真矢ミキ ×Ms.OOJA
フランクで、男前な
2人の出会い
- Ms.OOJA
- 最初にお会いしたのは、遊助さんのライブだったんですよね。
- 真矢
- おじゃちゃん、その時すごく大きなマスクをしてたの。背が高くてモデルさんみたいだし、綺麗な人なんだけどどなたなんだろうって思ってました。
- Ms.OOJA
- 私は、まさか隣の席が真矢さんだなんて気付かなくて(笑)。その後、打ち上げでご挨拶させていただいたんですよね。
- 真矢
- そう。お酒がグッと胸襟を開いてくれて(笑)、2人の距離が近づきました。
- Ms.OOJA
- (笑)。真矢さんはテレビで見ていたシュッとしたイメージよりももっと、フランクで“男前”な方だなあと思いました。
- 真矢
- あなたもね(笑)。私の中では、何かの番組でご一緒して以来ずっと記憶にあった<若くてマニッシュなアーティスト>が、Ms.OOJAさんだったんだってピタッと繋がって。
- Ms.OOJA
- 以前やっていた「水曜歌謡祭」ですよね。認識してくださってたと知って、とても驚きました。
- 真矢
- <すごく好きな人、ハッとした人>っていうインプットがしっかりあったから、嬉しかったです。その後コンサートにも行かせていただいたんですが、おじゃちゃんの歌を聴いてると、やけに恋愛したくなるんですよ(笑)。
- Ms.OOJA
- そんな風に思っていただけて、嬉しいです(笑)。
- 真矢
- 歌唱力も抜群で、会場中の全部、椅子にすら沁み入ったんじゃない!?っていうくらい、響くものがありましたよ。
- Ms.OOJA
- なんて素敵な褒め言葉!ありがとうございます。
このオーラを
もっと掘り下げたい
- Ms.OOJA
- 今回なぜ真矢さんと一緒に作詞をしたいなと思ったかというと、真矢さんにお会いすればするほど、その佇まい、発していらっしゃるオーラが、他の誰にもない、今まで経験したことのない類のものだなって感じたんですよ。凛として、清々しくて、女性らしくて強さもあって。このオーラをもっと掘り下げたいと思ったんです。そういう真矢さんの言葉で歌を作ったら、すごくいいんじゃないかと思ってお願いをしました。
- 真矢
- 私のこと、すごく客観視してますね(笑)。嬉しいです。
- Ms.OOJA
- お願いするにあたっていろいろと真矢さんのこれまでをネットなどで拝見したんですが、宝塚では超が付くほどのトップスターで、ここまで順風満帆に来られたんだろうなと思っていたら…。
- 真矢
- いやいや、もうボコボコですよ(笑)。
- Ms.OOJA
- (笑)。でもそれを知って、真矢さんのことがさらに好きになりました。真矢さんはどうやっていろんなことを乗り越え、どうやって今に至ったのかをお聞きして歌詞にいかせば、きっとその歌で励まされるリスナーの人もたくさんいるんじゃないかなって思うんです。
- 真矢
- そっち方面で行きますか。
- Ms.OOJA
- 行きたいなと思ってるんですが、どうでしょう。
- 真矢
- 私は好きな分野というのが3つあるんですね。ひとつはそういうこと、もうひとつは失われつつあるもの──自分が育った世界や見てた世界、昔あった家族とかにキュンとしちゃうんです。あとひとつは、恋人の時って歌を作るけど、結婚すると作らないよなってこと。夫にとか妻にって、死んじゃう前に言っておきたいっていうのがあるんです。
- Ms.OOJA
- その、奥さんや旦那さんにっていうメッセージソング、すごくいいですね!
