オール・アバウト・アビイ・ロード:楽曲解説

1969年9月26日にザ・ビートルズのアルバム『アビイ・ロード』が発売されてから50年、今年9月27日に発売される50周年記念エディション収録曲について解説。

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その2:B面全曲 (8/29 UP)

ヒア・カムズ・ザ・サン / Here Comes The Sun
『アビイ・ロード』に収録されたジョージ2曲目の傑作。ジョージがアップルの会議をサボってエリック・クラプトンの家に向かい、アコースティック・ギターを借りて庭を散歩している時にできたという。サビの“Sun, sun, sun, here it comes”に絡まるジョージのシンセサイザーとリンゴのドラムが絶妙だ。そのリフのメロディが「恋をするなら」にちょっと似ているとジョージは語っている。
「スーパー・デラックス・エディション」には、初登場のテイク9(リンゴの誕生日の7月7日に行なわれたジョージ、ポール、リンゴによるセッション)が収録されている。
ビコーズ / Because
ヨーコがベートーヴェンの「月光」をピアノで弾いていたので、逆に弾いてもらったらできたとジョンが言うバラードの佳作。「ジス・ボーイ」「イエス・イット・イズ」に続く、ジョン、ポール、ジョージの美しい3声(3回重ねたという)も久しぶりに味わえる。イントロから鳴り響く印象的な音は、ジョージ・マーティンによるエレクトリック・ハープシコードで、そこにジョンのアルペジオによるギターや、ホルンの音を模したモーグ・シンセサイザーがかぶさってくる。「風・空・大地が循環しているなんて、ヨーコの『グレープフルーツ』のまんまだ」とポールが言うとおり、歌詞もメロディもヨーコの存在があったからこそ生まれた1曲である。
『アンソロジー3』には3人のヴォーカルのみのアカペラ・ヴァージョンが収録されていたが、「スーパー・デラックス・エディション」には、初登場のテイク1(インストゥルメンタル)が収録されている。
ユー・ネヴァー・ギヴ・ミー・ユア・マネー / You Never Give Me Your Money
通称“アビイ・ロード・メドレー”は、この曲から始まる。この1曲だけで、すでに組曲仕立てになっていて、曲の展開はどことなく「ハピネス・イズ・ア・ウォーム・ガン」のポール版の趣がある。アップルのごたごたを歌い込んだ辛辣な内容で、歌詞に出てくる「金をよこさない野郎」は、ポール以外の3人の後押しでビートルズのビジネス・マネージャーとなったアラン・クラインのこと。「全く信用できないやつについての歌だ」と、のちにポールは名指しで非難した。
「スーパー・デラックス・エディション」には、初登場のテイク36が収録されている。
サン・キング / Sun King
「ゲット・バック・セッション」でも演奏された、ジョンによる捉えどころのない摩訶不思議な曲。歌詞も、スペイン語とイタリア語とポルトガル語のように聞こえるジョンならではの造語を取り入れている。ジョージによると、フリートウッド・マックのトロピカル風のインストゥルメンタル「アルバトロス」を聴いて、リヴァーブを効かせたギター・インストをやってみようと思ったという。前曲とのメドレーにするために、ポールが虫の鳴き声を模した効果音を作って冒頭にくっつけている。シルク・ドゥ・ソレイユとのコラボレーション・アルバム『LOVE』には、逆回転で収録され(曲名もさかさまの“Gnik Nus”で邦題は「「グンキ・ンサ」)、幻想的な雰囲気がさらに増した。
「スーパー・デラックス・エディション」には、「ミーン・ミスター・マスタード」とのメドレーで演奏された初登場のテイク20が収録されている。
ミーン・ミスター・マスタード / Mean Mr. Mustard
ジョンが68年にインドで書いた、公園で寝泊まりする年老いたマスタード氏を描写した小品。「ゲット・バック・セッション」でも演奏されていたが完成せずに、メドレーの1曲となった。レコーディング時は 「サン・キング」とこの「ミーン・ミスター・マスタード」が“Here Comes The Sun-King”の仮タイトルでメドレーで演奏されていた。
『アンソロジー3』には『ホワイト・アルバム』制作前のジョージの自宅でのデモ音源が収録されていたが、「スーパー・デラックス・エディション」には、先に触れた「サン・キング」とのメドレーによる初登場のテイク20が収録されている。
ポリシーン・パン / Polythene Pam
これもジョンがインドで書いた、人名をタイトルにした曲。ジョンによると実話を元にしたそうで、マスタードの妹パンを、ジョンは革長靴とキルトを纏ったリヴァプールの売春婦に見立てている。初期に戻ったかのような歯切れの良いバンド・サウンドが聴けるが、サウンドの切れ味以上に耳に残るのはジョンのリヴァプール訛りと、曲の合間や最後のジョンのアドリブの喋りだ。
