでダンスミュージックとして延々と流してほしいくらいだよね。クラブミュージックとして捉えれば加工したジョンのお経のような声が一番気持ちいいんだろうなということがわかったね。90年代のクラブシーンをビートルズが1966年に見通していたとしたらすごいことだよね。あくまで感覚的な話だよ。同じビートを延々と繰り返すことがこんなに心地いいんだというのを感覚的にわかってやっていたとしたら、こいつら恐ろしいバンドだなって思うよ。

もっと恐ろしいことに『リボルバー』のレコーディングは「トゥモロー・ネバー・ノウズ」から始まっているんですよね。

そうなんだ? それはもう薄気味悪いよね(笑)。70年代や80年代のほとんどのビートルズ・ファンは、例えば「フォー・ノー・ワン」のメロディがいいとか「ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア」が素晴らしいとか、楽曲の評価しかしてなかったんだよ。クラブミュージックが流行るようになって「トゥモロー・ネバー・ノウズ」のすごさに気づいたとしたら、やっぱりそっちの方がはるかに評価されるべきだと思う。しかしジョン・レノンは何を考えていたんだろうね。メロディーメーカーと言われるけど、そこじゃないところにいってるわけだよね。66年の時点でマンチェスタームーヴメントの、その先にいってるわけじゃない? これが偶然できたものだとしても「トゥモロー・ネバー・ノウズ」がクラブミュージックを作ったと言ってもいいと思うんだよ。この曲がなかったらループが気持ちいいというサウンドを誰も作れなかったんじゃないかな。というくらい、このアルバムの見方が変わったのは後になってからだね。

コンポーザーやアレンジャーの視点から『リボルバー』を紐解くとどうなりますか?

66年って、他のイギリスのバンドを聴いてみると、62年から63年くらいのムードから全く脱却できていないんだよ。それをいち早く、そことは違う次元で表現しようとしたビートルズは何を考えていたんだろう? それくらい想像できないところにいるよね。なおかつ今回のスペシャル・エディションを聴いて思ったのが「アンド・ユア・バード・キャン・シング」の別テイクで、本番ではあまり使われてないコーラスワークで作られているデモがあるんだよ。そのコーラスの緻密さとかは「ひとりぼっちのあいつ」の流れからきていると思うんだけど、さらにその上をいくような感じなんだよね。そのアレンジを採用しても面白かったんだろうけど、そうはしなかった。そういう試行錯誤があるんだよね。「ゴット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ」みたいにホーンセクションを足そうとか、足したり速くしたりという発想は案外簡単に生まれやすいんだよ。ところがひとつの曲をコーラスワークだけでやってみようとか、どの味付けにしようかとかになると一筋縄ではいかない。ビートルズはそこまでやっていたんだ? ということにびっくりした。ここまでやるにはものすごく時間がかかるんだよ。そのものすごく時間をかけたアレンジをボツにするすごさがすごい。普通はやらないよね。そこそこよくできてかっこいいアレンジだったらこれで決まりとなるよ。なのに「いやいや、次はこれをやってみよう」みたいなことをやってるんだよね。今回はこれだけしか表面には出てないけど、実際、スタジオでは何十種類のことをやっていた可能性もあると思う。ゾッとするよね。

たしかビートルズは1曲に対してのテイク数は多いですね。

テイク数が多いのを嫌がらず、全員があそこまで、しかも今のデジタルレコーディングの時代と違って、ハーモニーだってしっかり歌わなきゃハモれないから相当練習もしただろうし。それを毎日のようにやって、いいと思ったアレンジをボツにして全然違うアレンジでやるというんだから、それは仕上がりもよくなるよね。「トゥモロー・ネバー・ノウズ」に至っては気がふれるようなことをやっているんだろうね。今だったら波形を見て「ちょっと前」「ちょっと後ろ」と指示を出せばすぐに済むようなことを、エフェクトサウンドのタイミングが合うまでテープレコーダーの再生ボタンを押してたと思うの。ビートルズの作品に対する情熱に今回のアルバムを聴いて震えたね。だからここまで完成されたものが他のバンドよりできるんだと思った。

音楽を作ることに対する熱量が違う、と。

ローリング・ストーンズみたいなバンドとはちょっと違うんだなというのはわかった。やっぱり新しいものをクリエイトしたいんだなと思った。ショーマンシップとかそういうことよりもアーティスティックでいたいんだな、と。あとはビートルズのプライドみたいなものを感じるんだよね。それこそこの頃はクリームみたいなバンドも出てくるし、多種多様なテクニックがあるバンドやルックスのいいバンドがビートルズをヒントにたくさん出てくるからね。そこは自分たちが先駆者だと自認していたと思うんだよ。キングでありつづけなければいけないプライドみたいなものを感じて、ちょっと泣けてくるね。

新しいステレオミックスはビートルズがやりたかったことがクリアに伝わる

コンポーザーならではの見方ですね。

コンポーザーとして一番嬉しかったのはデモトラックで実験している様子が聴けたことだね。これを聴いてるとジョン・レノンが不思議なコード進行を使っているのがよくわかる。ここでこういくのか?って。それが本当に洒落てるし、想像できないことをやってるんだよ。それが知れたのが美味しくもあるんだけど、自分はまだまだだなと思ったね。真似できない。やっぱりビートルズに集まった連中って天才と言ってしまえば簡単に片付いちゃうんだけど、ギターのコードひとつにしても、ベースひとつにしても、時代を飛び越えるセンスを持っていたんだなと思った。アイデアが本当にたくさんあって、それがボツになっていたりするから「これでいい」という基準がめちゃくちゃ高いというか。そこにもう感服するし、あらためてビートルズにもう一回近づきたいなという気持ちになるよね。

とはいえ、加藤さんも相当作り込む方ですよね?

