リレー・コメント 岩井 直溥 (いわい なおひろ)

岩井 直溥 (いわい なおひろ) 指揮/監修/編曲

~ Profile ~

1923年10月2日生まれ。1947年、東京芸術大学器楽科(ホルン専攻)卒業。芸大在学中よりアニーパイル・オーケストラに所属し、トランペット奏者として活躍、その後、フランキー堺が新しく編成したシティ・スリッカーズにプレイヤー兼アレンジャーとして加わり、本格的なアレンジャーの道に進む。 59年より東芝EMI (現・EMIミュージック・ジャパン)専属アレンジャーとなり、現在は、その仕事のかたわら、全国各地のバンド・クリニック、及び定期演奏会にて活躍中であり、ポピュラーを中心とした作・編曲は3,000曲を超えている。なおニュー・サウンズ・イン・ブラス・シリーズではスタート当初より今日に至るまで指揮、監修、アレンジを担当している。

参加作品

第39集 ニュー・サウンズ・イン・ブラス 2011 第30集 ニュー・サウンズ・イン・ブラス 2002 第21集 ニュー・サウンズ・イン・ブラス '93 第11集 ニュー・サウンズ・イン・ブラス 第2集 ヤング・ポップス・イン・ブラス!! and more...

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「ニュー・サウンズ・イン・ブラス」の思い出

古い話ではありますが、戦後の日本では各地に数多くのビッグ・バンド(ジャズ・バンド)が結成され、それぞれが特徴のある演奏を通して競い合っていた時代、演奏される曲はすべてジャズ或いはラテン・ナンバーでした。当時とあるビッグ・バンドのトランペット・プレイヤーであり”吹奏楽もポップスも大好き人間”だった私は、このビッグ・バンドのダイナミックなサウンドや格好の良いコードの響きに興奮しながら演奏する毎日でした。
ところが1960年代の頃からエレキ・サウンドを主体にしたロック・ミュージックが徐々に流行り始め、このロック・ミュージックがビッグ・バンドにはあまり向かないと思われていた為か?これらビッグ・バンドは急速に減り始めていったのです。

この状態を憂いていた私達は、「何とかしてこのダイナミックで粋な演奏形態を持つビッグ・バンド・スタイルを残したい」と相談していました。そこで考えたのが、「吹奏楽にこのスタイルを取り入れれば新しい演奏スタイルが生まれるのでは?!」というものだったのです。
この頃、吹奏楽のコンサートと言えば先ず”マーチ”や“オリジナル曲”、或いは”クラシックのアレンジ物”が殆んどで、ポップス曲はごく僅かでお座興的な演奏しかされていませんでした。

この様な状況の吹奏楽界に、この”ビッグ・バンド・スタイルを持ち込む”ということは当然反対意見も強く、一進一退での打ち合わせが一年くらい続いたように記憶しています。しかし幸いなことに、この企画に対して<ヤマハ>や<CBSソニー(当時)><東芝レコード(当時)>が積極的に動いてくれるようになり、1972年5月16、17日の両日、記念すべき第一集の録音が東京杉並公会堂で行われました。これが楽譜&LPレコード(当時)が同時に発売される【ニュー・サウンズ・イン・ブラス・シリーズ】の誕生となり、その後40年間に渡って『楽譜はヤマハ、レコード・CDは東芝レコード(第一集のみCBSソニー)』というスタイルを堅持しているのです。
多くのスタッフの皆さんの情熱と、当時の東京佼成吹奏楽団のピックアップ・メンバーを主体とした優秀なスタジオ・プレイヤーの力をお借りしてのシリーズ誕生でした。

しかし一方で、色々な苦労もありました。学校や市民バンドなど現場の演奏でポップス奏法の基本が全く出来ていなかったこと。この点はヤマハの援助による全国行脚のポップス・クリニックを実施することで少しずつ解消されていきました。しかし、まだまだ悩みは数知れず・・・。ある年の録音でスロー・ナンバーのアルト・サックス・ソロに対し関係者の中から「そんな夜のネオン・サイン的な表現はやめて健全なものにしてください」と原曲のイメージを変えてしまうようなリクエストがあったり(当時吹奏楽に対する理解は、まだまだ発展途上だったわけです)、ポップス特有の記号や奏法について「勝手に作らないでほしい」といったお叱りを受けたこともありました。実はこれらの記号・奏法は世界共通のものとして存在していたにも関わらず・・・。 この様な多種多様な幾つもの難問奇問を乗り越えた頃から、各部門スタッフの地道な努力の甲斐あってか、この【ニュー・サウンズ・イン・ブラス・シリーズ】に対する反響が高まっていき、ヨーロッパでも発売されるなど、私達の想像を超える存在となっていったのです。
最近の吹奏楽コンサートではポップス曲がかなり演奏され、その雰囲気は充分にまとまったものに仕上がり、聴衆のみなさんも今までとは異なり若い世代からミドル・シニア世代まで幅広い年齢層の方が多く親しまれているように思われるこの頃です。
このような雰囲気を持つようになった「吹奏楽ポップス」をまだお聴きでない方々。是非一度、コンサートやCDなどでご試聴頂きたい。必ずや素晴らしい吹奏楽ポップスを味わうことが出来るものと信じております。

これらのことを通し【ニュー・サウンズ・イン・ブラス・シリーズ】は吹奏楽の新しい分野を開拓したものとして世界的にも高い評価を受けたのではないでしょうか。そしてこの【ニュー・サウンズ・イン・ブラス・シリーズ】が2012年には”第四十集”を迎えるとのこと。
この【ニュー・サウンズ・イン・ブラス・シリーズ】シリーズの発展に多くの力を与えて頂いたスタッフやプレイヤー、アレンジャーの方々、そしてファンの皆様に深く感謝を申し上げると同時に、益々の発展を願ってやまない次第です。

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