『アンソロジー3』には、「ミーン・ミスター・マスタード」と同じくジョージの自宅でのデモ音源が収録されていたが、「スーパー・デラックス・エディション」には、「シー・ケイム・イン・スルー・ザ・バスルーム・ウィンドー」とのメドレーで演奏された初登場のテイク27が収録されている。
シー・ケイム・イン・スルー・ザ・バスルーム・ウィンドー / She Came In Through The Bathroom Window
この曲も「ゲット・バック・セッション」ですでにピアノの弾き語りによるスロー・ヴァージョンで披露されていたが(『アンソロジー3』に収録)、「ポリシーン・パン」とのメドレーでレコーディングされたスピード感あふれる演奏は、メドレーに収めるのがもったいないほどだ。特に中盤のポールのベースがすごい。「シー」が誰を指すのかについては諸説あり、ジョンはリンダだと言っていたが、ポールの自宅の浴室の窓から侵入した追っかけファン説が有力だ。
「スーパー・デラックス・エディション」には、先に触れた「ポリシーン・パン」とのメドレーによる初登場のテイク27が収録されている。
ゴールデン・スランバー / Golden Slumbers
『アビイ・ロード』の最後を飾るメドレー。この曲もレコーディング時には「キャリー・ザット・ウェイト」と2曲合わせて“Golden Slumbers”のタイトルで演奏されていた。リヴァプールの父の家にポールが遊びに行った時、ルース(腹違いの妹)の童謡集に16世紀に書かれたトーマス・デッカーの同名のトラディショナル・ソングがあるのを見つけ、気に入ってそれをヒントに書いたもの。ジョージ・マーティンがアレンジしたストリングスが、この物哀しいメロディアスな曲に重厚な彩りを添えている。
「スーパー・デラックス・エディション」には、「キャリー・ザット・ウェイト」とのメドレーで演奏された初登場のテイク1~3とテイク17(ストリングスとブラスだけのインストゥメンタル)が収録されている。
キャリー・ザット・ウェイト / Carry That Weight
「ゴールデン・スランバー」の最後のピアノが終わり、リンゴのドラムに導かれて歌われるタイトル・フレーズがまた重いメッセージだ。背負い続ける「重荷」は、収拾がつかないアップルなのか、それともビートルズなのか。曲の中盤に「ユー・ネヴァー・ギヴ・ミー・ユア・マネー」の一節を、歌詞を変えて挟み込んだのが、メドレー仕立てをさらに際立たせたポールの優れたセンス。タイトル・フレーズにまた戻る時のホルンの響きは、70年代以降にも増えるジョージ・マーティンならではのオーケストラ・アレンジである。
「スーパー・デラックス・エディション」には、先に触れた「ゴールデン・スランバー」とのメドレーによる初登場のテイク1~3とテイク17(ストリングスとブラスだけのインストゥメンタル)が収録されている。
ジ・エンド / The End
出来過ぎのような話だが、4人が最後のアルバムだと意識しながら制作した『アビイ・ロード』の最後を飾るポールの曲。リンゴの初のドラム・ソロと、それに導かれて始まるポール、ジョージ、ジョンの順で3回ずつ交互に繰り返されるギター・バトルは、最後を飾るにふさわしい名演である。そしてピアノを弾きながらポールが最後のメッセージ――“結局、君が得る愛は与える愛に等しいんだ”を歌い、ジョージ・マーティンによるオーケストラで大団円を迎える。“ビートルズ物語”は最後の最後まで劇的だ。「シェイクスピアを真似て、意味のある2フレーズで締めくくりたかった」というポールの詩的な歌詞をジョンは「普遍的で哲学的な詩」と称えた。
『アンソロジー3』にはギターとオーケストレーションが大々的にフィーチャーされた別ミックス音源が収録されていたが、「スーパー・デラックス・エディション」には、初登場のテイク3が収録されている。
ハー・マジェスティ / Her Majesty
もともと「ミーン・ミスター・マスタード」と「ポリシーン・パン」の間に入っていてメドレーの一角をなしていたポールによる小品。曲の流れが悪いからとポールが外したものの、エンジニアのジョン・カーランダーがテープのおしまいに20秒ぐらいの空白時間を作って移動させたところ、ポールがそれを気に入り、結果的にアルバムのアンコール的位置づけの洒落た曲としてよみがえった。
「スーパー・デラックス・エディション」には、初登場のテイク1~3だけでなく、この曲が当初予定されていた位置に入っている9曲のメドレー「ザ・ロング・ワン (トライアル・エディット&ミックス)も収録されている。