俺はビートルズに一番近いところにいると思うんだけど(笑)。こだわりもそうだし、ジョンとニアーな感じで、コードもみんなが「え?」っていうようなところにいってると思う。だけどビートルズはその俺をうならせるからね(笑)。

ビートルズはすごい、と(笑)。

この俺をうならせるなんてどういうことよ?って(笑)。最初から先をいってるのはわかっているんだけどスペシャル・エディションのような音源が出てくれば出てくるほど、思い知らされるんだよね。未だにビートルズを越せたロックバンドが出てこない理由はそういうところでもあると思うよ。ただね、すごい不思議なのは1966年にこの音楽を理解できた人がどれくらいいたのか疑わしいのに『リボルバー』は世界的にすごく売れたわけ。長くバンドをやって、たくさん曲を書けば書くほど、どうしてこのアルバムが受け入れられたのかがわからなくなる。本当に不思議なアルバムだよ。

それまでの人気とセールスがあったからこそ『リボルバー』は売れたという見方もできます。

ところが1枚目と2枚目が売れたバンドでも3枚目が実験作になった途端、失速して、あとはもう失速しっぱなしで解散ということも多いよね。ビートルズはどんどんワケがわからないことになっていって『サージェント・ペパーズ』なんてさらにわからないのに全部売れていくというのが不思議。たしかに曲はいいんだよ。だけど本当に普通じゃないからね。俺も曲を書くしイベントでは他のバンドの曲もコピーするけど、ビートルズのコード進行とか本当に普通じゃなくて、予想ができない。なんか妙なの。それしか言いようがない。それが武器だし魅力だとは思うんだけどね。こういうアルバムが出れば出るほど、あらためて何年経っても絶対に近づけないと思っちゃうね。

解散後のソロ作品がビートルズのような感触を持っているかというと、それも違うんですよね。ビートルズはビートルズなんですよね。

ジョンはポールのことを恐怖に思ってたと思うし、逆にポールはジョンのセンスに全く追いつけない自分がわかっていたんだと思う。ジョージが腕を上げてきたことに対して2人はビビっただろうしね。そういう暗黙の綱引きがいい方向に出ていたと思う。やっぱりソロとなるとそこまでのテンションは出せない。そこにライバルがいるかいないかで全然テンションが変わってくると思う。メンバー間の関係がある種ピリピリしてた部分もあっただろうし。しかも売れてるしさ、なんとも言えないプレッシャーのなかでみんなやってたと思うんだ。それがバンドマジックなんだよね。

リンゴ・スターも優れたプレイヤーですからね。すごいバンドですよね。

「トゥモロー・ネバー・ノウズ」のタイム感やノリはリンゴ・スターのドラムじゃなきゃ絶対に駄目だと思うしね。チャーリー・ワッツでも駄目だしキース・ムーンでも駄目だと思う。このタイム感をキープできるのはリンゴ・スターのグルーヴならではだよね。このリンゴ・グルーヴが後から出てくるループミュージックの素になってると思う。リンゴ・スターのドラムは本当にいい。最高のドラマーだと思う。ダンスミュージックからきているから、そこの部分では一番いいプレイヤーだと思う。そういう部分もあらためて感じた。とくに今回のミックスは音がよくなっていて、そういうリズムもくっきりと出てくるじゃない? だから昔よりもリンゴ・スターの良さを感じるね。

新しいステレオミックスの効果ですね。

ひとつひとつの楽器の音がクリアになってるし、それでいて「タックスマン」のベースラインはすごく吸い付くようなベースなんだけど、そういうところはちゃんと残っているし。だから聴きやすい。俺が最初に聴いてた『リボルバー』の「エリナー・リグビー」は歌の定位がいきなり片側に振られたりという感じだったからヘッドホンで聴いてると、すごい不思議だったの。なんで右とか左にボーカルが寄っちゃうの? みたいなね。当時はチャンネルの振り分けで仕方がなくやってたんだろうけど。逆にモノラルミックスの方が聴きやすいくらいだったからね。そういうのがちゃんと聴きやすいように整理されているから、これからビートルズを聴く人はわざわざ昔の音源を聴くよりもこれを聴いた方がビートルズがやりたかったことがクリアに伝わるんじゃないかな。

(取材・文 = 秋元美乃/森内淳)

プロフィール
THE COLLECTORSのヴォーカリスト。バンド活動の傍らで作詞・作曲家としても活躍。藤井フミヤ、矢沢永吉、小泉今日子をはじめ、多くのアーティストに詞や曲を提供している。1987年にTHE COLLECTORSのアルバム『僕はコレクター』でメジャーデビュー。2017年にはデビュー30周年を記念した日本武道館公演を行う。2018年に公開された初のドキュメンタリー映画『THE COLLECTORS〜さらば青春の新宿JAM〜』は5ヶ月に及ぶ異例のロングラン上映に。2022年にはデビュー35周年を記念した2度目の日本武道館公演を成功させる。11月23日に25枚目のオリジナルアルバム『ジューシーマーマレード』をリリース。2023年1月より渋谷クラブクアトロにて12ヶ月連続でマンスリーライブを行う。

2022.11.07 UP

自分たちなりの音楽を作ろうとなったときに初めて、ビートルズはすごい人たちなんだな、ということがわかりました
―― ROY(THE BAWDIES)

『リボルバー』スペシャル・エディション発売記念インタビューの第2弾はTHE BAWDIESのROYが登場。ご存知のようにTHE BAWDIESは生粋のロックンロール・バンド。最新シングル「GET OUT MY WAY / LIES」でも濃密で熱量の高いロックンロールを鳴らしている。THE BAWDIESのサウンドはザ・ビートルズでいうと初期のそれと親和性がある。そこで今回は、ロックンロールの衝動を追い続ける者の視点から見た『リボルバー』というテーマでインタビューを行った。これまでの解説や批評とは少し違った角度から見えてくる『リボルバー』の風景を楽しんでもらいたい。

ROY(THE BAWDIES) インタヴュー

4人の大きな感性と、いろいろなジャンルへの興味が入れ込まれている

今回はミュージシャン目線で『リボルバー』を紐解いてもらえればと思っています。まずROYさんにとってビートルズ、というと?