- 真矢
- 世の中にある歌の中で、自分がキュンとするジャンルはなんだろうって考えたんです。普通は“ポップス”とか“バラード”とか言うんでしょうけど、私の場合は“死別”とか(笑)、“恋の出会い”“友人からの励まし”。だいたいそこにはまるなと思ったんです。でも、結婚している相手に対してはあまりない。人って、別れてやっとわかるのかな?出会った時のエネルギーをいちばん強く感じてるからかな?でも、意外と今なのかもよ!?──っていうジャンルはないなと思って、ここが書けたら気持ちいいかなとも思ったんです。
- Ms.OOJA
- なるほど、すごく素敵だと思います。
- 真矢
- あと、私は今50代なんですけど、家族って、親が60代、子供が30代くらいの時がいちばんみんながひとつになれるというか。出かけるにしてもね。それよりも若いと、子供達は家族よりも優先することがあったりするし、それを過ぎると、親が疲れてきてしまう。
- Ms.OOJA
- 私はまさに今、そうですね。やっと、親に何かしたいなっていう気持ちになってきたし、それを実現できる年頃になってきました。
- 真矢
- そこは意識してでもすごく大切にしてほしいなと思って。じゃないと、のちに思い出が少なくなっちゃう気がするんですよね。
- Ms.OOJA
- それは感じます。
- 真矢
- 私、小さな鏡と引き出しが2つ付いている、手で持てる程の家具ひとつだけで、何も言わずに15で家を出たままなんです。こんなことになるとは思わなかったから。
- Ms.OOJA
- 宝塚からずっとですからね。
- 真矢
- そう。一生の別れというか、すぐに寮に入ったから、これでもう家には帰らないんだってわかっていたらもっとちゃんとしたのにって思うくらい、幼すぎて何もわかってなかったんです。あの時振り返ればよかったな、とか思いますよね。
- Ms.OOJA
- …鳥肌が立ちます。
- 真矢
- 若い頃は出会いが嬉しかったけど、今は、出会った人たちを死ぬまでちゃんと大切にできるのかなって思ったりするんですよね。だから、最近はそこまで出会いたくないなって思いがあって…。出会いたいの。人が大好きだから。でも、大切にできる時間が狭まっていくんだったら…って。今までとは、心の動く場所がちょっと変わってきたようなところもありますよね。
不安は、
のちの形を変える起爆剤
- Ms.OOJA
- 私は今35なんですけど、この先の人生、真矢さんようにキラキラ輝いて生きていくためにやっておくべきことはどういうことなんでしょうか。
- 真矢
- 私、あなたほど出来てないですよ(笑)。メールを交換していても思うけど、あなたはそのままで、もっともっと素敵な大人になっていると思う。
- Ms.OOJA
- でも、不安でいっぱいなんです(笑)。
- 真矢
- 不安があるっていいじゃない!不安って、のちの形を変える起爆剤みたいなものだと思うから。私、不安はないとダメだと思います。不安っていいよ。
- Ms.OOJA
- 「不安っていい」、これは新しい捉え方ですね。真矢さんじゃないと(出てこない)。
- 真矢
- もちろん、バランスを崩すと危ないですけどね。
- Ms.OOJA
- 不安って、マイナスな要素じゃないですか。将来への不安、お金の不安、結婚の不安とか。35歳の頃の真矢さんってどうでした?ちょうど宝塚をお辞めになった頃ですよね。
- 真矢
- そうですね。私の場合は、おじゃちゃんの思う不安とはまた全然違いました。男(役)しかやってこなかったから、急に女になって普通の社会に入っていいの?って。女性って、「今日からあなたは女性です」ってなれるものじゃないですよね。いろんなものを積み重ねて──恋愛とか、ちょっと嫌な言い方すると格差なんかもつけられながら、社会に揉まれて女性としての美しさみたいなものが出来てくると思うから。
- Ms.OOJA
- それまでは舞台に立っている時も、普段も、男としていなきゃいけなかったんですよね。
- 真矢
- それなのに急に女になれって、そんな無茶なと思って。だから、辞めたあの頃はいちばん様子がおかしかったと思いますよ(笑)。でも、辞めることで人生が変わってしまうとか、どうやって生きていったらいいんだろうとか、そういうことは何も思っていませんでした。宝塚の大ファンで入ったわけではなかったから、どこかクールに考えてたんですよね。
2〜3年はスパイみたいな
気分でした(笑)
- Ms.OOJA
- 宝塚は、何がきっかけだったんですか?
- 真矢
- これまでお話してこなかったんですが、年齢も重ねてきたし、自分の人生を紐解いてもらう機会なのでいいかなと思うのでお話しますね。うちは、私が中2くらいから離婚するしないの話し合いをしてたんです。父と母、どっちに付くかという話にまでなったんですが、私はどうしても言いたくなかった。それを決めたら、本当に別れてしまう気がしたからです。その時、ちょうど宝塚市に近い豊中市というところにいたんですね。うちの母は横浜の女子大を出ているんですが、宝塚をよく観に行ってたそうなんです。大学で演劇を見るのも好きで、娘が生まれたら宝塚に入れましょうねなんて言ってたらしく、だったら、私がそう言い出せば両親は別れないでいてくれるんじゃないかって思ったんですよね。実際それが歯止めになったのか、離婚はしませんでした。
- Ms.OOJA
- 実現したんですね。
- 真矢
- 私の性格って、その時は苦しくてもぐっと我慢して、通過できるんですよ。でも通過した後、「あれ?」って。「私、そんなに宝塚好きだったっけ?」みたいなことになっちゃって(笑)。
