──まず、2月23日にライヴ・イベント「賣笑エクスタシー」が行われて、それがこの度、DVDでリリースされるわけですが、2年振りのライヴはいかがでした? |
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「それはそれは緊張いたしましたよ(笑)。もうヤバいって感じで。えっ、そう感じませんでした? あ、それは演技です」
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──(笑)あのライヴではアレンジを手掛けた斎藤ネコさん率いる23人編成のストリングスとジャズで言うところのピアノ・トリオを従えてのライヴでした
けど、アレンジに関してはどういうアイディアがあったの? |
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「私からネコさんにお願いしたのは、1曲1曲の性格を見えるようにするっていうことを詰めていって、例えば、“ここは行進してるような感じ”とか、そういうお話をさせて頂きました。リハーサルはストリングスの方に入って頂いて、2、3回やったんですけど、のらねこ合奏楽団(ストリングス隊)は時間が空いてる学生さんが入れ替わりで参加しているので、本番も偶然来られる人が参加してるのかなって思って、ちょっとドキドキしました。
あと、美術とか衣装に関しては、スタッフがみなさんプロフェッショナルなので、完璧すぎるものを作られるんです。ただ、完璧にそれっぽいものではなく、時代感もちょっとほのかに折衷で、ちょっとデタラメなものがよかったから、そうお伝えしましたね。だから、イメージとしては“奇をてらったショウビジネスをやってきた若い子が花の満開時を過ぎてしまって、しょうがないから安いお店で歌ってる”みたいな感じですかね」 |
──1曲目にヴァイオリンの伴奏でシャンソンの名曲「枯葉」を取り上げてたけど、あの曲で始めようと思ったのはどうして? |
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「あの曲を(カヴァー・アルバム)『唄ひ手冥利』で取り上げた時にも思っていたことなんですけど、私は歌っていうところに絞ったパフォーマンスをしなければいけない職業であることを長い時間かけて確認していこうと考えているんです。だから、あの日も「枯葉」を口ずさみながら、ステージに出ることによって、本番の心構えを確認するっていう意味があったような気がします」 |
──そこから「とりこし苦労」を始め、自作曲が続いていくわけですけど、お客さんに手拍子で迎えられたじゃない?
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「ねぇ?どうなっちゃうのかって思って、ドキドキしましたよ。変拍子とか来ちゃったらどうするんだろう?とか(笑)」
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──そして、歌謡ボサノヴァな「意識」とか歌謡タンゴな「歌舞伎町の女王」、あと、ワルツ調の「ポルターガイスト」と、流麗なアレンジなんだけど決め決めじゃないという。
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「そうそう。「意識」はネコさんに相談したんですけど、本物のブラジリアンではなく、誰かが真似してる感じ、しかも、それを日本人がやるわけだから、っていうことをお話させて頂いて、緻密にアレンジして頂きました。だから、イメージとしては、戦前、戦後の米軍基地のお店で、ジャズ風って言われるような、でも、そのなかでも一番素晴らしいとされてたピアノ・トリオに見よう見まねで始めたストリングス隊が非常に日本的でしっとりとした音の構成でアレンジされた曲をダンスホールで演奏しているような感じですね。選曲も“賣笑”っていうテーマにちなんだもの、“賣笑”の元々の意味は“売春”なんですけど、私の実感としては笑顔を売るマクドナルド、みたいな印象しか湧かなかったので、笑顔を売るっていう字面
に合った曲を選びました」 |
──「茎」を英語詞で歌ったのは?
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「聴いてしまうとやりにくいっていうことで、アレンジが終わるまでネコさんにはアルバムをお渡しせずに、基本的な骨格と歌メロが分かりやすいようにピアノとかギターしか入ってないものをお渡ししたんです。そこにたまたま英語詞の「茎」が入っていたんですけど、ネコさんはそれが私の曲だと思わなくて、“あれ、誰のスタンダード?”っていう仰ったんです。
だから、“実は私の曲なんですけど、そう思われたのなら私の曲っていうことを特別
意識せずにアレンジしてください”ってお願いして、スタンダード的なアレンジにして頂いたという。ただし、日本語で唄うと息継ぎのポイントが違って、テンポを遅くするのが難しいので、英語詞になったんです」 |
──あと、あのアレンジは『加爾基 精液 栗ノ花』の持つメロディと林檎ちゃんヴォーカルの素晴らしさを明らかにするものだと思ったんですけど?
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「嬉しいです(笑)。アレンジ自体は綺麗に構築されているんですけど、ネコさんは歌ものとして当然のアレンジをしてくださったんだと思います。だからこそ、歌がちゃんとしてないとガタガタになっちゃうなっていうプレッシャーはすごかったです。やっぱり、歌がいい作品っていうのは、圧倒的だと思うので、そこは今後の課題でもあるかな、と」 |