バンドをずっとやっていると、気づけばTHE BAWDIESもビートルズより長く活動しているようになって。でもビートルズは10年ぐらいの出来事なのに、作品もすごく変化していってますよね。時代的には、1年1年で流れがどんどん変わっていく時代ではあったと思うんですけども、音楽的にはそこまでいろいろな音楽があった時代ではないと思うんです。ビートルズは、初期の『ハード・デイズ・ナイト』あたりまでがぼくらのバンドでいうところのインディー期というか。好きな音楽へのリスペクトを持ちながら、そこからどうにか自分たちのものにできないかな、と模索している時代で。3枚目の『ハード・デイズ・ナイト』でようやく「これかな」みたいな、キラキラが見つかったかな、みたいな、そういう感じがするんです。なので、ぼくはすごく『ハード・デイズ・ナイト』が好きなんです。そこから『リボルバー』までいろんな時期を経ていくわけですけど。

THE BAWDIESも1枚目の『YESTERDAY AND TODAY』は、ビートルズと同じようにカバーとオリジナルを織り交ぜた作品でのスタートでしたが、ROYさんは『リボルバー』というアルバムをどういうふうに捉えていますか?

ぼくらも4人ですけど、バンドを続けていると、元は同じところにいてもそれぞれの趣味や感性がどうしても分かれてくるんですよね。そのなかで、ぼくらの場合はなるべくはみ出さないように自分たちの音の原点を大事にしながらやっているんです。でもビートルズの場合は、おそらくライブをやっていく上で、原点みたいな面白さというのは『リボルバー』の前くらいで終わったのかな、と。自分たちのやりたいことが限界まで達して、「俺はこれがやりたい、俺はこれがやりたい」みたいな状態になっていたのかな、と。作り手としてはいろいろなものに興味を持つのは当たり前ですし、それは大切なことなんですよね。だけど、それを表現することはすごく難しいので、いっても個々の趣味はあるけども、バンドの音ってこうだよなっていうところに落ち着くと思うんです。でも『リボルバー』はそういう方向にはいってないという。それぞれの音を追求したものをしっかり入れ込んでいるんですよね。しかも、そこがバラけないのは元が一緒だという土台があって、その上にそれぞれのやりたいことがのっかっている。だから結局ぶれないという。これがすごく大事なんだと思います。ぼくらも同級生なんですけど、原点の核となる部分が一緒だと何をやってもぶれないという面白さがあるし、強みがある。ビートルズは本当にそうだと思いますし。あの時代はいろんな音楽ジャンルがあったわけではないので、みんなルーツは近いと思うんですけど、多感な時期を一緒に過ごしていた結びつきというのは、いくら感性がずれていってもぶれない。それだけ4人の大きな感性と、いろいろなジャンルへの興味をひとつにまとめられるだけの土台がしっかりあるから『リボルバー』はあれだけの楽曲や個性をビートルズ・サウンドとして作ることができたのかな、という気持ちで聴いていますね。だけど普通はこういうことはできないと思います(笑)。

ビートルズがロックンロールを世界中のポピュラーミュージックにした

そもそもアメリカのソニックスに影響を受けて音楽を始めたROYさんが、ビートルズに興味を持つようになったきっかけは何ですか?

60年代のロックバンドを好きな方はイギリスから入る方が多いと思うんですよね。ビートルズ、ローリング・ストーンズ、フー、キンクスとか。ぼくはその辺のことを何も知らない状態で、とくにぼくらの時代はロックバンドをやっている人がすごく少なくて。学生時代はクラブミュージックが盛んな時代だったので、バンド=かっこいいみたいな感覚があまりなかったんです。ビートルズもすでに伝説だったので、曲は聴いたことがあるけど、聴き返すこともしていなくて。あの「レット・イット・ビー」の人たちだよね、くらいの感覚だったんですよね。その状態で、たまたま店内に流れたソニックスに衝撃を受けて。生身の身体でドン!みたいなソニックスの音にびっくりしたんです。ぼくらはそれを新しい音楽と捉えてのめりこんでいったので、イギリスよりアメリカだよな、という感覚はありませんでした。それから彼らのまわりの60年代のアメリカのバンドたちを聴いていくんですけど、なんかこうバシッとくるものがソニックス以外はあまりなくて。なんでソニックスはかっこいいのかなと思ったときに、彼らのルーツを探ったら、ブラックミュージック、リズム&ブルース、ロックンロール、リトル・リチャード、チャック・ベリー、ジェームス・ブラウン、レイ・チャールズが出てきて、そこにどんどんのめり込んだんです。最初はアメリカのガレージ・パンク、そこからリズム&ブルース、ソウルにいって、60年代全体の流れみたいなものが見えてきて、イギリス勢を無視できなくなってきたんです。というのも、アメリカのソニックスのようなバンドは母国のリズム&ブルースの影響もあるんだけど、それ以上に、同じくアメリカのリズム&ブルースに影響を受けたイギリスのバンドの影響の方が強いということに気づいて。イギリスのバンドを聴かないと駄目だなっていうことで、ようやくビートルズから入って初期のアニマルズやスペンサー・デイヴィス・グループとか、そういったイギリスのバンドを聴くようになっていきました。それが大学に入った頃ですかね。そのなかでやっぱりビートルズは違ったんですよね、全然。

どんな違いを感じたんでしょう?