- Ms.OOJA
- それでも、あの狭き門を突破されて。
- 真矢
- 私はずっと共学だったので、まずカルチャーショックを受けましたよね。女性に憧れる女性が山ほどいて、そこから40人入るんだけど、みんな宝塚の先輩の中に好きな人がいるんですよ。でも私だけいないの。名前すら言えなかった。だから2〜3年は、言葉は悪いですけどスパイみたいな気分でした(笑)。
- Ms.OOJA
- 自分だけすごく冷静で、すごく客観的に見えているんですよね。
- 真矢
- 好きなふりをして(笑)、必死に馴染もうとしている自分がいました。心の中では「今頃、離婚したりしてないかな」なんて考えながら寮生活が始まったんですが、2年間、それはもうありえないくらい厳しかったです。だけど2年間は不平不満を言わず、泣かず、嘆かず、助けも求めず、とにかく心配させないようにやってみようと思ってやってきましたね。
- Ms.OOJA
- その年頃の少女が、それほどの決意をしてそこに挑むってすごいことだと思います。ましてや、恋い焦がれた場所ではないのに。
- 真矢
- でも入ったらすごく好きになりましたよ。大地真央さんの男役が本当にかっこよくて、ああもう大丈夫、夢ができたと思いました。その日から長かった髪もバシッと切りましたしね。
知らないからこそ、
見えるものがあった
- Ms.OOJA
- 真矢さんは、宝塚の歴史の中でも新しいことにいろいろと挑戦されてますよね。
- 真矢
- 自分は皆さんより全然宝塚への熱が追いついてないし、ステップアップしていくための細かい階段の上り方も全く知らないから、図々しくも頂(いただき)だけ、つまり「トップになればいいんでしょう?」って、そんな風に思ってたんです。今思えば、殴りたくなるようなね(笑)。
- Ms.OOJA
- その無謀さが、逆によかったんでしょうね。
- 真矢
- 私、物事を箇条書きにするのが好きなんですね。宝塚を観てこなかった自分のメリットとデメリットを書いた時、デメリットだらけでしたが(笑)、ひとつだけ強く太文字で書こうと思えたものがあったんです。それは、宝塚を知らないっていうことの”目の新しさ”というか、真新しいものがちゃんと映る目──どっぷり浸かってしまうと見えなくなるけど、浸かってない私にはまるまる見えていると思ったんです。
- Ms.OOJA
- たとえばどういうことですか?
- 真矢
- 真っ白な顔に真っ赤な口紅を塗って大振りで「オスカル!」も素敵ですけど、私はもっと日本の男性の、オークル(な肌)で、シャイで、大事なところで黙ってしまうクセとか、そういうところって色気あるなあと思ったんです。それが、真新しい目。そういうことが舞台でできないかなあって。決してOGの方が作ってきたものを否定しているのではなく、男性もロン毛になってきてましたから、時代にそぐう形で、私もロン毛にしてみたりしたんです。
- Ms.OOJA
- 伝統を重んじる世界でそれをやるのは、すごく勇気がいりますね。
- 真矢
- でも、そこがさっき言ったメリットで。だって知らないしっていう(笑)。
- Ms.OOJA
- その強さって一体(笑)。
- 真矢
- 強さじゃなくて、鈍感なの(笑)。ただ3番手くらいになると、さすがに知らないって失礼だなと思って。知らないなんて言ってトップに立ってるのは気持ちが悪い、なんて失礼だったんだろうって思って、宝塚の歴史を読んだり、先輩方に会いに行ったりもしました。
いつか、みんな、
別れていく
- Ms.OOJA
- ご結婚されてどれくらいですか?
- 真矢
- 今年で10年です。自分とは全く考えが違う人と結婚したので、家具の置き方ひとつとってもびっくりしてますけど(笑)。
- Ms.OOJA
- でもそれって、真矢さんにとっては楽しいことなのかなと思うのですが。
- 真矢
- 楽しいですね。もちろんきれいごとだけじゃ済まされない日もあるし、「何これ!?」って思うことも多いけど(笑)、たぶんあちらも思っていて。でも何がいいって、感覚が全部違うのに、根底のところだけがズボッと一緒なんですよ。自分にはない発想が好きっていうところが一緒だから、「あれ!?」と思うことがあっても全然いいと思ってます。
- Ms.OOJA
- そうなんですね。
- 真矢
- あと、2004年に父親が他界したんですが、やっぱりどこかでいつかみんな別れていくんですよね。私が10代の頃うちはいろいろありましたけど、夫婦だって、何事もなかったように、砂に溶けるように、浜辺に書いた文字がなくなるように、「あれ?一緒に何か書いてたのにね」「一緒にお城を作ったのにね」って、本当に切なく綺麗に、いいことも悪いことも全部終わるんだなって思ったんです。だから、家の中ではやいのやいの言ってますけど、大切にしたい時間だなって思いますよね。「いつまでもあると思うな」ってよく言いますが、それは親だけじゃなくて。もし自分に子供がいて、と考えるとすごく切なくなります。お父さんやお母さんっていう立場の人は、自分が死んでも、大切な我が子がずっと元気でいてくれますようにとか思うんだろうなって。死を考えるにはまだ早すぎるけど、でも、見送る人が多くなってくると、そしてついこの間まで粋な言葉で励ましてくださっていた先輩がパッと亡くなってしまったりすると、当たり前のように思っているこの日常だけど、ちゃんとしないとな、大切にしないとなって、ひしひしと感じています。