その1:A面全曲 (8/22 UP)

カム・トゥゲザー / Come Together
もともとジョンが選挙用の応援曲を依頼されて書き始めたものの完成には至らず、曲名だけ残して全編書き直したファンキーな傑作。ジョンの曲がアルバムの冒頭に収録されたのは、65年の『ヘルプ!』以来のこと。しかもアルバムから「サムシング」との両A面シングルとしても発売された。ファンキーなサウンドだけでなく、ジョンならではの“レノンセンス”を駆使した奇妙奇天烈な歌詞も素晴らしい。4人のまとまりという点でもアルバム随一で、ポールのベースもリンゴのドラムも抜群の演奏ぶりだ。チャック・ベリーの「ユー・キャント・キャッチ・ミー」(56年)に似ていると楽曲管理者に訴えられ、ジョンが和解のためにソロ・アルバム『ロックン・ロール』(75年)でその曲をカヴァーしたのもよく知られるところ。
『アンソロジー3』にはテイク1が収録されていたが、今回の「スーパー・デラックス・エディション」には、初登場のテイク5が収録されている。
サムシング / Something
初めてシングルA面に収録されたジョージの曲。「ジョージのベスト・ソングだと思う」とポールも言う、「イエスタデイ」に匹敵するバラードの傑作で、カヴァーもその次に多い。アップルからデビューしたジェイムス・テイラーのアルバムに「サムシング・イン・ザ・ウェイ・シー・ムーヴス」という曲があり、ジョージはその曲名をモチーフにした。「カム・トゥゲザー」と同じく、この曲でもポールとリンゴの演奏が素晴らしい。ポールのメロディアスなベースは、「レイン」や「タックスマン」と並ぶポールの名演のひとつに挙げられることが多い。リンゴも、長年愛用してきたラディック・ブルーノートを、『アビイ・ロード』からラディック・ビッグビートに変えたため、音の広がりが生まれている。
「スーパー・デラックス・エディション」には、『アンソロジー3』収録のデモ音源にピアノやギターが加えられた演奏と、テイク39にジョージ・マーティンのアレンジによるストリングスが加えられたインストゥルメンタルの初登場2テイクが収録されている。
Something (2019) 試聴/ダウンロード
マックスウェルズ・シルヴァー・ハンマー / Maxwell's Silver Hammer
「ゲット・バック・セッション」で演奏されたが、まとまらなかったポールの曲。「〈ハニー・パイ〉のようなノヴェルティ・ソング」とジョージが言う、ポールならではのほのぼのとした曲だが、歌詞は猟奇的。ジョージに言わせると「マックスウェルはみんなを殺し続けるわけだから、かなり病的」となる。ポールによるモーグ・シンセサイザーが新たなビートルズ・サウンドとして耳に心地いい。ポールはシングルにしようと執拗に時間をかけてレコーディングしたが、かえってジョンの顰蹙を買った。「僕らに100万回も繰り返させた。シングルになんて最初からムリな話だ」とはジョンの弁。
『アンソロジー3』にはテイク5が収録されていたが、「スーパー・デラックス・エディション」には、初登場のテイク12が収録されている。
オー!ダーリン / Oh! Darling
「ゲット・バック・セッション」でも演奏されたポール作のオールド・スタイルのロックンロール。「アイム・ダウン」や「ホワイ・ドント・ウィ・ドゥ・イット・イン・ザ・ロード」と同じくポールのシャウトの破壊力がすごい。ポール自身、この曲に合うような太い声にしようと、録音直前の1週間、毎日。朝早くにスタジオに入り、歌い続けたという。『アンソロジー3』には「ゲット・バック・セッション」でジョンと一緒に歌っている音源が収録されているが、「僕ならもっとうまく歌えたね。彼にセンスがあったらきっと僕に歌わせたさ」と、自分で歌いたがっていたジョンは、この曲を傑作だと認めている。
「スーパー・デラックス・エディション」には、初登場のテイク4が収録されている。
オクトパス・ガーデン / Octopus's Garden
「ドント・パス・ミー・バイ」に続くリンゴの自作曲。『ザ・ビートルズ(通称ホワイト・アルバム)』のセッション中に一時脱退したリンゴが、イタリアのサルデーニャ島に家族旅行をした際、ボートの船長からタコにまつわる話を聞き、それを元にして書いたという。「海に潜って、逃げ出したい気分だった」とリンゴはその時のことを振り返っているが、「イエロー・サブマリン」とよく似たほんわかムードの内容は、いかにも“ピース&ラヴ”なリンゴらしい。曲作りで援助したジョージによるイントロや間奏でのギターが印象的で、コップの水をストローで吹いて出した効果音も最高だ。
『アンソロジー3』にはテイク2(エンディングのリンゴのコメントはテイク8)が収録されていたが、「スーパー・デラックス・エディション」には、初登場のテイク9が収録されている。
アイ・ウォント・ユー / I Want You(She's So Heavy)
「ヤー・ブルース」と並ぶジョンの真骨頂とも言えるヘヴィ・ワルツ。当時、ビートルズよりもヨーコとの活動を重視していたジョンの心情が曲ににじみ出ている。曲名以外、歌詞には“(I want you)so bad”と“It's driving me mad”しか出てこない。ここまで歌詞のない曲を書きたくなったのはヨーコの影響だとジョンは言っている。「レボリューション9」と同じく、プラスティック・オノ・バンドをビートルズでやってみたらこうなった、といえるほど、“ビートルズのイメージ”を逸脱した印象があるが、これもビートルズらしさのひとつだ。ジョンによるエンディングのモーグのうなりと、ポールによる“テケテケベース”の融合がすさまじい。
「スーパー・デラックス・エディション」には、2月22日のトライデント・スタジオでのセッション音源に、アビイロード・スタジオで4月18日と20日に手を加えた初登場の「トライデント・レコーディング・セッション&リダクション・ミックス」が収録されている。

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