アメリカのバンドと比べても完成度が違う。演奏技術も違う。レコーディングの環境も違う。しっかり作り込まれているというところはあったけど、それ以上にビートルズはもっとオリジナリティがあって、楽曲の幅が広くて、それがわりと初期の段階から出ているんですよ。この人たちは何なんだろうなっていう興味が湧きましたね。驚いたというか。

最初に驚いた曲はなんですか?

最初に衝撃を受けたのは「ヘルプ!」を聴いたときかな。冒頭の「ヘルプ!」と叫ぶところが普通だったらサビだと思うんですけど、最初にしか出てこないという。「え?」みたいな。どういう作り方をしたらこうなるのかな、みたいな。ちょうどぼくらも自分たちで楽曲を作りたい時期だったので、それがすごく衝撃でした。それからブラックミュージックのひとつでしかなかったロックンロールを世界中のポピュラーミュージックにしたのがビートルズだと思うんですよね。ロックンロールを新たに生まれ変わらせたのはイギリスの若者たち全般だと思うんですけど、ポップスまでいかせたのはビートルズじゃないかなとぼくは思いますね。

THE BAWDIESの音楽性を考えると初期のビートルズの音楽に共感を得るところは多々あると思うのですが、『ラバー・ソウル』『リボルバー』と変化していくビートルズをROYさんはどういうふうに受け取りましたか?

バンドを組んだときに「イギリスのロックの影響が強いですね」とよく言われたんですけど、そうでもなくて、学生時代のぼくらはイギリスの若者たちがロックンロールに憧れたときの、初期の気持ちと同じような気持ちでいたんです。アメリカのリズム&ブルースやソウルが好きで、自分たちなりの解釈でやるところがイギリスの若者たちに似ていたというか。時代は違うんですけど、そういう人たちと同志として歩んでいたので、しかもその歩み方は一歩ずつだったので、初期のぼくからしたら『ラバー・ソウル』とか『リボルバー』は理解できませんでした。すごく難しい音楽に感じました。ストレートにロックンロールをやれる人たちなのに、なぜやらないんだろうと思いましたね、その当時は。ぼくらはスリーコードでロックンロールをすることしかできなかった時代なので、ビートルズはすごく難しい曲を書くなと思ってました。

時間とともに理解していくわけですね。

そうですね。だから初期において、ぼくはそういう発言をしていたと思うんですけど、撤回したいというか(笑)。自分たちがスリーコードのロックンロールをやることに飽きてはいないんですけど、活動していくうちにもっと新しいことをやりたいというふうになってきたので。そこで自分たちなりの音楽を作ろうとなったときに初めて、やっぱりビートルズはすごい人たちなんだな、ということがわかるという。これだけ難しいことをやりながら、でもみんな口ずさめるし、みんな知ってるし、ちゃんとポップスになっていて、これってすごいよなって思いましたね。

「トゥモロー・ネバー・ノウズ」はまさにクラブミュージックの原型のような曲ですが、ROYさんはどういう印象を持たれましたか?

ぼくらはクラブミュージックの時代に生まれましたけど、クラブミュージックには全然いってなかったので、「トゥモロー・ネバー・ノウズ」を聴いたときはもう頭がおかしい音楽というか(笑)、全然理解できなかったです。何なの、これ?みたいな(笑)。遊びでやってるの?みたいな。それが徐々にそのすごさがわかってくるところが面白いですよね。今までとは明らかに違うことをやろうとしていたことがわかりますよね。

こうやって新しいことを躊躇なくやっていく姿勢を同じミュージシャンとしてどう捉えますか?

当時は一歩踏み出せば新しい何かがあるような、思いつくこと全部が新しいアイデアになっていくような時代だと思うので、そういう意味では、もういろいろなものが出尽くしている現代でその喜びを得ることはなかなか難しいんですけど、もし当時こういう環境でレコーディングできたのであれば、いろいろ挑戦したいと思う気持ちは理解できますね。でもそれはビートルズという成功例がある上で思うことであって、おそらく当時のバンドとして生きていたら、この発想までいかなかったと思います。今、誰もやっていないことって何だろうと考えてもなかなか浮かばないのと一緒で、当時は当時の環境のなかで、彼らがやってきたことはやっぱりすごいことだと思います。

『リボルバー』は時代の先をいっている音

今のROYさんから見た『リボルバー』の面白さはどこですか?

トップを走るバンドでありながら、ガラッと自分たちのスタイルを変えるというのはかなり勇気のいることだし、まわりも「え?」みたいな気持ちも絶対にあったと思うし。同期のバンドとかでも文句を言った奴もいると思うんですよ。「ビートルズ、何やってんだ?」「終わったな、ビートルズ」みたいに(笑)。ところが『リボルバー』はその先をいっている音なんですよね。それが今の時代に聴いてもキャッチーに聴こえるというのは本当にすごいことだと思うんです。全曲しっかり新しいことに挑戦しながら、メロディがしっかりしているという。新しいことをやろうとすると挑戦的な曲になると思うんですよ。アルバムのなかでそういう曲ばかりだと駄目だからポップな曲を入れるのが普通のバンドができることなんですけど、その両方が一緒になっている曲をいろんなかたちで何種類も作っていることがすごいですよね、本当に。4人のバランスもあるとは思うんですけどね。誰かひとりが先陣を切っていくバンドだと、この人が新しいことをやりたかったんだな、ちょっと毛色の違うアルバムになったな、で終わるんですけど、しっかりビートルズになっているんですよ。誰かが一歩前に出てもしっかりみんなでカバーし合う、この4人のバランスですよね。ジョン・レノンなんかもう突っ走りたいくらいの感じだったと思うんです。でもポール・マッカートニーの影響も多分強いと思いますけど、しっかりポップスになるという。ポールがポールでなければ、多分ジョンがもうちょっと突っ走って、この辺りからもっと尖ったアルバムになっていってたと思うんですよ。でもポール・マッカートニーがいることによって、保守的な意味ではなく、彼のポップスのセンスがバランスをもたらしていると思うんです。

ジョンは『ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)』でサウンドをコラージュした前衛作品「レボリューション9」までいきましたからね。

そうですよね(笑)。ちょうどこの『リボルバー』の時期からジョージ・ハリスンも開花していくのもいいですよね。ただ、もちろんいろんなことに興味を持ったミュージシャンがいた時代ではあると思うんですけど、例えば、THE BAWDIESでいきなりJIMとかが最近、沖縄にハマっているからといって三線を入れてきたりしても、ぼくらはそれをひとつにはできないと思うんですよ。料理しきれないというか。そういう意味でもひとりひとりの個性にスポットが当たった、いわゆるビートルズと言えるアルバムなのかなという気がします。ビートルズっぽいというとまた少し違うかもしれないですけども、メンバーひとりひとりがちゃんと活躍している。これがビートルズだよって言えるアルバムなのかもしれないな、とぼくは思いますね。

音の輪郭がしっかり聴こえて「目の前でドン」という迫力もある

『リボルバー』の新しいステレオミックスはどうでしたか?

ぼくは昔の音楽を若い人たちにすすめることが多いんですけど、「音、しょぼくないですか?」と言われるんですよ。とくにガレージ系のバンドとか50年代のリトル・リチャードとかチャック・ベリーとかはよく言われるんです。今とはレコーディング環境が違うので、そこはどうしようもないんですよ。そこじゃなくてその奥にある魅力とか迫力に気づいてほしいんですけど、今の音楽って音圧がとにかくすごいしそれに慣れていて、しかも気持ちよくバランスがとれているものを聴いているので「なんでこれは偏っているんですか?」という。そこに引っかかって、素直に音楽を楽しめない人が多いんですよね。でも今回のミックスは、初めてビートルズを聴くという今の若い人たちが聴いてもしっかり届くと思います。音の一個一個の輪郭がしっかり聴こえるし。バンドサウンドでドンとやっているけど、ちゃんとボーカルが目の前にいて。このミックスは本当に今の人に伝わるミックスだと思います。「タックスマン」からいきなり違ったのでびっくりしました。やっぱりステレオミックス自体が60年代中盤だと、どうしていいのかわからない時代だったと思うので、どうしても出来上がっていない技術で完成されているから、それでビートルズを聴くとなると、今の人は「なんでこんな中途半端なステレオなんですか?」ということになると思うんですけど、そこがまず解消されているのは大きいですよね。もし今と同じようにステレオが完成された環境だったら、メンバーもこの新しいミックスを選ぶと思いますね。今回のステレオミックスはモノが持っている「目の前でドン」という迫力もちゃんとありながら、ステレオの一個一個がちゃんと整頓されて、目の前でバンドが演奏しているという音を体験できるので、素晴らしいと思いました。

そういう意味ではこの一連のリミックスのシリーズは、これからビートルズを聴く若い人たちのためのものでもありますね。

そうですね。ぼくもそう思います。大変だとは思うんですけど、こうやって納得したかたちで残っていくと、また次の世代、次の世代に伝わっていく。今の子たちは、ビートルズはすごいとバンドの先輩や大人たちに言われて「すごいんだろうな。理解しなきゃ」となると思うんですよ。音楽を知っていけば、いずれ理解していくと思うんです。最初に「ロバート・ジョンソン、ちょっとわからないなあ」という感じと一緒ですよね、多分。絶対にすごいんだろうけど、今の音楽の方が聴きやすいな、みたいな。録音環境問題というのはどうしても出てしまうので、今回のミックスは若い世代に伝わるものだと思いますね。

聴きやすさにおいて現代の音楽と肩を並べて聴けるミックスだと。

そうだと思いますね。でも元々の素材を変えているわけではないから、今の音楽風にということではなくて。おそらく当時もちゃんとステレオが理解されていればこうしたかった、という音だと思います。モノラルが好きな人もけっこういると思うんですけど、そういう人にもぜひ聴いてもらいたいですね。

当時の録音技術という話になると、その技術でよくこんなアルバムを作れたなという気はします。

そうなんですよね。こうやってビートルズが発明していったから、新しい機材が生まれていくわけですよね。この発想がテクノロジーの進化というか。実験的ってよく言いますけど、本当に実験というか、何かを発明しようとしてやっている感じですからね。ビートルズが他のバンドと明らかに違うところはそこだと思います。ちょうど1966年ってアメリカのガレージ・パンクのバンドがたくさんデビューする時期なんですよ。ソニックスは65年にシングルは出しているんですけど、基本的にみんな66年なんですよ。ブリティッシュ・インヴェイジョンの影響で本国よりもちょっと遅れるんですね、多分。キンクスとかフーとかを聴いたアメリカの子たちがそこからバンドを始めて、みたいな。キンクスやフーの初期のギターとローリング・ストーンズの「サティスファクション」のように、とにかくみんなやたらとファズを使って、シンプルな曲の真似をするという。高速でリズム&ブルースをやって。だからソニックスに「この時期に一番かっこよかったのは誰か?」と訊いたときに「一番かっこよくて、憧れていたのはキンクスだった」と言っていたんです。当時、ビートルズはもうそこにはいなかったんですよね。もっと先の存在というか。「俺たちがロックンロールをやりたいと言ったときにはビートルズはもうそこにはいなかった」みたいなことを言ってましたから。

(取材・文 = 秋元美乃/森内淳)

プロフィール
THE BAWDIESのボーカル&ベース。THE BAWDIESは小学校からの同級生のROY、JIM、MARCYと高校からの同級生、TAXMANによって2004年1月1日に結成。唯一無二の圧倒的なボーカルを武器に、メンバーが敬愛するリトル・リチャードやレイ・チャールズに代表されるリズム&ブルース、ロックンロールのルーツを昇華した楽曲、誰をも楽しませてくれるライブが各地で噂を呼ぶ。2枚のアルバム、シングルを経て2009年に『THIS IS MY STORY』でメジャーデビュー。最新型のロックンロールバンドとして国内外で高い支持を得る。2019年にはデビュー10周年、結成15周年を迎え、自身3度目となる日本武道館公演を開催。最新リリースとしては2022年10月19日にROYとTAXMANそれぞれがメインボーカルを務める両A面シングル「GET OUT OF MY WAY / LIES」を配信リリース。また、11月3日には7インチアナログレコード「FREAKS IN THE GARAGE - EP」を発表。また、11月8日を皮切りに全4ヵ所をまわる「BIRTH OF THE REBELS TOUR ~MARCYの復讐・TAXMANの逆襲~」を開催する。

2022.10.28 UP

『リボルバー』が今のクラブミュージックに与えている影響は大きいですね
―― George(MOP of HEAD)

ブレイクビーツ、ダブステップ、ドラムンベース、ハウスなどのダンスミュージックを自らのバンド、MOP of HEADで表現しながら、サウンドプロデューサーやキーボード・プレイヤーとしてsumikaやASIAN KUNG-FU GENERATIONやYOASOBIなど、日本の音楽シーンの最前線で活躍するバンドに携わっているGeorge。常に最先端の音楽に軸足を置いている彼の立ち位置からザ・ビートルズの『リボルバー』の革新性について語ってもらった。

George(MOP of HEAD) インタヴュー

バンドマンがビートルズから得られるヒントは多いと思います

GeorgeさんはMOP of HEADで活動しながらsumikaやASIAN KUNG-FU GENERATIONやYOASOBIのライブに関わっているわけですが。

そうですね。YOASOBIはどういうライブにするか、どういうサウンドで行くかという方向性を、現場にも行きながらやっています。その他のバンドは自分でキーボードを弾いたりピアノを弾いたり、いろんなことをやったりしています。

なので、ミュージシャンとしてだけではなくサウンドプロデューサーとしての視点からビートルズの『リボルバー』を語ってもらえれば、と思っています。

今年に入ってASIAN KUNG-FU GENERATIONのサポートをやらせてもらうということになったんですけど、やっぱり彼らは海外のサウンド的な部分を取り入れたり、日本のロックバンドとして切り開いたバンドなんですよね。それで面白いことに、アジカンの場合、どこに音が必要かな?って考えていくと、メロトロンに行き着いたんです。というのもアジカンの新しいアルバムを聴いて、ちょっとサイケ的な部分を感じたのでビートルズの音楽を思い出して。そのとき思い浮かんだのはまさに「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」の音だったんです。あの頃のビートルズはメロトロンが入るな、と思って、まずメロトロンを買って。そのあとに「トゥモロー・ネバー・ノウズ」のような、逆再生ができるエフェクターを買って、それをメロトロンにつないでやってみよう、と。というのも、今のロックバンドにハマるとサウンドがちょっと豊かになるかな、と思ったんです。ただ新しいシンセサイザーを使うのではなくて、バンドになじむような、ビートルズにおける鍵盤が入ってくるような立ち位置でやりたかったんですね。ぼくが他のバンドに参加するときに、何をやってほしい、というバンドもいれば、自由にやって、というバンドもいれば、新しい音がほしい、というバンドもいるんですけど、それをバンドになじませるのはけっこう難しいんですよ。そういうときに一番参考になるのがビートルズのサウンドなんですよ。

具体的にはどういうところが参考になるんですか?

ビートルズはギター、ベース、ドラムのサウンドがあって、さらにストリングスが入っていたりするんですが、ビートルズの場合、効果的に入っていることが多いんですよ。しかもギターやベース以外の音が入ってくるときには、その楽曲の肝になることが多いんです。例えば「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」のイントロも、ああ、あの音だってなりますよね。

たしかにそうですね。

そうやって、ビートルズはギターやベースの音以外に入れた音の印象が残る場合が多いんです。だからこそ違う音を入れる意味があるんですけどね。だから他のバンドとやるときに、どうやればいいのか悩んだときには、ぼくはビートルズを聴き直すんです。

ビートルズが作ってきたアルバムのなかには発見がいっぱいあるんですね。

いっぱいありますね。「イン・マイ・ライフ」もそうですよね。途中のピアノソロとか。だから他のバンドに入ってやるときには、CDには入っていないけど、ライブでこの音を入れたらみんな喜んでくれるかな、みたいなことを考える上で、ビートルズはすごく参考になりますね。ビートルズを聴いたことがないバンドマンは聴いたほうがいいと思います。ここから得られるヒントはとても多いんですよ。

ケミカル・ブラザーズは「トゥモロー・ネバー・ノウズ」にインスパイアされて2曲くらい作っている

そんなGeorgeさんですが、ビートルズに出会ったのはいつ頃なんですか?

両親が音楽が好きだったので、2〜3歳から聴いている感じがします。記憶がない頃から、ビートルズやローリング・ストーンズは家でずっと流れていたみたいで。このアルバムがすごい、と自分で思ったのは小学校6年生くらいのときに『アビイ・ロード』にものすごくハマったときですね。1曲目の「カム・トゥゲザー」ばっかりずっと聴いてました(笑)。当時からピアノもやっていたので、ビートルズの曲を弾いてみたりとか。そういう意味ではビートルズが自分の音楽の基盤にはあるのかな、という気はしてます。

『リボルバー』についてはどういう印象を持たれていますか?

ビートルズの年表を見ると、彼らはとんでもないペースでアルバムを出してるんですよね。ところが『ラバー・ソウル』から『リボルバー』にいくと、もう違うバンドみたいな感じになっていて。音楽的にも音響的にも自分たちがやってきたことを過去のものにしちゃうというか。リアルタイムで聴いた人はあのアルバムで鳴っている音が何の音なのかわからなかったんじゃないですかね?

そうみたいですね。

そういう意味でも『リボルバー』がバンドの分岐点なんだな、という気がしますね。いったい1日何時間音楽と向き合ったらああいうことを思いつくんだろうな?って思いますよね。ボブ・ディランもそうですけど、昔のアーティストは一回お客さんを裏切るというか、エレキギターを持ってお客さんからブーイングを浴びてまでも新しいことをやろうという、そういうかっこよさがありますよね。音楽に対してものすごい入れ込みようだったんだな、って。

Georgeさんから見て、『リボルバー』は現代の音楽にどのような影響を与えていると思いますか?

今のクラブミュージックに与えている影響は大きいんじゃないですかね。それこそ「トゥモロー・ネバー・ノウズ」の、あのビートとか。ケミカル・ブラザーズはあの曲からインスパイアされて2曲くらい作っていると思うんですよ。同じビートでやってる「Setting Sun」という曲もありますよね。ボーカルがノエル・ギャラガーで。あの曲は「まさに」ですよね。「トゥモロー・ネバー・ノウズ」をレコーディングした年(1966年)を考えると、嘘でしょ?ということにはなりますけどね(笑)。

「トゥモロー・ネバー・ノウズ」のビートが流行るのは20年以上先のことですからね(笑)。

だから『リボルバー』からがビートルズの本領発揮、という印象が強いですよね。ちょっと普通じゃない人かも、みたいな(笑)。いい曲を書く人たちだと思っていたのが、そうじゃなくて、いい曲が書けるのは前提で、そこからのアレンジとかはもうレベルが違うところにいった感じがしますよね。だけど、当時、誰も思いついていないアイデアを作品にすることに、相当、無理があったと思うんですよ。それをバンドの共通認識として世に出せるというのがすごいというか。これを世に出すというジャッジメントをしたことがちょっと考えられないというか。

当時のリスナーは戸惑ったみたいですね。

当時、この音楽を消化するのに1年じゃ無理だったんじゃないですかね。次の『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』を聴いてから『リボルバー』を聴くと意味がわかるというか。今だからこそ『リボルバー』から後期のビートルズが始まった、とか言えますけど、リアルタイムで『リボルバー』を手にした人が「最新のビートルズが一番いい」とは言いづらかったんじゃないかと。だって、1曲目の「タックスマン」からもう違いますからね。今回の新しいステレオミックスでビートルズがどういうふうにプレイしようとしてたのかがわかりやすくなっていて。それを聴くと、正統派のようで正統派じゃないんだな、というプレイ内容なんですよね。例えば、ここのギターを上手く聴かせたいからとかじゃなくて、ここをこういうふうに鳴らすと人はこう感じてくれるんじゃないか、というように、曲の世界観に対して音をあてていく感じを強く感じます。

『リボルバー』でジョン・レノンはジョン・レノンに振り切ったように思います

他に『リボルバー』についての印象はありますか?

例えば「トゥモロー・ネバー・ノウズ」を聴いていると、ジョン・レノンがジョン・レノンに振り切ったように思うんですよ。このアルバムからジョン・レノンはポール・マッカートニーとは全然違う道にいったように思うんですよね。ポールは常に王道のポップスを求めて、きれいなメロディを求めていたような気がするんだけど、ジョン・レノンはサウンドもどんどん新しくなって、音響も「レボリューション」の頃になると、ギターとかもびっくりするくらい歪んでるじゃないですか。『リボルバー』をきっかけにジョンとポールは方向性が分かれたような気がするんですよ。それ以前の作品はジョンとポールのどっちが主導で作ったのかな?ってわかりづらかったと思うんですけど、『リボルバー』から明らかにジョン・レノンがジョン・レノンになり始めたという。

その象徴が「トゥモロー・ネバー・ノウズ」だという。

ジョン・レノンはこの曲で新しいビートにトライしようと思ったんじゃないですかね。66年の時点でああいうビートがなかったとは思わないんですけど、ポップスでああいうものを使うことはあまりなかったんじゃないですかね。あのビートを聴かせたいがためにコードが少ないと思うし。それからああいう曲ができた背景には、元々デビューした頃から本人たちの間で、新しい音楽を作りたい、っていう思いがあったと思うんですよ。現代でいうと、進化の仕方やスタイルとしてはレディオヘッドとかに近いですよね。元々ブリットポップみたいなところから始まって今はもうアブストラクトな方向にいったりとかしてますからね。ビョークも最初と今じゃ全然違いますし。

たしかにビートルズはその先駆けという捉え方もできますね。

ただ毎年アルバムをリリースするなかで「トゥモロー・ネバー・ノウズ」のようなアイデアが出るかといったら、なかなか出てこないと思うんですよ。例えば、普通に音楽を聴いていることが常識だった頃に、逆再生で聴こうとは思わないじゃないですか。それを音源としてアルバムに入れちゃうって、今でこそ普通になりましたけど、当時としては天才的な閃きはあったにせよ、どうしたら面白いサウンドができるかということをずーっと考えてなければ出てこないアイデアだと思うんですよね。もしかしたら、今でもみんながやってなくてこれからやれることってあるかもしれないんですよ。誰も気づいていないだけで。でも早々には出てこない。そういうことをビートルズはバンバンやってたんですよね。だから今、面白いことをやろうとすると、ビートルズがあのときああいうことをやっていたよね、ということになるんじゃないかなと思いますね。

ジョン・レノンが生きていたらどうなっていたんでしょうね。

坂本龍一さんとかと一緒にやってたかもしれないですね。ジョン・レノンがYMOを見たら喜びそうだな、というのはあるし。クラブ・ミュージック的なサウンドにいってる可能性はありますよね。エレクトロニカだったりとか。たぶんギターは弾かなくなっている気もするし。勝手な読みですけど、アナログシンセサイザーだったり、そういう方向性になってたかもしれないですよね。90年代に入って若い子たちが面白いことをやり始めたら、それにすごく刺激を受けたんじゃないですかね。

最近のアークティック・モンキーズには『リボルバー』的なものを感じています

Georgeさんから見てレディオヘッドやビョークの他に『リボルバー』的なものを感じるバンドはいますか?

現代で『リボルバー』と同じようなことをやっているバンドがいれば、ぜひ聴いてみたいですけど、例えば、The 1975は今の世代の子たちにはすごくいいロックだと思うんです。ジャンルもそんなに決まっていないし、ポップスとしても、今の子たちにとってはナンバーワンだと思うんですよ。ただぼくとしてはアークティック・モンキーズのやっている方向が好きですね。映画のサントラみたいなことになって、どんどん深くなっていくというか。そういう意味では、最近のアークティック・モンキーズにはちょっと『リボルバー』的なものを感じています。革新的というよりは、もっとクラシックではあるんですけどね。昔の映画のサントラのような感じというか。ああいう匂いがありつつも、どんどん削ぎ落としていって、テンポも遅くはなっているけど、急にピアノが入ってきたり、サウンドが渋かったりとか。ぼくが心配することじゃないですけど、元々のファンは大丈夫かな?みたいな。

そこもビートルズと同じなんですね(笑)。

うちのバンドでも最近のアークティック・モンキーズはやばいね、って話になっていて。アレックス・ターナーは超えちゃったなあ、みたいな。ぼくの勝手なイメージなんですけど、こういうことをやるのはやっぱりイギリスのバンドなんですよね。

ビートルズからつづく伝統なんですかね(笑)。

イギリスの音楽が好きな理由はそこにあるように思いますね(笑)。アークティック・モンキーズもテンポが遅くなって、アレックス・ターナーもどんどん後ろで歌っていくと、リズムがちょっとヒップホップっぽいノリになっていくなあ、という。ジョン・レノンの歌を聴いていても、詩的な内容だからかもしれないけど、韻を踏んでいくな、というのがあって。なんかすごくヒップホップを感じるときがあるんですよ。

ジョン・レノンと現代の音楽はリンクするんですね。

当時からジョン・レノンもリズムを重視してたのかな、と思いますよね。考えてみれば、ビートルズってリズムがすごく覚えやすいんですよ。ジョン・レノンはとくにリズムを意識していた気がするんですよね。「トゥモロー・ネバー・ノウズ」もリフレインというか、歌詞は違っていても、同じリズムを繰り返したりするじゃないですか。自分の声を楽器的に捉えていたんだろうな、と思うんですよね。本来、歌が上手いボーカリストだと自分の声をいじりたくないと思うんです。ところがジョン・レノンはガンガン声にもエフェクトをかけたり。もう当時から歌の価値観を変えちゃってるんですよね。ポール・マッカートニーはあまりそういうことはやらなかったと思うんですよね。自分の歌を聴かせたいという思いがあったと思うから。ジョン・レノンは自分の声を楽器としてリズムではめ込んでいたのかなと思いますね。

当時、ビートルズがあれだけセールスを上げていたからそういった実験がやれたんでしょうね。

とはいえ、好きなことやってもいいよ、と言われても普通はここまでは行けないと思うんですよ。今の日本の音楽シーンを考えても、『リボルバー』まで踏み込むのはやっぱり恐いですよね。いくら成功していても、今までの売上から数字が落ちるのも恐いだろうし。好きなことと言われても、それまでやってきたショービジネス的なところから抜け出すのって、相当、大変だと思うんですよ。だからビートルズはいい成功例だと思いますね。

(取材・文 = 秋元美乃/森内淳)

プロフィール
2006年にMOP of HEADを結成。FUJI ROCK FESTIVAL、COUNTDOWN JAPANなどの大型フェスに出演。また、DJとしてFUJI ROCK FESTIVAL '13、’14と2年連続でGAN-BAN SQUAREに出演する他、DOG BLOOD(SKRILLEX & BOYS NOIZE)初来日公演にてオープニングDJを務める。これまで楽曲提供やアレンジ、ライブ、レコーディング等に参加したアーティストはASIAN KUNG-FU GENERATION/BACK DROP BOMB/YOASOBI/向井太一/sumika/澁谷逆太郎(SUPER BEAVER)/Negicco/東方神起など多数。他にもHITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタルのオープニングやヤマザキナビスコカップ 決勝戦のBGM、ブルボン アーモンドラッシュのCM音楽などを手掛ける。

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